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ジャルスキーのヴィヴァルディ [音楽]

ここのところ、熱帯夜から解放されて随分助かります。
今日も、朝のうちは抜けるような晴天でしたが、午後からは雲が出てきて、日中の暑さもそれほどではありませんでした。

今日は、フィリップ・ジャルスキー&アンサンブル・アルタセルセのコンサートに出かけてきました。
演奏会プログラム
ジャルスキーの演奏について、Ceciliaさんからご紹介があり、早速調べてみたところ残席があったのでした。
久しぶりの実演に、家内と二人、ワクワクしながら聴きに行った、というところです。

プログラムはヴィヴァルディ特集。
曲目は次の通りです。

第1部(サクロ)
  1. モテット(闇の恐れのあまりにも長く)RV629
  2. ヴィオラ・ダモーレとリュートのための協奏曲RV540
  3. ニシ・ドミヌス - 主が家を建てたまわずばRV608

第2部(プロファノ)
  1. 歌劇「オルランド・フィント・バッフォ」RV727第1幕よりアリア「何を見るまなざしにも」
  2. 歌劇「ウィテカのカトーネ」RV705第2幕よりアリア「もしあなたの顔に吹き寄せるのを感じたなら」
  3. ヴァイオリン協奏曲(グロッソ・モグール)RV208
  4. 歌劇「ジュスティーノ」RV717第1幕よりアリア「この喜びをもって会おう」
  5. オラトリオ「勝利のユディータ」RV644よりアリア「松明と蛇で身を護り」

私は恥ずかしながら、これらの曲を、今日、初めて聴きました。
ヴィヴァルディは、「四季」を始めとしてどうしても器楽曲に主たる作品があるように思われがちですが、実は夥しいオペラや声楽曲を残していてむしろそちらの方にこそ真価があると以前より聞かされておりながら、なかなか積極的に聴くことをしなかったのです。

なぜか、という問いにはうまく答えられませんが、どうも私にとってヴィヴァルディは「四季」のイメージが強く、しかも、私自身、この曲のことが必ずしも好きではない、という事情があってのことなのでしょう。
あの密度の薄さと貧弱な響きの曲が何故にこれほど日本の国で受け入れられるのか。しかも、ホテルの朝食会場とか何かのパーティなどのBGMとして無造作に流される現状に接すると、それだけで聴く気も失せてしまうわけです。
山本薩夫監督の映画「華麗なる一族」における、東洋銀行の設立祝賀パーティのBGMでの用いられ方に、その象徴的なものが見られるような気がします。
恐らく、山本監督も音楽を担当した佐藤勝さんも、皮肉を込めて使ったのであろうと私などは邪推してしまうのですが(^^;

従って、私は今回、自分のそうした狭隘な印象を払拭する機会になるかもしれないという期待を込めて、このコンサートを聴きに出かけたのでした。

告白します。
私は正しく不明でした。

ヴィヴァルディという人が、これほどまでに突き詰めた音楽を数多く書いていたことに関し、それを聴くこともなく自分の心のうちで排除していたことを恥じ入るばかりです。

先に上げたプログラムは、どの曲も極めて聴きごたえのあるものばかりでしたが、私は殊に「ニシ・ドミヌス(NIsi dominus) - 主が家を建てたまわずば」に深く心を打たれました。
詩編126番を9部に分けて作られた曲ですが、緩叙楽章(ラルゴ)の切々たる調べの美しさと、それを余すことなく伝えようとする、ジャルスキーとアルタセルセの緊張感溢れる演奏が、ひしひしと伝わってきたのです。
カウンターテナーとしてのジャルスキーのテクニックと表現力は筆舌に尽くしがたいほど高く、ターンやトリルなどの装飾音の見事なまわし方など、とても人間業とは思えないほどの完成度でありました。
しかし、私が真に感動したのは、むしろ、先に上げたラルゴなどにおける、弱音のピーンと張りつめた音の響きに対してです。
これは、アルタセルセにも言えることですが、このアンサンブルの真髄はピアニッシモなどの弱音の表現にこそある、と私は思っているのです。
アレグロなどの楽章が強音で終わって、固唾をのんで見守る私たちの耳にかすかでありながらも確かな響きをもって伝わる弱音。
それは正に身震いのするほど素晴らしい表現でありました。

逐一感想を書こうと思ってもとてもなし得ないほど多くの深い感動を与えてくれたこの演奏会。
これから、名古屋と大阪を回るのだそうです。
きっと、各地で大きな感動を与えてくれることでしょう。

そうそう、この日の演奏会、アンコールは次の二曲でした。
  1. 歌劇「ジュスティーノ」RV717より第2幕アリア「この胸に感じる涙の雨の中」
  2. ニコラ・ポルポラ:オペラ「ポリフェーモ」からアリア「偉大なジュピターよ」

とくにこの「この胸に感じる涙の雨の中」は、先に上げたヴィヴァルディの緩叙楽章の緊張感と美しさを、もう一度再確認させてくれる熱演でした。

ところで、あまり書きたくはないのですが、今回の演奏会でもフライング拍手が随所で起き、せっかくの緊張感溢れる演奏に水を差しまくっていました。
特に驚いたのは、一つの曲の楽章の間で拍手をする態度です。
プログラムを読めば、それぞれの曲の構成についても触れていることがわかるはずなのに。

前半と後半のほぼ真ん中に協奏曲が配置されていますが、両曲とも、第一楽章の終わりで拍手が入りました。
しかもあろうことか、RV208のヴァイオリン協奏曲では、第一楽章が終わった瞬間に(まだ音が響いていたのにもかかわらず)拍手が置きブラヴォーの声までかかりました(もちろんそうしたい欲望にかられるほどに素晴らしい演奏ではあったのですが)。
アルタセルセのメンバーは苦笑を浮かべ、第二楽章への継続の間を計っていたくらいです。

私は寡聞にして知らなかったのですが、もしかすると近頃の演奏会では、一つの曲の楽章の切れ目で拍手やブラヴォーをするのが「エチケット」になっているのでしょうか?
私は、例えば嵐のようなアレグロの楽章が過ぎ去った後のアダージョ楽章の開始を固唾をのんで見守る、という緊張感に何ともいえない喜びを感じていたものですが、これは古いタイプの聴衆であり、無理な相談だ、ということのなるのでしょうか?

せっかくの実演を聴く機会であったのに、残念ながらやはりこうした環境で聴くのは辛いものがあるなと感じたところです。
私はせっかくですから、最後の一音の響きが消えるまでの時間をたっぷり楽しみたいのですが、実演では望むべくもない贅沢な願望なのかもしれませんね。
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きんた

涼しい日が続きますね。
この快適さも長続きしないようですが・・・。
温度の変化などで体調を崩されませんように。
by きんた (2011-07-24 05:00) 

hirochiki

奥様とご一緒にコンサートを堪能されたようで、何よりです(*^_^*)
ヴィヴァルディと云えば、やはり私も「四季」というイメージが強いです。
(数年前に「春」をケイタイの着メロにしていたことがあります♪)
それにしても、せっかくの素晴らしい演奏が拍手によってかき消されてしまうのは大変残念ですね。
しかも、ひとつの楽章の切れ目で拍手やブラヴォーの声まで起こってしまうというのは。。。
私が随分前に聞きに行ったクラシックのコンサートでは、そのようなことはなかったと記憶しています。

by hirochiki (2011-07-24 07:25) 

伊閣蝶

きんたさん、こんにちは。
お気遣い、ありがとうございます。
今日もあまり暑くならないので助かっています。
しかし、仰る通り、本格的な暑さはこれからですし、気温の変化が著しいので、体調を崩しがちです。
どうぞ、きんたさんもくれぐれもお気を付けになって下さい。
by 伊閣蝶 (2011-07-24 13:31) 

伊閣蝶

hirochikiさん、こんにちは。
いつもながら温かなコメントをありがとうございます。
近頃は家内がこうしたコンサートにつきあってくれるので、感謝しなければと思っている次第です。
ヴィヴァルディといえば「四季」。しかも「春」ですね(*^_^*)
この曲によってバロック音楽が広がったわけですから、やはり記念すべき名曲だろうと思われます。
しかし、フライング拍手とブラヴォーにはうんざりさせられました。
仰る通り、以前のコンサートではもう少し響きの余韻を楽しむ雰囲気があったような気がします。
残念なことですね。
by 伊閣蝶 (2011-07-24 13:42) 

節約王

こんばんは。ここ数日、涼しくなりましたね。本日も30度を越えたとはいえ37度あった台風前よりははるかに増しです。奥様とコンサートに行かれたのですね。紳士的な伊閣蝶様らしいです。奥様を大切になさっておいでですね。私も最近、高崎の公民館で地方のフィルハーモニーのポスターを目にして一度ライブで聴いてみたいと思っていましたのでとてもうらやましく思います。やはり音楽デバイスを通した音より生で聴いてみたいです。
他方、普段の生活ではFMやPCのダウンロードで聴くようになったクラッシックを伊閣蝶様のブログをガイドに楽しむようにもなりました。改めて御礼申し上げます。
by 節約王 (2011-07-24 17:46) 

伊閣蝶

節約王さん、こんばんは。
本当にここ数日は大変過ごしやすい天気になっていますね。
ありがたいことです。
家内は、必ずしも音楽の好みが私と一致しているわけではないのですが、機会があればコンサートにもつきあってくれるので、ありがたい限りです。
ちょっと無理強いをさせているかなと反省はしているのですが。

高崎は群馬交響楽団の本拠地ですから、きっと良い演奏が聴けることと存じます。
もしも機会がございましたら、是非ともお聴き下さい。
あの名作映画「ここに泉あり」のモデルになったオケです。
ところで、普段のご生活の中でもクラシック音楽に親しんでおられるとのことで、大変に嬉しく存じます。
こちらの方こそ、心より御礼申し上げます。
by 伊閣蝶 (2011-07-24 23:06) 

ムース

曲目にもよるとは思いますが、マナーの悪い客は多いですね。ブラボー狂の人や、演奏中にビニール袋をさわさわ音立てる人、電子音、臭い香水・・・etc。

私もヴィバルディはよく分かりません。四季も確かにサロン音楽風ですね。冬2楽章は好きですが・・・。名古屋にもこられるとの事、可能なら足を運びたく思います。
by ムース (2011-07-24 23:23) 

伊閣蝶

ムースさん、こんばんは。
仰る通り、マナーの悪い客が目立つようになった気がします。
私もできれば音楽は実演で楽しみたい。やはり「一期一会」の喜びこそ演奏の本質なのですから。
でも、それに水を差されることが余りに多く、嫌気がさしてしまいますね。
今回の演奏会でも、隣に座った年配の男性が、演奏中に頻りに喉を鳴らし咳払いしていたのが気になって仕方がありませんでした。
しかしながら、ジャルスキー&アルタセルセの演奏は本物です。
もしもお時間等が許されますのなら、是非ともお聴き下さい。
by 伊閣蝶 (2011-07-24 23:52) 

Cecilia

記事をすぐに拝見させていただいていたのですが忙しくてコメントできませんでした。
素晴らしい感想をありがとうございます。宣伝の甲斐がありました。(笑)
米良さん同様、ブログでジャルスキーのファン仲間がいるのですが(笑)、私はせいぜい近辺のコンサートしか行けないのに皆様ヨーロッパ各地のコンサートに行かれていてすごいです!
米良さんのファンの皆様も全国各地に行かれていて、すごいです。

私もヴィヴァルディと言えば「四季」などのイメージがいまだに強いです。でも「四季」は好きでした。ヴィヴァルディをあまりよく思ってないと言えば皆川達夫先生ですよね!(ご存知でしょうか。)アルビノー二と比較して軽薄だというようなことを書かれているのは有名ですよね。
「四季」も実にいろいろな演奏があり面白いですが、ジャルスキーを通して知った曲もなかなか良いと思いました。ニシ・ドミヌスは最近になってNAXOS MUSIC LIBRARYで聴けるようになったところですが、演奏会までに何度か聴けると良いなと思っています。

奥様と素敵なひと時を過ごされたようで私もうれしく思います。
また拍手についてですが、私も最後の余韻を大事にしたいと思いますので伊閣蝶さんのおっしゃる通りだと思います。
ちなみに三年前のコンサートの記事です。
http://santa-cecilia.blog.so-net.ne.jp/2008-11-13
二年前はこちら。
http://santa-cecilia.blog.so-net.ne.jp/2009-11-08
http://santa-cecilia.blog.so-net.ne.jp/2009-11-09

ジャルスキーを知ったのは偶然でしたがまだネット上でも情報が少なかった時期に知った私はすごいと思っています。(笑)

by Cecilia (2011-07-26 06:03) 

伊閣蝶

Ceciliaさん、こんにちは。
相変わらずお忙しいとのことで、ご多忙の中、温かなコメントを頂戴し、誠にありがとうございました。
演奏曲について予習を怠ってしまったので、具体的な感想を書くことができず、情けない限りですが、ご評価いただき嬉しく存じます。
それにしても、ヨーロッパ各地でのコンサートにまでお出かけになるファンがおられるのですね。
そういえば、当日の演奏会でも、最前列で熱狂的な拍手を送り手を振って声援をなさっている観客の方が何人もおられましたが、すごいなあと感心しました。
ファンとは本当にすごいエネルギーをお持ちなのですね。こうしたファンに支えられている演奏家の方は大変に幸せだと思います。

皆川達夫さんがヴィヴァルディの「四季」を好んでおられないことはもちろん存じております。
著作を読んで、なるほどなあと思う部分も数多くありますが、やはり好みは各人のものということでしょう。
ただ、たまたま「四季」に関しては一致するところがあって、当時(30年近く前ですが)ちょっと意を強くしたことがあります。人前で「四季」をけなすのには勇気のいる環境でしたので。
その意味でも、今回の演奏会でヴィヴァルディに対する偏見のようなものを払しょくできたのは、私にとって大変有意義なことでした。
機会を与えて下さったCeciliaさんに改めて御礼を申し上げる次第です。
家内も喜んでくれ、私の株もちょっと上がりました。

ところで、以前お書きになった記事、早速拝読しました。
すばらしい!
ここまできちんとお聴きなり、予習までされて臨まれるとは、本当に脱帽です。
ネット上での情報が少ない時代にジャルスキーを見出された炯眼も併せ、心から尊敬申し上げる次第です。

by 伊閣蝶 (2011-07-26 12:09) 

お邪魔いたします

先日のジャルスキーの紀尾井ホールでのコンサートに行っておりました者です。
やはりあの拍手はまずかったのですね。
少しびっくりしてしまい、ああいうものなのかしらと検索していたらこちらにたどり着きました。
時折お能を見に行くのですが、お能の拍手も変わってきているようで、クラッシックもということはやはり時代なのかな、と考えてしまいました。
それではお邪魔いたしました。ご教示くださりありがとうございます。
by お邪魔いたします (2011-07-26 22:21) 

伊閣蝶

お邪魔いたしますさん、こんばんは。
検索でこちらにお越し下さったとのこと。
ありがとうございました。
何時の頃からかは記憶が定かではありませんが、コンサートを「音楽を聴きにいく場と時間」という捉え方ではなく、「コンサートに行くこと」自体が目的化してきたような気がしました。
クラシックのみならず、ロックのコンサートでも最初から総立ちで手拍子を送る観客に囲まれ、肝心の曲をきちんと聴けないことが多いようです。
まだ、ジャズは、きちんと曲を聴く態度の観客が多いような気がしますが。
これは時代なのでしょうか。
私にもちょっとわかりかねるところでした。
貴重なコメント、ありがとうございました。
by 伊閣蝶 (2011-07-27 01:15) 

ムース

 名古屋公演に行ってまいりました。余裕の当日席、しかもがらがらでした。演目がいかにも地味(むしろ滋味か?)なせいかもしれません。ヴィヴァルディはなかなか奥が深そうですね。勿論、普段大シンフォニーばかり聴いている身としてはすべて初物で、新鮮な驚きがあったのは収穫でした。一番印象的だったのはヴァイオリン協奏曲の不思議な第二楽章と超絶技巧の第3楽章でした(本日のメイン楽曲ではありませんが)。
 当地でもフライング拍手だらけでした。有名な曲はないので、仕方ないことかもしれません。さすがにブラボーはありませんでした。個人的には、どのような曲でも終わって暫くしてから拍手するように心がけています。本来、曲がfffで終わろうとpppで終わろうとそうあるべきだと思うのですが、一刻も早くブラボーと叫びたがる人が大抵いるのでダメですね。
 なお、当地でのアンコールは2だけでした。あの客数では仕方ないかもしれません。
by ムース (2011-07-28 23:52) 

伊閣蝶

ムースさん、こんばんは。
ジャルスキーの名古屋公演にお出かけとのこと。
嬉しく存じます。ありがとうございました。
会場はガラガラでしたか。でも、むしろその方がゆっくりお聴きになれたのではないかと思います。
しかし、やはりフライング拍手のオンパレードとのこと。
仰る通り、あまりなじみのない曲が多いので、タイミングを計るのは難しいのかもしれませんが、それならば、演奏者が楽器をおろすなど、明らかな曲の終わりを示すまで待てば良いだけのことでしょう。
一刻も早く拍手をしなければならない理由が、私にはわかりかねます。
ムースさんが、どのような曲でも終わってしばらくしてから拍手をするように心がけているとお聞きし、我が意を得たりと嬉しくなりました。

by 伊閣蝶 (2011-07-29 00:15) 

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