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ネパール大地震とエベレスト [山登り]

このところ日中は気温の高い日が続き、朝晩の気温差が結構大きいこともあって、体調を崩しがちです。
クールビズが始まっていることから、通勤は楽になりましたが、変にエアコンなどが効いているところに入ると体がびっくりしてしまいます。
これも寄る年波のせいなのでしょうか。

ネパールで4月25日に起きたM7.8の大地震と、余震と思えぬほどの規模(5月12日、M7.3)の地震。
現地では8000名を超える死者が出て、今なお被災者は塗炭の苦しみを味わっています。
これからモンスーンを迎える中で、住居や食料、水や各種エネルギーなどのライフラインを如何に確保して復興につなげていくのか、様々な困難が予想され、暗澹たる気持ちにさせられました。
特に山岳地帯に住む被災者の方々は大変なことと思います。
私たちのような非力な一般大衆には、せいぜいが募金などに参加するくらいしかできないのですが、被災された方々に一日も早く平安が訪れますようにと願うばかりです。

そんな中、何とも考えさせられる記事がありました。

41年ぶりにエベレスト登頂者ゼロに? エベレスト商業登山、考え直すとき

海抜世界最高峰の山として、山屋の憧れであったエベレスト(サガルマタ)。
様々なドラマを生んできたこの最高峰に商業登山の波が押し寄せ、深刻な環境破壊の問題が惹起していることはご案内の通りです。
エベレストに関する議論は、2つの話題の間を行ったり来たりしている。世界最高峰の圧倒的な魅力、そして対価となるお金だ。登頂という栄光を手にするために、7万ドル(約840万円)以上もの大金を払うことを厭わない裕福な顧客が後を絶たない。ネパールの基幹産業である観光を支えているのは、間違いなく登山客である。貧しい同国にとって、エベレストで働くシェルパは、非常に実入りのいい職種となっている。

そのような背景もあって、「ネパール政府は、外国からの登山客による現金流入に依存するあまり、登山許可証の発行数制限や、最低登山能力レベルの設定を拒んでいる」のも、国の実情に鑑みればやむを得ない仕儀と言えないこともないのでしょう。
そのためエベレストは、その冒険と同じぐらい、「騒動」で有名になってしまった。もう長いこと、ゴミと人糞の蓄積が問題になっている。ツアー会社は、アイゼンの付け方すら知らない経験不足な顧客に、山頂へのチケットを売りつけ続けている。登山客が多すぎるために複数の渋滞が発生しており、2012年には、ローツェフェイスに200人近くの登山者が連なる写真が話題になった。同年、12mの岩登りを伴う登頂前の最後の難関ヒラリーステップでは、2時間もの待ち時間が発生した。

ヒラリーステップ.jpg
「最後の難関」といわれるそのヒラリーステップに、固定ロープどころか梯子をかけようという話まででているのですから、誠に以て大変な時代になったものだと思います。
それにしても、「アイゼンの付け方すら知らない経験不足な顧客に、山頂へのチケットを売りつけ続けている」ツアー会社が存在することには驚きを禁じえません。
確たる技術の裏付けもないのに人知を超えた過酷なエベレストの山頂を目指すなど、私から見れば、それこそ「命を捨てに行くようなもの」としか思えないのですが、世界最高峰の頂には抗しがたい魅力があふれているのでしょう。
「エベレスト登頂」は、山屋にとってまごうことなき勲章であることも、もちろん否定できません。
あるいは、「私はエベレストに登った」と、その快挙を人に吹聴したいという思いもあろうかと、ちょっと意地の悪いことも考えてしまいました。

ここ20年くらいのことでしょうか。中高年の登山ブームが本格化するにつれて、それまで閑古鳥が鳴いていたクラシックルートにガイドを伴った人たちが押し寄せてくるようになりました。
アイゼンのつけ方を知らないどころか、基本的なザイルの結び方や確保の仕方も知らないような人たちが、例えば冬の八ヶ岳赤岳主稜の取付点にいたりするのです。あるいは谷川岳一ノ倉沢南稜テラスとかに。
当然にこれらのルートは渋滞して、後続パーティは大迷惑を被るばかりではなく、ヴァリエーションルートですから、特に冬場などは日没時間切れのリスクにさらされ命の危険すら惹起してしまいますが、当のご本人たちは(自分が登るのに必死なのでしょう)全くそうしたことには無頓着で、実に恐ろしい光景だなと震撼したことを思い出します。
以前、冬の赤岳南峰リッジを登攀した折、当初は中山尾根に行こうと考えていたのですが、そちら方面にかなりの踏み跡があったので回避したことがありました。
幸い、南峰リッジに取り付いているパーティはほとんどおらず、快適に登ることができたのですが、帰路、中山尾根に取り付いたパーティに出会ったので状況を聞いたところ、ひどい渋滞で、最後の核心ピッチでは2時間近く待たされたとこぼしていました。
そのときは、「ルートを変更してよかった」と胸をなでおろしたものですが、ほとんど素人に近い登山者がこうしたルートを先行している現場に出くわし、「あー、しまった」とがっかりすることが結構あります。
どうして自分の実力を遥かに超えるようなルートに取り付こうとするのか、知り合いのガイドに聞いたところ、大要、次のような答えが返ってきました。

「若いうちにこれといった趣味もなく仕事に熱中していた人が、仕事を辞めてから、手軽に始められると考えて山登りを趣味に選択する例が多くなっています。」
「山登りなどは歩きの延長だから、さしたる技術もいらないだろうと高を括っていて、事実、単なる尾根縦走程度なら、天候にさえ恵まれれば問題なくいけてしまう。」
「そんな中で山登りを続けていて、同好の士が現れてくると、自分はこんな山に登ったなどとお互いに披露しあう展開になります。」
「たいていの人は、仕事の上での勝ち負けを意識して過ごしてきており、ある程度の地位にも就いているため、山登り仲間の間でも対抗意識が芽生えてくる。」
「槍穂縦走をした、などと聞くと、それなら自分は奥穂・西穂縦走に挑戦しよう、などとだんだんエスカレートしてきて、結果として山をやっている人の間ではある程度知られているクラシックルート登攀を目指すようになるのです。」

「名の通ったクラシックルート」というところが肝心で、つまり自分の周囲の山仲間も知っていて「それはすごいね!」と言ってもらえなければならないわけですね、と、友人は語りました。

どのような目的意識に基づこうが、自分の取り組んでいる趣味の上でさらなる高みを目指すのは素晴らしいことなのでしょう。
しかし、どうも、そのための地道な努力を重ねる、ということはないがしろにされているような気がしてなりません。
てっとり早く「実績」を上げるため、ガイドを雇い、金に物を言わせてアゴアシ枕つきで出かける場合もあるように思われます。
今年の連休も、中高年登山者を中心に多くの遭難事故が発生しているようですが、山登りには命の危険も付きまとうもの、という意識だけは持ち続けたいものですね。

さて、ネパールの人たちは非常に信心深く、サガルマタ(エベレスト)は神聖な山でもありますから、来春の登山再開にはその面でも様々な紆余曲折がありそうです。
技術面はもちろんのこと、そうした山に対する純粋な尊敬と敬虔の念を抱いて挑む人々の聖地であって欲しいと願わずにはいられません。

しかし、
それでも、山は呼んでいる。最高峰に立つチャンスがあるかぎり、エベレストへ登ろうとする力を抑止することはできないと、ロバーツ氏は言う。

これもその通りでしょう。
それは、どこでも同じだ。「カリフォルニア最高峰のホイットニー山は、人でごった返しています」。ホイットニー山から少し北に行くと、ノース・パリセードと呼ばれる見事な山がある。ロバーツ氏によると、そちらの方がいい旅になるそうだ。「そちらには誰も登りません。76m低いだけなのに」

この記事の最後の下りには頷かされます。
私事になりますが、屋久島で、荒川登山口から縄文杉や宮之浦岳・黒味岳・花之江河を経由して淀川に至る縦走に出かけた折、永田岳に寄ったことがあります。
深田百名山ではなくメインの縦走路からも離れているため、実に静かで清潔で、素晴らしい山頂でした。登山者でごった返し、ハエやアブの飛び交う宮之浦岳山頂とは大違い。
それこそ九州最高峰である宮之浦岳に比べて「50m低いだけなのに」。

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のら人

こんにちは。
釣り師が良く30センチの鯛を釣ったあと、仲間に対し60センチ位手を広げて威張るのと似てますね。(爆)向上心と言えば聞こえは良いですが、それは学問とかスポーツ等に限定です!登山はスポーツでは無い事の啓蒙を強く希望したい!ですね。唯の見栄です。(苦笑)
人間の「見栄」とは最も醜い部分ですね、とは言え自分でも気付かない内に見栄を張りそうになります。注意せねば!(笑)
by のら人 (2015-05-20 08:18) 

tochimochi

>76m低いだけなのに
山高きがゆえに尊からず・・・昔から言われていた言葉ですが、中高年になっていきなり山を始めた方々にはかみ締めて欲しいですね。
さらに日頃のトレーニングも行わず、ガイドに頼りきりの登山は今までの遭難事故でも危惧されてきたことです。
それがエベレストにまで及んでいるとは・・・山の楽しみ方をもっと知って欲しいです。

by tochimochi (2015-05-20 22:25) 

伊閣蝶

のら人さん、こんばんは。
釣り師のお話、なるほどなと納得です。
しかし、釣果を誇大に吹聴する分にはさほどの危険はありませんが、登山で見栄を張るのは命の危険性があります。
命がけの自己顕示欲、という感じでしょうか。
仰る通り、登山はスポーツではありません。命の危険のあるフィールドで行動していることに、もっと自覚が欲しいところです。
でも、人前で見栄を張りたくなるのは、私も経験済で、同じく反省しなければと思っています。
by 伊閣蝶 (2015-05-21 23:07) 

伊閣蝶

tochimochiさん、こんばんは。
山高きが故に尊からず。これは山を楽しむための大切な心がまえだと思います。
安易なガイド登山は、当のガイドにとっても極めて危険で辛いものだと思います。
山の弁当と怪我は自分持ち。これも、山の先輩から厳しく言われた箴言でしたが。
by 伊閣蝶 (2015-05-21 23:12) 

夏炉冬扇

地球活動期…

by 夏炉冬扇 (2015-05-22 07:32) 

伊閣蝶

夏炉冬扇さん、こんばんは。
確かに地球は活動期に入っているのかもしれません。
火山活動も活発化していますから。
by 伊閣蝶 (2015-05-23 20:04) 

Hirosuke

「2015.5.30(土) 仙台・岩沼の防潮堤に植樹しました。」
http://tada-de-english.blog.so-net.ne.jp/2015-05-31
[わが里程標]

去年に書けなかった分まで含めてレポートを書きました。

by Hirosuke (2015-05-31 18:19) 

伊閣蝶

hirosukeさん、こんばんは。
レポート、拝読しました。
素晴らしい取り組みに感動です。
by 伊閣蝶 (2015-06-01 22:34) 

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