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映画界の性加害問題 [映画]

四月という時期にもよるのでしょうか、このところ天候が安定せず、気温の変化も大きくなっています。
どうも体調を崩しがちで、先日も大腸憩室炎が再発してしまい、早めに対処したので抗生物質の投薬だけで治りましたが、念のため大腸内視鏡検査を受けることにしています。
やはり年齢を重ねるとともに、あちこち体にガタが来てしまうようですね。
適切なメンテナンスが必要だなと、改めて痛感しているところです。

映画界の性加害に関し、地獄の釜の蓋が開いたような状況になっています。

水原希子が告白、新たに女優3人も告発…映画界の性加害者たちに共通する「悪辣手口」

この問題に関していえば、2007年に米国の性暴力被害者支援の草の根活動のスローガンとして提唱された「Me Too」運動が思い起こされます。
2017年、ハリウッドで「大物プロデューサーによる性加害」が被害女優によって告発された際、この運動が爆発的な広がりを見せたことは記憶に新しいところです。

もちろん日本でも例外ではなく、様々な局面や媒体で隠然と語られてきた話でしたから、恐らく早晩そうした問題が明るみ出ることだろうと思っておりました。
一世を風靡した女優の有馬稲子さんが、その著作の中である映画監督との不倫・堕胎で苦しんだことを告白しており、「あれほどの女優さんでも…」と慨嘆したことを思い起こします。

これに対して、是枝裕和監督を中心とした6名の映画監督有志が声明文を発表しました。

是枝裕和監督、俳優演出に関し持論つづる 背景には反対声明を出した映画監督ハラスメント問題

「特に映画監督は個々の能力や性格に関わらず、他者を演出するという性質上、そこには潜在的な暴力性を孕み、強い権力を背景にした加害を容易に可能にする立場にあることを強く自覚しなくてはなりません。だからこそ、映画監督はその暴力性を常に意識し、俳優やスタッフに対し最大限の配慮をし、抑制しなくてはならず、その地位を濫用し、他者を不当にコントロールすべきではありません。ましてや性加害は断じてあってはならないことです」

全く仰る通りと思いますし、これが当の監督さんたちの集まりの中から発せられたことは大変有意義なことだと思います。
完全な形で改善されていくのかどうかはかなり難しいものと思われますが、恐らくこれからもこうした声は続々と上がってくることでしょう。
脛に傷を持つ人たちは、もしかすると戦々恐々としているのかもしません。

ところで、私はこのことに関して、個人的にある疑問を感じています。
映画監督は、いわば己の表現世界を映像と音響のもとに具現化させることを目指すアーティストなのであり、そのためにはその作品に関し、そのすべてを俯瞰し透徹した目で精査することが求められているのではないかと考えます。
それにもかかわらず、もしも仮に、その中の特定の演技者に肩入れするようなことがあれば、その段階で表現者としては失格なのではないか。
これに関し、私は次のような森谷司郎監督(故人)の言葉を思い起こします。
(監督デビュー作である「ゼロ・ファイター/大空中戦」を撮影していたとき)八丈島でロケーションをしたんだけれど、その中に、加山雄三の隊長が、飛行機で基地に飛んでくるのを、八人の航空隊員が待っている、というシーンがあった。

──中略──

その八カット目を撮っていたときに、撮っているぼくには、そのシーンに出てる人間八人の内の一人しか、見えなくなってしまったのね。「こりゃ、いかん」と思いましたね。つまり監督というのは、ある画面の中に八人の人間が入っているとしたら、その八人の総体を見てなきゃ、いけないわけだよね。

そのため、森谷監督は「今までのカットは全部リテークする。これは自分のミスだ」とみんなに頭を下げて全カットを撮り直しました。
新人監督ではありましたが、それまで黒澤明監督の下でチーフ助監督を務めるなどの実績を積んできていたわけで、周りからの反発や冷笑を一斉に浴びることになったそうです。
それでも「なんでもいい、もう一回やらせてくれ」と言ったことで、その後が変わったとのこと。
もし、あの時、そのまま撮り進んでいたら、その後のぼくの映画作りは、かなり駄目だったんじゃないか、というね、気持はあるな。
(出典:白井佳夫著「監督の椅子」)

森谷監督の言葉にもあるように、一つの作品の制作に取り組んでいる時の監督の立場は非常に厳しいものが要求され、俳優はもとより、スタッフ全般、ロケ地の天候など、様々な事象に対して細心の注意を払わなければなりません。
特定の俳優にちょっかいを出して、それで作品をまともなものに仕上げることなど、果たしてできるのでしょうか。

現在告発されている監督たちは、ある方面ではそれなりの評価をされているようですが、実は私はいずれも未見です。
そして、この問題が起きたことから、さらに彼らの作品を観たいという気持ちが失せました。
これはあくまでも独断と偏見による思い込みではありますが、恐らくそこにはかなり粗雑なものを感ずることになると思われますので。

なお、こうした性加害に関することは、啻に映画界のみならず、音楽でも演劇でも絵画でもスポーツでも起きています。
それらについて書き始めると際限がなくなりますので、今回はここで収めたいと思います。

いずれにしても、指導・監督するなどの絶対的な立場にいる人間が、それを受ける立場の人に対して強権的にふるまう。
そうしたことが当然のように繰り返されていることに、私たちは問題意識を持ちきちんと目を向けねばならないと考えます。

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夏炉冬扇

大腸内視鏡検査、嫌ですね。
ここのところサンプル検査で済ませています。
by 夏炉冬扇 (2022-04-23 18:31) 

伊閣蝶

夏炉冬扇さん、こんにちは。
大腸スコープは4回目になりますが、本当に嫌なものです。
しかし、定期的に受けることでリスクが軽減されるのであれば致し方ないのかもしれません。
by 伊閣蝶 (2022-04-24 10:30) 

ぼんぼちぼちぼち

仰るとおりだと思いやす。
正しく作品を良くするために指導をすることと、個人的感情を剥き出しにして好き放題することは、全く別物でやすからね。
by ぼんぼちぼちぼち (2022-04-24 18:36) 

のら人

芸能界での役職特権を生かした性犯罪(成り上がりを意識した被害者相当の同意行為も含む)は、未だに呆れかえるほど多いかと思います。
会社組織も昔は似た様なものでしたが、今はかなり改善されていますしね。^^
by のら人 (2022-04-24 19:21) 

tochimochi

大腸憩室炎とは初めて聞きましたが、調べてみると疾病率は結構高いようですね。気を付けたいと思います。
大腸内視鏡検査は一度受けたことがあります。やりたくない検査ですね。
絶対的な立場にいる人間が、それを受ける立場の人に対して強権的にふるまう事は有るでしょうね。今のロシアの独裁者が最たるものでしょうか。
by tochimochi (2022-04-24 20:03) 

伊閣蝶

ぼんぼちぼちぼちさん、こんにちは。
作品の質を向上させるために「指導する」ことは、映画が総合的な表現物であることに鑑みれば当然のことですね。
はき違えている人間がかなりの数に上ることは、やはり映画というアートにとっても不幸なことだと思います。
by 伊閣蝶 (2022-04-25 11:27) 

伊閣蝶

のら人さん、こんにちは。
仰る通り、通常の会社組織ではこの20年余りで劇的に改善されてきたように思います(それでもまだまだ横行している例もあるようですが)。
芸能界は、その意味では伏魔殿の様相を呈したまま時が止まっているように思えてなりません。
by 伊閣蝶 (2022-04-25 11:30) 

伊閣蝶

tochimochiさん、こんにちは。
このブログでも、初めて発症して入院・治療をした時のことを書いていますが、あの時は本当に苦しい思いをしました。
加齢のよって発症する事例も増えているようで、要するに虫垂炎と同じようなものですから、甘く見ると大変です。
性加害のこと。
私も、今のロシアのウクライナ侵攻とダブって見えました。
by 伊閣蝶 (2022-04-25 11:33) 

Jetstream

こんばんは。まず大腸の具合、どうぞお大事になさってください。内視鏡検査を受けられると様子がわかると思います。私はポリープ摘出で入院したこともあり、もう5回も大腸内視鏡を受診しています。今夏にも検査を予定しています。まあ仕方がないと思っています。(苦笑)
映画界での監督の「ハラスメント」、上位が下位を、強者が弱者に立場を利用して及ぼすのは至るところにあると思います。伊閣蝶さんの問題提起には同感です。また立場に関係なくハラスメントはあります。害を及ぼしている側はそれをわからない自覚しないという性質の悪さもあり。コンプライアンス遵守とはいうものの、一方で陰湿になっているようにも思えます。
by Jetstream (2022-04-27 23:56) 

伊閣蝶

Jetstreamさん、こんにちは。
ポリープ摘出、私もそれで入院したことがあります。幸い、良性でしたが、それ以降、機会があれば大腸内視鏡検査を受けることにしています。
今回で4回目ですが、今回は担当の医師が変わったせいか、かなり痛くて閉口しました。
ハラスメントの害を及ぼす側は、その自覚がない。
これは全く仰る通りと思います。
企業での対策が遅々として進まなかったのも、そのあたりに原因があるかもしれませんし、結局のところ「いじめ問題」にも通底すると思いますので。
by 伊閣蝶 (2022-04-28 18:08) 

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