SSブログ

いつか私の時代が来る [音楽]

朝のうちは曇り空でしたが、昼ぐらいから天候は回復し、風は強かったものの暖かな陽射が燦々と降り注いできました。
koubai0215.jpg日比谷公園では、やっと紅梅も咲き始め、すでに満開を迎えている白梅と並んで良い香りを漂わせてくれています。

昨晩、都心でもまとまった雪が降り、私の自宅付近では結構な積雪となりました。
今年は各地で大雪のニュースが相次ぎましたが、首都圏での積雪は今回が初めてではなかったかと思います。
今朝の出勤時も、道路は湿った雪で覆われ、ところどころ雪が解けていたりして歩きづらいことこの上なかったのですが、その上、案の定電車も遅延してえらい目に遭いました。
この雪で、転倒などによるけが人が続出し、中には足の骨折をした方もおられたそうです。
先日、伯父の葬儀で会津に出かけた折には、とてつもない雪の中を歩いてきたので、この程度の雪で骨折とは大変なことだなと思いました。
あまり雪とは縁のない都心だからこそこんなに大騒ぎになるのかと思うと、つくづく雪国に居住する人たちのご苦労がしのばれます。

ところで、私は帰省の際、利便性を重視して自家用車で行くことが多いのですが、今回は雪の季節でもあり、事故や通行止めなどで万が一にでも間に合わないようなことがあってはいけませんから高速バスを利用して会津に向かいました。
車内に手洗いが設置されたり全席が禁煙となるなど、以前に比べて居住性は格段に良くなってはいますが、通常の四人掛けではやはり窮屈な思いをしてしまいますね。
そんなわけで、iPodで音楽を聴きながら向かったわけですが、たっぷり時間があったこともあり、久しぶりにマーラーを聴いて行きました。

曲目はやっぱり一番好きな9番ですね(*^_^*)
雪の降りしきる中で聴く終楽章のアダージョは、何とも形容しかねるような響きでありました。

「やがて私の時代がやって来る」

マーラーは、生前そのような想いの中で創作を続けてきたと聞きます。
今こうして9番などを聴きながら、正しくマーラーの言葉の通りの時代がやってきていると感嘆しますが、逆にいえば、マーラーの生きていた時代は、まだ彼の時代ではなかった、ということなのでしょう。
指揮者としてゆるぎない地位と名声を確保しながらも、自らの心血を注いで創り上げた作品は必ずしも聴衆の支持を受けてはいなかった…。

1910年9月12日及び13日、ミュンヘンでの、マーラー自らの指揮による交響曲第8番の初演の大成功は、それゆえにどれほどマーラーの心を高揚させたかわかりません。何しろ、演奏後、30分も喝采が止まなかったといいますからね。

マーラーの音楽の真価が広く一般に知られ、今日のようにメジャーな立場を得るまでには、没後半世紀以上の時間が必要でした。
それも、いわゆる前衛音楽が、音楽の本質からどんどん外れて創造者の思索的な実験を聴衆に押し付けてきたことなどに伴い、衰退に転じてきた頃と軌を一にしているような気がしています。

芸術は未来において完成するもの、とは福永武彦さんの言葉ですが、新たな表現手法に基づく作品を創造することが芸術家の本能なのであれば、これは正しく正論以外の何物でもないでしょう。
私どものごとき芸術の本質とは全く無縁の一般大衆は、それを知るのに一定の時間が必要であったり世上の評価に左右されたりするわけですから、当の創造者と同様の時間や空間の中にいられるはずもありませんし。
この辺りに、芸術を創造する側とそれを鑑賞する側との埋めがたいギャップがあるのでしょうね。双方にとってまことに無念極まりないことですが。

「何で世の中の人は、ここに天才がいることを気づかないのだろう」

この言葉、12歳の時のジョン・レノンが、自らの描いた絵を誰も評価しなかったことに絶望して発したものだといいます。
やがてジョンは、そのたぐいまれなる才能を音楽で発揮し、彼がまごうことなき「天才」であることを世間の人々に知らしめることになるのですが、名声を得てからのジョンの走り書き程度のイラストが法外な値段で売買されたりする現状からして、この12歳の時の絵が発見されれば同様の評価が下されることになるのでしょうね。
ことほど左様に世間の評価などいい加減なものなのかもしれません。

今、NHKの大河ドラマでは、石坂浩二が千宗易を演じていて、侘び茶の奥義を極めた茶人というよりも「お宝なんでも鑑定団」よろしく茶器などに値段を付けている鑑定士に見えて仕方がないのですが、宗易が豊臣秀吉より切腹を申しつけられた罪状の一つといわれる「売僧(まいす)の行い(安価の茶器類を高額で売り私腹を肥やした)」にしても、畢竟、当該購入者(大名など)に自らの審美眼に基づく価値判断基準がなかったことの裏返しなのではないでしょうか。
事実、宗易は、いわゆる唐物など既成の名品という価値観を否定し、装飾を極力抑えた質素な茶器を用いることにこだわり、それらは決して当時としては高価なものではなかったそうですから。

本来、百人の人がいれば百の価値観が存在するわけですから、己の感覚を以て高く評価したものは、他人がどのような評価を下そうとも揺らぐはずがないのです。
しかし、哀しいかな、己の審美眼に自信など持ち得ない私のような俗人は、それに付けられた正札を価値判断の基準にしてしまう。
願わくは正札を付けた人の審美眼が正しきことを、などと念じながら。

何だかわけのわからない文章となってしまいましたが、こうして音楽を聴きながら味わう愉悦は恐らく私個人の精神世界にのみ宿るものだと実感しつつ、それを生み出す創造者は所詮自分とは対蹠的(たいせきてき)な存在なのだろうなとため息をついてしまったことを思い起こし、備忘的にしたためたところです。
nice!(8)  コメント(4)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 8

コメント 4

hirochiki

今年は、名古屋も雪が多いような気がします。
慣れないので、大雪が降ると本当に大変ですよね^^;
私も、雪国の方たちのご苦労をひしひしと感じます。
さすがは、胃閣蝶さん、移動の時間も有意義に過ごされたようですね。
私は全くの凡人ですので、とにかく日々精進するのみだと思っております。
才能のある方が羨ましいですね。。。
by hirochiki (2011-02-16 12:57) 

伊閣蝶

hirochikiさん、こんばんは。
コメントありがとうございます。
名古屋も今年はかなりの大雪になっているようで、大変なことと思います。
しかし、雪国では私たちの比ではないほど大変で、屋根から落ちてくる雪で窓ガラスが圧迫されたなどという話を会津の実家で聞きため息をついてしまいました。
日々精進、本当にそうですね。
私も、凡人は凡人なりに、せめて感ずる心のブラッシュアップだけは怠らないようにしたいな、と思う毎日です。
そういえば、B’zのギタリスト松本孝弘さんがグラミー賞を受賞したというニュースが流れ、感動しましたが、受賞アルバム「TAKE YOUR PICK」のチャートが、iTunesの配信でそれまでの100位圏外から一気に1位になったそうですね。
オリコンも同じく100位圏外から25位にまでアップ。
何だかあまりにもあからさまで思わず笑ってしまいました。
松本さんも、戸惑いつつ苦笑いされていることでしょうね。
by 伊閣蝶 (2011-02-16 18:03) 

節約王

こんばんは。記事拝見させていただきました。
まず都会の雪ですが私も神奈川県出身なのでおっしゃるとおりわずかな雪でも動揺してしまいます。雪国の方々のご苦労を思えばたいした事はないのですが。本当に雪国の方々には頭が下がります。
話は変わりますが私もおかげさまでクラッシック音楽に目覚め、マーラーはぜひ聞いてみたいと思っていた矢先のこの不思議なめぐり合わせに驚いています。忙しい毎日ですが時間を作ってCD店に足を運ぼうと思います。
価値判断のお話ですが私もまったく同感でございます。価値は人それぞれですし価格は購入者が納得すればそれでいいと思います。(贋作は除きますが)世の中の相場というものは本当に不思議なもので私もそれが正しいと思いがちですが、記事を拝見し「自分の価値判断」を大切にしたいと思いました。失礼ながら生意気な事を申し上げてしまいました事、お許しください。またご訪問させていただきたいと思います。
by 節約王 (2011-02-16 18:16) 

伊閣蝶

節約王さん、こんばんは。
お忙しい中、真摯なコメントをありがとうございました。
私は長野県出身で神奈川県在住なので、雪や寒さに関しては双方の感覚がわかるような気がします。
家内が会津出身ということもあり、雪国の冬の状況も知ることが出来ました。
ところで、マーラーをお聴きになりたいとお考えとのこと。
大変嬉しく、感動しております。
きっと節約王さんの琴線に響いてくれるものと確信します。
価値判断はやはり個々人固有のものであるべきと私も思います。
節約王さんも同じようにお考えとのことで、私も意を強くしました。
正宗白鳥は、畢竟己の好みに従うしかない、という意味のことを言っていたと記憶しますが、その通りだなと思います。
自分自身の心の声に耳を傾けるところから全ては始まるのかもしれません。
ありがとうございました。
by 伊閣蝶 (2011-02-17 01:03) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0