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赤ちゃん本部長 [日記]

週末になると春の嵐が吹き荒れる中でも、まだ頑張って花をつけている桜の木もありました。
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テレビ番組を話題するのもどうかなと思いましたが、ちょっと感動してしまったのでご紹介いたします。

赤ちゃん本部長

日曜日の晩(3月29日24時40分)、何とはなしにテレビをつけていたら、このアニメが始まりました。
一話5分ずつで、トータル40分の番組です。

寝る前にちょっとだけ、と思っていたのですが、ついつい引き込まれてみてしまいました。
おそらくどこかのタイミングで再放送されるとは思いますが、NHKプラスで視聴できるので、ご興味がおありの方はぜひともとおすすめします。

このアニメの原作は、竹内佐千子さんのコミックです。
47歳の武田本部長が、ある日突然赤ちゃん(生後8ヶ月くらい)になってしまう、という一見荒唐無稽なお話ですが、中身がおじさんの赤ちゃん目線で世の中のありようをみる、という面白い設定です。

この物語の一つの肝は、赤ちゃんになってしまった本部長を職場の人たちがきちんと受け入れサポートする、というところ。
しかも、本部長のお世話(ベビー用品の調達、食事の世話、おむつなど排せつの世話、外回りや会議などのサポートなどなど)を、職場の男性の部下が自発的に(困惑しつつも愛情を持ち面白がって)行っている。
おそらく、女性社員がこれらを担当したとすれば、なんだかありきたりのジェンダー決めつけ的絵面になってしまったことでしょう。
赤ちゃんの世話は女性(母親など)がするもの、という決めつけを軽々と超えているのは、天野課長や西浦君のように、そもそもそうした決めつけからフリーであるパーソナリティの存在もさることながら、「中身が本部長」という設定によるところも大きいのかもしれません。
武田本部長は部下思いで愛社精神にも満ち、人間的にも優れているという設定です。
そうした前提があったので、少なくとも私にはまったく違和感がなく、自然に受け入れられました。

短いながらもそれぞれの回に唸らせるテーマがあって、いわゆる一般常識的なものが果たして本当に常識なのか、と考えさせられます。
「結婚しなくてさみしくないですか?」と西浦に問われた天野課長が「結婚も恋愛も無理にする方が何倍もさみしい。自分の生き方を模索しているうちにこういう形になった。それをお前にさみしい形だと思われていることの方がさみしい」と返し、自身が同性のパートナーとともに暮らしていて女の子(1歳半)を育ている西浦は、ハッと胸を突かれて謝るシーン、などは私も心を打たれました。

また、旧態依然とした価値観にとらわれている橘部長(55歳)をめぐる回なども非常に興味深いものがありました。
西浦君が同性愛者であり、しかもパートナーと一緒に女の子を育てていることに対して、「悪いことだ」「そんな家庭に育った子は不幸だ」「子供は父親と母親がいてその中で育つのが一番幸せなんだ」と橘部長は赤ちゃん本部長に訴えかけますが、それに対して本部長は「もしもその子たちの家庭が幸せになれないとしたら、橘さんのような考え方の人がいるせいでしょうね」と答えます。
橘部長は絶句。
しかし実は、橘部長は息子から「ゲイだ」と告白され途方に暮れていたのでした。自分の価値観を押し付けていたのではないかと。
そこから橘部長は変わろうと努力を始めます。

こんな感じで、さりげなく世の中の不自由な部分に光を当てて考えさせてくれる。
こういう良質なコミックやアニメもあるのだなと、またまた瞠目させられました。

私などもそうした部分が残っているのではないかと反省させられるのですが、一昔前は常識だと思われていたものが覆されていくとき(例えば、五輪招致委員会の森前会長に関する顛末とか、同じく五輪開会式演出を任されていた佐々木氏の顛末など)生きづらい世の中になった、などとため息をつくおやじの姿を時折見かけます。
しかしそれは、そうしたおやじたちの思い込みの中で、声を上げることができずにそれこそ生きづらい思いをしていた人たちの言葉や主張にようやく光が当たり始めた、ということでもあるのでしょう。
少なくともこうして点に関しては、世の中は良い方向に進んでいるのではないかと私は思います。
そんな「気づき」も味わわせてくれたアニメでした。

エンディングテーマであるヒャダインの「また明日逢いましょう」も非常に良い曲で、「生きているだけでいいじゃないの また明日逢いましょう」という最後のフレーズには心が躍りました。



タグ:赤ちゃん
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夏炉冬扇

お休みの時間がもびっくりの遅さですね。お元気・
私なぞとうに寝ている時間です。
by 夏炉冬扇 (2021-04-01 07:05) 

tochimochi

考えさせられるアニメですね。
名探偵コナンを連想してしまいました。
常識や価値観が変わっても柔軟に受け入れていくのは難しくなりました。それにしても今の政権の融通の利かなさには呆れてしまいます。保身のためとはいえ、国民の思いをくみ取って欲しいです。

by tochimochi (2021-04-01 20:40) 

伊閣蝶

夏炉冬扇さん、こんばんは。
この日はたまたま遅くまで起きていてしまいました。
通常であれば、23時には床に就いているのですが。
by 伊閣蝶 (2021-04-01 22:04) 

伊閣蝶

tochimotiさん、こんばんは。
そういえば江戸川コナンも同じようなシチュエーションでしたね。
子供目線から大人社会を見た時の世界を考えさせられます。
このアニメでは赤ちゃんなのでなおのこと大きなギャップがあって興味深く思いました。
今の政権の中枢は、頭の固い老人が跋扈しているので、彼らにこそ観てもらいたいと思いました。

by 伊閣蝶 (2021-04-01 22:11) 

のら人

なかなか面白そうなシナリオですね。
テレビを持たない自分は見る事は無いと思いますが、しかしこのアニメを見てからの伊閣蝶さんの感想が素晴らしいと思いました。^^
by のら人 (2021-04-02 18:55) 

Cecilia

面白そうなアニメ(コミック)ですね。
私が見て面白いと感じている映画やドラマの原作がコミックであることが多く、興味深いです。
同性愛関連だと「きのう何食べた」が面白かったのですが、今まで知らなかった問題点(老後のための貯蓄とか)がいろいろ出てきて考えさせられました。
by Cecilia (2021-04-03 08:27) 

伊閣蝶

のら人さん、こんにちは。
ありがとうございます。
現在50歳以上の男性は、昭和を「おおらか」で「開放的」な良い時代だったとしばしば振り返るきらいがあるようです。
しかし私はかなりゆがんだ価値観のもとにあったと考えます。
殊に、ジェンダーやLGBTQの視点からいえば、とんでもなく差別的な決めつけが跋扈していました。
人の価値観はそれぞれに違うもの、ということを互いに認め合い尊重しあうこと。
それこそがこれから求められるものなのではないかと、改めて思います。
by 伊閣蝶 (2021-04-03 10:10) 

伊閣蝶

Ceciliaさん、こんにちは。
「きのう何食べた」は、私もドラマで観ました。
料理を中心にしているというコンセプトも面白く、主演の二人の性格を丹念に描き分けていましたね。
仰る通り、同性のカップルに関しては、ようやく社会的認知も進んできているものの、社会の仕組み中で言えばまだまだかなり不自由で不安定なところが多いと思います。
世の中で、不自由な暮らしを余儀なくされている人たちの不自由さが少しでも良い方向に向かうことは、結局のところすべての人の幸福につながるのではないかと、私は信じますが。
by 伊閣蝶 (2021-04-03 10:17) 

Jetstream

ジェンダーの問題に関わらず、価値観と多様性には考えさせられます。私なんかは異性が結びつくのが自然という古い考えからなかなか抜け出せませんが、そもそもその根拠が何なのか自分でも説明がつきません。生涯一人で過ごされる方、結婚しても子供なし(我が家も)という方も多く根拠が意味を成しません。特にコロナ禍下で世代間、立場の違いが「多様性」を「分断化」してしまって価値観を歪めてしまっているのではないのかと、むしろネガティブに感ずる部分も存在します。自分の立ち位置や損得勘定ではなく、「普遍的な価値」は何なのかという観点で向き合うことが社会の公平性と存続に必要なのかなと。
by Jetstream (2021-04-03 15:14) 

伊閣蝶

Jetstreamさん、こんにちは。
生理的な面だけでいえば、私自身はヘテロセクシャルだろうと思っておりますが、恋愛とは別の意味で同性にももちろん好もしい感情を抱くことはあります。
異性だけが恋愛の対象というとき、その異性というのは生物学的なものなのかジェンダーなのか、という点ももしかしたら不明確なのかもしれません。
百人いれば百の個性が存在する、ということが基本なのでしょう。
恐らく全く同じ価値観を持つ人は存在しえないわけで、自分と違う思想や価値観を持つ他者を理解する(決して同調を目的とするものではなく)ことが始まりなのかなとも思います。
by 伊閣蝶 (2021-04-04 10:30) 

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