SSブログ

チャイコフスキーの「マンフレッド交響曲」 [音楽]

こんな経験はないでしょうか。
学校の音楽の教科書に載っている音楽家の作品一覧を眺めているうちに、それがどういう類の曲なのか全く分からないままに興味を抱いて、勝手な妄想に耽る…。
私が高校生の頃に配られた音楽の副読本では、曲ごとにほんの数小節だが楽譜が載っていたりしたので、ますます興味の念をかきたてられたものでした。
バッハのマタイ受難曲に興味を覚え、バイトをしてまでもレコードを買おうと思ったきっかけも、その副読本に書かれた旋律(導入合唱)があまりに美しかったからに他なりません。

チャイコフスキーのマンフレッド交響曲に興味を覚えたのも、そんな背景からです。
バイロンの書いた劇詩「マンフレッド」を元に作られた標題交響曲。ファウストに強く影響を受けたとされるその悲劇的な内容から、勝手に曲のイメージを作り上げ、それまでに聴いていたチャイコフスキーの交響曲以上に劇的な内容だろうと、一人で盛り上がり、レコード店に行って「イーゴル・マルケビッチ指揮ロンドン交響楽団盤」を購入。
予想を違わぬ美しさに酔いしれたものでした。
嬉しくなって、当時所属していた吹奏楽クラブの後輩にその話しをしたところ、「先輩、マンフレッドなら飛び切りの演奏がありますぜ」などと生意気なことを言います。
早速、彼の家に赴き聴いたのが、ロジェストヴェンスキー指揮モスクワ放送交響楽団盤だったのでした。
1972年録音で、それこそ録音仕立てのほやほや。
ビブラートを思いっきり効かせた金管の咆哮や強烈なパーカッションにも度肝抜かれたのですが、最終楽章に鳴り響くパイプオルガンの恐るべき響きには全身の毛穴が開く想いがしました。
マルケビッチの演奏は誠に端正で一糸の乱れもない完璧なものでありましたが、このロジェストヴェンスキーの演奏を聴いた後ではあまりにも物足りない。
特に最終楽章のオルガン。マルケビッチでは可動式の小型オルガンを用いていたため、そのスケールのあまりの違いにため息をつくしかなかったのです。
そんなわけで、またまた乏しい小遣いをはたき、このレコードを購入。ついでに、息子マキシム指揮のショスタコーヴィッチ5番も衝動買いしてしまったのでした(^^;
青臭い高校二年生の頃のことです。

さて、そのロジェストヴェンスキー盤のマンフレッド。なかなかCD化されず、機会を逸してしまってからは、オークションで法外な値段がついていたりして、ますます郷愁の念やみ難いものがありました。
ロジェストヴェンスキー、マンフレッド交響曲それが、昨年の9月、めでたくロシアのVeneziaから再販されたのです\(^o^)/
ついで、品薄だったトスカニーニ盤も追加で販売されていたため、この際とばかりに併せて購入したというわけです。
早く買わないと、またまた廃盤の憂き目に遭いそうでしたから(残念ながら予想は当たり、現在はかなり入手が困難になっているようです)。

正直にいって、あれから40年近くが経つ今の自分の感性からすれば、むしろマルケビッチの端正な表現の方に惹かれてしまうかもしれないと、ずっと思っておりました。
しかし、久しぶりに聴き返し、やっぱりこちらの方が心に響いてきます。
ロジェストヴェンスキーのマンフレッドを聴いて、「何という下品なチャイコフスキーだ!」と評した評論家がいたそうですが(吉田秀和氏であったと記憶しています)、正しく宜なるかな、という感じですね。

ふん、下品で何が悪い!\(^o^)/

そういえば、チャイコフスキーでは数々の名演奏を残しているバーンスタインは、この曲のことを「屑」と評して、決して演奏しなかったそうです(^_^;
うーん、残念。
バーンスタインならきっと素晴らしい演奏を残してくれたことでしょうに。

この盤の嬉しいところは、何とチャイコフスキーの交響曲第5番と第6番もカップリングされていることです。
若き日のロジェストヴェンスキーのはちきれんばかりの情熱と爆演ぶりをたっぷりと堪能できること請け合いですよ。

ところで、名盤の誉れ高いトスカニーニ盤。
これはすごい!
アルチザンだのノイエザハリッヒカイトだのといった、勝手な決め付けを軽々と超越する恐るべき演奏であります。
モノラルですが、音質のクオリティも申し分ありません。
ただ、残念なことにかなりのカットが施されていました。この点は実に惜しいところですね。
それから、カップリングされている「ロミオとジュリエット」、これもすばらしい演奏です。
マンフレッドもそうですが、カンタービレの巧みさは、さすがにイタリアの指揮者!というところでしょうか。
それにつけても、NBC交響楽団の演奏精度の高さには舌を巻きます。
このCDに限らず、トスカニーニ+NBCの演奏が次々にデジタルリマスターでよみがえっていますが、いずれもとてつもないレベルに達した演奏だと思います。
こうした演奏を聴くと、オーケストラの性能みたいなところをどうしても意識してしまいますね。
それでも、トスカニーニはこのオケに対して不満があったということですから、全くなんという指揮者なんでしょうか(^_^;

nice!(1)  コメント(4)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 1

コメント 4

ムース

マンフレッドは隠れた名曲ですね。後期の有名な3曲よりも旋律が分かりやすいし、もっと初心者にも聴かれるべき曲ではないでしょうか。
トスカニーニ盤を愛聴していますが、ロジェヴェン盤も面白そうですね。
by ムース (2010-09-15 18:10) 

伊閣蝶

ムースさん、コメントありがとうございます。
仰る通り、私もマンフレッドは名曲だと思います。
明確な標題交響曲だという性格もありますが、情景がありありと目の当たりに浮かびますし、劇的ですから、中学生とか高校生には特にピュアに響くのではないでしょうか。
ロジェヴェン盤、もしも機会がございましたら、是非お聴きになってください。
トスカニーニとは違った「歌わせ方」が面白いと思いますよ。
by 伊閣蝶 (2010-09-15 18:47) 

cora

こんばんは。きょうも貴重なコメントを頂き、誠にありがとうございます。

な、なんだって、バーンスタインがマンフレッド交響曲を「屑」と呼んだ??
これはまた意外。最晩年にニューヨーク・フィルと録音した交響曲第4番-第6番は、学生時代の私でもついていけなかった。
「人格形成期に、彼のすべてに憧れて育った」半世紀若いファンでありながらも、あの最晩年のチャイコフスキーは“毒の塊”のようでした。
(それだけに、シューベルト「ザ・グレート」のコンセルトヘボウ盤は嬉しかった)

ロジェストヴェンスキー。とてつもない指揮者なのに、なかなかCDを入手できない、全く同感です。
by cora (2010-09-18 21:47) 

伊閣蝶

coraさん、コメントありがとうございます。

バーンスタイン最晩年のチャイコフスキーの4番、うーん、確かにあらゆる意味ですごい演奏でしたね。
私は既にいい歳をしたオヤジになっていたので、なるほど、こういう演奏もありか、と思いましたが(^^;

ロジェストヴェンスキー、そうなのですよ、なかなかCDが手に入らず、出た!と思ったらすぐに品薄、みたいな感じです。
このマンフレッドももう入手困難になっているようです。
by 伊閣蝶 (2010-09-18 23:11) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0