SSブログ

ここに泉あり [映画]

今日は曇り空。
どうやら雨になりそうです。
sakura1024.jpg宮崎の友人が、季節外れの桜の花の写真を送ってくれました。
街路の銀杏の木が、既に黄色くなり始めている季節に、この見事な花の写真は驚きでした。

来週、所用があって会津に帰省する予定なのですが、その際のお土産などを買いに駅前まで出かけ、成城石井に立ち寄ってみると、円高還元なのでしょうか、洋酒が随分安くなっています。
ロイヤルサルート21年ものが9000円弱、バランタインの21年ものも同じくらいの値段で、バランタインの30年ものが何と22000円台で販売されています。
もちろん買いはしませんが、買おうと思えば全く手が出ないわけでもない金額となっていることにちょっとびっくり。
四半世紀くらい前に、例えば赤坂辺りのバーでロイヤルサルートを飲もうとすると、ワンショットグラス一杯で5万円くらい取られたと思います(自分で飲んだことはなく、人から聞いた話ですが)。
バランタインの30年ものなど、その頃はそもそも尋常な手段では手に入らなかったのではないか。
さらにもう四半世紀前、私が生まれて4〜5年くらいの頃は、そもそも普通の家庭でウィスキーなどを飲むこと自体、全く覚束なかったことでしょう。
また、最低限の衣食住を確保することだけでも手一杯で、例えばクラシックの実演を聴くなどというような文化的な娯楽は、市井の人々の脳裏を掠めることすらなかったと思います。

今井正監督の「ここに泉あり」は、そんな戦後の荒廃した時代の中に、音楽を通じて何とか文化の灯をともそうとした人々を取り上げた感動的な映画です。


この手の映画ではアメリカ映画の「オーケストラの少女」が有名ですが、少女の歌声にストコフスキーが感動し、それをきっかけに無職の楽団員の演奏が日の目を見る、という一種のおとぎ話ともいえる、現実にはあり得そうもない話とは違い、「ここに泉あり」は極めてリアリスティックで冷酷な視点の元に作られています。
この映画についての感想などを藪山澤好さんが書いているので、ご紹介します。

綾に哀しき

私が小学生の頃、学校の行事で地元のオーケストラによる演奏会を聴きに行ったことがあります。
その頃は、既に様々なレコードを聴いていたので、その演奏のあまりのひどさには子供心にも痛ましいものを感じてしまいました。
これなら、自分の家の安物の電蓄(いやあ古すぎますね)でレコードを聴いていた方がよっぽどましだ、そんなふうに思い、猪口才にも引率の教師にそんな口をきいて、ひどく叱られたことを思い出します。
それでも今思えば、子供たちに何とか生のオーケストラの音を聴かせたいと、頑張って下さったのでしょう。
小生意気な小僧であった当時の自分がつくづく恥ずかしく感ぜられます。
それに、こんな口をききつつも、結局そのときの実物の楽器の音に魅了され、中学校では吹奏楽部に入るわけですから、その影響は極めて大なるものがあったことは否めません。
それから、この地元オーケストラですが、今では技術も非常に向上し、立派な演奏を聴かせてくれています。
最近、その演奏を聴く機会があり、感動するとともに大変嬉しく思いました。

この映画を観るたびに、私は何度も涙を流し、そして、分校の生徒たちを対象とした移動演奏会のあと、「赤とんぼ」を歌いながら山の分校に帰って行く生徒達の姿を眺めながらマネジャーの井田亀夫がしみじみ呟く「あの子たちはこれから山の分教場に帰っていく。生涯を山の中で暮らし、今日のような演奏会を聴く機会はもう二度と訪れないだろう」という言葉をかみしめつつも、その後の日本は経済的にも文化的にも驚異的な発展を遂げ、この井田マネジャーの言葉が、ありがたいことに良い意味で覆された現実に想いを馳せてしまうのでした。

nice!(6)  コメント(7)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

nice! 6

コメント 7

Cecilia

自分自身田舎の分校で育ちましたので”分校”という言葉には敏感です。(4年生までは分校というところでした。)
私の頃には随分交通の便も良くなり、弟が4年生を終える時に廃校になりましたし、地理的には本校よりも市の中心に近かったです。
もう1つ山のほうの分校があり、そちらは複式学級でした。
母校の小学校は市内の北部の地域に所属していましたがその方部での小中学校連合音楽会では山のほうの学校ほどコーラスが美しかったと言う記憶があります。

藪山さんの”綾に哀しき”を愛読させていただいています。
登山の記事も興味深く拝見させていただいています。
あちらの掲示板にでもコメントさせていただくべきかもしれませんが、藪山さんが熊よけの鈴をどうお考えになっているか興味があります。
実は登山もしないのに楽器として熊よけの鈴を購入した私です。



by Cecilia (2010-10-25 12:55) 

かずっちゃ

ワンショットグラス一杯が5万円とは!そんなものを飲んでしまったら一生後悔しそうです(^^;
映画「ここに泉あり」は観たことがありませんが、我がグンマの群馬交響楽団がモデルになっていると聞いたことがあります。
by かずっちゃ (2010-10-25 13:28) 

伊閣蝶

かずっちゃさん、コメントありがとうございます。
ワンショット5万円、絶対に後悔しますね。従って私ももちろんそんなシロモノは飲みませんでしたが(^_^;
当時、得意げに飲んでいた社用族の人たちは今頃どうしているのでしょうね。

ところで、「ここに泉あり」の主人公のオーケストラである「高崎市民フィルハーモニー」は、仰る通り群馬交響楽団がモデルで、この映画は実話を題材にしています。
私は大の群響ファンなので、それだけでもこの映画に入れ込んでしまうのであります。
by 伊閣蝶 (2010-10-25 15:03) 

伊閣蝶

Ceciliaさん、こんにちは。
nice!とコメント、ありがとうございました。
なんと、Ceciliaさんは分校で学ばれたのですか。
私よりもお若い世代と存じますので、びっくりしてしまいました。
もちろん、現在でも分校は全国各地に残っておりますから、驚くこと自体おかしな話ではありますが。

でも、山の方の学校ほどコーラスが美しかったというのは大変感動的ですね。
コーラスは何といっても、メンバーの相互信頼が大きな要となりますから、生徒の結びつきが強ければ強いほど、美しいハーモニーを響かせることができるのではないかと思います。
福島県の学校は、伝統的に合唱が盛んですし。

by 伊閣蝶 (2010-10-25 15:06) 

藪山澤好

「綾に哀しき」などの記事をご覧いただき、ありがとうございます。
だらだらと10年余りも書いてきましたが、たまに読み返してみると、それなりに時代の流れを感じてしまいます。
これからもご愛顧のほど、よろしくお願い申し上げます。

さて、熊の鈴についてですが、秋から初冬にかけては恐らく持参した方が良かろうとは思いつつ、私はこれまで持参に及んだことはありません。
もちろん、熊に遭遇したことがない、というわけではなく、出会い頭という不幸な遭遇がなかったのに過ぎませんが。
ただ、向こうも相当人間のことは警戒していますので、注意しつつ気配を感じながら歩けば、鉢合わせといった事態にはなかなかならないように思われます。
そんなわけで、私はまだ至近距離で熊に出会って逃げた経験などはないのですが、猟師などの経験者によると、熊は登りにはめっぽう強いが、下りはからきしダメなのだそうです。
だから、木に登ったり坂を登るのは×。急斜面をかけ下るのが一番とのことでした。

しかし、「楽器として熊よけの鈴を購入」というのは大変面白く存じます。
様々なタイプの鈴が売られておりますし、その性格上、音の大きさや響きもかなり良いので、楽器として用いるのもアイデアだな、と感じました。

by 藪山澤好 (2010-10-25 18:09) 

Cecilia

藪山澤好さん、ありがとうございます。
熊よけの鈴、迷惑だと考えておられる方も多いようなのですが、登山愛好家でいらっしゃる藪山さんのご意見を是非伺いたいと思っていました。
そもそも熊よけ鈴で熊をよけることができるのでしょうか。
今年は例年になく熊がたくさん出没しているようですが、熊よけ鈴の売れ行きも良くて、品薄状態になっているとも聞きます。
普通の鈴に毛が生えた程度の鈴で効果があるのか疑問ですが、大勢の登山者が皆鈴を身に付けていたらさぞかしうるさいだろうなとも思います。
でも一人で山に入ったときはやはりあるほうが良いのかな、と思います。
私が購入した熊よけ鈴は音にこだわりのある方が作っていらっしゃって非常に良い音です。
by Cecilia (2010-10-26 18:24) 

藪山澤好

Ceciliaさん、こんばんは。
熊よけの鈴を迷惑だと感ずる人は確かにいます。
しかし、中には「熊よけ」と称してラジオを大音量で流しながら歩く人もいますから、そうした人に比べれば、あまり目くじらを立てるほどのことでもないのではないかと私などは思います。
熊よけの鈴で熊を避け得るか、ということですが、鈴を鳴らしながら近づいてくる人間に熊の方が先に気づけば、ツキノワグマやササグマなどは自分から逃げることでしょう。
特に熊は聴覚が鋭いので効果的ではないかと思います。
でも、仰る通り、大勢の登山客が全員で鈴を鳴らしながら歩いたら、これはちょっと辛いところですね。
さすがにそうした光景に出会ったことはありませんが。

ところで、Ceciliaさんがご購入になった鈴、お話をお聴きするだけで、どれほど素晴らしい音であろうかと、興味が尽きません。
私も、今度、山道具屋でどんな種類があるものかみてみようかなと思いました。
心地よい音であれば、きっとほかの登山者にもそれほどの迷惑にはならないのではないでしょうか。

by 藪山澤好 (2010-10-27 00:49) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0