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マーラーの交響曲第9番等(「デア・フェルネ・クラング」第2回演奏会) [音楽]

昨日は初夏のような陽気でしたが、今日は最高気温も20度を切り、およそ6度も下回りました。
どうもこうした気温の変化には体がなかなかついていけません。
それでも、きれいな快晴の青空が広がったので気分は誠によく、連休明けの憂鬱な気分を多少なりとも和らげてくれました。

5月4日、久しぶりにコンサートに出かけました。

「デア・フェルネ・クラング」第2回演奏会で、場所は愛知芸術劇場コンサートホールです。
derferne.jpg
「デア・フェルネ・クラング(DerferneKlang)」という楽団名について、特に解説はなかったのですが、直訳すると「遠い過去」なのでしょうか。あるいは「遥か彼方(遠方)からの響き」かな?(こちらの方が近いような気もしますが)
この楽団は「2011年、名古屋マーラー音楽祭をきっかけに東海学園交響楽団、立命館大学交響楽団、その他音楽を通じて知り合った仲間たちにより構成される混血オーケストラとして創団(当日のパンフレットより)」とのことで、2012年には、名古屋マーラーフェスティバルオーケストラとして「千人の交響曲」を演奏した実績もあるのだそうです。
仕事上の付き合いを通じて、たまたまこの演奏会のことを知ったのですが、その演目がマーラーの「第9番」ということであれば、聴きに行かないわけにはいきません。

愛知芸術劇場コンサートホールには初めて出かけたのですが、実に壮麗で立派なホールです。
天井も高く残響も長そうで、シャンデリアを始めとしたデザインも洒落ていました。

当日の演目は次の通りです。
作曲者は何れもグスタフ・マーラー。
  1. 交響詩「葬礼」
  2. 交響曲第9番ニ長調

オーケストラの配置は19世紀後半から20世紀初頭までに多く用いられたロマン派的配置が取り入れられ、客席から見て左側に第1ヴァイオリン、その後ろにヴィオラ。右側に第2ヴァイオリン、その後ろにチェロとコントラバスという形をとっていました。
オーケストラ楽器の並べ方」の図3を基本としています。ただし、後期ロマン派の演奏の際にしばしば用いられたホルンを左側の奥(木管の後ろ)に配置し、ティンパニを後部中央に、その左に打楽器を配置する構成となっています。

さて、演目のうち「交響詩『葬礼』」は初めて聴きますが、これは交響曲第2番ハ短調の第1楽章の草稿となった作品です。
概要等について、当日のパンフレットの解説記事から引用させていただきます。
「葬礼」ってどういう曲?という方がほとんどだろう。本日演奏させていただく団員たちでも知名度は低い。しかし、聞いて「あ!」と思う方は鋭い。そう、交響曲第2番「復活」の第1楽章だ。この「葬礼」は、交響曲第2番の元となった曲で、1889年に完成させている。「葬礼」という標題の所以は諸説あるが、本人は「交響曲第1番」の「英雄」の「葬礼」であると語っている。

単独の演奏曲目としての「葬礼」に関する情報はあまり多くはなく、wikiにも、マーラーがハンス・フォン・ビューローにピアノでこの曲を聴かせたときのビューローの「これに比べれば、『トリスタンとイゾルデ』もハイドンの交響曲みたいなものだ」「これが音楽だとしたら、私は音楽が全くわからないことになる」という感想と、耳をふさいで露骨に拒絶を示したという状況が紹介されている程度です。
CDも数えるほどしか出ていないとのことでした。
とはいうものの、交響曲第2番大好き人間の私としては、その元とのなった曲の貴重な演奏を聴けただけでも感激です。
当時のマーラーは、父母や妹の死去、「巨人」の不評、人間関係の軋轢など、精神的には相当厳しい状況におかれていたものと思われ、その心情が惻々と伝わってくるような気がしました。

それから交響曲第9番。
私はこの曲が大好きで、交響曲というジャンル全ての中でも一二を争うお気に入りです。
それゆえに、これが演目に取り上げられると聞いた瞬間に、是非とも聴きに行きたいと考えたのでした。
マーラーの交響曲は、大規模なオーケストラ編成はもちろん、声楽まで加わり、さらに通常とられる四楽章という構成をもはみ出す途方もない作品が多いのですが、この第9番は、第1番と第6番に並び、声楽なしの四楽章編成という、マーラーにしては珍しいオーソドックスな形を採っています。
しかし、フィナーレに緩徐楽章をもってきたり、調性の独特な変化と展開がなされていることなどから、内容的には決して「オーソドックス」とは云えないと思います。
因みに、フィナーレでは、ワグナーのトリスタンとイゾルデの「愛の死」で用いられた回音音型(Es-F・Es・Des・Eなど)が大変印象的で重要なモチーフとなっていますが、冒頭の跳躍音型はブルックナーの交響曲第9番第3楽章の冒頭に酷似しているように思います。
私個人としてはそこからの影響も大きく受けているのではないかと感じている次第です

この演奏では、第3楽章から切れ目なく第4楽章に突入しました。
こういうスタイルが現在ではよく採られているのでしょうか。私は初めての経験でしたので、かなり驚きましたが。
しかし、このコントラストの付け方は大変面白く、演奏者の側のプレッシャーは相当のものと忖度しましたけれども、聴いている側にとっては新鮮です。
この長大な曲を、このような形で観客を飽きさせずに一気にクライマックスまで導いていった指揮者とオケの頑張りには惜しみにない拍手を送りたいと感じました。

以上、アマチュアの楽団によるマーラーの第9番演奏という、いささか無謀に思える試みと思ってはおりましたが、楽団のマーラー演奏に寄せる強い思い入れと、それを統御した指揮者:角田鋼亮氏の力量によって、正に聴きごたえ十分の実演に接することができました。
角田氏は、あの「のだめカンタービレ」において指揮指導を行ったり、同名の映画においては千秋真一役のピアノ演奏手元吹き替えも担当している、指揮界の若きエース。
1980年生まれの若さながら、海外経験も豊富で、今後の活躍が期待されます。
オーケストラについても、特に弦の美しさが際立っていました。
マーラーの第9番は、殊に第4楽章に顕著なように、弦の美しい響きが命。そこにこれだけの馥郁たる響きを集められるのは相当なものと思います。
パーカッションも、ティンパニを中心に素晴らしい演奏を聴かせてくれました。
その反面、ブラス部門、特にホルンとトランペットには課題が残されているような気がします。
チューニングの時から外れた音を出していたので嫌な予感がしたのですが、これらの楽器が裸で主題を演奏する折にはかなりの確率で音が外れたり余分な音が鳴ったりしたので、正直、そうした箇所に来るとドキドキしてしまいました。
トロンボーンとチューバは、その点しっかりした響きを作っていて安心して聴けましたが。
木管では、ファゴットがなかなか素晴らしく、フルートにちょっと課題が残るかなという感じです。
全般的にアンサンブルのわずかな乱れが散見され、恐らく時間をたっぷりかけてアンサンブルを磨くというような練習時間をなかなかとれないことに起因するのでしょう。
他に仕事を持っているアマチュア・オーケストラに共通する課題だろうとは思いますが。

などと、少し批判的なことを書いてしまいましたが、この演目をこれだけの演奏で聴かせてくれたことには、心の底から感謝したいと思います。
入場料は1000円と、何とも破格です。きっと、メンバーが相当の持ち出しとなっているのでしょうね。
それでもマーラーの曲を演奏したい!
そういう情熱がひしひしと感じられました。
当日この会場に詰めかけた観客も恐らくその想いを共有していたのでしょう。
いずれの曲の演奏終了後も、フライングブラボーやフライング拍手は一切起こらず、全ての観客がその最後の響きの余韻を愛おしむように聴き入っていた姿に、私は強い感動を覚えたのでした。

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hirochiki

伊閣蝶さんもおしゃっているように、お仕事をされながらの練習はきっと大変だろうと思います。
私なら、音が外れたりしても気がつかないかもしれませんが
わかる方だとやはりハラハラしてしまうものなのでしょうね。
それでも、演奏者と聴衆の思いがひとつになった素敵な演奏会だったようで何よりでした。

ところで、連休明けのお仕事お疲れ様でした。
私も、昨日はさすがに疲れてしまい今朝は少し朝寝坊をしてしまいました。
後三日なので、何とか頑張りたいと思います。
by hirochiki (2013-05-08 06:45) 

夏炉冬扇

お早うご゛さいます。
お仕事オツカレサマです。
連休明け、仕事場には「あくび」充満かも…
by 夏炉冬扇 (2013-05-08 08:13) 

Cecilia

>「これに比べれば、『トリスタンとイゾルデ』もハイドンの交響曲みたいなものだ」

それほど濃厚な音楽ということでしょうか。
アマチュアの演奏会だったのですよね。おそらく団員の皆様の思いがこもった素晴らしい演奏だったのでは、と拝読して思いました。またアマチュアオーケストラに対しても期待をもって聴かれているあたり伊閣蝶さんらしいと思いましたが、残念だった点はこれからの課題としてほしいですね。
アマチュアの強い思いというのはやはり演奏に現れるような気がします。
聴衆が厳しくも暖かい目で応援することが今後につながりますね。
by Cecilia (2013-05-08 13:52) 

tochimochi

山にコンサートと楽しみの多いGWでしたね。
私は5日から出張で兵庫にいってました。
マーラーのCDは持っています。
確か「巨人」だったような、伸びやかなメロディが気に入ってました。

by tochimochi (2013-05-08 16:51) 

伊閣蝶

hirochikiさん、こんばんは。
仕事を持っていながら、こうした活動をしておられる情熱、仰る通り、本当に凄いなと思います。
その情熱はひしひしと感ぜられました。

連休明け、結構辛いものですね。
私も今日は名古屋に出かけてきましたが、暑くて参りました。
明日を頑張ればまた週末。それを目標に地道にいきたいなと思います。

by 伊閣蝶 (2013-05-10 00:34) 

伊閣蝶

夏炉冬扇さん、こんばんは。
連休明け、あくびをしている暇もありませんでした。
せちがらくて困ったものです。

by 伊閣蝶 (2013-05-10 00:35) 

伊閣蝶

Ceciliaさん、こんばんは。
「葬礼」は、本文でも書きましたが、第2番「復活」の第一楽章そのものです。
Ceciliaさんは復活をお聴きになったことがありませんか?
それはともかく、私は、アマチュアがマーラーを演奏しようと頑張る姿自体に感動しましたね。
しかも、取り上げた曲が第9番!
もうそれだけで十分です。演奏の傷について、余計なことを書きましたが、所詮は聴く側の高望みだと思っています。

by 伊閣蝶 (2013-05-10 00:36) 

伊閣蝶

tochimochiさん、こんばんは。
後半の連休は、結構自分のペースで過ごせました。
ありがたいことだなと思っています。
tochimochiさんは、そんな中で兵庫出張をなさっておられたのですね。
本当にお疲れさまです。
ところで、マーラーの「巨人」をお持ちですか。
仰る通り、伸びやかな良い曲だと私も思います。

by 伊閣蝶 (2013-05-10 00:36) 

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