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ビクトル・エリセ監督「EL SUR(エル・スール)」 [映画]

今日は一段と冷え込んできました。
私はスーツだけで出勤しましたが、コートを着たり手袋やマフラーをしている人がかなり多くなってきているようです。
しかし、空気が張り詰めたように澄んでいて、実に気持ちの良い朝でした。

先日ここで、ビクトル・エリセ監督の「ミツバチのささやき」について取り上げましたが、なんと、NHKのBSプレミアムで、明日(23日)13時から放映されるのだそうです!

さらに、長編第二作の「エル・スール」も明後日(24日)13時から放映!

何と素晴らしいことでしょう!

そんなわけで、「ミツバチのささやき」以来ちょっと途絶えていた映画の話題で、急遽、このことをご紹介しようと思い立ちました。
実は「エル・スール」を次に取り上げる題材にしようかなと、密かに考えていたのですが、明後日にはもう放映されるのですから余計なことは書かないことにします。
どうか、是非ともご覧ください。
以前にも書きましたように私はこれらの作品のLDを所持していますが、もちろん今回の放送は録画するつもりです。

以下は基本的なデータの一部です。
公開年等 1983年スペイン ELSUR
製作 ELIAS QUEREJETA
原作 Adelaida Garc´ia Morales
監督 VICTOR ERICE
脚本 VICTOR ERICE
撮影 JOSE LUIS ALCAINE
音楽 ラヴェル、シューベルト、グラナドスほか
美術 ANTONIO BELIZON
録音 BERNARDO FCO. MENZ
出演 OMERO ANTONUTTI、SONSOLES ARANGUREN、ICIAR BOLLAN、LOLA CARDONA


「ミツバチのささやき」と同様に、この映画でも、スペイン内戦が物語の背景として重要な位置づけになっています。
オメロ・アントヌッティが演ずる父親のアグスティンが共和国派(左派)であり、その父親(娘・エストレリャの祖父)がフランコ反乱軍(右派)を支持するという、当時のスペインにしばしば見られた肉親の間での骨肉の争いが、画面の中で印象的に処理されていました。
自分の初聖体拝受のお祝いに、父親のアグスティンは恐らく来ないだろう(フランコ側の支持者が富裕層のカトリック信者であり、故にそのカトリックの行事である初聖体拝受に出ること自体、左派にとっては忌避すべきことだから)と思っていたエストレリャですが、父は来てくれます。
そして、二人で踊る「パソ・ドブレ」。このシーンは胸に迫って思わず涙があふれました。
そして、父親と娘の最後の別れの時のホテルのシーンで、同じ「エン・エル・ムンド」がオーケストラの演奏で流れてきます(隣のサロンで新婚を祝うパーティが開催されていて、そこから聴こえてくる)。この何とも心憎い演出が最高ですね。
この映画でエリセは、音楽効果を既成曲のみで構成していますが、本当にこの監督は映画における音楽の重要性を熟知しているなと唸ってしまいました。

アグスティンとエストレリャの二人で水脈を探すシーン。振り子を手に持ったアグスティンの後ろ手にエストレリャがコインを一枚ずつ置いていきます。
振り子の動きが定まって水脈の位置が分かった後、アグスティンがエストレリャに向かってコインを投げる、それをエストレリャがスカートで受ける。
この、映画の文法として一つの型になっている感のあるシーンが、人気のない野原に二人だけで演じられていることによって、すばらしい奥行と一種のサスペンスを感じさせてくれます。

それから、8歳の少女エストレリャ(ソンソレス・アラングーレン)が自転車に乗って木立の中の道を去っていき、同じ道をまた戻ってくると15歳の娘エストレリャ(イシアル・ボリャン)に成長しているシーンの時間経過の描き方も実に見事に映画的でした。

そして、あのブランコの表現。ブランコを漕ぐ音とさりげなく見せる紐の切れたブランコから、私たちは多くのことを知らされます。

書きたいことは山ほどありますが、何しろ明後日放映されるのですから、余計なことを書くのはもうこれで終わりにしたいと思います。
何れにいたしましても、演出・カメラ・美術・音響効果・脚本・録音・照明、どれをとっても、私にとって最高レベルの映画の一つと申し上げたい。
今、この文章を、全く記憶に頼って書いているのですが、それでもいくつかのシーンは眼交にありありと浮かんできます。
しかし、それらは決して奇をてらったものではなく、むしろ極めてつつましやかに表現されていて、それゆえにこそエリセの意図を雄弁に物語っているということになるのでしょう。
誠に以て奇跡的なほどに傑出した映像作品だと、私は思っています。

この映画の題名である「エル・スール」。
「南」なのに、最後まで南の情景は出てきません。風見のカモメはいつも「南」を指しているのですが…。
エストレリャの乳母ミラグロス、これは「ミツバチのささやき」でも出てきた役名ですが、これはスペイン語で「奇跡」という意味です。それから、「エン・エル・ムンド」が南の音楽であることも重要な要素といえるのかもしれません。それが、父と娘の最後の別れのシーンで流れることにも、私は胸を突かれました。

そして、エストレリャが、その「エル・スール」を目指して旅立つことを暗示して、この映画は閉じられます。



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コメント 6

夏炉冬扇

お早うございます。
映画、もう久しく観ません。脳みそ軟化!
by 夏炉冬扇 (2011-11-23 05:00) 

hirochiki

「エル・スール」も大変素晴らしい映画のようですね。
24日は仕事なので、是非ともDVDに録画してもらおうと思います。
この記事に書かれていることを心に留めながら見てみたいです。
それにしても、ここまで詳細に映画の内容を記憶されている伊閣蝶さんには、
いつもながら脱帽です!
by hirochiki (2011-11-23 06:20) 

伊閣蝶

夏炉冬扇さん、あはようございます。
私も、近頃は映画をなかなか観に出かけることがなくなりました。
どうしても劇場で観たい!という作品に出会わなくなったからかもしれません。
by 伊閣蝶 (2011-11-23 09:02) 

伊閣蝶

hirochikiさん、おはようございます。
自分の好みを押し付けるようで恐縮ですが、「ミツバチのささやき」も「エル・スール」も、本当に映画らしい映画だと思います。
抑えた表現の中に、エリセの伝いたいものがひしひしと胸に迫って来るような。
だからきっと細部まで覚えているのでしょうね(^^;
これがもっと仕事に生かせれば良いのですが(>_<)

by 伊閣蝶 (2011-11-23 09:06) 

Cecilia

"EL SUR"もなかなか良さそうな映画ですね。
BSを見ることができないのですが、「ミツバチのささやき」と共に観てみたい映画になりました。
by Cecilia (2011-11-24 08:49) 

伊閣蝶

Ceciliaさん、こんにちは。
Ceciliaさんも、映画の音楽に対して、大変ピュアで鋭い感覚をお持ちとお見受けしますので、この二つの映画はお勧めです。
音楽によって映像が生き生きと動き出す、という映画表現上の相乗効果が感得されるのではないでしょうか。
もしも、機会がございましたら、是非ともご覧ください。

by 伊閣蝶 (2011-11-24 12:11) 

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