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バルトーク「ピアノ協奏曲全集」アンダ(p)フリッチャイ&ベルリン放送交響楽団 [音楽]

4月も中旬となりました。
しかし、このところ気温の低い日が続き、まるで冬に逆戻りしたような陽気です。
桜の花は既に散ってしまいましたが、むしろその散った花びらから桜の花の香を強く感じました。
桜の花の香りは、着実な春の到来をもまた醸し出しているのかもしれませんね。

先週、半年ぶりに実家に帰りました。
家内の大病のこともあり、年末年始も帰省しなかったので久しぶりというところです。
幸い、両親も元気で、その点は安心致しました。
帰省した6日はとても暖かく、中央道沿いの勝沼から石和にかけて桃の花が満開。甲府も桜が盛りで、花の中のドライブを楽しんだのですが、さすがに実家付近は桜にはほど遠く、漸く梅や水仙が咲き始める状況です。
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それでも気温は12度もあり、ちょっと驚きました。

しかし、翌日の夕方から冷たい雨が降り始め、8日の朝は一面の銀世界。
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この日は都心でも降雪があったようですから、当然のことではありますね。
尤も、私の実家では、5月の初めでも雪の降ることがありましたから、さほど驚くようなことではありませんが。

退職後の4月、ゆっくり自分の時間が持てるかなと思っていたのですが、先程も書いたように帰省をしたり、同僚が送別会を開いてくれたりしたので、ちょくちょく出かけたりしていて意外に多忙だったりしました。
そんな中、ちょっと時間ができたので、久しぶりにバルトークのピアノ協奏曲を聴きました。
ゲザ・アンダのピアノ独奏、フリッチャイ指揮のベルリン放送響による1960年の録音です。


バルトーク、フリッチャイ、アンダ、出身はいずれもハンガリーです。
さらにフリッチャイもアンダも、バルトーク本人からにピアノを学んでいるのですから、このコンビにとって正しく自家薬籠中の演奏といえましょう。

バルトークは、作曲家としてよりも、むしろピアニストとしての才能に強い自負があったそうですが、それだけに彼のピアノ曲は超絶的な技巧を要求される難曲として知られています。
もちろん、この三曲のピアノ協奏曲も例外ではありえず、特に第2番の第2楽章はその典型とも言えるでしょう。両手の指10本に余る和音が出現したり、複雑なフーガなどの対位法的表現が駆使され、かつ、同音の高速打鍵が続くなど、一体どうやって演奏しているのだろうと驚かされるくらいです。
以前、友人のピアニストから聞いたのですが、例えばシューベルトの歌曲「魔王」のピアノ伴奏は、同音打鍵が執拗に現れて、演奏としては非常に厳しいということを改めて思い起こしたりしました。
第3番は、新古典主義に回帰したかのような安定的な調性とメロディアスな旋律を持つことから、この三曲の中では最も耳になじみやすく、いわゆる前衛音楽にアレルギーを持つ聴き手も安心して聴ける曲という印象があります。
自身がアバンギャルスティックな作曲家として厳正なセリーによる作曲を実践してきたブーレーズなどは、そうした面を問題視し「退廃的だ」と批判して演奏や録音を当初は拒否したそうですが、バルトークの作曲技法に些かの揺らぎもないことがわかり、その後、アルゲリッチとともに演奏するなど再評価をしたとのこと。

ピアノを打楽器のように表現する、というバルトークの表現は、特に第1番に顕著ですが、もちろんそれ以外の曲でも随所に現れ、極めて鮮烈な印象を与えます。
しかし根底には、バルトークが愛したとされるベートーヴェンやバッハなどの古典ドイツ音楽が脈々と流れており、和声の面でも対位法の面でも色濃く反映されています。
特にピアノパッセージで現れる見事な対位法の表現は、まるでバッハのインヴェンションを聴いているかのような感覚にさせられ、スカルラッティにも傾倒したというバルトークの揺るぎない姿勢が垣間見えるようです。
音楽にしろ絵画にしろ文学にしろ、芸術表現において重要なのは、如何に古典から学ぶかという姿勢なのではないでしょうか。
名作を生み出す力は、ある意味ではその古典に学ぶ才能と姿勢によって左右されるものなのかもしれません。
フルトヴェングラーは、バルトークのピアノ協奏曲第1番の初演を行いましたが、ドビュッシーを認めなかった彼が、バルトークの曲は演奏したということも、何だか頷かされます。
バルトークはドビュッシーに影響を受けたそうなのですが、ドイツ音楽の古典技法を身につけた上での和声の発展という点で、両者にはそれなりの開きがあったのかもしれません。

この三つのピアノ協奏曲、どれも非常に個性的です。
どれが好みかと問われると非常に悩んでしまい、結局、「どれも好きです」という陳腐な答えになってしまいます。
どの曲も、とりわけ緩徐楽章である第2楽章が非常に美しく印象に残ります。
特に、第1番の第2楽章を聴いていると、後年のモダン・ジャズのプレイヤーたちはこの曲から相当の影響を受けているのではないかという妄想すら湧いてくるほど強烈な力を感じました。
そんなわけで、私としては第1番が目下のお気に入りです。

バルトークのピアノ協奏曲は、腕に覚えのあるピアニストにとって格好の自己表現の場となるものなのか、多くの演奏や録音が残されています。
私もそれなりに様々な演奏を聴いてきましたが、この、アンダとフリッチャイのコンビを超える演奏には出会ったことがありません。
もちろんこれは私の個人的な感想に過ぎませんが、二人がバルトークに心底からラポールしたアーティストで、しかも直接的な指導も受けた表現者であることを鑑みても、この演奏から導きだされる類い稀なる説得力は当然の帰結と思料します。
ご一聴を強くお勧めする所以です。
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夏炉冬扇

ヒョッゆきですね。
by 夏炉冬扇 (2015-04-16 10:49) 

Hirosuke

超絶ピアニストかつ作曲家であるバルトーク。
彼が息子のピアノ教育の為に書いた『ミクロコスモス』という一連の練習曲があります。

バイエルとかツェルニーとかブルグミュラーとかバーナムは、難しすぎる・幼稚すぎると聞いてて弾く気も起きないのですが、『ミクロコスモス』は子供用(超初心者用)でありながら練習曲1番でさえ非常に旋律が美しく感じ、これなら練習してみたいと感じました。

僕は楽器なんて何も出来ませんし楽譜さえ読めない音楽音痴ですから正しい感覚か怪しいですけども。

by Hirosuke (2015-04-16 10:52) 

伊閣蝶

夏炉冬扇さん、こんばんは。
4月の雪は、さすがに都心では驚きですが、私の郷里ではままあること。
でもやはりこの時期の雪はご勘弁願いたいところです。
by 伊閣蝶 (2015-04-16 18:22) 

伊閣蝶

Hirosukeさん、こんばんは。
「ミクロコスモス」、名前は知っておりますが、残念ながら弾いたことはありません。
でも、とても美しい曲のようですね。今度、是非ともチャレンジしてみたいと思いました。
by 伊閣蝶 (2015-04-16 18:24) 

tochimochi

遅くなりました。
奥様の治療経過は良好のことと思います。
8日の降雪にはビックリでした。
長野のほうでは珍しくないことと思いますが・・・。
定年間際で転職という決断は周りの方々にも衝撃だったことと思います。
別れを惜しむ方も多かったでしょうね。

by tochimochi (2015-04-18 22:06) 

伊閣蝶

tochimochiさん、こんにちは。
今日は雨模様の肌寒い日になりました。
どうも気温の変化が激しく、体がついていきません。
家内のこと、ご心配を頂きありがとうございます。
5回目治療は、今週に延期になり、その影響は気がかりですが、私がみても体調は良さそうなのでホッとしています。
50肩の具合がかなり悪かったので、近所の整骨院で頑張って治療に励んでいます。
新しい仕事が始まるまでに、少しは善くなってくれるといいのですが、毎日治療に出かけることができるのも、退職という節目のお陰かなと思っている次第です。

by 伊閣蝶 (2015-04-20 12:11) 

soujirou-3

普段クラシック聞きませんが、バルトークの項拝読、時代背景などわからずに、何か解った気になっちゃいました。
by soujirou-3 (2015-05-01 11:09) 

伊閣蝶

soujirou-3さん、こんにちは。
replyが遅くなってすみませんでした。
大変嬉しいコメントをありがとうございます。
これからもよろしくお願い致します。
by 伊閣蝶 (2015-05-06 11:56) 

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