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ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の日本公演 [音楽]

真冬並みの寒さが続きます。
暦の上ではすでに冬を迎えてはいますが、11月はまだ晩秋という認識がありますから体の方はなかなかついていけません。
三十台までは「耐寒訓練」などとうそぶいて、半袖シャツに裸足で行動したりしていましたが、現在では冬物のコートを着込みマフラーや手袋までする始末。
往時を知っている先輩などからは、「君の印象は『冬でも半袖』だったのにいったいどうしたんだ?」と疑問を投げかけられますが、結局、体の経年劣化というか、基礎代謝などの基本的な機能が衰えているからなのでしょう。
「寄る年波」という言葉が俄かに真実味を帯びてきています。

このブログの更新もなかなか進みません。

11月初めの連休に八ヶ岳に行ってきたのですが、当初の予定であった地獄谷遡行が体調不良で叶わず普通の山歩きになってしまい、そんな内容のものをアップしても仕方がない、という気持ちになっています。
体調不良の要因は、以前発症してひどい目にあった大腸憩室炎の再発です。
ずっとお腹の張りがとれずにいたのですが、山に入れば気分も変わるだろうと決行。
深夜、川俣川の出合小屋付近に幕営をしたのですが、腹痛と張りでほとんど寝ることもできず、転進。
一般ルートを登るのさえも厳しい状況でした。
帰宅後、行きつけの総合病院で、血液検査・レントゲン・CTなどの検査を行い、やはり大腸憩室炎だったようですが、病気のヤマは越えていて、前のように入院・絶食・点滴治療とはならずに一安心。
お医者さんのお話では「自力で治したということでしょうね」とのことでした。11月1日・2日あたりが最悪であったようなので、その時に診察を受けていれば間違いなく「入院・絶食・点滴治療」になったと思います、といわれ冷や汗をかきました。
体調は最悪でしたが、3日はお天気も恵まれ、晩秋のカラマツやシラカバなどの紅葉が青空に映えて見事だったので、せめてその写真くらいはアップしようと思ったのですが、記事にまとめると愚痴になりそうなので断念したところです。

記事をまとめてブログなどにアップする。
ネット環境が飛躍的に進んだ現在、自分の書いた文章を外部に公表するためのハードルは飛躍的に下がりました。
以前であれば、私のような才能も筆力も教養もない凡人が公の場に何らかの文章を残そうと試みる場合、新聞や雑誌などへの投稿という手段が主でした(高校2年生の時、自分の書いた文章が初めて新聞に掲載されたのですが、その時の嬉しさは今でも忘れられません)。
メインサイトの「雑記」にも書きましたが、こうした投稿においては、当該媒体による審査を経て採用されるという一つのフィルターがあります。
他人が読むに耐えうるレベルの文章かどうか、その道のプロが判断してくれる。
採用されなかった時の悔しさはありますけれども、自分で判断するわけではないので気持ちの上では楽なのではないでしょうか。

しかし、個人のブログやサイトなど、ネット上に記事をアップする場合は、すべてが自己責任です。
自分の書いた文章に対する最も身近な批評家は自分自身だったりするので、これは果たしてアップするにふさわしい記事なのか内容なのかと、どうしても考え込んでしまう。
そのあたりの折り合いをつけるのはかなり難しく、畢竟、記事をまとめる算段が付かずに構想のみで終わってしまう、というのが、今の私の現実なのです。

のっけからくだらない繰り言を書いてしまいました。

気を取り直して、コンサート鑑賞のご報告を致します。

11月21日、サントリーホールでの、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(RCO)の日本公演です。
rco.jpg
指揮は、2016年にマリス・ヤンソンスの後をうけて首席指揮者となったダニエレ・ガッティ。
曲目は、ハイドンのチェロ協奏曲第1番ハ長調とマーラーの交響曲第4番ト長調です。
協奏曲で観客を引き付け交響曲で唸らせる、これで冒頭に序曲を持ってくれば、正しくオーソドックスな演奏会メニューとなりますね。
冗談はともかくとして、コンセルトヘボウは、前身のアムステルダム・コンセルトヘボウの頃からの大ファンで、1977年にハイティンクが率いて来日した時の演奏はいまだに感慨深く思い出すほどです。
所持しているレコードやCDの数も半端なものではなく、とりわけヨッフムとのコンビでの独墺ものは他の追随を許さぬものでした。
今回も、その芳醇かつ透明な響きに身を任せることができ、久方ぶりに至福の時間を過ごしたところです。

ハイドンのチェロ協奏曲第1番。
1961年にプラハで自筆譜が発見され、ハイドンの真筆とされる二つ目のチェロ協奏曲(それまでは第2番ニ長調のみ)となりました。
ハイドンのチェロ協奏曲といえばこの二曲を指しますが、この第1番の演奏機会の方が多いようですね。
ハイドン30代の頃の作品とされ、雰囲気的にはバロックの色合いを強く感じますが、両端楽章はソナタ形式をとっており、古典派音楽としての形式もきちんと整っております。
ハイドンの交響曲や協奏曲などの合奏曲の演奏は大変難しいことで知られています。
個々のパッセージが難しいということではなく、いかにアンサンブルを精緻に透明に響かせるかという合奏の基本的な部分において、いい加減な演奏をすると粗が見えて聞くに堪えないものとなり下がるからです。
その意味では弦楽四重奏曲など室内楽的な「お互いに聴き合う」アンサンブルの呼吸が必要不可欠で、欧州のオーケストラのように、団員たちが進んで室内楽に積極的に取り組んでいるメンバーによる演奏は、正に自家薬籠中の物といえましょう。
チェロ独奏のタチアナ・ヴァシリエワは、もともとロイヤル・コンセルトヘボウの首席奏者。楽団とのアンサンブルは申し分ない関係にあります。
この曲では管楽器が控えめに処理されており、弦楽合奏とチェロのアンサンブルが命とも云えますが、その弦楽合奏、ノンビブラートで誠に艶やかかつ精緻な響きを醸し出しておりました。
そのため、響きには一転の濁りも曇りもなく実にクリアで、まさにハイドンの目指す音の世界を紡ぎだします。
少人数のオケでなければこの時代のハイドンの曲の素晴らしさを表現できない。
しかし少人数であればあるほど、アンサンブルには僅かな乱れも許されません。
相手の音を聴いてから弾いては手遅れで、相手がどのように出てくるかを阿吽の呼吸で計る必要があります。
その見事すぎるほどの完成を、この演奏では見せつけられました。

演奏終了後、独奏者は何度もステージにアンコールで呼び戻されましたが、そのたびにチェロを抱えてきて、それを見ていた連れ合いが「大変だから置いてくればいいのに」と言いました。
私も同感だと考えていた矢先、彼女はおもむろに着席してバッハの無伴奏チェロ組曲を弾き始めたのです。
これまた素晴らしい演奏で、なんとも心憎いアンコールに胸を打たれた次第です。

休憩をはさんで、いよいよ本日のメインイベント。
マーラーの交響曲第4番です。
ソプラノ独唱が急遽交代するというアクシデントが出来しましたが、それをものともせず、これも素晴らしい演奏を聴かせてくれました。

以前にもこのブログで書きましたが、私はマーラーの曲の中では、この曲と第1番を聴く機会が極端に少ないのです。
両曲とも、マーラーの交響曲の中では演奏時間も短く小ぶりで親しみやすいのですが、どうも私がマーラーの曲に求めるところとは微妙に違っているのでした。
マーラーの音楽の中には、ある種の厳格さと野放図さがほとんど脈絡もないままに共存します。
典雅で優美な旋律と卑俗なメロディー、男性的で雄渾な主題が朗々とならされる反面、憂愁に満ちた耽美的な世界も展開される。
それらを自分の音楽鑑賞的な世界と渡りをつけるために、私にとってはあの長さが必要不可欠なのです。
もちろん、第1番も第4番も素晴らしい曲であることは間違いありません。
これは純然たる好みの問題なのでしょう。
因みに、この演奏を聴いた連れ合いの感想は、

「私はマーラーの音楽を誤解していた。マーラーって、陰気で辛気臭くって息苦しくなるような音楽だとばかり思っていたけれども、こんなに明るくわかりやすい曲も書いたのね」

というものでした。
実際、第1楽章の第1主題が流れ出てくると、そのウィーン風で軽快な旋律はまるでハイドンや初期のシューベルトを思わせるような響きに包まれます。
この曲を送り出した頃のマーラーは、ウィーン宮廷歌劇場の指揮者に引き続きウィーン・フィルの常任指揮者にも就任し、のちにマーラー夫人となるアルマ・シントラーとの愛を育んでいた時期にもあたりますから、全編に明るさや希望の光が満ちているのも当然のことでしょう。
連れ合いはその雰囲気を的確に察知したわけで、私としてはちょっとびっくり。
というのも、そもそもクラシック音楽を取り立てて愛好するわけでも興味を持っているわけでもなく、殊にブルックナーやマーラーといった長大な交響曲には辟易すると常日頃云っていた連れ合いの言葉なのですから、ほほう!と驚いたわけです。

それはともかく、この曲においてもRCOの精緻で透明なアンサンブルは最大の効果を上げておりました。
ハイドンのチェロ協奏曲で見せた完ぺきなアインザッツ。そしてボーイングの緻密なコントロール。
それらはオーケストラの規模が大きくなっても少しも変るところがありません。
オーケストラの規模が比較的小さなこの曲では、チューバやトロンボーンなどは配されておりませんが、時折印象的な低音が響きます。
それらは、例えばホルンとファゴット(コントラ・ファゴット)との音を重ねることによって表現されたりしますが、それを実演で目の当たりにする愉悦はたとえようもありません。
「少年の魔法の角笛」との関連もあって木管が数多く用いられていますが、オーボエやコールアングレやクラリネットのベルを客席に向けてまっすぐに音を飛ばしてくる光景も、また見ごたえがありました。

第4楽章のソプラノ独唱。
この曲が始まる前、指揮者の脇などにソプラノ歌手の席があるものと私は思い込んでいたのですが、そのようなスペースはなく、3楽章が終わった後に改めて入場するのかなと疑問に感じました。
すると独唱者は、出番の前(第3楽章の終わりあたり)に、舞台に向かって右側の袖から静かに歩み寄ってオケの最後部、ホルンの後ろ、ティンパニーの右に立ちました。
私は恥ずかしながら、この曲を実演で聴くのが初めてでしたから、この入場の仕方には驚くとともにある意味納得です。
先にも触れましたが、当初ソロを予定していたユリア・クライターは体調不良により降板し、急遽マリン・ビストレムに交代。
きちんと合わせられるのだろうかとの要らぬ心配をよそに、さすがはプロです、完ぺきに代役を務め、「天上の生活」を見事に歌い上げました。
彼女も、マーラーの第4番はレパートリーの一つにしているとのことですから、当然ですね。

晩秋というよりも初冬の冷え込みのさなかではありましたが、RCOの素晴らしい響きは心の奥底まで温もりを与えてくれました。
連れ合いも満足げで、これも嬉しい限りです。

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いっぷく

コメントありがとうございました。
『妻は告白する』、若尾文子の悪女ぶりが
際立っていましたが、登山が趣味の男が
妻とその愛人を陥れるつもりで、逆に自分が
死んでしまうというストーリーには
山の怖さも感じました。
by いっぷく (2017-11-24 20:56) 

tochimochi

そうおっしゃらずにアップしてください。
私は自己の記録のために投稿しています。
他の方の批評は気にしないことにしています。
ご病気も大変でしたね。
でも知らないうちに自己治癒とは、まだまだ免疫力が落ちていない証拠でさすがす。

by tochimochi (2017-11-24 20:59) 

伊閣蝶

いっぷくさん、こんばんは。
「妻は告白する」、若尾文子は悪女というよりも、追い詰められてすがるものを求めていた哀れさを感じました。
山の描写は、当時の、今では信じられないような稚拙な確保技術やテクニックを見せつけられ、その意味でも背筋が寒くなりました。
by 伊閣蝶 (2017-11-24 21:42) 

伊閣蝶

tochimochiさん、こんばんは。
私もほかの方の批評は気にしませんが、自分自身が受け入れられないという感じです。
記録として書き残したい欲求もあるのですが。
大腸憩室炎、自分でもそうではないかと思っていたので、自力で治したのは少し驚きました。
by 伊閣蝶 (2017-11-24 21:45) 

のら人

八ヶ岳の沢は残念でしたね。
また記事の方を期待しております^^
by のら人 (2017-11-25 20:00) 

サンフランシスコ人

「バッハの無伴奏チェロ組曲を弾き始めたのです....」

第2番からでしたか?
by サンフランシスコ人 (2017-11-26 05:29) 

伊閣蝶

のら人さん、こんばんは。
久しぶりの沢でしたから、本当に無念でした。
そのまま帰るのも無念なので、普通の山歩きでしたが、歩いてきました。

by 伊閣蝶 (2017-11-26 18:18) 

伊閣蝶

サンフランシスコ人さん、こんばんは。
第3番からプレリュードが選ばれました。
by 伊閣蝶 (2017-11-26 18:19) 

Jetstream

とりあえず、元気になられたようで良かったですね。
どうぞご自愛ください。 また、コンディションの良いときに山へお出かけください。
先週歌舞伎座へ行ってきました。思ったより楽しめました。3舞台ありましたが、どれもよかったです。たまにはこんな伝統芸能にふれるのもいいし、歌舞伎が身近に感じるようになりました。1階のいい席でしたが、庶民には高い。(笑)
by Jetstream (2017-11-26 21:27) 

サンフランシスコ人

「ハイドンの目指す音の世界を紡ぎだし....」

コンセルトヘボウ管弦楽団はハイドンが大好きみたいですね....
by サンフランシスコ人 (2017-11-27 06:28) 

伊閣蝶

Jetstreamさん、こんばんは。
温かなコメント、ありがとうございました。
年のこともありますので、無理をせずに山歩きを楽しみたいと想います。
ところで、歌舞伎座にお出かけとのこと。
古典芸能ではありますが、時代を反映して成長しているなと実感します。まだまだ頑張って欲しいものですね。
確かにちょっと観劇料はお高いのですが(^^;
by 伊閣蝶 (2017-11-27 22:02) 

伊閣蝶

サンフランシスコ人さん、こんばんは。
ハイドンが好き、ということもあるのでしょうが、ハイドンを最適なアンサンブルで演奏できる楽団なのだなと思います。

by 伊閣蝶 (2017-11-27 22:03) 

ぼんぼちぼちぼち

大腸憩室炎の再発、お辛かったでやすね。
でも入院にならなくてよかったでやすね。
調子が悪くなると 健康のありがたみを痛感しやすね(◎o◎)b
by ぼんぼちぼちぼち (2017-12-01 13:52) 

伊閣蝶

ぼんぼちぼちぼちさん、こんばんは。
ご心配いただきありがとうございました。
山に入る前、診察を受けたらきっとそういわれるだろうと思っていました。
だから行かずに山に入ったのですが、結局当初目的は果たせず。
それでも好きな山に入って結果として治ったのである意味では満足です。
しかし、これからは自重したいと思います。
by 伊閣蝶 (2017-12-01 22:53) 

サンフランシスコ人

ハイティンク....2018年10月25日のシカゴ交響楽団の公演時に転倒...

http://chicagoclassicalreview.com/2018/10/thrilling-memorable-bruckner-and-a-scary-moment-from-haitink-cso/

"Bernard Haitink stepped off the podium and seemed to waver and lose his balance. Violinist Sylvia Kim Kilcullen reached out in an attempt to steady him, but the 89-year-old conductor stumbled backward and fell onto the stage."
by サンフランシスコ人 (2018-11-06 02:11) 

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