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オブリヴィオン/アストル・ピアソラ [音楽]

今日は雲が重く垂れこむ肌寒い日になりました。
さすがに半袖シャツ一枚ではそろそろ厳しいかな、と思っているところです。

先日、友人からピアソラの話題が出て、「オブリヴィオン」がどんな曲なのか聴いてみたいのだけれども持っているか?と訊ねられました。
どうやらフィギュアスケートの音楽として使われたのだそうで、私はその方面にとんと疎いので知りませんでしたが、ちょっと話題になったらしいのです。
私自身は、武満徹さんの本からピアソラのことを知ったので四半世紀ほど前からレコードなどを買っていましたし、もちろんCDも何枚か持っておりましたので、「持っているよ」と答え、貸してあげました。
oblivion.jpg
友人によれば、このCDが欲しかったんだけれども、もう店頭では手に入らないといわれたとのこと。
ヨーヨー・マによる「プレイズ・ピアソラ」が話題を呼んだこともあって、結構人気があったはずなのに、こんな定番CDがもう廃盤になっているのですね。
何だかちょっと寂しい気がします。

収録曲は以下の通りです。
  1. ジャンヌとポール[4分09秒]:映画「ローマに散る」より
  2. エル・ペヌルティモ[5分30秒]:映画「ローマに散る」より
  3. オブリヴィオン[3分34秒]:映画「エンリコ4世」より
  4. エンリコⅣ[2分40秒]:映画「エンリコ4世」より
  5. タンティ・アンニ・プリマ[5分36秒]:映画「エンリコ4世」より
  6. リメンバランス[4分47秒]:映画「エンリコ4世」より
  7. カヴァルカータ[4分02秒]:映画「エンリコ4世」より
  8. バイレス72[5分50秒]
  9. オダ・パラ・ウン・ヒッピー[5分47秒]
  10. フーガ[3分04秒]
  11. オメナヘ・ア・コルトパ[7分11秒]
  12. EN 3×4[3分21秒]

1~7はスタジオ録音、8以降はラテン・アメリカ協会ローマでのコンサート録音です。

何れもしみじみとしたすばらしい演奏ばかりですが、殊に「オブリヴィオン」と「タンティ・アンニ・プリマ」の美しさは特筆ものです。
私個人としては、実験作品的な色彩の濃い「フーガ」が結構お気に入り。

それにしても、オブリヴィオン。
「忘却」という意味ですが、とても忘れることを肯うような感じの曲には聴こえませんね。哀切極まりない、むしろ忘れることができない苦しい心の内を表現しているような気がしてなりません。
忘却の対岸には追想があるのではないかと思われますが、これは正しく表裏をなすものなのでしょう。
些細なことで自分としてはとっくに忘却の彼方に過ぎ去ったと思っていた事柄が、何かの拍子にふと記憶に甦ることがあったりします。
どうでもいいことですらそうなのに、何らかの事情があって忘れてしまいたいことが、そう簡単に忘却の彼方に沈むはずもありません。
人はそうやって過去を振り返りつつ生きていかざるを得ない生き物なのでしょうか。
尤もそうであるからこそ、私たちはこの世に別れを告げるときに後ろ髪を引かれつつも、それを受け入れることができるのかもしれませんが。
http://www.youtube.com/watch?v=0adwx5hDcVs&feature=youtube_gdata_player

一方、「タンティ・アンニ・プリマ」は「何年も前に」という意味で、別名として「アヴェ・マリア」とも呼ばれています。
ソプラノサックスによる息の長い旋律が誠に魅力的で、私はその主旋律をリコーダーで吹いたりしながら想いにふけったりしたものです。
本当はソプラノサックスで演奏したいところなのですが。
http://www.youtube.com/watch?v=WF-iLQvjFBU&feature=youtube_gdata_player
このyoutubeの演奏はヴァイオリンとピアノのデュオですので、かなり雰囲気が異なります。

因みに「エンリコ4世」は、マルチェロ・マストロヤンニ主演で映画化されたものですが、残念ながらDVDなどにはなっていません。
「ローマに散る」も同じような状況で、Amazonなどで調べてみると、海外ではDVDが販売されているようですが、日本国内で発売される見込みは薄そうです。
海外版を購入するという手もあるのですが、購入自体はUSAやUKのAmazonを使えばいいものの、リージョンやカラー映像放送方式の違いなどがあってそのままでは日本では再生できません。
もちろん私も未見です。いつか観てみたいものだなと思ってはいるのですが。

ところで、ピアソラの名前を一躍有名にした「ヨーヨーマ・プレイズ・ピアソラ」、今でもちゃんと販売されていますね。

このCDの功績は認めますが、私はどうもしっくりときません。
もちろん所持していますけれども、棚の奥底にしまってあって、ほとんど聴くこともなくなりました。
ピアソラ本人の演奏があるのにわざわざこのCDを聴かなくてもいいかな、という感じでしょうか。

それに、ピアソラというと「リベルタンゴ」が代表作、みたいな扱い方自体にちょっと異を唱えたい気持ちもあるからにほかなりません。良い曲であることは認めますが。

ところで、ピアソラの印象深い言葉が残っています。
奇抜な音楽をやったからといって、現代的とは言えない。人とは違うことをやりたい人は勘違いをしている。そういう人が失敗している。現代音楽を作曲する者は、自己のアイデンティティーを失ってはいけない。私はアルゼンチン人だ。その土地の香りを持っていなければいけない。

うーむ、何とも味わい深い。
これは多くの事柄に当てはまる理なのではないでしょうか。

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hirochiki

私は、フィギュアスケートはたまに見ますがこの曲はわかりません。
人というものは、忘れることで前に進めるのだとは思いますが
なかなか忘れられないことも多いですね。
また、忘れてはいけない事柄もある気がします。
>自己のアイデンティティーを失ってはいけない
というピアソラの言葉は、心にしっかりと留めておきたいと思います。
by hirochiki (2011-10-20 05:36) 

Cecilia

ご紹介の動画を視聴させていただいています。
「アヴェ・マリア」、美しいですね。「オブリヴィオン」は一度聴いたら忘れることができないメロディーですね。
ピアソラは、ケンブリッジ(クラシック)・バスカーズのマイケル・コプレイの演奏を通して「タンゴの歴史~カフェー」にはまりました。リベルタンゴもブログ仲間の演奏で知りましたが、個人的にはまったのは「カフェー」です。
http://video.google.com/videoplay?docid=-6049935948726148053#


by Cecilia (2011-10-20 08:35) 

伊閣蝶

hirochikiさん、こんにちは。
浅田舞さんがお使いになったようですね。私も実際には知りませんが。
忘れることで先に進める、というのは仰る通りだと思います。でもなかなか忘れることができないのも事実。
特に、忘れたいと思うことほどいつまでも記憶に残っていて始末に困ります(^_^;
また、本当に忘れてはいけない事柄は、折に触れてきちんと整理することを怠ってはいけないのかもしれません。
「自己のアイデンティティーを失ってはいけない」
これも忘れてはならない心構えでありましょう。

by 伊閣蝶 (2011-10-20 12:22) 

伊閣蝶

Ceciliaさん、こんにちは。
「タンティ・アンニ・プリマ(アヴェ・マリア)」はソプラノで歌われている演奏もあって、これもなかなか味わい深いものです。
「Café 1930」も美しい曲ですよね。
ご紹介いただいた動画の演奏は初めて聴きましたが、これもしみじみとした佳演です。須川展也のサックスによる演奏も大変素晴らしいものでした。
こうした曲を聴いていると、様々な懐かしい風景が頭の中に浮かんできて、それがまた心を慰めてくれるような気がします。

by 伊閣蝶 (2011-10-20 13:23) 

Cecilia

たまたま聴いてみたCDのボーナストラックに「オブリヴィオン」が入っていました。記事を書きましたがこの記事をリンクさせていただきました。

by Cecilia (2011-10-24 09:36) 

伊閣蝶

Ceciliaさん、こんにちは。
再コメントありがとうございます。
ブログの記事、拝見しました。私のブログの記事をご紹介いただき、改めて御礼申し上げます。
「オブリヴィオン」は仰る通り、オーボエにぴたりとはまる音楽だと思います。
私はソプラノサックスの演奏で聴いたのですが、聴きながら、これをオーボエで聴いたらさぞかし良いだろうなと感じましたので。

by 伊閣蝶 (2011-10-24 11:58) 

九子

オブリヴィオンって、じ~んときました。
アコーディオンかと思ったら違うんですね。
by 九子 (2011-11-04 21:47) 

伊閣蝶

九子さん、こんばんは。
オブリヴィオンは、様々な楽器に編曲されています。
私の紹介したCDはほとんどオリジナルですので、ソプラノサックスですが、ほかにいろいろな演奏が存在し、それぞれに素晴らしいと思いますね。
本当にいい曲だと思います。

by 伊閣蝶 (2011-11-04 23:48) 

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