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かぐや姫の物語 [映画]

この週末、日曜日の未明に雨が降ったものの、比較的穏やかなお天気となりました。
連れ合いが、「なばなの里のウィンターイルミネーションを見たい」ということで、名古屋に出向いてきました。
長島リゾート近辺には手ごろな宿泊先がないので、名古屋駅前のシティホテルに泊まることとし、せっかくなので前から観たいと思っていた高畑勲監督の「かぐや姫の物語」を観ることにしました。



11月23日公開の作品でありましたから、まだ上映しているだろうかと気が気ではありませんでしたが、名古屋駅前のミッドランドスクエアでは公開中。
ホッとしました。
夫婦ともども50歳を超えておりますので、二人で2000円、というリーズナブルな入場料もありがたいところです。

「かぐや姫の物語」は高畑監督作品としては「ホーホケキョとなりの山田くん」以来、14年ぶりの映画となります。
高畑監督ファンを自認する(その割には今回やっと「かぐや姫の物語」を観たのですが)私としては、正に待ちに待った最新作でした(因みに高畑監督は三重県宇治山田出身です)。

原作である竹取物語。
天界の住人が地上に舞い降りてくるという「羽衣伝説」の中でも、とりわけ映像作家たちの創作意欲をそそる題材ではないかと思いますが、この原作を真正面から取り上げた映画は、これまで、1987年に製作された市川崑監督の「竹取物語(東宝)」が存在するのみでした。
特撮映画に不滅の金字塔を打ち立てた円谷英二監督が、生前に製作を切望していたとのことですから、これが作られていたら、と思わずにはいられません。
また、内田吐夢監督もこの題材による映像化を考えていたそうです。
いずれにしても、この物語が広く人口に膾炙されており、そうした数多の人々の鑑賞に堪え得る作品とするのには並大抵の企画では実現もおぼつかないと考えられたことでしょう。
事実、1987年の市川監督作品も、企画から制作まで10年の年月と20億円の巨費を投じたのにもかかわらず、とても成功とは言い難いものでした。
原作の「かぐや姫は罪をつくり給へりければ」とある「罪」に言及することもなく、大友大納言が遭遇する竜や、最後にかぐや姫を迎えにくるハスの花の形をした巨大宇宙船といったスペクタクル場面ばかりが強調されてしまったかのような印象を受けます。
殊に、最後に登場する宇宙船。
中野昭慶監督率いる特撮班渾身の演出で、それこそ息をのむような壮大なシーンが展開されましたが、どうしても「未知との遭遇」辺りの映像がフラッシュバックしてきて、鼻白んだ記憶が鮮明に浮かんできます。

高畑監督は、東映動画入社当時からこの題材を映像化するためのプランを思索されてきたそうです。
  • かぐや姫が地上に遣わされなければならなかった「罪」とはなにか。
  • 「昔の契りありけるによりてなむ、この世界にはまうで来たりける」とある「昔の契り」とは。
  • その「罪」を償ったがゆえに、かぐや姫は月の世界に帰るのか。
  • そうであれば、なぜ、かぐや姫は月に帰ることを嘆き悲しむのか。

しかし、その当時は、とてもそれを具体的なプランに乗せる段階まで練り上げることはできずに、荏苒と時は過ぎてゆく。
その間、高畑監督の思索の中で竹取物語の構想は熟成し、2005年にようやく製作が決定。
爾来、8年の年月をかけて完成・公開を迎えたのでした。

内容については、公開中の映画であるということもあり、これまで同様ここで触れることは控えたいと思います。

連れ合いと二人で観ていて、私は恥ずかしながらもまたまたハンカチを取り出してしまいました。
連れ合いも目を真っ赤にしています。
何といっても、絵の素晴らしさが特筆もので、淡く美しい日本画の世界がアニメーションとして生き生きと動いている奇跡に眼を奪われました。
例えていえば、彩色を施された「鳥獣戯画」が、まるで実写の世界のように自然に動いている、という感じでしょうか。
人物の輪郭などの線は、まるで筆で描いているかのようなタッチですが、その瞳からあふれる涙は、まるで本物の滴であるかのように光っている。
一幅の日本画に描かれているかのようなカワセミが、サッと羽ばたいて川面に飛び小魚を銜える。
かぐや姫の手から草の葉に移るバッタの精緻な動き。
観れば観るほど画面に引き込まれ、やがてそうした細部のこだわりすらも忘れてしまう。
実写では到底表現不可能でありながら、単なるアニメーションの枠もを軽々と越えてしまった、そんな不思議な映像作品なのです。

竹取物語が有している、反権力の思想、人を欺いたりおとしいれたりしようとする醜い現世の欲望への批判、それを別の世界の出来事として単に傍観の立場を採ろうとする「月の住人」の無慈悲な姿勢と、それを物(金銀や不死の薬など)を下げ渡すことによってあたかも慈悲深くふるまっているがごとき対応を採る欺瞞性、など、私はこの物語を読むたびに、何ともいえない厭世的な気分に陥るのですが、「かぐや姫の物語」では、そうした原作に忠実でありながら、血の通った「物語」に再構築しようとした高畑監督の想いがひしひしと伝わります。

音楽を担当するのは久石譲。
「風の谷のナウシカ」で、彼を抜擢したのは高畑さんだったそうですが、高畑監督作品で久石譲氏が音楽を担当するのは初めてのことなのだそうです。
高畑監督は、音楽の面でも大変に造詣が深く、間宮芳生(「太陽の王子ホルスの大冒険」「柳川掘割物語」「火垂るの墓」などの音楽を担当)、池辺晋一郎といった実力派の作曲家を起用してきたり、「魔女の宅急便」では音楽演出をしています。
ご自身もピアノを弾き、「かぐや姫の物語」の中で非常に重要なモチーフとなる「わらべ唄」と「天女の歌」の作詞・作曲も手がけています。
久石譲氏は、大変に才能あふれる作曲家ですし、日本の映画音楽作曲家としてゆるぎないポジションを築いています。
しかし、これはあくまでも私の個人的な感覚なのですが、あまりに音楽を書きすぎてしまう嫌いがあるのではないか。下手をすると、観客が自由に想像を広げる音の空間を狭めてしまっている例も数多くあるのではないか、という気がしています。
その点、この映画においては、むしろ極めて抑制の効いた表現となっており、私としては大変感心しました。
特に月の住人が雲に乗ってやってくる場面の音楽は、まるで軍楽隊のように賑やかかつ明るい曲になっており、かぐや姫と翁・媼との別れの場面という悲劇に対し、目の覚めるようなコントラストを演出しています。
コントラクンプトを地で行っているような表現で、誠に鮮やかでした。

長きに渡る同士でもあった宮崎駿監督の引退宣言に当たって、宮崎さんは高畑勳さんにも「一緒に引退しよう」と誘ったところ、「何をバカなことを言っているんだ」と否定された、と話していました。
この「かぐや姫の物語」を観て、確かに高畑監督にはまだまだやりたいことがたくさん残っているのだろうと、思わされたところです。

素晴らしい映画だと思います。宜しければ是非ともご覧下さい。

さて、映画を楽しんだ後、なばなの里に出向きました。
早速、「里の湯」に浸かり、そのあとは長島ビール園で食事。
ここの地ビールはとっても美味しく、ついつい飲み過ぎてしまいます。

満腹になった後、ウィンターイルミネーションを見に行きました。
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風もなく、水面に映るイルミネーションも素敵です。
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そして、評判の光のトンネル。
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一つ一つの照明は、まるで花びらのようです。
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今年のウィンターイルミネーションのテーマは、世界遺産登録が実現した富士山です。
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良くできていますね。
そういえば、竹取物語では「富士山」命名の由来も書かれていました。

光のトンネルには、紅葉をイメージしたものもありました。
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翌日は、昨年行きそびれたノリタケの森に出かけ、オールドノリタケなどを見て回りました。

そのあと、名古屋城にするか熱田神宮にするかでちょっと悩みましたが、熱田神宮に行くことに。
連れ合いはもちろん、私も初めて出かけます。
予想通り、立派な社殿ですね。
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せっかくなので、私は交通安全のお守りを買い、連れ合いは仕事のお守りを購入。
ご利益があると良いのですが。

熱田神宮の宝物殿では七福神の特別展示をしていたので、せっかくだからとこれも拝観。
これもなかなか興味深い展示でした。

名古屋で連れ合いと別れ、津に戻ってくると、一転して強い北風が吹いていて、ものすごい冷え込みです。
春の訪れにはもう少し時間がかかりそうです。
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コメント 14

hirochiki

「かぐや姫の物語」は、私もチャンスがあれば是非観てみたいです。
なばなの里のイルミを見に行かれたのですね。
私も前の会社の方たちと一度だけ行ったことがあり、とても美しく感動しました。
熱田神宮は、私の母が毎日のようにお参りに行っています。
伊閣蝶さんご夫婦にもきっとご利益があると思います。
暖かい春までもう少しの辛抱ですね。
体調管理に気をつけて元気に春を迎えたいものです。


by hirochiki (2014-01-28 06:15) 

tochimochi

私も見たいとは思ったのですが結局見れていません。
PVから予想はしていましたがアニメならではの素晴らしい技法が施されているようですね。いやそれ以上の感性でしょうか。
そのうち是非見てみます。

by tochimochi (2014-01-28 19:18) 

夏炉冬扇

今晩は。
富士山さすが。
かぐや姫、新解釈かも。
by 夏炉冬扇 (2014-01-28 21:45) 

伊閣蝶

hirochikiさん、こんばんは。
かぐや姫の物語、一見の価値ありだと思います。
機会がございましたらどうぞご覧下さい。
なばなの里、hirochikiさんもお出かけになられたのですね。
何とも不思議な空間だと思います。
熱田神宮は予想以上に素晴らしいところでした。
たくさんの参拝者がおられましたが、宜なるかなという感じです。
ご利益を期待するわけではありませんが、でもきっとお守り下さることでしょう。
春まではもう少し時間がかかりそうですが、体調に気をつけて迎えたいものですね。
by 伊閣蝶 (2014-01-28 22:42) 

伊閣蝶

tochimochiさん、こんばんは。
もしも機会がございましたら、是非ともご覧下さい。
あの自然の描写には本当に胸が塞がる思いでした。
かぐや姫が月に帰りたくなくなった気持が惻々と伝わります。
高畑監督の感性に脱帽です。
by 伊閣蝶 (2014-01-28 22:45) 

伊閣蝶

夏炉冬扇さん、こんばんは。
「かぐや姫の物語」は、竹取物語の原作を忠実に再現していると思います。原作の持つ、時の権力批判や上流階級の腐敗といったところまで、きちんと表現していました。
さらに、原作では曖昧だったそうしたこと共の背景にまで目を配っているという気がします。
by 伊閣蝶 (2014-01-28 22:49) 

のら人

富士山のイルミネーションが特に素晴らしいです。 ^^
竹取はストーリー性が昔話の中でも群を抜いて素晴らしいと思いますので、絵が良くて更に久石譲が音楽を担当すれば相当なモノだろうと想像できます。自分も寒い冬である現在、「文化人?」として過ごしています。^^;
by のら人 (2014-01-30 09:07) 

伊閣蝶

のら人さん、こんばんは。
富士山のイルミネーション、大変な力作でした。
ケータイのカメラで撮ったので、実際の壮大さを表せないのが残念です。
竹取物語には明確な思想性とSF的な要素を兼ね備えた素晴らしい作品だと私も思います。
それ故になかなか映像作品として成立させるのは難しかったのだろうと思われますが、「かぐや姫の物語」は、それをなし得た希有の作品だと感じました。
ところで私も、ちょっと腰を痛めたこともあり、現在「文化人?」の生活を余儀なくされています。
by 伊閣蝶 (2014-01-30 23:04) 

九子

かぐや姫の物語にそんなにたくさんの謎が隠されていたなんて全然知りませんでした!

>久石譲氏は、大変に才能あふれる作曲家ですし、日本の映画音楽作曲家としてゆるぎないポジションを築いています。
しかし、これはあくまでも私の個人的な感覚なのですが、あまりに音楽を書きすぎてしまう嫌いがあるのではないか。下手をすると、観客が自由に想像を広げる音の空間を狭めてしまっている例も数多くあるのではないか、という気がしています。

さすが!伊閣蝶さん!深遠なお言葉ですね。( ^-^)

彼は長野の隣の中野市というところの出身で、こんど長野市が作る新しい市民会館の総監督に就任されるそうなので、文化的に未開の地である長野が少しは変わるんじゃないかと期待しているところです。( ^-^)

かぐや姫!絶対に見に行きます!
by 九子 (2014-02-01 23:43) 

伊閣蝶

九子さん、こんにちは。
竹取物語自身、非常に読み応えのある物語ですから、これを忠実に映像化しようとすれば、相当の困難があるだろうなと思っていました。
一番肝心な権力批判や人間の醜さなどの部分をはしょって子供用に作られてしまうことが多かったのも、そうした理由があってのことではないかと考えます。
この「かぐや姫の物語」では、そのコアの部分を高畑勳監督の極めて説得力に溢れた表現で描写しています。
必見だと思います。
ところで、久石譲さん。
長野県のご出身ということもあり、「風の谷のナウシカ」のときから注目しておりました。
大変印象的で美しい旋律を書ける希有な才能だと思います。
私も大好きな「クインシー・ジョーンズ」からそのペンネームを考案されたというところも嬉しくなります。
今回、新長野市民会館の芸術監督に内定されたとのことで、これからのご活躍が一層期待されますね。
by 伊閣蝶 (2014-02-02 10:20) 

Cecilia

この映画私もミッドランドで観ました。(忙しかったのでいつ観たか思い出せませんが12月中だったと思います。娘二人と観ました。)
絵も素晴らしかったですが、音楽の使い方が素晴らしいと思いました。
特に「わらべ唄」「天女の歌」とお迎えの時の音楽が印象に残っています。
なばなの里にはなかなか行く機会がなくいつか是非行ってみたいです。
熱田神宮も近くを通るくらいなのですが、昔織田信長が好きでよく読んでいた「太閤記」(児童書の)で桶狭間の戦いの前に熱田神宮に参拝するシーンがあり、「あの熱田神宮!」と思っています。
by Cecilia (2014-04-18 15:09) 

伊閣蝶

Ceciliaさん、こんばんは。
Ceciliaさんもミッドランドスクエアでこの映画をご覧になったのですか。
仰る通り、音楽の使い方は誠に見事でした。
高畑監督の音楽のセンスに、改めて瞠目しております。
なばなの里のウインターイルミネーションは、結構見物だと思います。
機会がございましたら是非ともご覧下さい。
ところで、織田信長は、あの桶狭間の戦いのおり、熱田神宮に参拝したのですね。
これは知りませんでした。
by 伊閣蝶 (2014-04-19 22:59) 

サンフランシスコ人

サンフランシスコでも「かぐや姫の物語」が上映されました..

http://www.ybca.org/princess-kaguya
by サンフランシスコ人 (2016-02-24 08:57) 

サンフランシスコ人

4/21 サンフランシスコの日本町の映画館で「かぐや姫の物語」を上映..

http://www.jffsf.org/cbff2018/princess-kaguya/

The Tale of the Princess Kaguya

April 21 Sat @ 5:00 pm

http://www.brownpapertickets.com/event/3381579
by サンフランシスコ人 (2018-04-01 04:48) 

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