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吉本隆明さんが亡くなりました [日記]

今日も穏やかに晴れています。
日比谷公園では、白い沈丁花の花も咲き始めました。
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吉本隆明さんが亡くなりました。
享年87歳。



60年から70年代にかけて学生だった人たちにとって、この人の名前は正に閑却すべからざる重みを持っていたのではないでしょうか。
私自身も、「転向論」や「共同幻想論」などに接し、やはり大きな衝撃を受けたものです。
尤も、その文章は当時の私にとってあまりに晦渋で難解でしたから、今振り返ってみると、斜め読みして自分の理解できる部分だけで勝手に納得している、というお話にならないレベルの読者であったと思われますが。
それでも、1986年頃より大和書房から順次刊行された「全集撰」を次々に購入して読みふけるなど、それはやはり大きな影響を受けていたところです。
特に、彼の詩は思想的な裏付けを強固に打ち出した力強いもので、大変印象に残っています。

彼の仕事の中では、良いにつけ悪いにつけ他者との論争も忘れてはならないものでしょう。
花田清輝や埴谷雄高や谷沢永一などとの論争も忘れ難いものです。
特に、花田との論争では、内容的には恐らく花田の方に妥当性があるのではないかと思われつつも、「東方会の下郎」「ファシスト」などという花田に対する罵声一本で攻撃し(極端な表現ですが)、花田が戦意を喪失して論争の場から撤退するという完全勝利を収めてしまいます。
その後、花田清輝は暫くの間、文壇の表舞台から忘れ去られたのではないかという印象さえ持たれたくらいですから、相当のダメージを受けたのではないでしょうか。

そういえば、オウム真理教の麻原彰晃を「現存する仏教系の修行者の中で、世界有数の人」とし、サリン事件の際にも麻原を「宗教家としては評価する」などと発言して、大変な批判を浴びていましたね。

今の若い人たちの間では、よしもとばななのお父さんくらいの感覚かもしれませんが、今こうして振り返ってみると、やはり時代を象徴する存在であったことに間違いはないと思われます。

しかし、そうは言いつつも、今朝のニュースでこの訃報に接して一瞬絶句し、それから改めて思い返したようなものですから、影響とは言いつつも(先にも書きましたが)本当は彼の思想について何も分かっていなかったということなのかもしれません。
それでもこの機会に全集撰をもう一度読み返してみようと、改めて思っているところです(何だかそんな本がだいぶ増えてきました)。

慎んで御冥福をお祈り申し上げます。
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hirochiki

そちらは、今日も穏やかな一日だったようですね。
日比谷公園は、色々とお花が咲いているようで心が和みますね。
私も、会社の近くにこんな素敵な公園があったら
お昼休みに出かけてみたいです。
ところで、私は決して若くはないのですが・・・
恥ずかしながら吉本隆明さんはばななさんのお父様という印象しかありません。
ちなみに、ばななさんの本はうちにもあります。
私も、もう少し時間にゆとりができたらじっくりと読書もしてみたいと思っています。
心からご冥福をお祈りいたします。
by hirochiki (2012-03-16 18:40) 

のら人

惜しい方が亡くなりました。 合掌。
ばななさんにも多分に色々な良い影響を与えたのでしょうね。
吉本さんの様な思想や考え方は貴重な存在だったと思います。
by のら人 (2012-03-16 19:06) 

夏炉冬扇

今晩は。
私も新聞で知りました。学生時代、本がよく売れてました。
by 夏炉冬扇 (2012-03-16 19:14) 

tochimochi

懐かしい名前です。ごく一部の友人たちが激論していたのを横目に、私は背表紙を眺めるだけでした。
大江健三郎さんさえ難解だった当時、とても読もうという気にはなりませんでした。
労働運動をやっていただけあって、この方面の読書量もすごいですね。
敬服の限りです。

by tochimochi (2012-03-16 23:38) 

伊閣蝶

hirochikiさん、こんばんは。
今日は風がなかったので、その分、多少暖かに感じました。
日比谷公園がすぐ近くにあるという環境は確かにとても貴重なもので、このおかげでだいぶ精神的に助かっているような気がしますね。
吉本隆明さんは、ばななさんのお父さんという立場で再ブレークしたりしましたから、本人もそれほど不本意ではなかったのかもしれません。
読書も、結局、心や時間の余裕がないとなかなかできませんね。
私も何とかそうした時間を作ることで、心に余裕を持ちたいものです。

by 伊閣蝶 (2012-03-17 01:00) 

伊閣蝶

のら人さん、こんばんは。
のら人さんも吉本さんの著作をお読みになられていますか。
ご高齢とはいえ、惜しい方を亡くしたと、私も思います。
あのダイナミックな思考には、ついていくことがなかなかできませんでしたが、あとにサブカルチャーの世界でも様々に思想的足跡を残されたのはさすがです。

by 伊閣蝶 (2012-03-17 01:01) 

伊閣蝶

夏炉冬扇さん、こんばんは。
当時の学生は、こぞって吉本さんの著作を買っていたように思います。
結構話題にも上っていましたし。

by 伊閣蝶 (2012-03-17 01:02) 

伊閣蝶

tochimochiさん、こんばんは。
私も友人などと議論したりしたものですが、今振り返ってみると、ほとんど何も理解していなかったのではないかと感じています。
仰るとおり、大江健三郎さんのほうがはるかに読みやすかったと感じますね。
若い頃は、馬力に任せて本を読み飛ばしていましたが、記憶に残っているものはほんのわずかです。情けない限りです。
by 伊閣蝶 (2012-03-17 01:02) 

don

晩年は、小林よしのりに論破された、戦後サヨクの権化のイメージ
がつきまといましたね。この人のせいで日本が悪くなったとも
思えてしまいます^^(大江健三郎もボロクソでしたけど)

いまの40代半ば以下はそのイメージを持った人が多いのでは
ないでしょうか。

小林氏のような常時50万部以上売るような人を、敵に廻すと
怖いですね。最近では佐藤優もケチョンケチョンでしたから^^

とはいっても時代を代表するような人だったことは確かでしょう。
思想の世界も諸行無常です。ご冥福をお祈りします。



by don (2012-03-17 14:56) 

伊閣蝶

donさん、こんばんは。
いわゆる「戦後サヨク」が吉本氏を権化にしていたのは、かなり遠い昔なのでしょう。
彼がアンアン誌上で「コム・デ・ギャルソン」を着た姿を見せたとき、「ああ、彼の役割は終わった」と感じました。
実際、80年代あたりからの彼の言説は、とらえどころもなく振れ続け、高度消費社会の礼参、国家権力のあからさまな評価など、一体どこが新左翼のイデオローグだったのかと、不思議に思ったものです。

ただ、晩年はそうであったにせよ、60年代に彼によってもたらされた思想が多くの人々に影響を与えたのは確かです。
思想は、生み出した本人とは関係なく存在し生き続けるものなのかもしれません。
私はそれで十分なのではないかと思います。
by 伊閣蝶 (2012-03-18 23:27) 

Cecilia

吉本隆明さん、恥ずかしながら読んだことありません。ばななさんも読んだことないです。
私が勤務していた学校は勤務当時30代が多く(つまり伊閣蝶さん世代)、吉本隆明さんを評価する教員が多かったです。”左”の先生がほとんどでした。吉本ばななに夢中になる生徒がいたことで喜んでいた先生がいましたが、親子とは言え思想的に関連性はあるのでしょうか。
これを機会に二人の代表作を読んでみたいと思いました。
by Cecilia (2012-03-19 10:53) 

伊閣蝶

Ceciliaさん、こんにちは。
今考えてみると、あの時代の空気が吉本隆明という思想家を生んだのかもしれないと思っています。
今、その時代に読んで感動した言説を再読して、同じように心を動かされるか、私自身かなり心もとないのではないかとも考えます。
ただ、そのことを再確認するのもまた必要なことなのかな、と。

ところで、よしもとばななさん。私は彼女の本は一冊も読んでいません。
従って、彼女が父親からどのような影響を受けているのかを知る由もありませんが、何故か触手が伸びないのも事実です。
どうしても関連付けて考えてしまうからかもしれませんね。

by 伊閣蝶 (2012-03-19 12:22) 

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