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鬼岩のハンガーボルト [山登り]

梅雨冷の日が続いています。
英国のEU離脱やトルコのイスタンブール空港での爆弾テロなど、世界を揺るがすような事件も起こっていますが、山屋関連では、次のような憂慮すべき事態が勃発しています。

「鬼岩にくさび」出頭 県警に会社員「取り換えただけ」

この記事にもありますように、この周辺の巨岩を利用したクライミングやボルダリングのルート開拓は古くからおこなわれており、今回の「事件」も「鬼岩劇場」の終了点の老朽化を危惧したクライマーが自発的に整備してハンガーボルトに打ちかえたもののようです。

この、鬼岩周辺のルートに関しては、「岩と雪123号(1987年8月)」にも紹介されていた、いわゆるクラシックルートの一つで、ネットでも詳しいトポが載っています。

鬼岩公園

今回の事件に関して、JFA(日本フリークライミング協会)は次のような見解と注意喚起を行いました。

岐阜県鬼岩についての報道の件について
つきましては、クライマー諸氏には、リボルトのみならず、通常のクライミングを行なう際でも、特に歴史のあるエリアにおいては、さまざまな観点からの「確認」をお願いいたします。
一般に発売されている岩場ガイドブック(トポ)に掲載されているエリアであっても、地権者の承諾が取られていなかったり、アクセス状況がクリアになっていないエリアが多数存在します(開拓時に許可されていた岩場でも地権者の変更や岩場利用者の増加、マナー低下などで状況が変わっている場合もあります)。
以上の情報をクライマー同士で共有し、つねに自然保護や文化財保護の観点、地権者の状況や周辺住民のお気持ち等、「この岩は登っても大丈夫なのか?」ということを意識してクライミングを行なうよう、お願いいたします。

こういう問題は、以前から発生しており、私もこの話題で、もう15年以上前のことですが次のような記事を書きました。

「アウトドア」の危うさ

ここで紹介した広沢寺の弁天岩は、首都圏の多くのクライマーがトレーニングをつんだ岩場で、私も頻繁に通っていたエリアです。
その広沢寺の岩場が、一時、地権者の方とクライマーとの間で軋轢が生じ、登攀を禁止される寸前までいったのです。
一部のクライマーの非常識な行動がその要因でしたが、この岩場を愛するクライマーの地道な行動が功を奏して地権者の理解を得られた事例となりました。

登山と地権者との間の問題はこれまでにもいろいろとあって、有名どころでは両神山の白井差コースのいざこざがありましたね。

15年以上前に単身赴任をしていた熊本で、足繁く通っていた宮崎の比叡山鉾岳の岩場。
私も所属していた「庵鹿川」のクライミングチームがこの岩場を開拓するに当たって一番力を入れていたのは地元の方々との連携や交流でした。
この鹿川地区の簡易水道のタンクや水源地の清掃は、この庵鹿川メンバーの仕事で、年に数回、私たちメンバーはかり出させ、綱の瀬川に設置された簡易水道関連施設の清掃に勤しみました。
また、地区の運動会には、庵鹿川メンバーでチームを編成して参加。
さらに年に数回、庵鹿川のロッジで、ビアガーデンや高千穂神楽のお祭などを開催し、地元の方々を招待してみんなで大いに盛り上がったりしたものです。
こうした地道な活動を通じて地元の方々の理解を得、先に述べた屈指の花崗岩の岩場にたくさんのルートを開拓することが出来たのです。
もちろん、岩場以外の登山ルートの整備も積極的に行ってきました。

山登りを趣味にしている人の多くは、そのルートや山に関する権利関係に無頓着です。
また、各種のガイドブックや山岳雑誌も、そうした問題にはほとんど触れずじまい。
冒頭に挙げた鬼岩のことも、恐らくそこをフィールドにしているクライマーは、そうした問題があることに無頓着だったのではないでしょうか。
ここの岩が天然記念物であったとすれば、闇雲にピトンなどを打つのは慎まなければならなかったのではないかと考えますが、開拓当時にはそうした問題が表面化しなかった可能性も高いものと思います。
今回のハンガーボルトが目立つ存在であったが故に、ある意味ではパンドラの箱の蓋が開いたのかもしれません。

この記事についているコメントにもあるように、こうした事例が出ることによって「クライミングを禁止しろ」といった意見がネットなどをにぎわすことになるかもしれず、非常に気がかりです。
フリークライミングが「スポーツ・クライミング」など呼びならわされ、オリンピック競技に登録されるかもしれないという流れのなかで、こうした自然壁の問題が表面化すると、ますますそのインドア化が進みそうな気もします。
そのことの是非を問うつもりもありませんが、古いタイプの山屋の端くれである私などには、何ともやりきれない想いにさせられます。

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夏炉冬扇

ニュースで聞いてました。
マナー違反、法律違反。
by 夏炉冬扇 (2016-07-04 18:27) 

伊閣蝶

夏炉冬扇さん、おはようございます。
この岩が天然記念物であるのであれば、やはり問題行動であったといわざるを得ません。

by 伊閣蝶 (2016-07-08 07:14) 

tochimochi

大分昔ですが、鷹取山でのクライミングが禁止になりそうになったことがありました。
クライマーのマナーの悪さに地権者が我慢できなくなったようです。
多くの山は私有地であり、自然保護の観点からも良識ある行動をしなければいけませんね。

by tochimochi (2016-07-09 12:18) 

いっぷく

コメントありがとうございました。
やはり人工的なものよりも自然の岩を登るほうが
達成感もあって魅力的なのでしょうね。

by いっぷく (2016-07-09 23:18) 

のら人

この記事読みました!
ボルトの残置はまずいですね!
勿論、打ち込みもまずいですが(・。・)
低山や平地は所有者も間近にいますし、トラブルに成りやすいです。法律以前の常識の問題で、困ったものです。(・・;)
by のら人 (2016-07-12 15:04) 

伊閣蝶

tochimochiさん、こんにちは。
鷹取山は、私も随分通ったものですが、仰る通りクライマーのマナーの悪さが元でクライミング禁止になりそうになりましたね。
現在は鷹取山安全登山協議会への登録を条件に許可されているようです。
結局、自分で自分の首を絞めているような形になり、往時の盛況を思うと感慨深いものがあります。
by 伊閣蝶 (2016-07-18 12:36) 

伊閣蝶

いっぷくさん、こんにちは。
私たちのような古いタイプの山屋は、やっぱり外壁に魅力を感じますね。
仰る通り達成感が違うように思われます。
by 伊閣蝶 (2016-07-18 12:40) 

伊閣蝶

のら人さん、こんにちは。
今のトレンドは支点回収ですし、ルートの保全を考える上からも、終了点といえども同じように考えるべきでしょう。
特に民家に近いエリアは最新の中が必要と思います。
仰る通り、法律や規則以前の問題ですね。
それに、終了点の古いボルトやピトンは信用のおけないものも多く、私は基本的に自分で支点を確保するようにしています。
by 伊閣蝶 (2016-07-18 12:46) 

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