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ラフマニノフの晩祷(徹夜祷) [音楽]

サザンカの花今日も晴天です。
久しぶりに連日の晴天で、なんだか心まで浮き浮きとしてきますね。

それでも、低気圧が張り出してくるらしく、どうやらこの好天もそろそろ一服ということのようです。

今朝ふと気付くと、街路の桜の紅葉は真っ盛りで、銀杏の葉もずいぶん黄色くなっておりました。
サザンカの花も咲き始めているようで、冬の足音はすぐそこまで迫ってきているようです。

冬というと、なんだか私はロシアの音楽を想起することが多く、チャイコフスキーには文字通りの「冬の日の幻想」という交響曲があったりしますから、そうした思い込みも宜なるものがあるかな、などと感じます。

そんな曲の一つで、私にとってとても大切な曲の一つに、ラフマニノフの「晩祷(徹夜祷)」があります。
声楽のみによる50分にも及ぶ大曲ですが、この曲を聴くと、「世の中で最も美しい楽器は人の声だ」と申しておりました父の言葉が思い浮かぶのです。
パートはS・A・T・Bの四つを基本においていますが、状況によって8声にも9声にも拡大し、この世のものとも思えない重厚な和音が響き渡るこの曲、器楽による伴奏が一切ないことをそのうちに忘れてしまいそうになります。

ラフマニノフはそれほど宗教心にあふれた人ではなかったそうですが、この曲を聴くと、正教会という組織に対してはどうなのかはわかりませんけれども、ある人智を超えた存在に対する畏敬の念がひしひしと感ぜられることでしょう。

ラフマニノフにとっては、自分が天に召される時にはこの曲の第5曲「主宰や今 爾の言にしたがい」を演奏してほしいというほどの会心の作であったそうです。

それにしても、本当にすごい曲だと思います。
例えば、その第5曲をとってみても、和声は最大9声にまで広がり、ソプラノやテノールといった高音部に二点変ロ(B5)まで要求しつつ、ベースには下一点変ろ(B1)を出させるのですから。
私自身はバリトンですから、当然こんな音は出しようもありませんが、この音を出せるベースの人が一体どれほどいるのか、実に疑問です。
第1曲では、小節線がほとんどなく、これは指揮者泣かせだな、などとも感じました。そのほかの曲でも、テンポや拍子はかなり柔軟に動きますから、実際の演奏に際しては、よほどのコントロールが必要となることでしょう。

そんなわけで、このすばらしく感動的な曲を自分たちの周囲で歌おうとしているグループの話を寡聞にして知りません。
よほどの実力のある歌手を、かなりの人数集めた上でなければとても完全な演奏はおぼつかないことでしょう。

ということで、私たちにできることは、感動的な演奏を聴くこと。

ラフマニノフの晩祷の録音と聞いて、すぐに念頭に浮かぶのは、スヴェシニコフ&ソビエト国立アカデミー・ロシア合唱団による1965年の歴史的演奏の録音なのではないでしょうか。

このCDに対する高い評価は、やはりロシア正教会の伝統を遺伝子の中に脈々と受け継いできたご当地の代表的合唱団による演奏であり、この曲の演奏が行われる本来の形、徹夜祷での奉神礼音楽という前提をきちんと踏んだ演奏であったからでしょう。
超絶的な低音を要求されるバスが、地響きに近いような恐ろしいほどの迫力で力強く歌われるこの演奏を凌駕するものはないのではないか、といわれ、事実、ソヴィエトが健在であった頃はもちろんペレストロイカ以降ですらも、これをしのぐ演奏は存在しない、とまで言われ続けてきました。

しかし、この歴史的なレコード、1986年にCD化されたものの、現在は廃盤の憂き目をみており、入手は困難なようです。
中古市場を丹念に見て回れば、もしかすると当たる可能性があるのかもしれませんが、どうもかなり難しそうです。

そんなわけで、私が最近購入したのは、ヒリアー&エストニア・フィル室内合唱団による2004年の演奏です。

SACDであるところが決め手だったのですが、これが実に感動的な演奏で、緻密かつ清冽で透明な歌声が心に津々としみ込んできます。
ソビエト国立アカデミー・ロシア合唱団の有する、凍土に吹きすさぶ地吹雪にも似た迫力には乏しいのですけれども、誠に美しく深みのある演奏で、ああ、こうした表現の仕方もまたありなのだなと思わせてくれました。

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かずっちゃ

サザンカの花が咲き始めていますか。
サザンカサザンカ咲いた道♪
もしくは、サザンカの宿ぉ~♪
サザンカの垣根なんて最近は見なくなりました。
でも、もう冬なんですねー。
by かずっちゃ (2010-11-11 12:53) 

伊閣蝶

かずっちゃさん、こんにちは。
サザンカ、もう咲き始めているのですよ。
記事にサザンカの画像を添付し忘れたので、今アップしたところです。

でも、確かにサザンカの垣根をあまり見なくなりましたね。
たき火も全く見かけなくなりましたし。
たき火だたき火だ落ち葉焚き、なんて歌、もうあまり現実味がなくなっているかもしれません。
でも、季節は確実に冬に近づいているようです。

by 伊閣蝶 (2010-11-11 13:22) 

aka

ラフマニノフか~。ラフマニノフの曲はこれ!とはわからないのですが、絶対耳にしたことはありますよね。
声楽のみの曲は聴いたことがないですね、しかも50分も!?
確かに歌って本当きれいですよね。楽器以上なのかもしれませんね。
胸がじわ~んときます。
by aka (2010-11-11 14:21) 

伊閣蝶

akaさん、こんにちは。
ラフマニノフの曲は、映画音楽やテレビの劇伴にも使われたりすることが多いので、お聴きになればきっと「あ!これだ!」と思い当たるのではないでしょうか。
最近でも、前奏曲「鐘」は、フィギュアの浅田真央選手がフリープログラムで使いましたし、のだめカンタービレではピアノ協奏曲第2番が取り上げられていました。
そのほかにもテレビドラマでは「妹よ」とか「わたしたちの教科書」では交響曲第2番がかなり使われていましたね。
映画では「逢びき」や「七年目の浮気」など枚挙のいとまもありませんが、「ある日どこかで」などは「パガニーニの主題による狂詩曲」が全編でわたって印象的に使われています。

声楽のみの曲は、例えばルネッサンス音楽とかバロックの初期には結構ありました。
教会で、参列者がそのまま参加して歌えるというところも目的としてあったのかもしれませんね。
その意味ではゴスペルも一緒だと思います。
by 伊閣蝶 (2010-11-11 15:05) 

cfp

伊閣蝶さん、こんにちは。

ラフマニノフの「晩檮」は、
私はラフマニノフの最高傑作だと思っています。

もちろんラフマニノフが世界有数のピアニストで、
作曲家ゆえに、
Pコンが有名なのは事実です。

私はビクター/メロディアレベル、
スヴェシニコフ指揮ソビエト国立アカデミー・ロシア合唱団版
がお気に入りの1枚です。

これは発売当時、全米クラッシックチャート第1位となった
名盤で現在は廃盤となっていますが、
ラフマニノフのレクイエムとして、
愛すべき1枚です。
by cfp (2010-11-11 16:57) 

伊閣蝶

cfpさん、こんばんは。
やはり、スヴェシニコフ指揮ソビエト国立アカデミー・ロシア合唱団版をお持ちでしたか。
以前、cfpさんが毎日のようにこの曲をお聴きになっていると伺い、恐らくこの録音であろうなと思っておりました。
私は、レコード(2枚組)は所持しておりますが、CDを買いそびれてしまい、今は深く後悔しているところです。
中古市場などを探してみてはいるのですが。

夢に終わりそうですが、できればこの曲の演奏に参加してみたい!と切実に思ってしまいます。
by 伊閣蝶 (2010-11-11 18:10) 

fusen

2012年2月26日にアマチュア合唱団による、第3回晩祷(徹夜祷)全曲演奏会を行います。
ラフマニノフの晩祷(徹夜祷)を歌いたいと、集まった合唱大好きたちが週一の練習を重ね、団結成7年目にして、全曲演奏会を行いました。
指揮者に「エベレストのふもとにいるだけ」との言葉を背に、細々と、練習を重ね、来年3回目の全曲演奏会をとまで、やってくることが出来ましたが、第3回を持って、団を解散することになりました。
このたび、「徹夜祷」で検索をしていて、ブログのことを知りました。
お時間が許せば、たぶん、アマチュアによる全曲演奏は、当分ないだろうと、思っておりますので、この機会にご来場いただければとこの場をお借りして書き込ませていただきました。
詳細は、ホームページに掲載しておりますので、アクセスいただければ幸いです。
by fusen (2011-11-21 14:09) 

伊閣蝶

fusenさん、こんばんは。
貴合唱団では、来年の2月26日にラフマニノフの「晩祷(徹夜祷)」全曲演奏をご開催とのこと。
しかも、これが三回目の演奏ということで、本当に驚いています。
というよりも、これまで存じ上げなかった不明を恥じ入るばかりです。
恐らく、団員の皆さまの並々ならぬご熱意があって実現なさった快挙と拝察しますが、今回で最後とは、実に実に無念です。
出来得れば、私も演奏に参加したいと心から感じました。
何れにいたしましても、第三回演奏会、是非とも聴かせて頂きたく存じます。
その節には宜しくお願い申し上げます。
by 伊閣蝶 (2011-11-21 18:12) 

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