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アバド&ルツェルン祝祭管によるブルックナー交響曲第9番 [音楽]

不安定なお天気が続きます。
夏休みを取って山に行き、リフレッシュしよう、などと企てていたのですが、連日の雨で山に行くことはかなわず、ボルダリングや里山ウォーキングなどにせっかくの休日を費やしてしまいました。
尤もそのおかげで、津から戻ってきた折の荷物や書類などの整理がある程度できたことは勿怪の幸いでしたが。

このブログも久しく更新しておらず、誠に情けない限りです。
書きたいことは結構あるのですが、頭の中で文章にまとめているうちに、「わざわざブログに記事としてアップするようなことでもない」などと思ってしまうのでした。
その意味でいけば、これまでも「アップするほどのこともない」記事ばかりアップしていたので、単にモチベーションの不足ということであったのかもしれませんが。
津にいた折には、多忙ながらも充実した日々を過ごしておりましたので、日常の小さな出来事でも、それなりに感動しながら発信しようという気持を持つことが出来たようにも思います。
現在の職場では、公私ともに余裕のある生活をしておりますので、いろいろ考えたり、それを記事にまとめたりする時間も作れそうなものですが、なぜか全く気持が乗ってこないのです。
これは啻にブログに限ったものではなく、本を読んだり音楽を聴いたりという方面でもさっぱり。
こんなことを書くと誤解されそうですが、津では単身でありましたから、多忙ではあっても余暇は自分の好きなように過ごすことが出来、それ故の充実感もあったのはないかと思います。
横浜に戻ってきて、何となく日々の生活に追われているような気もしており、その意味でも余裕を失っているのかもしれませんね。

そんな状況の中なので、通勤の際にも音楽を聴くということが煩わしく思われたこともありました。
それでもやはり音楽は心の支えの一つです。繰り返し聴いているのはブルックナーの交響曲第9番。
それも、ラトル&BPOによる全曲補筆完成版です。
ヴァントやチェリビダッケやレーグナーやシューリヒトや朝比奈隆といった「定番」の名演奏に比べて、ある意味では素直な気持で音の響きに身を任せることができる上、フィナーレが存在することによって、第3楽章のアダージョを経過楽章として聴けることも、「気楽」に聴ける要因なのかもしれません。

その、ブルックナーの交響曲第9番で、クラウディオ・アバド&ルツェルン祝祭管弦楽団による2013年8月のライブ演奏CDが発売されました。


クラウディオ・アバドさんは今年の1月に逝去されました
昨年の10月に予定されていた来日も、健康上の理由からキャンセルされてしまい、東日本大震災の被災地慰問という目的もあったことから、ご本人も大変残念がっておられたとのこと。
結果として、このルツェルン音楽祭における演奏が、アバドさんの白鳥の歌となったわけです。
体調の面でも相当に厳しいものがあったと思われるのですが、紡ぎだされる響きはあくまでも透明で美しく、生に向けての力強ささえ感じさせます。
ルツェルン祝祭管弦楽団は、アバドさんが正に手塩にかけて育て上げたともいえるオーケストラで、この演奏を聴いていると、アバドさんとメンバーの間の極めて強固な紐帯に想いを馳せてしまいました。

特に印象深かったのは木管楽器の美しさです。
ブルックナーの曲というと、金管楽器の分厚い和音や中音域の音の充実感が真っ先に思い起こされますが、随所で奏でられる木管楽器の旋律は誠に心にしみいるものがあります。
第1楽章の503小節。コーダになだれ込む直前のホルンのソロ。
この部分に指定してあるディミヌエンドをアバドさんは非常に繊細に表現しておりました。
それはそのあとに続く、木管楽器の悲しいまでに美しい経過句を際立たせるための心遣いなのでしょうか。この経過句の木管の和音の素晴らしさは特筆ものと思います。

ブルックナーの自筆譜は、速度や強弱など曲の表情に関する記述など大変几帳面に記載されています。
その中から、ブルックナーの意図した音の響きを紡ぎだせるかどうかは、指揮者の感性に大いに左右されるところでしょう。
この曲に余計な味付けはいらない、楽譜に示された音を一音一音丁寧に表現し響きを作っていくだけでいいのだ、そんなふうにアバドさんは考えたのではないか、そう思わせるような透徹した演奏です。

ヴァントやチェリビダッケの持つ、ある意味での「体臭」のようなものはどこにもなく、透明な音の響きがそこにあるだけ、という気もしています。
そこには純粋にブルックナーの音楽だけが響いており、指揮者やオーケストラの存在さえ忘れてしまいそうになる。
その意味では、物足りないと感ずる人もおられるかもしれません。
事実、第3楽章155小節の弦による和音などは、シューリヒト&ウィーン・フィルのような馥郁たる響きには届いていないようにも思われました。
しかし、この演奏は間違いなくブルックナーの交響曲の一つの表現の極地であり、多くのリスナーに語りかけ続ける力を有しているものと信じます。

第3楽章225小節の「パルシファルのこだま」からコーダにかけ、237小節のホルンの旋律(交響曲第7番冒頭の旋律の回顧)が響き渡る中、何ともいえない平安を感じさせつつ締めくくられ、このところ湿りがちであった私の心に温かな光を投げかけてくれたのでした。


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九子

伊閣蝶さんは本当にクラシック音楽がお好きで、幅広い演奏を聴いていらっしゃるのですね。あれもいい、これもいいではなくて、きっちりとご自分の好みもしっかりとおありで、凄く良い耳をお持ちなのだと思いました。

>書きたいことは結構あるのですが、頭の中で文章にまとめているうちに、「わざわざブログに記事としてアップするようなことでもない」などと思ってしまうのでした。

この気持ち、私もわかります。お休みが多いので、一ヵ月後に更新しようと思うとなんだか書くほどのことでもない気がして・・。

でも、伊閣蝶さんの綴られる物は、知識がたくさん詰まっているし、世界を広げてくれますから、どうぞこれからも存分に御書き下さい。
楽しみにしています。( ^-^)
by 九子 (2014-09-08 21:47) 

tochimochi

今年の夏は不完全燃焼の方が多かったでしょうね。
私もそうでした。
いつもこまめにアップされる伊閣蝶さんがどうされたのかと思っていましたが、「わざわざブログに記事としてアップするようなことでもない」とはとんでもないです。
クラシックに関しても門外漢の私でも充実した内容に敬服しております。
by tochimochi (2014-09-08 22:49) 

伊閣蝶

九子さん、こんばんは。
いえいえ、結構節操がなくて「あれもいいこれもいい」派かもしれません(^^;
ただ、お金と時間がないので何でも買うわけにはいきませんが。

九子さんは、心の中でじっくりと話題を醸成させておられるのだろうなと感じおります。
だから、九子さんの記事はとても楽しみです。
私の方こそ楽しみにいたしておりますので、これからも健筆をお願い致します。

by 伊閣蝶 (2014-09-08 23:45) 

伊閣蝶

tochimochiさん、こんばんは。
仰る通り、私も完全な不完全燃焼です(変な言い回しですね)。
リアルな活動が不活発になると、とたんにブログなどの仮想空間の活動も影響を受けてしまうようで、何とも情けない限りです。
温かなお言葉、本当にありがとうございます。
もう少し頑張りたいと想います。
by 伊閣蝶 (2014-09-08 23:48) 

Cecilia

ブログに対するお気持ちとてもよくわかります。
私も書きたいことはたくさんあるのですが、どうしても書きたいことで記事にできない事情があることもあるし、自分の日常をいちいち書くほどのこともないだろうと思うことも多く、なかなかブログが書けないです。今は家族がPCをよく使っているという事情もあるのですが。
伊閣蝶さんのブログはよく練り上げた文章といい、深い内容といい、私が目標としたいものです。
私の場合はリアルが充実するとブログを書く暇がなくなり、充実していない時にブログ活動が活発であった、という感じでしょうか。
by Cecilia (2014-09-09 13:34) 

夏炉冬扇

浄瑠璃、ととさんの名は~の後段でした。
by 夏炉冬扇 (2014-09-09 18:50) 

伊閣蝶

Ceciliaさん、こんばんは。
事情がおありになって記事に書けないというお話、以前お伺いし、なるほどそういうこともあるなと思いました。
私の場合はそこまでのことはありませんが、日常のことをわざわざ書く気にもなりません。
でも、リアルが充実するとブログに割くお時間がなくなるというのは、それだけリアルが重要な位置を占めているということで、とても羨ましく思いました。

by 伊閣蝶 (2014-09-10 22:40) 

伊閣蝶

夏炉冬扇さん、こんばんは。
すみません、どの曲であるのか、ご例示ではわかりませんでした。
ありがとうございました。
by 伊閣蝶 (2014-09-10 22:42) 

サンフランシスコ人

(シカゴで)アバド/シカゴ響の演奏会に一度だけ行きました...

by サンフランシスコ人 (2016-02-03 07:50) 

伊閣蝶

サンフランシスコ人さん、おはようございます。
コメント、ありがとうございます。
アバドさんが亡くなってもう2年が過ぎました。
シカゴ響との実演、どれほど素晴らしかったことかと、しみじみ思い返しております。

by 伊閣蝶 (2016-02-04 07:21) 

サンフランシスコ人

シカゴ響の演奏会

アバド
五嶋みどり

チャイコフスキー
ヴァイオリン協奏曲
交響曲第4番
by サンフランシスコ人 (2016-02-06 08:23) 

伊閣蝶

サンフランシスコ人さん、こんにちは。
アバドと五嶋みどりのペアによるチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲は、ベルリンフィルとのものがCD化されておりますね。
大変息のあったコンビですから、当夜の演奏も素晴らしいものであったことでしょう。

by 伊閣蝶 (2016-02-07 11:40) 

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