SSブログ

ドストエフスキー生誕190年 [日記]

朝から冷たい雨の降る寒い日となりました。
今朝、私の利用する通勤電車で人身事故があり、代替交通手段を利用して出勤したのですが、やはりどこも混雑していてダイヤが乱れ、残念ながら遅刻と相成りました。
列車に飛び込んだ方は50代の男性とのこと。
いろいろなご事情もあったのだろうなとは思いつつも、何とも痛ましい限りです。
この方にご家族がおありだとすれば、その悲嘆は如何ばかりかと、本当に胸が痛みますね。
残された人たちのことを考えて、一歩下がることはできなかったのかと、実に無念な想いにかられました。

Dostoevskij.jpg今日は2011年11月11日で、11が三つ並ぶということが巷の話題になっているようです。
私も、先日の11月1日にそのことに気づき(遅すぎ!)感慨にふけってしまいました。
確か1999年(平成11年)11月11日にもこれが話題になって、切符などを記念にした、などという人も結構いたように思います。

それから今日はドストエフスキーの生誕190周年でもあります。
昨日のランボーに引き続き、何だか文学めいていて面白く感ぜられました。

それにしても、ドストエフスキーが生まれてからそんなに経っているのだなと、しみじみ感じています。
1821年といえば日本では文政年間で、この年に伊能忠敬の大日本沿海実測地図が完成されました。
小林一茶が俳諧俳文集の「おらが春」を出したり、鶴屋南北の「東海道四谷怪談」が初演されたころにあたります。
確か、ボードレールが生まれたのも1821年だったような気がしますが。

私がドストエフスキーを集中的に読み始めたのは、中学二年生の頃でした。
「罪と罰」「白痴」「悪霊」「カラマーゾフの兄弟」など、ほとんどろくに意味を考えることもなく、ひたすら馬力に任せて読んだものです。
ということで、結局あとになって全部読み返したところですが。
それでも「罪と罰」には、さすがに中学生などという小僧にも訴えかけてくる迫力に段違いのものがあって、例えばラスコーリニコフが予定外にリザヴェータを殺す下りなどは、頭の中でそのシーンを想像しながらかなり長い間強く印象に残っておりました(今でもです)。

しかし、高校生になってから読んだ「貧しき人々」の方が、今ではとりわけ思い起こされるようになっています。
これは、身寄りのない初老の男マカール・ヂェーヴシキンと、血のつながりのない貧しい遠縁の娘ワルワーラ・アレクセーエヴナとの間でやりとりされる往復書簡のみで構成された書簡小説です。
淡々とした日常のことや互いの心境のことを手紙につづりながら、お互いの幸せを願う二人。
しかし、自分のすべてを犠牲にしてまでも尽くそうとするマカールのワルワーラに対する愛情が、当の彼女の心に重い負担としてのしかかってきます。自分の存在が、マカールを不幸にしているのではないかと彼女は悩み、もうマカールにこれ以上の負担をかけるわけにはいかない、と。
そして。
私の心臓はとてもこのような不幸には堪えきれません!私はあなたを、神の光のように愛していました。生みの娘のように愛していました。あなたのすべてを愛していました!そして私は、ただあなたのために生きてきたのです!

愛してもいない遠方の相手方との結婚を決意し、マカールに別れを告げたワルワーラへの、マカールの最後の手紙の一節です。何という痛切な叫び声であることか。

ドストエフスキーが絶賛した(「我々は皆、ゴーゴリ―の外套から出た」と語ったといわれています)というゴーゴリ―の「外套」もそうですけれども、世の中というものは、底辺に生きる人間に対して何と無慈悲なものなのかと、ため息をついてしまいました。
これは彼の処女作ということですが、25歳にしてこのような書簡文学の傑作を作り上げた彼の才能には全く以て敬服せざるを得ません。
【送料無料】貧しき人々

【送料無料】貧しき人々
価格:720円(税込、送料別)



nice!(17)  コメント(10)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 17

コメント 10

Cecilia

伊閣蝶さんの記事を拝見するといかに自分の読書が足りてないか思い知らされます。ドストエフスキーは夫が時々読んでいて家にもたくさんあるのですが(買ったことを忘れてまた買ってくるし・・・)、腰をすえて読んだことがありません。大学がキリスト教系でしたので授業などでドストエフスキーの著書が話題になることが多かったのですが、読まなければという気持ちはあってもなかなか読めないでいます。「罪と罰」は数年前夫の実家に漫画がありそれを読みましたが、やはり漫画(かなり短くなっていますし、そのものではないですね。)ではあらすじ程度のことしかわかりませんでしたし、きちんと読んでみたいです。
ゴーゴリーの「外套」は子供の頃、世界名作全集のロシア編で読みました。子供向けに少々表現が変わっていたかもしれませんので、これもあらためて読んでみたいです。
by Cecilia (2011-11-12 05:44) 

hirochiki

列車事故は、なかなか後を絶ちませんね。。。
それも50代とは同じ年代ですので、考えさせられます。
昨日は震災からちょうど8か月の日でもありました。
実は、10日の夜にこちらでは地震がありました。
その日の朝に娘が不思議な雲を見たので写真を撮ったと言うので、
仕事から帰ってから見せてもらった一時間後のことでした。
とても驚きました。

伊閣蝶さんは、学生時代から読書をたくさんしておられたのですね。
いつもお書きになる文章を読ませていただくと、ただただ素晴らしいと思うばかりです。
「罪と罰」は、学生時代に読み始めたものの途中で挫折してしまったような気がします。
でも、「貧しき人々」は、シニアグラスをかけながら読んでみたいです。
by hirochiki (2011-11-12 07:21) 

伊閣蝶

Ceciliaさん、こんにちは。
とんでもないことです。Ceciliaさんの記事を拝見して、私の方こそ、豊富な読書量に感嘆しておりますので。
私が本を集中的に読んだのは、中学生から20代くらいまでで、今は全く遠ざかっている始末ですし(^^;
ご主人様もドストエフスキーを読んでおられるのですね。前に買った本をまた買い直してしまうこと、私も何度もやってしまいました。
ドストエフスキーの小説にある魂の救済の観念は、投獄・兵役などの艱難辛苦を経たのちにたどり着いたキリスト教的人道主義の象徴なのでしょうね。
彼の著作が授業の題材になるとは羨ましい限りです。
ドストエフスキーの著作は読むのに一定のエネルギーがいりますが、やっぱり得られるものは果てしなく大きいと思います。
よろしければご再読をお勧めします。
by 伊閣蝶 (2011-11-12 11:45) 

kawasemi

nice%コメントありがとうございました。
今日は、カラリと良い天気です。

朝夕はかなり冷えてきましたね。
昨日セーターを用意しました。

読書が苦手な私は育ち方が悪かったのでしょうか。
小説の類は全く駄目なんです。
by kawasemi (2011-11-12 11:46) 

伊閣蝶

hirochikiさん、こんにちは。
人身事故、このような時代を反映してか、なかなかなくなりません。
同じ年頃の方だというところが、私にとっても考えさせられるところでした。
ところで、十日に地震が発生されていたのですか。
被害などはございませんでしたか?
それからお嬢様がご覧になったという不思議な雲と地震、何か関連があるのかもしれませんね。
地震雲の研究などもありますから。

自分で文章らしきものを書いていると、本物の小説家という存在のあまりの高さにため息をつく想いです。
どんなに頑張っても絶対に到達できない世界であるからこそ、読書をすることによってその感動を新たにしたいと思うのでしょうね。
そんなわけで、過分なお言葉を頂き恐縮の極みですが、私はお調子者ゆえ、やっぱり嬉しくなってしまいました。
ありがとうございますm(_ _)m
「貧しき人々」もしも機会がございましたら、是非ともお読み下さいませ。
by 伊閣蝶 (2011-11-12 11:54) 

伊閣蝶

kawasemiさん、こんにちは。
いつも、nice!&コメント、ありがとうございます。
今日は久しぶりに良い天気なりました。
早速、布団を干し、洗濯をしているところです。
でも、おっしゃるとおりセーターが欲しくなる気候になりましたね。

私も、今はなかなか本が読めません。
老眼が進んで、ちょっと大変になってきました。
by 伊閣蝶 (2011-11-12 12:03) 

夏炉冬扇

こんばんは。
一茶の時代の人かぁ、と思わず。
罪と罰、結局最後まで読まないままです…
by 夏炉冬扇 (2011-11-12 19:15) 

伊閣蝶

夏炉冬扇さん、こんばんは。
ドストエフスキーが産まれたのは日本でいえば安政年間だということに、何だかしみじみと驚いてしまいますね。
by 伊閣蝶 (2011-11-12 23:33) 

kawasemi

nice&コメントありがとうございました。
今日も良い天気です。
物置の片づけを徹底的に?やります。
by kawasemi (2011-11-13 11:30) 

伊閣蝶

kawasemiさん、こんにちは。
いつもnice!&コメントをありがとうございます。
今日も暖かさが多少残っています。
物置のお片づけ、お疲れさまでした。無事に終わられましたか?
by 伊閣蝶 (2011-11-14 12:52) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0