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カバレフスキー交響曲全集 [音楽]

金木犀の花が咲いています。
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この頃、香りに出会うことが多かったのですが、時期的にはまだ早いような気がしていたところ、近所の公園で花を見つけたのです。
お恥ずかしい話ですが、ここ数週間、ひざの痛みが酷く、長時間のウォーキングもままならない状況でした。
若いころから山やスキーなどで結構たくさん怪我をしてきたこともあり、どうやらその影響で足首とか股関節が変な風に固まっているようです。
その様な形でバランスが崩れ、それを補修するために膝への負担が増した結果、ということらしく、年齢を重ねるとともに顕在化してきたのでしょう。
仕方がないので、自宅ではラジオ体操と腹筋・腕立て伏せ、近所の公園では簡単なクライミングや懸垂などの運動をしております。
背景はがっかりするようなものですが、こうして金木犀の花に出会えたのはそのおかげかなと、気を取り直しているところです。

ドミトリー・カバレフスキー、20世紀のソ連における非常に著名な作曲家で、様々なジャンルの作品を数多く残し、また、青少年への音楽教育でも大変に功績のあった人ですが、教則本や子供のためのピアノ曲集のようなものの他は、例えば組曲「道化師」くらいが比較的知られているような状況です。
道化師の中の「ギャロップ」は運動会の音楽としてよく使われていましたから、恐らくお聞きになった方も多いものと思われます。

https://www.youtube.com/watch?v=BIkcSZFInaY

2001年と2001年にかけて、大植英次さんがNDRと共にカバレフスキーの交響曲全曲録音を行いました。
それが二枚組のCDとなって販売されています。

カバレフスキー:交響曲全集
CD1
・交響曲第1番 Op.18
・交響曲第2番 Op.19
CD2
・交響曲第3番 Op.22『レーニンのためのレクイエム』
・交響曲第4番 Op.54
 ハノーファー北ドイツ放送合唱団
 ハンガリー放送合唱団
 ハノーファー北ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団
 大植英次(指揮)

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カバレフスキー:交響曲全集
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大植さんはこれらの交響曲にかなりの思い入れがあったようで、時間をかけて研究し満を持して録音に取り組んだとのことです。
どの演奏からもその気迫のほどがうかがえ、実に充実した時間をもらえました。

第3番は、「レーニンのためのレクイエム」という副題が示す通り、レーニン没後10周年を記念して作曲されたもの。
死者の魂を慰撫するという本来的な鎮魂曲というよりも、歌詞に用いられた「ニコライ・アセーエフによる、レーニンの死を悼み、その遺志に従って前進しようと呼びかける詩」をもとにした力強さを感じさせるもので、合唱が入る第2楽章は三連符が堂々と響く行進曲風に仕上げられています。

第4番は唯一の4楽章制の交響曲で、序奏付きの第1楽章、緩徐楽章、スケルツォ、序奏付きソナタ形式の第4楽章と、オーソドックスな交響曲の形式を保っています。
大変聴きごたえのある曲で、第4楽章ではフーガも展開され、和声や対位法や管弦楽法に秀でたカバレフスキーならではの巧みさを味わわせてくれます。
ただし、第1楽章がかなり壮大な構えで作られているのにもかかわらず、第4楽章がなんとなく軽い印象で、失礼な言い方ですが「竜頭蛇尾」のような印象もうけてしまいました

第1番と第2番も、非常に耳に入りやすい曲で、ソ連における社会主義リアリズムとはこういうものなんだなと、変に納得させられました。
こういう曲は、戦中戦後時代の映画音楽によくありそうな感じで、そういえばカバレフスキーも多くの(映画音楽を含む)劇伴音楽や歌劇・オペレッタを作曲していましたね。

いずれにしても、19世紀後半から20世紀にかけて様々な形式の破壊や冒険を試みた当時の作曲家の行き方とは真っ向から対立する曲で、その意味では多くの一般的な聴衆には何らの葛藤も与えなかったのかもしれません。

これまで、お膝元のソ連=ロシアにおいてもメジャーな録音がなかったこと。
それは、そうした時代の中で先端走り切り開こうとしていた表現者=作曲家や指揮者やオケにとってあまりにも物足りないものであったからなのかもしれません。
ある意味では聴衆や観客を蔑視しているのではないか、という疑念も感じられたことでしょう。
同じく、社会主義リアリズムの作曲家の典型みたいに言われることのあるショスタコーヴィチの場合、あの第5番の交響曲でさえも、それを超える冒険が随所でなされており、それが息長く演奏会で取り上げられる要因になっているのだなと、改めて感じたところです。

なんだか貶めるようなことを書いてしまいましたが、カバレフスキーのこの交響曲全集は、自己模倣がはびこり新しいインスピレーションの閃きなどが見出しにくくなった21世紀の音楽の現状にある意味での警句を与えるものではないかとも考えます。
大植さんがどのようなお考えでこの全集録音に取り組まれたのか、日本語版のライナーノートなどが手元にありませんのでわからないのですが、様々に訴える力を持った熱演だと思います。

ご興味ある向きには力強くお勧めします。
少なくとも、運動会や子供のための音楽ばかりではないカバレフスキーの真骨頂のようなものを感ずることができると思われますので。


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