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のぼうの城(DVD) [映画]

昨日・今日と、久しぶりに気持ちのいい晴天に恵まれています。
一昨日はとんでもない天気になり、名古屋駅の地下構内が浸水して近鉄名古屋線が止まるなどの混乱があって、私の職場でも、名古屋方面から通っている職員が足止めを食いました。
名古屋では、栄の地下街が水浸しになり大混乱となったとのこと。伊勢では竜巻まで発生しました。
地球の生理といいましょうか、天の行動は、やはり我々人間などの思惑をはるかに超えたところにあるのだなという理を、妙に切実感を以て思い知らされたところです。

今朝の出勤途上、中学生と思しき男子生徒が赤信号を無視して自転車で交差点を走り抜ける光景に遭遇しました。
さすがに捨て置けず、「こら、赤信号だろう!!」と大声で一喝すると、「すみません」と頭を下げます。
悪態でもつくのかなと想定していましたので、あまりの素直さに拍子抜けしてしまいましたが、うるさいオヤジにかかわるのはごめんだ、とでも思ったのでしょうね。
現場付近は、同じような学生が大挙して自転車で通学しており、歩道を占拠したり、時折転倒したりと、いつみても危ないなと感じていましたが、その上に信号無視ではやりきれません。
ルール自体がルール化しているようなものも結構ありますが、少なくとも交通ルールは彼我双方の命にまでかかわる約束事。
自分の身を守るという観点からも順守してほしいものですね。
と、小言幸兵衛なみのボヤキでした(^_^;

先週、少し遅れた夏休みを取ったことから、今週はそのツケが回ってきたこともあっていろいろと大忙し。ブログの更新もままなりませんでした。
それでも、横浜の自宅では比較的自由な時間もあり、久しぶりに近所のツタヤからDVDを借りてきて観賞。
出来れば劇場で観たいと思っていて果たせなかった「のぼうの城」を借りてきたのです。
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評判になっていた原作も読んでいましたので、これを映画にするのは大変だろうなと感じておりましたけれども、主人公の成田長親を演ずるのが野村萬斎ということもあり、劇場ででの鑑賞は果たせませんでしたがいつかぜひ観ようと思っていたのです。

予想通り、これは誠に面白い映画でした。

実力派の犬童一心と、特撮を芸術的な高みにまで押し上げた樋口真嗣との両名による監督というところに、まず以てプロデューサーの慧眼がしのばれます。
それから、私は初めて知ったのですが、この「のぼうの城」、もともとシナリオが創作のスタートだったのですね。
つまり、近頃は珍しいオリジナル脚本による映画だったのです。

「七人の侍」「生きる」「用心棒」などの黒澤作品や「浪華悲歌」「祇園の姉妹」などの溝口作品、宮崎駿監督の主要作品等々、オリジナル脚本による名作も数多くありますが、名の通った原作を映画化する方が製作側としてのリスクは断然小さくなります。
従って、如何に「城戸賞」というオリジナル脚本コンクールにおける価値ある賞を受賞した作品とは云えども、プロデューサーとしては二の足を踏むことになるのは致し方ないところでしょう。

そのような事情から、プロデューサーである久保田修さんは、この脚本を書いた和田竜氏に、脚本をもとにした小説化を働きかけたのだそうです。
当時、普通のサラリーマンだった和田竜氏は、この脚本に関して「とても映画化には至らないだろう」と思っていたそうで、久保田プロデューサーの提案を受諾。
当事者たちの案に相違して、この小説「のぼうの城」は着実に売り上げを伸ばし版を重ね、ついには直木賞候補にまで上り詰める大ベストセラーとなったのでした。

ここまできてやっと映画化までこぎつけたのですから、久保田プロデューサーの熱意は正に不撓不屈というべきでしょう。

脚本が城戸賞を受賞したのが2003年。小説の刊行が2007年。そして2011年に春にクランクアップを迎えたのですが、2011年3月、あの東日本大震災が勃発します。
この映画のクライマックスは、忍城攻略のために用いた水攻めであり、樋口監督のもとリアル極まりないシーンが撮影されていました。
生き物のように荒れ狂う水流に飲み込まれる家々、人々、木々。とりわけ、田畑を次々に濁流が呑蝕していくシーンは、あの3.11の日にテレビ画面に展開された、津波が耕地の田畑やビニールハウスを呑み込んでいく凄惨な光景を彷彿とさせられるほどの出来栄えです。
もちろん、この忍城の水攻めは史実であり、このシーン自体も3.11より以前に撮影されたもので、全く関連性などないのですが、製作者側は様々な事情を斟酌して公開延期を決定。
水攻めのシーンも、人々を呑み込む部分などにカットや手直しを加えるなどして、正式な公開は2012年11月2日となりました。
実に一年半に及ぶ「お蔵入り」となったのです。

この映画の性格や方向性など、全てを決定づけるほどの存在であった主役の野村萬斎さんに、出演の打診を行ったのは2005年ということですから、脚本家や監督・製作者側と同様の長期間が費やされていた、ということでしょう。
実際に、この成田長親(のぼう様)を演ずることのできる役者は野村萬斎しかいないだろう、ということを痛感しています。
あの立ち居振る舞いの素晴らしさ。坐る位置を変える何気ない動作からも、ため息のつくほどの美しさを感じます。
さらにあの表情の豊かさ。悦び・悲しみ・怒り・諦め・静寂…。全くなんという役者かとうなってしまいました。
船上での田楽踊りは、正にその結晶ともいうべき見事さ。
揺れる船の上で、全くそれを感じさせない踊りを演じ切る技量は、さすがに当代随一の狂言方和泉流能楽師による至芸と申せましょう。
この野村萬斎による田楽舞を観るだけでも、十分に満足させられる映画ではないかと思います。

そのほかの出演者も素晴らしく、佐藤浩市、山口智充、山田孝之、西村雅彦、平泉成、市村正親、前田吟、などなど演技派の熱演が相次いでいます。
殊に、今年の5月に亡くなった夏八木勲さんが元気いっぱいに僧侶を演じていたのが印象に残りました。

内容には敢えて触れませんが、一見の価値のある力作だと思います。
宜しければ是非ともご覧ください。



ただ、いにしえの正統派時代劇を愛好される方にしてみればかなり違和感があると思います。
史実ともだいぶ異なりますし、言葉遣いもめちゃくちゃ。
この時代に「ですます」調が存在することなどなかったはずで、もう少し脚本も練って欲しかったかな。

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hirochiki

我が家の近くにも、自転車の信号無視が多発している交差点があります。
大通りを車で通過する時に、自転車が左右から突っ込んでくることが多いので、
こちらが青信号でも一旦停止をしなければなりません。
「のぼうの城」は、以前から観たいと思っている映画のひとつです。
早速DVDを借りてきて観てみたいと思います。
夏八木勲さんは、渋い演技で素晴らしい俳優さんでしたね。
by hirochiki (2013-09-07 08:03) 

伊閣蝶

hirochikiさん、おはようございます。
自転車の信号無視は、車を運転している際には特に大迷惑。それに大変危険です。
その自覚をきちんと持ってもらいたいと切に思います。
「のほうの城」、よろしければ是非ともご覧下さい。
野村萬斎さんの演技を観るだけでも価値はあると思います。
夏八木勲さん、私も大ファンでした。存在感に溢れる素晴らしい役者さんでしたね。
by 伊閣蝶 (2013-09-07 08:31) 

夏炉冬扇

今晩は。
なかなか声かけないものです。いいことなさいました。
by 夏炉冬扇 (2013-09-07 18:48) 

伊閣蝶

夏炉冬扇さん、こんばんは。
私もあまり声掛けはしない方ですが、さすがに危ないと思いましたので。
by 伊閣蝶 (2013-09-07 21:29) 

tochimochi

中学生に限らず、自転車の信号無視や無謀運転は問題になっていますね。
伊閣蝶さんのように市民からの一喝も必要でしょう。
私を含めて無関心を装う方が多い中、大切なことだと思いました。
「のぼうの城」、存じ上げていませんでしたがクランクアップ後の3.11で水攻めのシーンを手直しするなどまさに原作は迫真ものだったのでしょうね。

by tochimochi (2013-09-07 21:52) 

のら人

のぼうの城は美味しんぼの漫画を描いている方が描かれたものを、数か月前に読みました。
のぼうの殿様は立派な方でしたね。 ^^
民草にも人気があった様で、一緒に田植えを手伝ったり、らしいですね。
周囲の家老以下も慧眼の揃った家臣だったのでしょう。
by のら人 (2013-09-07 21:55) 

伊閣蝶

tochimochiさん、おはようございます。
自転車の無謀運転は本当に深刻な問題だと思います。
私自身、自転車に引っ掛けられて救急病院に行った経験もありますから、きちんとした対応は必要であろうと思います。
「のほうの城」、もちろん役者の熱演も素晴らしいものがありましたが、民衆の側の視点を忘れない姿勢とともに、その特撮にも目を見張りました。
水攻めのシーンの迫真性は息をのんでしまったくらいです。
by 伊閣蝶 (2013-09-08 08:58) 

伊閣蝶

のら人さん、おはようございます。
仰る通り、スピリッツで花咲アキラさんの漫画が連載されていたそうです。
私は漫画の方は読んでいませんが、のぼう様はいわゆる武士階級には珍しい度量と友愛の精神の持ち主だったようですね。
映画においても、その民衆に慕われた人格が勝利を呼び込む様が象徴的に描かれていました。
こういう上司に仕えたいものですね。
by 伊閣蝶 (2013-09-08 09:02) 

ぼんぼちぼちぼち

のぼうの城 山田孝之さんが出演していたので劇場に見に行きやした。
地震のために公開を遅らせたと聞いていたのでやすが、本編を見、その理由が解りやした。
泥水に流される村がギョッとするくらいリアルでやした(◎o◎)
by ぼんぼちぼちぼち (2013-09-09 09:03) 

伊閣蝶

ぼんぼちぼちぼちさん、こんばんは。
山田孝之さん、若いけれども良い役者ですね。
ところで、水攻めのシーン、仰る通り、ギョッとするくらいリアルでしたね。
製作側が震災の被害にあった方を慮って公開を遅らせたのも尤もだと思いました。
by 伊閣蝶 (2013-09-09 21:29) 

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