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ブライアン・ジョーンズの「ジャジューカ」 [音楽]

ローリング・ストーンズを脱退してほぼ一ヶ月後、僅か27歳の若さで夭折したブライアン・ジョーンズ。
それも、自宅のプールで溺死(一説には殺害されたという話もある)という衝撃的な最期でありました。
jajouka.jpgそのブライアン・ジョーンズが、お気に入りだったモロッコのタンジールで収録してきた現地の民族音楽を丹念に編集・ミキシングを重ねて作り上げたレコードが「ジャジューカ(JAJOUKA)」です。
このレコードは1971年にリリースされましたが、なかなかCD化されることはなく、ファンをやきもきさせたものでした。
それが1995年になってやっとCD化され、ありがたいことに今でも例えばAmazonなどで購入が可能です。

アルバム名は「ブライアン・ジョーンズ・プレゼンツ・ザ・パイプス・オブ・パン・アット・ジャジューカ」。

この曲を、一般のロックとりわけ彼が主要メンバーであったローリング・ストーンズのようなR&Bの一環だという先入観の元に聴くと完全に裏切られます。

一種のミニマル・ミュージックとでもいうのでしょうか、執拗に繰り返される現地の打楽器による一定のリズムに、いったいいつ息継ぎをしているのだろうか、と驚嘆するほど息の長い笛のロングトーンが乗って、儀式のような旋律が歌い上げられます。

殊に、このアルバムの中心的な存在と思われる「幻惑の瞳」「コーリング・アウト」「幻惑の瞳(ウィズ フルート)」を聴いていると、そのリズムと笛の音と呪術的な歌声(ケチャックにも近いかも)に取り巻かれてトリップしていくような、正しく「幻惑」される感覚の中に放り込まれてしまいます。
通勤電車の中のような周囲が喧噪な場所で聴いていると、発車ベルやドアの閉まる音やレールの振動音や人の話し声など、当然に様々な異音が聞こえてくるのですが、これがなんの違和感もなく溶け込んでしまうのです。
というよりも、それらの生活雑音までこの曲の中に取り込まれてしまう、といった方がより適切なのかもしれません。
また、この中でも「幻惑の瞳(ウィズ フルート)」は18分を超える長大な曲で、延々と流れる絡み合うような笛の旋律に中間部からかそけない打楽器と独特なリズムの手拍子が加わり、その響きに身をゆだねているだけでなんとも名状しがたい想いに駆られることでしょう。
(余談ですが、「幻惑の瞳」の原題は「Your Eyes Are Like A Cup Of Tea」で、「Cup Of Tea」の意味の中には、「怪しいもの・人」というものがあるようです。なかなかうまい邦題だなと思った次第。)

そして、「Goat Mix」「Beedie Mix」と進み、いつしか西洋音楽的なものとの融合が試されて行く。

こうしたプリミティブな音楽の持つ力、いっそ野蛮かつ暴力的ともいうべきパワーに晒されると、音楽とは畢竟、人間の原初的ところで響いている胎動や律動の中にこそ本質が存在するのではないか、などと思ってしまうのです。

ブライアンは、こうした原初の音たちの位相を変え音場のポジションをコントロールすることによって、より強くその荒々しい音を克明に表現しようとしたのでしょう。
先に述べた「Goat Mix」「Beedie Mix」を聴いていると、ブライアンが目指していた音楽表現の世界がおぼろげながら見えてくるような気さえします。

さて、この曲を聴いたときのトリップする感じ、という意味では、中島らもさんのエッセイ集「固いおとうふ」の中の「幽界のかたがた」に描写されている次の部分が参考となるかもしれません。
それをBGMにして、たそがれどきのベランダでボーッとしていると、いきなり視界の下のほうから小さな人の顔がいくつも連なったものが上がってきた。
どういう感じの顔かというと、よくコピーの機械で自分の顔を写してみたりするでしょ?(ワシだけか…)ああいう感じでフチが溶けて全体が流れたような顔。それが何十個と下の方からヌーッとわき上がってくるのだ。

さすがに私はこのような体験をしませんでしたが、仰る意味は何だか判るような気がします。

この曲は万人向けとはいえないかもしれませんが、音楽というものの持つ呪術的な力や人間の生理の根幹に共振する性質に興味を持たれた方には是非ともお聴きになることをお薦めします。
これを聴くと、ブライアン・ジョーンズがどれほど才能にあふれしかも柔軟な思考を持った真のアーティストであったかが判ります。
これでは、ミック・ジャガーやキース・リチャーズと共に彼らと同じ音楽表現の地平を目指すことは不可能であったことだろうなと思わずにはいられません。

あまりに孤高すぎるほどの天才であったが故にあのような最期を迎えたのだとすれば、何だかあまりに哀しすぎますが、このアルバムをプロデュースしたことによって、いわゆるワールド・ミュージックの世界が大きく拓けていったことは誰にも否定出来ないところでしょう。

ところで「JAJOUKA」の意味は、「何か良い事が、きっとあなたにも起こる」なのだそうです。

この曲を聴いて良いことが起こるかどうか、それこそ「神のみぞ知る」というところでしょうか。
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