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岡林信康「レクイエム-麦畑のひばり-」 [音楽]

このブログでは音楽関係の記事を中心に書いてきましたが、現在のところそれはクラシック音楽に関するものが殆どでした。
これは何も私がクラシック音楽のみにしか興味がない、というわけではなく、たまたま私の心が動かされた音楽の殆どがクラシック音楽だったという事情に他なりません。
五十有余年を過ごしてくれば、その時々に心動かされたものが存在したのは当然のことであり、ビートルズとりわけレノンの曲や歌に涙したり、キングクリムゾンの重厚かつ自在な音楽に驚愕したり、サラ・ボーンの歌にしびれたり、竹本綱大夫の近松物に胸を締め付けられたり、それこそ枚挙のいとまなし、といったところです。

昨日、たまたま藪山澤好さんのサイトを見に出かけたところ、なんと岡林信康の「レクイエム-麦畑のひばり-」に関する記事が載っていて、ちょっとびっくりしました。

実は、このNHKの番組は私も観ていて、もともと岡林信康という歌手が好きだったこともあり、なんといういい曲なんだろうとしみじみ聴き入ってしまったものです。

美空ひばりさんが岡林さんに宛てた手紙の中に書かれていた元の詩を読んで、なんだか胸を突かれてしまいました。
これは、当時の美空ひばりが自らに課した不退転の決意みたいなものではないか、とも思ったのです。

ひばりさんは岡林さんへの手紙の中で「あんたの味付けで何とか歌いたい」と訴えたそうです。
ひばりさんが、この詩の内容の歌を歌うとすれば、それはきっとこの詩の持つ「強さ」を前面に出して、決して逆境には負けまい!とする凄絶な覚悟を表すものとして作らなければならなかったことでしょう。

そして、もしもそのような歌を作り、しかもひばりさんがそれを歌うことが前提であったとするのであれば、やはり当時であれ今であれ、岡林さんにはそのような前提の歌は作れなかったのではないか。ひばりさんの過酷な人生を、そこから距離を置いて眺めていた、眺めざるを得なかった岡林さんが、ひばりさんのこれからの覚悟や生き様を直截に歌うような歌を作ることは出来なかったのではないか、そのように私は思います。

岡林さんが作ったこの「レクイエム-麦畑のひばり-」は、既にこの世の喧噪や確執や醜悪なる有象無象から解き放たれて、大空を自由に高く高く飛び回ることの出来るようになった美空ひばりさんに対する、文字通りの「レクイエム・鎮魂の歌」なのではないでしょうか。
心の底からいとおしみ愛して止まなかったであろう美空ひばりさんに、地上から空を見上げて呼びかけている岡林さんの、その愛にあふれた温もりのようなものを、私はこの曲からひしひしと感じます。
人を愛し、いとおしむ心の中からこそ、こうした歌は生まれてくるのかもしれません。
その意味からすれば、正に奇跡的に生まれた曲だともいえるのではないでしょうか。

思えば岡林さんは、「山谷ブルース」「友よ」「手紙」「チューリップのアップリケ」「くそくらえ節」「がいこつの歌」などの、今日まで歌い継がれている代表的な歌を、22~3歳の間に作り、24歳で「それで自由になったのかい」「私たちの望むものは」「自由への長い旅」などの作品を発表してきたのです。
ちょうど1968年から1970年にかけてのことでした。
当時、中学生だった私は、そうした歌が存在することに衝撃を受け、また、そうしたものを通じて70年安保闘争という時代の影響も少なからず受けたものです。
1972年、浅間山荘事件が起こったとき、ちょうど高校受験を控えていましたし。
蟷螂の斧ではあれども、学生たちは自分たちの力を結集することによって、世の中を変えることが出来ると本気で考えていたのだろうと思います。
実際には脆弱すぎる組織の内部に膿がたまって凄惨なリンチ・虐殺事件を起こし、最悪な形で崩壊してしまったわけですが、変革を求めたいという想いは歌にも如実に表れてきていたのでしょうね。
そうしたプロテストソングとはかなり距離を置いていた井上陽水やかぐや姫にしたところで、いくつかの歌にはそうした社会的な問題を歌い込んでいたのですから。

近頃のJ-POPとかいうジャンルの歌らしきものを聴いていると、少なくともメジャーに出てくる20代くらいの若い人たちの作品には殆どメッセージ性を感ずることが出来ません。
もちろん、私自身、J-POPといったジャンルとはかなりの距離を置いているので単に知らないだけだとは思いますが、昨年亡くなった忌野清志郎さんのように、高い志をメッセージに込めて歌い上げる人々は、結局50代を過ぎた人たちの中にしかおられないのではないか、と感じざるを得ないのです(もちろん清志郎さんは筋金入りのロッカーであり、コマーシャルベースに乗っかって楽曲を粗製濫造いるような悪しき意味でのJ-POPなどとは全く関わりのない存在であったとは思いますが)。
その世代に属していることによるノスタルジーなのかもしれませんが、何となく寂しさも感じてしまうこの頃です。

蛇足で失礼しました。
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