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ブルックナー、交響曲第2番 [音楽]

昨日までの暖かな陽気と打って変わって、まるで冬に戻ったかのような寒さの一日でした。
何だかこんなふうに気温の上下を体に感じていると、しみじみ年を感じてしまいます。

ブルックナーの交響曲第2番ハ短調。
聳え立つ山々のような後期の交響曲や人気の高い第3番の影に隠れてしまっている感がありますが、リリカルな美しさをたたえた魅力溢れる曲です。
ブルックナーのほかの交響曲同様、この曲も複数の改訂を経ていて、いくつかの版が存在しています。
作曲されたのは1872年ですが、演奏を依頼された指揮者オットー・デッソフとウィーン・フィルが、「長過ぎる」「演奏不可能」などと難癖を付けたために、スケルツォの反復省略や終楽章56小節短縮などの改訂を余儀なくされました(1873年版)。
その後も大規模なカットや休符の削除などが施され、1877年版として一応の決着を見ます。
この版を中心に、ロベルト・ハースとレオポルド・ノヴァークが原典版を校正し、これらが一般的に用いられてきました。

さらに、ノヴァークの依頼を受けたウィリアム・キャラガンが初稿の復元に力を注ぎ、1990年代に形が整って2005年に正式出版の運びとなったところです。

このような次第で、ブルックナーの作曲当初の意図を最も正確に伝えるのはキャラガン校正の初稿というべきでしょう。
この正式出版版を使用した演奏は、シモーネ・ヤング、マルクス・ボッシュ、ゲルト・シャラー、ヘルベルト・ブロムシュテットによるCDがあります。
第2番は、休符が随所に現れて効果的に用いられていることから「パウゼ(休符)交響曲」と呼ばれていますが、それはこの初稿にこそ相応しい呼び名ということも出来るのではないでしょうか。
第8番や第9番と同じく第2楽章にスケルツォを持ってきて第3楽章を緩徐楽章としていた点、フィナーレで第1楽章の主題を回想する部分、そしてそのフィナーレに第9番のアダージョでも用いられていた「パルシファルの木霊」が登場すること、などなど、非常に興味深く、かつ胸がワクワクするような興奮を覚えます。

さて、この初稿(1872年版)での演奏、先に上げたCDももちろんそれぞれに素晴らしいものと思います(SACDである点も好もしい)が、私としては、ティントナーがアイルランド国立響と組んで録音したNAXOS盤がお気に入りです。

1996年の演奏ですから、まだ正式版の出版前のこと。アイヒホルンとともに、この曲の原典版演奏の嚆矢となりました。
アイルランド国立交響楽団は、いわゆるメジャーな一流オーケストラとは言い難い存在ではありますが、鳴り響く音は誠に真摯で美しく、ティントナーの学究的なブルックナーへの姿勢とも相俟って素晴らしい演奏を聴かせてくれます。
アンダンテの最後に出てくる、G(ソ)B(シ♭)G(ソ:オクターブ下)B(シ♭)の旋律も、当初の指定の通りホルンで演奏されていて、これがまた大変良い音色でした。
1877年ノヴァーク版ではクラリネットに変更されていますが、やはりホルンの方がしっくり来ますね。
演奏時間は71分と些か長大ですが、その長さを感じさせないところはさすがというべきでしょう。

しかし、やはり1877年のヴァーク版の演奏には捨てがたい魅力があります。
ただ、なかなか良い演奏の録音盤がないのが残念です。
私としては、長年、ヨッフム&シュターツカペレ・ドレスデンによる演奏がお気に入りでした。

ヨッフムの同曲演奏には、他にバイエルン響のものもあり、これまた甲乙つけがたい演奏です。
ヨッフムはどちらかというと地味な印象が強い指揮者なのですが、ドイツの古典やロマン派の音楽の演奏を聴いていると、むしろかなり大胆なテンポ設定をしていたりして、それがまたそれらの曲にぴったりマッチしていることがわかります。
先に上げたボックスセット。ブルックナーのほか、ベートーヴェンやブラームスの交響曲全集も含まれていての20CD。それでこの値段はお買い得ではないかと思いました。

さて、この曲のこの版(1877年ノヴァーク版)における伝説的な名演とされてきたジュリーニ&ウィーン響による演奏が英TESTAMENTレーベルからCDで発売されました。

私もその評判だけは聴いていたのですが、実物に接したことがありませんでした。
HMVでこのCDの存在を知ったのは昨年末のことで、即座に注文したのですが、在庫切れという回答。
普段なら諦めてしまうところですが、もしかすれば入手できるかもと、ずっと待ち続けていたところ、なんと三か月以上経過した先日、やっと入荷したとの連絡が入りました。
さすがに興奮して聴いたところですが、これはまごうことなき「名盤」だと思います。
当時、60歳を超えたばかりの、一番脂の乗っていた時期のジュリーニが、ウィーン交響楽団を演奏してこの曲を録音した。
そのいきさつは私には分かりませんが、いずれにしても素晴らしい「遺産」だと思います。
このCDを手に入れることが出来た悦び。これは、本当に何物にも代え難い感動でした。

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hirochiki

あきらめずに待たれた甲斐がありましたね。
この記事から、伊閣蝶さんの感動と悦びがいっぱい伝わってきます。
お仕事がお忙しくても、音楽鑑賞と登山という素晴らしいご趣味をお持ちで
きっと心豊かにお過ごしになっているのだろうなあといつも感じております。
私も、昨日はお昼休みに少しだけ外に出てみたのですが
あまりの寒さにすぐにオフィスに戻ってしまいました。
今日は会社の飲み会があるのですが、どんな服装で出かけようか困っているところです。

by hirochiki (2013-03-22 06:23) 

伊閣蝶

hirochikiさん、おはようございます。
今日は、日中、どうやら暖かくなりそうですね。
今夜は飲み会とのことですが、コートは要らなさそうです。どうぞお楽しみ下さいね。
ジュリーニのCD、本当に待った甲斐がありました。
こういうことがあるとやっぱりこの趣味はやめられません。
毎日の仕事はやっぱり厳しいものがありますが、やはりこうしてストレスを解消できる時間があると、なんとかなるものだなと実感しています。
by 伊閣蝶 (2013-03-22 08:13) 

夏炉冬扇

お早うございます。
パソコンしているときに♪聞きながら。
朝は大方クラシックです。
夜は演歌やフォーク。脳波の状態が地が違うんでしょうね。
by 夏炉冬扇 (2013-03-22 18:27) 

ムース

ジュリーニのブルックナー2番、厳密にいうとこれはウィーン響とのものですが、むしろウィーン響だからこそなされたのかもしれない名演中の名演でしょうか。一番気に入っているのは冒頭部で、同じように譜面どおり演奏しているはずなのにジュリーニ指揮の同曲の冒頭部は聴き手に強い印象を残しまさに天国にいざなうかのよう。もうこれは説明しようがないわけです。ジュリーニが7-9番に加えて2番を選択したという事実、これは同曲が氏の感性に合っていたことに他ならない。ただし、何故か再録はない。これはマーケットとの関連性もあるのかもしれないが、それだけに偶然の産物である同曲はまさに嬉しい限りです。私がブルックナーでよく聴くのは2番、ついで9番です。このCDをある知人に貸したところ、ひどく感銘を受けてネットオークションで入手したとのこと。この事実からも、例えばワルターの「田園」のような、その楽曲を語る上で欠かすことのできない究極の一枚・・・といっても過言ではあるまい。
 ブルックナー2番だけに長々とレスしてしまい恐縮ですが、いい曲だけにもっと多くの人に聴いてほしいところ。2押しはスクロバチェフスキ先生のザールブリュッケンの全集の一枚です。
by ムース (2013-03-24 15:41) 

伊閣蝶

夏炉冬扇さん、こんばんは。
朝方はクラシック、夜は演歌やフォークをお聴きとのこと。
時間によって好みがかわるということは、確かにありそうですね。

by 伊閣蝶 (2013-03-25 00:45) 

伊閣蝶

ムースさん、こんばんは。
大変、ご丁寧かつ詳細なコメントを頂戴し、心より感謝申し上げます。
この曲は本当に素晴らしいと思います。
もっとたくさんの方に聴いて頂きたいと、私も痛感しております。
「スクロバチェフスキ先生のザールブリュッケンの全集の一枚」、これも大変興味深いところですね。
by 伊閣蝶 (2013-03-25 00:48) 

Cecilia

NAXOS盤なら私もNMLで聴くことができます。できたら聞いてみたいと思っています。
ジュリーニは先日レッスンを受けた声楽の先生が絶賛していますのでこちらも聴いてみたいです。
by Cecilia (2013-04-03 21:45) 

伊閣蝶

Ceciliaさん、こんばんは。
そうですね、NAXOS盤ですからNMLで聴くことができると思います。
もしよろしければ、一度お聴きになって下さい。
ただ、ちょっと長い曲ですから、その点はご留意下さい。
ジュリーニは、あれだけの大家・巨匠であるのにもかかわらず、大変謙虚な方でした。それ故にその人柄を慕うファンも多くおられます。
奥様のご病気の関係で来日は実現しませんでしたが、それが大変惜しまれます。
by 伊閣蝶 (2013-04-03 22:27) 

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