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池江選手、東京五輪代表に [日記]

私は、スポーツというものが元来大変苦手で、従ってスポーツ観戦とかスポーツ中継とかスポーツニュースなどには全く興味がありません。
若いころには野球場にも試合観戦に行きましたが、先輩や同僚に誘われてのことであり、観客席でビールなどを飲みながらぼうっとしていることのほうが多かった記憶があります。
少なくとも私自身が積極的にスポーツ観戦に出かけたいと思ったことは一度もありません。

そんな私ですが、次のニュースにはさすがに胸を突かれるものがありました。

池江選手、東京五輪代表に 白血病乗り越え―競泳

正直に申し上げれば、私はこれまで、池江選手の話題には比較的冷淡であり、白血病の苦しい闘病からレースに復帰した折のマスコミの異常な取り上げ方に一種の嫌悪感すら抱いておりました。
それらのレースで優勝した選手のことは取り上げず、彼女のことばかり話題にするマスコミの態度に辟易とした、ということです。

池江選手は、闘病中に体重が15kgも落ちたそうですが、そのほとんどは筋肉であったことでしょうから、それを元に戻すためにはどれほどの努力と忍耐力が必要であったか、それこそ凡人の私などには想像もつきません。
自身に寄せられてきた期待とそれに基づくプレッシャーは如何ばかりであったか。
それを乗り越えてのこの「快挙」。脱帽せざるを得ません。

アスリート、アーティスト、クリエイターといった人たちの中には一流のエキスパートが存在しますが、それは極限られた方々なのでしょう。
プロフェッショナルはそこそこいるかもしれませんが、エキスパートは本当に少数です。
そうした方々を目の当たりにすると、その才能、いわば天賦の才に打ちのめされる想いすらします。
それらは生まれつき天から与えられた才能なのではないかと考えると、そうしたものを与えられなかった己のありように愕然としてしまいますね。

しかし、才能とは何か、と考えてみると、もちろん生まれながらの鋭い感受性とか身体能力とか場合によっては遺伝形質なども重要なのかもしれませんが、本質的なところは、池江選手の言葉にもあるように、本当に苦しい中でも心が折れることなく忍耐しあらん限りの努力を重ねることができる、ということではないでしょうか。
これは、言葉に出していうことは比較的優しいのですが、実行に移すことは並大抵の覚悟ではできません。
まず、明確な目標を定めることさえも、私のような凡人には至難の業です。

思い出したことがあります。

これはベトナム戦争当時、ハノイ取材のためビエンチャンのホテルで、松本清張さんとともに待機していた当時の朝日新聞編集委員の森本哲郎さんの話ですが、ハノイに入るのに都合3週間も待たされ退屈で退屈で「死ぬほど身を持て余し」ていました。
それはもちろん清張さんも一緒で、隣り合ったホテルの部屋で二人とも無聊を囲っていたのです。
清張さんの無聊を慮った森本さんは、ホテルのレターペーパーを使って原稿用紙を作ることを提案し、お二人は時間も忘れてその作業に取り掛かりました。
清張さんにとって原稿を書くことは最大の退屈撃退法、出来上がった大量の原稿用紙を手に、清張さんはいそいそと自分の部屋に戻ろうとしたのですが、その時、ドアのノブに手をかけながら森本さんに問いかけたとのこと。

「きみ、作家の条件ってなんだと思う?」

森本さんは「才能でしょう」と答えます。

すると、
「ちがう、原稿用紙を置いた机の前に、どれくらい長く座っていられるかというその忍耐力さ」
と清張さんは答えました。

それ以降、幾日も清張さんは森本さんの部屋を訪ねることはなく、自分の部屋の机で執筆をつづけていた。

「才能ではなく忍耐だ」といった清張さんの言葉を思い返しながら、待てよ、その「忍耐」こそ「才能」ではないのか、と、森本さんは初めて気づいたそうです。

池江さんのニュースに接し、私はそのことを思い返して、ちょっと感動を新たにしたのでした。

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Cecilia

私もスポーツが苦手なこともあり、その世界のことはさっぱりわかりません。池江選手、体をもとに戻すのは本当に大変だったのでしょうね。
白血病と言えば私の大好きなホセ・カレーラスもかかった病気です。
若く元気なころの歌声を聴くと、この病気がいかに恐ろしいものか思い知らされます。

>「才能ではなく忍耐だ」
>「忍耐」こそ「才能」

凡人の私でも自分の生き方を考えるうえで考えさせられる言葉です。
凡人だからこそこの言葉が重要に思います。
若いころ、こんな言葉を聞きました。
「続けることが才能」
by Cecilia (2021-04-06 05:36) 

夏炉冬扇

精神の才能もある方ですね。
金印は志賀島発見の国宝のものです。
本はアマゾンで買えると思います。
by 夏炉冬扇 (2021-04-06 07:43) 

Jetstream

まず、池江選手の復活には感動、素直に喜びたいと思います。また、ハノイでの松本清張の話も興味深いです。本当に才能の高い方、勉強しなくても、練習しなくても出来る方はいるかもしれませんが、ドラマを生むのは忍耐、底から這いあがる努力そしてチャレンジだと感じました。
by Jetstream (2021-04-06 10:11) 

のら人

自分自身に対する忍耐や我慢には人により差はありますが、一流になれば記事の様な一流の方々が生まれるのでしょう。
我々市井の一般人にとってはより身近な、他人に対する忍耐や我慢が如何ほど可能か?が問題視されることが多いかと思います。
身近な例として「キレる老人」。これだけにはなりたくありませんね。(笑)
by のら人 (2021-04-06 19:43) 

伊閣蝶

Ceciliaさん、こんばんは。
白血病は、その性質によって寛解するものと厳しいものがあるようです。

「続けることが才能」
これは本当にそうだと思います。
それができない私はいつまでも足踏み状態です。

by 伊閣蝶 (2021-04-06 21:09) 

伊閣蝶

夏炉冬扇さん、こんばんは。
仰る通り、この金印は国宝級と思います。
本も機会を見つけて読んでみたいと思います。
by 伊閣蝶 (2021-04-06 21:11) 

伊閣蝶

Jetstreamさん、こんばんは。
松本清張さんと森本哲郎のお話、私もこれには大変感銘を受けました。
勉強しなくても練習しなくてもできる方、私はきっと何らかの形でそれを補完する努力をされていると思います。
小説やドラマを生み出す力は、おそらく場数もものをいうのでしょう。
それを救い上げる力もまた、です。
by 伊閣蝶 (2021-04-06 21:14) 

伊閣蝶

のら人さん、こんばんは。
なるほど、確かに、他人に対する忍耐や我慢こそが、社会生活を営む上では重要なファクターとなりそうです。
「キレる老人」、時折見かけます。
何かきっと、自分を抑えるすべを持たないのでしょうね。不自由なことと思います。
by 伊閣蝶 (2021-04-06 21:18) 

tochimochi

実は私もスポーツが苦手です。でも学生時代はカナヅチを克服しようと水泳部に入りました。個人競技ならマイペースでできることも選んだ理由です。そのせいもあって池江さんの闘病には陰ながら応援していました。15kgも落ちた筋肉からの復活には本当に感動しました。
天賦の才に恵まれた事もありますが、やはり努力は裏切らないと言う事を実感しました。忍耐も才能というのは同感です。
by tochimochi (2021-04-07 20:07) 

伊閣蝶

tochimotiさん、こんにちは。
学生時代は水泳部に所属さておられたのですね。
私もカナヅチで、沢登りの時の短距離の泳ぎくらいしかできないので、それを克服するために水泳部に所属されたtochimotiさんの意気に感動です。
努力を続ける忍耐力もやはり天賦の才なのでしょう。
by 伊閣蝶 (2021-04-10 15:35) 

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