井上直幸のピアノによる、バッハ、ベルク、武満 [音楽]
4月に入ってもなかなか天候が安定しません。
昨日の暖かさを引き継いでか、今日の日中もさほど気温は下がりませんでしたが、夜になってぐんと冷え込み、どうやら明日と明後日は真冬並みの寒さとなりそうです。
ピアニストの井上直幸さんといえば、演奏家としてよりも指導者として多くの方々の記憶に残る方ではないでしょうか。
DVDブックの「井上直幸ピアノ奏法」などに接すると、バッハ、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、シューマン、ドビュッシーといった有名どころの作曲家によるピアノ曲を、テクニックや理論などではなく、演奏にとって一番大切な「感性」の面で静かに訴えかけてきてくれるような、そんななんともいえない優しさを感じさせてくれます。
あの、銀髪をなびかせた柔和な笑顔も大変すばらしく、このDVDによって、改めてピアノを弾くことの悦びを再認識された方もきっと多数に上ることでしょう。
2003年、なんと63歳という若さで逝去されたことは、正に断腸の極みでありました。
今、思い返しても無念でなりません。
さて、その井上さんのピアノ演奏による「バッハ─ベルク─武満」。
井上さんというと、なんとはなしにドイツ古典やロマン派の大家、という印象が強かったのですが、この、バッハとベルクと武満徹を取り上げたCDを聴いて、改めて井上さんの音楽に対する広い知見としなやかな感性に瞠目する思いがしたものです。
このCDを購入したのは2001年のことで、井上さんのレッスンを受けていた友人に勧められたのがきっかけでした。
もちろん、私がバッハと武満徹の大ファンであることを知ってのことです。
恥ずかしながらベルクの曲を聴いたのはこれが初めてでした。
演奏曲順は、次の通りです。
バッハの演奏の後に、武満とベルクという現代音楽の作曲家による無調性に近いピアノ曲を配置することによって、300年以上を隔てた時間を一瞬にして折りたたんでしまったかのような印象を覚えます。
よく人口に膾炙される「ビートルズといえども音楽はバッハに通じ、その影響下から脱し得ない」といった言葉がありますが、こうして順を追って聴くと、武満もベルクもその音楽的な底流は全く同じくバッハに通じていることが身にしみて理解できることでしょう。
以前に、武満さんのジェモーをご紹介した際、武満さんが「作曲の仕事に入る前にバッハのマタイ受難曲の終曲をピアノで弾いていた」という話を書きましたが、つまりは、武満さんのバッハに対する畏敬や愛情が、ピアノ・ディスタンスという前衛的な作品にも色濃く投影されているということの証左ではないかと思うのです。
恐らく事情はベルクにおいても同様で、井上さんはそうした現代音楽の作曲家たちの思いをこのような形でくみ上げた、ともいえるのではないでしょうか。
もっといえば、過去から未来に向かって蕩々と流れていく普遍的な存在である音楽という表現芸術の中に、現代の立ち位置から見た象徴的な作品を配してみようとした、ということであるのかもしれません。
そしてその試みは、誠に幸せな成功を生み出しました。
何よりも、この演奏を聴くことによって、心の中に温かく広がる「音楽を聴く悦び」に身を委ねることができる。
これは私にとって、そんな素敵に嬉しいCDなのであります。
昨日の暖かさを引き継いでか、今日の日中もさほど気温は下がりませんでしたが、夜になってぐんと冷え込み、どうやら明日と明後日は真冬並みの寒さとなりそうです。
ピアニストの井上直幸さんといえば、演奏家としてよりも指導者として多くの方々の記憶に残る方ではないでしょうか。
DVDブックの「井上直幸ピアノ奏法」などに接すると、バッハ、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、シューマン、ドビュッシーといった有名どころの作曲家によるピアノ曲を、テクニックや理論などではなく、演奏にとって一番大切な「感性」の面で静かに訴えかけてきてくれるような、そんななんともいえない優しさを感じさせてくれます。
あの、銀髪をなびかせた柔和な笑顔も大変すばらしく、このDVDによって、改めてピアノを弾くことの悦びを再認識された方もきっと多数に上ることでしょう。
2003年、なんと63歳という若さで逝去されたことは、正に断腸の極みでありました。
今、思い返しても無念でなりません。
さて、その井上さんのピアノ演奏による「バッハ─ベルク─武満」。
井上さんというと、なんとはなしにドイツ古典やロマン派の大家、という印象が強かったのですが、この、バッハとベルクと武満徹を取り上げたCDを聴いて、改めて井上さんの音楽に対する広い知見としなやかな感性に瞠目する思いがしたものです。
このCDを購入したのは2001年のことで、井上さんのレッスンを受けていた友人に勧められたのがきっかけでした。
もちろん、私がバッハと武満徹の大ファンであることを知ってのことです。
恥ずかしながらベルクの曲を聴いたのはこれが初めてでした。
演奏曲順は、次の通りです。
- J.S.バッハ:フランス組曲 第5番 ト長調
- 武満徹:ピアノ・ディスタンス
- J.S.バッハ:パルティータ 第6番 ホ短調
- ベルク:ピアノ・ソナタ
バッハの演奏の後に、武満とベルクという現代音楽の作曲家による無調性に近いピアノ曲を配置することによって、300年以上を隔てた時間を一瞬にして折りたたんでしまったかのような印象を覚えます。
よく人口に膾炙される「ビートルズといえども音楽はバッハに通じ、その影響下から脱し得ない」といった言葉がありますが、こうして順を追って聴くと、武満もベルクもその音楽的な底流は全く同じくバッハに通じていることが身にしみて理解できることでしょう。
以前に、武満さんのジェモーをご紹介した際、武満さんが「作曲の仕事に入る前にバッハのマタイ受難曲の終曲をピアノで弾いていた」という話を書きましたが、つまりは、武満さんのバッハに対する畏敬や愛情が、ピアノ・ディスタンスという前衛的な作品にも色濃く投影されているということの証左ではないかと思うのです。
恐らく事情はベルクにおいても同様で、井上さんはそうした現代音楽の作曲家たちの思いをこのような形でくみ上げた、ともいえるのではないでしょうか。
もっといえば、過去から未来に向かって蕩々と流れていく普遍的な存在である音楽という表現芸術の中に、現代の立ち位置から見た象徴的な作品を配してみようとした、ということであるのかもしれません。
そしてその試みは、誠に幸せな成功を生み出しました。
何よりも、この演奏を聴くことによって、心の中に温かく広がる「音楽を聴く悦び」に身を委ねることができる。
これは私にとって、そんな素敵に嬉しいCDなのであります。
2010-04-14 18:33
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井上さんのDVD、私も見てみたいです。
私もバッハや武満徹好きです。
バッハは何でも好きですが、武満徹は歌曲が好きです。
何となく難解な現代曲のイメージがあったのですが、とても親しみやすい素敵な曲が多いなあと思っています。
by Cecilia (2010-05-13 10:22)
Ceciliaさん、コメントありがとうございました。
井上さんのDVD、これは必見だと思いますよ!
武満さんの歌曲は映画音楽のために書かれたものも多く、「○と△の歌」「見えないこども」「三月のうた」「死んだ男の残したものは」「ワルツ」「めぐりあい」「燃える秋」など、映像とともに聴くとまた何ともいえない感動がありますね。
「明日ハ晴レカナ曇リカナ」などは、「乱」のダビングの際の黒澤監督からの執拗な要求に辟易していた札響のみんなのために即興で作った歌で、武満さんの茶目っ気を彷彿とさせます。
武満さんは「人生を積極的に肯定する情熱がない限り、歌は生まれないだろうと思う」と仰いましたが、私はこの言葉に満腔の共感を覚えます。
武満徹というとアバンギャルド的な面ばかりが強調される嫌いがありますが、本当は大変美しいうたを作り出すメロディメーカーなのではないでしょうか。
武満さんのギター曲などを聴いていると、そのことがひしひしと伝わってきますし。
by 伊閣蝶 (2010-05-13 12:44)