SSブログ

ウェス・モンゴメリーのフル・ハウス [音楽]

今日は比較的穏やかな日となりました。
日比谷公園ではクチナシの花が咲き始め、早速その香りを楽しんできたところです。
kutinasi0615.jpg
クチナシは、花によって香りの強さに多少の違いがあるようで、この花は、顔を近づけて嗅ぐことによって香りを感ずるくらいの、どちらかといえばあえかな印象がありました。

ところで、とても目についたこの花。
110615_1252~01.jpg
桔梗のような感じにも見えますが、残念ながら私は名前を知りません。
どなたかご存知の方がおられたらご教示いただけると幸甚に存じます。

さて、先日、ウィントン・ケリーの「Last Trio Session」に関して触れたところですが、その折、ただの蚤助さんより、
絶頂期のケリーさんは、調子に乗ると手がつけられなくほど熱いプレイをするピアニストでした。
ウエス・モンゴメリーとの共演ライブは両者とも神がかり的です。
どちらも若死にしましたが、その才能を神に愛され過ぎてしまったのかもしれません…

とのコメントを頂戴し、これはやはり何としても聴かずばなるまい、との思いを新たに、早速、彼らによる超絶的なライブ「フル・ハウス」を入手しました。

これは本当に、「凄い」演奏です。
ジャズファンにとってみれば、「いまさら何を言っているんだ」と笑い倒されてしまうかもしれませんが、モダン・ジャズの底知れない奥深さと、その表現の自在さや広がり、そしてなんといってもそれを裏打ちするプレイヤーの超絶的なテクニックには、いまさらながらに圧倒されました。

もちろん、これまでにもこのブログで取り上げてきたジャズのCDからは、同様の驚嘆を感じてきたところですが、改めて、というところです。

収録内容は次の通り。
  1. フル・ハウス
  2. アイヴ・グロウン・アカスタムド・トゥ・ハー・フェイス
  3. ブルーン・ブギ
  4. キャリバ
  5. 降っても晴れても(テイク2)
  6. S.O.S.(テイク3)
  7. 降っても晴れても(テイク1)(ボーナス・トラック)
  8. S.O.S.(テイク2)(ボーナス・トラック)
  9. ボーン・トゥ・ビー・ブルー(ボーナス・トラック)

これは、1962年6月25日、バークレーのTsubo(「壺」ですって!)と呼ばれるコーヒーハウスでのライブ録音で、ウェス・モンゴメリーのギターはもちろん、当時、絶頂期を迎えていたウイントン・ケリーのピアノもとんでもないほどのノリで、ナベサダさんの口癖ではないのですが、正に「ごきげん」な一枚です。
テナーサックスのジョニー・グリフィンも、ベースのポール・チェンバースも、この二人の白熱のライブの中で一緒に燃え上がり、渾身の演奏を展開しています。
因みに、フロントがウェスとジョニーの二人、バックがウィントンたちのマイルス・リズムセッションの三人という意味合いから、「フル・ハウス」に引っかけた、という話です。
このライブ、当然のことながら大変な盛況となり、文字通りの「フル・ハウス(満席)」であったことは言うまでもないことでしょう。

表題曲の「フル・ハウス」を始めとするウェスのオリジナルはもちろん最高ですが、私個人としては、ウェスの静かなソロが聴ける「アイヴ・グロウン・アカスタムド・トゥ・ハー・フェイス」がお気に入り。
熱気むんむんの演奏がCD全体に横溢しているの中で、この静謐なバラードが配置されている心憎さに感嘆するとともに、ウェスの神業的なギターの音色を堪能できるからにほかなりません。

ウェス・モンゴメリーは、現在ではオーソドックスな奏法となっている感のあるオクターブ奏法をジャズギターの中で発展・確立させ、その礎を築いたことで知られています。
しかも、ソロパートを親指一本によるピッキング奏法で演奏するというスタイルで、ピックを用いずにあの超絶的な演奏を成し遂げるテクニックは、正に神業。とても信じられません(「ブルーン・ブギ」の演奏をお聴きください!)。
親指一本の短音のソロからオクターブ奏法でのソロ、そしてコードソロへと展開する、めくるめくようなウェスのギター演奏。

音色というものは、基本的に倍音構造の中で形作られるものですが、何の倍音も持たないサイン波の電子音(ポー、などという感じ)に倍音を重ねることによって様々な音色が成り立っていきます。
例えばハープシコードなどはかなり多くの倍音が一緒に響くため、あのような煌びやかな音になるわけです。
逆にホルンなどは少ないわけですね。
一般的に弦をはじくような楽器は倍音が多めになり、ウェスのオクターブ奏法はオクターブの音を同時に鳴らすことによってそれをさらに深める効果を上げるのでしょう。
それゆえにこそ、ウェスのギターから導き出されるあの太い音の存在があるのではないでしょうか。

一説によると、ウェスは楽譜が読めなかったのだそうです。
これは、正式な音楽教育を受けてこなかったアーティストによくある自己韜晦なのかもしれませんが、もしも事実であるとすれば、生活のために独学でギターを弾き始め、30代の半ばまで演奏の拠点を生地インディアナポリスおいていたという軌跡所以のことなのでしょうか。

しかし、例えば、武満徹のノベンバー・ステップスにおける琵琶の演奏を担当した日本屈指の薩摩琵琶演奏家である鶴田錦史さんも、いわゆる西洋音楽の楽譜は読めなかったとのことですし、あの美空ひばりも楽譜が読めないことを公言していましたから、楽譜を読めるということ自体は、感動的な演奏をなしうるための特に必要な条件ではないのかもしれませんね。蛇足ですが。

nice!(10)  コメント(16)  トラックバック(0) 

nice! 10

コメント 16

節約王

伊閣蝶 様
こんばんは。いつも楽しく拝見しています。今回はジャズですね。私もジャズは大好きで最初にジャズと出会ったのは”アートブレイキー”でした。20年前の話です。ウエス・モンゴメリーは私も以前から注目していたアーティストですがなぜか聞く機会を毎々逃し、又、つい忘却してしまい現在に至りました。今回の特集を拝見し、ぜひ聞いてみたくなりました。又、ピアニストとの共演という異色?!の組み合わせも大変興味を感じます。私もぜひ入手してみたくなりました。このように音楽の拝見を詳細に解説してくださるブログも少ないので私のような素人にはいい指針になります。これからもよろしくお願いします。
by 節約王 (2011-06-15 22:00) 

伊閣蝶

節約王さん、こんばんは。
いつもながら温かなコメントをありがとうございます。
アート・ブレーキーとはまた渋いところですね。モーニンやチュニジアの夜などがすぐに思い浮かびます。
ウェスのことも以前からご注目なさっておられたとのこと。
もしもよろしければ、是非ともご一聴下さい。ウィントンのピアノとの掛け合いなど、繰り返し聴きたくなってしまうほどの熱演ぶりです。
また、ライブ故に観客の拍手などが入っていますが、観客までノリノリなのが手に取るようにわかります。
私は、ジャズについては全くの素人ですが、それでも熱いプレイには心躍らされます。
良い音楽はジャンルを問わないということなのでしょうね。

by 伊閣蝶 (2011-06-15 23:29) 

hirochiki

クチナシの花の香りを嗅いでみたくなりました。
お花によって、香りの強さが異なるのですね。
私は、思わず渡哲也さんの歌を思い出してしまいました♪(笑)
薄紫色のお花については、ちょっと調べてみます。
ところで、あの美空ひばりさんが楽譜を読めなかったと聞いた時は私もとても驚きましたが、そういうことなのでしょうね。
by hirochiki (2011-06-16 05:40) 

伊閣蝶

hirochikiさん、こんにちは。
今日はまだ穏やか天気ですが、午後からはこちらもまとまった雨になるとの予報です。
クチナシの花の香り。
種類によってかなり違いがあるようです。
去年、この時期に次のような記事を書きましたが、その時の香りはかなり強いものでした。
http://okkoclassical.blog.so-net.ne.jp/2010-06-28
渡哲也さんの歌のイメージですね(^_^;
日比谷公園に咲いているクチナシはこれほど強烈ではなく、その点が大変好もしく思われます。
薄紫のお花のこと。
ありがとうございます。お手数をおかけしますが、もしお分かりになったらご教示くださいませm(_ _)m
ところで楽譜のことですが、雅楽や邦楽のそれは西洋音楽のものとは全然違っていて、例えば雅楽では、運指を示す漢数字とカタカナ(テイラ、ロリ、トロルなど)が書かれていて、それを先ず声を出して歌い、その旋律を歌えるようになってから、それに合わせて楽器を演奏することになります。
楽譜の役割は、その実現すべき演奏の流れを視覚的に表現するものですから、どのような方法を取るものであれ、創造者の意図を100%表すことなど不可能ですよね。
それなのに、こと西洋音楽における音符に関しては、読めないことに伴う必要以上の劣等感を感ずる人や、読めることで優越感に浸ってこれ見よがしにふるまう人がいたりしますから、何とも不可解な態度ではないかと思ってしまいます。
要は創造者(演奏者自身も含めて)の意図を如何に酌み取って演奏(再創造)に反映させていくか、ということなのですから、音符が読める、などというテクニックは、単にその手法の一つにすぎないのではないかと私は考えます。
もちろん、読めるのにこしたことはないのですが、私の個人的な感覚ですと、西洋音楽における譜面に慣れ過ぎていると雅楽などの演奏でどうしても平均律に行ってしまう傾向が強くなるような気がしています。これはあまり良いことではないかもしれないな、と感じたりもしました。
by 伊閣蝶 (2011-06-16 12:05) 

aka

ジャズか~渋いですね♪
私、恥ずかしながら戦闘ものアニメが結構好きなのですが、私の好きなアニメでジャズ風のサントラのチョイスがものすごく、粋で渋くて、すごく気に入ってます。
ジャズって一気におしゃれな感じになりますよね!!
私は詳しくはないのですが、昔コントラバスをやっていたからか、ジャズの中に入るコントラバスのピッチカートが好きなのです♪
でも、話ではリズムがすごく難しいとか…。


by aka (2011-06-16 20:35) 

ムース

私は、楽譜は読めるのですが、即興的な演奏とかはどう考えても無理ですし、音感が悪いので細かいピッチとかが分からないのです。音楽は好きなのですが、先天的なセンスのようなものはないようです。
by ムース (2011-06-16 22:49) 

伊閣蝶

akaさん、こんばんは。
なるほど、アニメの世界でもジャズはメジャーなのですね。
ジャズの歴史は結構古いのですが、そんな形で最も新しいところにも影響を与えているところがちょっと嬉しい気もします。
akaさん、コントラバスのご経験もあるのですね。
前にもこのブログで取り上げましたが、リチャード・デイヴィスの演奏も是非お聴き頂ければと想いました。
http://okkoclassical.blog.so-net.ne.jp/2011-04-23
ものすごい世界ですよ。
by 伊閣蝶 (2011-06-16 23:38) 

伊閣蝶

ムースさん、こんばんは。
ムースさんは楽譜が読めるとのことで、これは大変すばらしいことだと思います。
楽譜は、本当に表面的な部分だけしか書かれておりませんから、むしろ、そこから何を感じ、それをどのように伝えていくことができるか、そのことの方が大切なのではないでしょうか。
それゆえに、まず、楽譜を読めることが入り口であることは間違いないことなのですから。
by 伊閣蝶 (2011-06-16 23:44) 

hirochiki

おはようございます。
過去記事を拝見させていただきました。
胃閣蝶さんも、渡哲也さんの歌のことを書かれていたので、思わず嬉しくなってしまいました(*^_^*)
ところで、例のお花の名前を色々と調べてみたのですが、わかりそうでわからないのです^^;
どこかで見たような気がしてならないのですが。。。

by hirochiki (2011-06-17 05:36) 

伊閣蝶

hirochikiさん、こんにちは。
過去記事もご覧いただき、誠にありがとうございました。
あの歌の頃の渡哲也さんも素敵でしたね。今はさらに俳優としての存在感が大きくなっておられますが。
お花の名前、いろいろお調べいただき、ありがとうございます。
そうなんですよ。わかりそうでわからない(^_^;
私もその後、いろいろと調べてはいるのですが。
お手数をおかけし、すみませんでしたm(_ _)m

by 伊閣蝶 (2011-06-17 12:03) 

ただの蚤助

伊閣蝶さん、お晩です。
「フル・ハウス」ときましたか。
ケリーさんのウェスとの秀作ですが、ことケリーさんのプレイに関して申せば、個人的には「フル・ハウス」の再会セッションである「ハーフ・ノートのウエス・モンゴメリーとウィントン・ケリー」(1965)の方により愛着があります。
今はなきニューヨークの「ハーフ・ノート」におけるライブとスタジオ録音が混じっています。
メンバーは「フル・ハウス」からグリフィンが抜けただけですが、マイルス時代からの不動のトリオで、特にマイルス作「ノー・ブルース」、ウェスのオリジナル「ユニット・セヴン」「フォー・オン・シックス」でのケリーさんのプレイは、彼の最後の輝きを放ったトラックとして永遠に忘れられません。
機会があったら、こちらも聴いてみてください。
by ただの蚤助 (2011-06-17 23:16) 

Cecilia

紫の花は”ブローディア”と言います。
今検索して確認しましたがやはりそうでした。
画像検索でいろいろ出てきますね。
プレゼントの花のアレンジに入れていただいたことがあったため名前を覚えていました。
いろいろな品種があるようですが、これですね。
http://en.wikipedia.org/wiki/Triteleia_laxa

私はクチナシとカラタチを間違えて言いそうになります。(苦笑)



by Cecilia (2011-06-18 10:16) 

伊閣蝶

ただの蚤助さん、こんにちは。
実は「フル・ハウス」を聴いてから、「ハーフ・ノート」を聴きたくてたまらなくなっていたところです。
先日、早速注文しました。到着が楽しみでなりません。
蚤助さんから、このようなコメントを頂戴し、ますます楽しみで、ワクワクしております。
ありがとうございました。
by 伊閣蝶 (2011-06-18 11:08) 

伊閣蝶

Ceciliaさん、こんにちは。
お花の名前、教えて頂き感謝します。
そうですか、ブローディアという名前でしたか。
ユリ科の花なのですね。葉っぱの形状を見たらそうなのかなと思いましたし、その点でキキョウの仲間ではないのだろうと思ってはいましたが。
ありがとうございました。

ところで、クチナシとカラタチですか。
確かに言い間違えそうになりますね(^^;

by 伊閣蝶 (2011-06-18 11:16) 

don

こんばんは!
この前、ミュージックエア(ケーブルTV)でウエスの1時間番組
やってました。オクターブは漠然と2本指を想像してたのですが、
ほんとに親指1本でした。

インタビューで彼は、ギターの音を小さく(騒音対策)するために
親指1本で演奏しはじめたとか言ってました^^。
by don (2011-06-19 19:07) 

伊閣蝶

donさん、こんばんは。
ウェスの映像がケーブルTVで放映されたとのこと。
DVDも発売されいますが、私はまだ観たことがないので、これは興味深いところですね。

また、ギターの音を小さくするために親指一本で演奏し始めたというところは、生活のためにギター演奏をしてきたウェスならではの味わい深い言葉だな、と思いました。
by 伊閣蝶 (2011-06-19 22:15) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0