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エミール・ギレリスEMI録音全集(9CD限定盤) [音楽]

今日は、気温は昨日ほど高くはないものの、朝から気持よく晴れました。
布団を干し、シーツやタオルケットも洗いました。
洗濯物も気持よく乾いて、ありがたい限りです。
今日が良い天気になることは、天気予報でも伝えていましたから、このところご無沙汰している山登りに出かけようかな、とも思ったのですが、ここ数週の週末はずっと出かけていましたし、昨日と一昨日には、弔事があってあま市の甚目寺まで出向いたりしていましたので、掃除や洗濯はもとより、書類なども少し整理しようと思ったのでした。
赴任から半年間、ほとんどそのままにしてきたものもあったので、ちょうどいいタイミングといえるのかもしれませんね。

書類の整理も終わり、先日購入した「エミール・ギレリスEMI録音全集」のボックスCDを、ゆったりした気分で聴きました。



CDは全部で9枚。
収録曲は次の通りです。

CD1
ベートーヴェン:
1. ピアノ協奏曲第1番ハ長調 Op.15
2. ピアノ協奏曲第2番変ロ長調 Op.19
 クリーヴランド管弦楽団、ジョージ・セル指揮
 1968年4月29,30日、5月1,4日、セヴェランス・ホール、クリーヴランド録音

CD2
1. ピアノ協奏曲第3番ハ短調 Op.37
2. ピアノ協奏曲第4番ト長調 Op.58
 クリーヴランド管弦楽団、ジョージ・セル指揮
 1968年4月29,30日、5月1,4日、セヴェランス・ホール、クリーヴランド録音

CD3
1. ピアノ協奏曲第5番変ホ長調 Op.73『皇帝』
 クリーヴランド管弦楽団、ジョージ・セル指揮
 1968年4月29,30日、5月1,4日、セヴェランス・ホール、クリーヴランド録音

2. 創作主題による32の変奏曲 ハ短調 WoO80
3. ヴラニツキーのバレエ「森のおとめ』のロシア舞曲の主題による12の変奏曲イ長調 WoO71
4. 創作主題(トルコ行進曲)による6つの変奏曲 ニ長調 Op.76
 1968年4月29,30日、5月1,4日、セヴェランス・ホール、クリーヴランド録音

CD4
ベートーヴェン:
1. ピアノ協奏曲第4番ト長調 Op.58
2. ピアノ協奏曲第5番変ホ長調 Op.73『皇帝』
 フィルハーモニア管弦楽団、レオポルト・ルートヴィヒ指揮
 1957年4月26,27,30日、5月1日、アビー・ロード第1スタジオ、ロンドン録音

CD5
1. ピアノ協奏曲第1番ハ長調 Op.15
2. ピアノ協奏曲第2番変ロ長調 Op.19
 パリ音楽院管弦楽団、アンドレ・ヴァンデルノート指揮
 1957年6月1,2日(第2番)、19,20日(第1番)、サル・ワグラム、パリ録音

CD6
1. ピアノ協奏曲第3番ハ短調 Op.37
 パリ音楽院管弦楽団、アンドレ・クリュイタンス指揮
 1954年3月9,10日、シャンゼリゼ劇場、パリ録音

2. モーツァルト:ピアノ・ソナタ第16番変ロ長調 K570
 1954年3月12日、シャンゼリゼ劇場、パリ録音

CD7
1. ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番ニ短調 Op.30
2. サン=サーンス:ピアノ協奏曲第2番ト短調 Op.22
パリ音楽院管弦楽団、アンドレ・クリュイタンス指揮
 1955年6月13日、1954年3月11日、シャンゼリゼ劇場、パリ録音

3. ショスタコーヴィチ:24の前奏曲とフーガ Op.87より第5番ニ長調、第24番ニ短調
 1955年10月19,20日、ニューヨーク録音

CD8
チャイコフスキー:
1. ピアノ協奏曲第1番変ロ短調 Op.23
2. ピアノ協奏曲第2番ト長調 Op.44(シロティ編)
 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団、ロリン・マゼール指揮
 1972年10月11-17日、アビー・ロード第1スタジオ、ロンドン録音

CD9
1. ピアノ協奏曲第3番変ホ長調 Op.75
 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団、ロリン・マゼール指揮
 1972年10月11-17日、アビー・ロード第1スタジオ、ロンドン録音

2. ショパン:ピアノ・ソナタ第2番変ロ短調 Op.35
3. ショスタコーヴィチ:24の前奏曲とフーガ Op.87より第1番ハ長調
 1955年10月19、20日、ニューヨーク録音

まず何といっても、CD1〜3に収録されたベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲演奏に注目です。
この、セル=クリーブランドとの演奏は、この曲たちの畢生の名演として夙に有名ですが、残念ながらレコードの音質が悪く、CD化されたものも全く酷い音質でした。
それでも演奏自体の素晴らしさから、長らくこの曲たちの「決定版」といわれてきたものです。
私自身は、内田光子とザンデルリンク&バイエルン響による演奏が最もお気に入りなのですが、もちろん、ギレリスとセルによる演奏は閑却すべからざるものと思っていました。しかし、如何せん音質が悪すぎたのです。

しかし、この全集の録音には目を見張りました。
デジタルリマスターによる再生の素晴らしさはこれまでにも幾度となく体験してきましたが、これもその技術によって蘇り、改めて本来受けてしかるべき正当な評価を受けるに至ったのではないかと、聴きながら身の震える想いがしたものです。
セル自身も大変優れたピアニストでありましたから、この二人の超絶的なヴィルトゥオーゾの共演が如何に優れたものになるかは容易に想像がつくものでありましょう。
特に、第1番、第2番の演奏が何とも印象的で、この、どちらかというとモーツァルトを連想させるかのような軽やかで美しい曲の魅力を遺憾なく発揮していると思います。
また、ギレリスが「鋼鉄のピアニスト」と驚愕の目を以て西側諸国のステージに登壇していた頃の、ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番の超絶的な演奏はどうでしょう!
クリュイタンスとパリ音楽院管弦楽団の脂の乗り切った演奏と相俟って、実に恐るべき世界を展開しております。

それから、マゼール&ニュー・フィルハーモニア管弦楽団とのチャイコフスキーのピアノ協奏曲全曲演奏。
チャイコフスキーのピアノ協奏曲といえば、第1番のみが余りに有名で、第2番や、ましてや未完に終わった第3番が演奏される機会はほとんどありません。
その意味で大変貴重な演奏ともいえましょうが、この演奏はそうした希少性を遥かに凌駕する出来だと思います。
私は実は、ロリン・マゼールという指揮者があまり好きではないのですが、この演奏においては、インテンポを守りながら余計な味付けをしていないところが誠に好もしく思えます。
これも聴きものと思います。

エミール・ギレリス。
リヒテルと並んで、20世紀のロシア=ソ連を代表するピアニストでありながら、例えばリヒテルと比べて、日本ではあまり正当な評価がなされていないのではないかと感じています。
ルビンシュタインをして、「彼がアメリカで演奏をするというのであれば、私は荷物をまとめて去らねばならない」といわしめ、恐らくそのピアノテクニックの点からすれば、ほとんど追随する演奏者がいないくらいの最高レベルに達していたギレリス。
しかし、己の演奏に関しては大変に謙虚であり、同年代であるリヒテルについて、ギレリスの演奏に対して最大限の賛辞を贈ろうとしたオーマンディに「(その賛辞は)リヒテルを聴くまで待って下さい」と語った話も残っています。
最高峰の技能を習得しつつも、技術のみに頼る表現を厳に戒め、商業主義的なプロフェッショナルではなく、文字通りのミュージックサーヴァントを目指して、己の修練を怠らなかった。
結果として、その求道的な姿勢が、過度に精神的な疲労を巻き起こし、心臓マヒによる急逝を招いたとするのであれば、何とも残念で仕方がありません。
ギレリスの急逝直後に書かれた、演出家三谷礼二さんのCDジャーナル掲載の記事の冒頭を、次にご紹介します。
最初に聴いたコンサートは、プロコフィエフのトッカータがあまりに壮絶なものだったので、鋼鉄のタッチと言われても仕方がなかった。真偽のほどはさだかでないが、公演に接して女性のピアノ学生が自殺した、という噂が流れたりした。この高水準を眼前で確認してしまったら、修行の目標が高い人ほど絶望してしまうだろう、妙にみんなが納得し、同情する噂だった。

そのギレリスの入魂の演奏が、このような値段で聴けるようになる。
ある意味では良い時代になったものだなと、改めて思いました。





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tochimochi

寒さも緩んできたこの頃ですが週半ばからはまた寒くなるようです。
私も引越しの整理がまだ終わっておらず、昨日もやりかけましたが....。
今週末には出かけようと思っているのですが、行きそびれると億劫になってしまいます。


by tochimochi (2013-02-04 06:51) 

hirochiki

昨日は、名古屋も気持ちのいい青空が広がり暖かい一日になりました。
しかし、また気温が下がってくるようですね。
伊閣蝶さんは、お休みもだらだらとではなく有効に過ごされているようですね。
お部屋のお掃除をされた後にゆったりと音楽を聴かれるなんて
とても素敵な過ごし方だと思います。
私も、もう少し暖かくなったらずっと気になっている部屋の掃除に取り掛かりたいと思っております^^;

by hirochiki (2013-02-04 18:37) 

夏炉冬扇

今晩は。
せっせせっせ、ですね。
昔は模様替えよくやったのですが…
by 夏炉冬扇 (2013-02-04 21:46) 

伊閣蝶

tochimochiさん、こんばんは。
こちらは今日も雨の寒い日になりました。
立春は正に暦の上だけで、まだまだ寒い日が続くようです。気温の変動も大きくなりますから、気をつけたいものですね。
tochimochiさんもお引っ越しの整理に手をお付けになったとのこと。
億劫ですが、やらないわけにもいかず、私もちょうどいいしおだと思った次第です。
本当は山に行きたかったのですが。
by 伊閣蝶 (2013-02-04 22:07) 

伊閣蝶

hirochikiさん、こんばんは。
名古屋は暖かな良いお天気だったのですね。羨ましい限りです。
でも、今週末にかけてまたまた冬の寒さに逆戻りとのこと。気をつけたいものですね。
私は根が怠け者ですから、何事も後回しにしてしまう嫌いがあります。
それでもさすがにまずいなと、書類整理に着手したのでした。
音楽鑑賞は、その意味では自分に対するご褒美みたいなものでしょうか。
暖かくなったら、台所周りも掃除しないと(^^;
by 伊閣蝶 (2013-02-04 22:12) 

伊閣蝶

夏炉冬扇さん、こんばんは。
はい、せっせせっせでした。
部屋の模様替え、私はどうも億劫でなかなかやろうという気力が沸きません。
by 伊閣蝶 (2013-02-04 22:14) 

Cecilia

仕事を初めて一年目の年にCDプレイヤーを手に入れました。
金銭的余裕がなかったのでCDはあまり買えませんでしたが、数枚程度しかなかった頃の一枚がギレリスのベートーヴェンピアノソナタでした。(「月光」「熱情」「悲愴」)これは嫌というほど聴きましたね。一人暮らしのアパートで一晩中エンドレスで聴いていた思い出が蘇ってきます。当時はギレリスのことを全く知らず、ドイツグラモフォンだから悪くないだろうと思って購入したのでした。私の中では今も彼の演奏が基準です。
by Cecilia (2013-02-13 08:41) 

伊閣蝶

Ceciliaさん、こんばんは。
ギレリスによるベートーヴェンのピアノソナタ。
全集は結局未完に終わりましたが、残された演奏は、間違いなく他の追随を許さぬものでしたね。
ギレリスをして、「現代のベートーヴェン」と呼ぶ方もおられましたが、さもありなんと思います。
今回の記事では取り上げませんでしたが、私にとっても、ギレリスによるベートーヴェンのピアノソナタは一つの屹立した「基準」です。
by 伊閣蝶 (2013-02-13 23:06) 

青空

ギレリスはとても控えめで謙虚な人柄でしたからね。
自分以外の人(例えばリヒテルやラザール・ベルマンなど)を手放しで褒めるものだからあまり音楽的素養のない人たちからは勘違いされちゃったのではないですか?
しかし、音楽に造詣の深い人が聴けばギレリスよりリヒテルのほうが優れているなんて思いませんよ。
ギレリスは100年に一人どころか数百年に一人の逸材です。
よくぞこんな人がこの世に生まれたものとすら、思います。
本当の天才とはこういう人です。

by 青空 (2016-10-04 21:36) 

伊閣蝶

青空さん、こんばんは。
全くおっしゃる通りと存じます。
ギレリスの演奏については、ほかの記事でも触れていますが、まさしく「本当の天才」であり、かつ、大変な努力家でもあったと思います。
彼の実演を聴くことはかないませんが、CDが残され、それを聴くことのできる喜びをかみしめています。
by 伊閣蝶 (2016-10-11 22:23) 

青空

伊閣蝶さん、こんにちは。
最近偶然書店で目にしたギレリスの弟子のアファナシエフの回想録によれば「ギレリスは何気ない日常においても音楽そのものだった」とのことです。
「ギレリス=音楽」ということですよね。
常に音楽と共にあるというか・・やはりそうだったのかという思いです。
ギレリスの音楽を日常的に聴き込んでいる私にとりましてもそれ以外の言葉は思い浮かびません。


by 青空 (2016-11-05 13:06) 

伊閣蝶

青空さん、こんばんは。
「アファナシエフの回想録」は、恥ずかしながら存じ上げませんでしたが、ギレリスは何気ない日常も音楽であったとの下りは、やはりそうであったかと頷かずに入られません。
あの突き詰めたような高い純度の音楽は、正にこうした真の芸術家の手によってしか生み出されないのでしょう。
「芸術が人生である人、その人の人生は芸術である」とはバッハの言葉ですが、これこそギレリスのことを言っているように思います。
by 伊閣蝶 (2016-11-08 22:43) 

サンフランシスコ人

「ロリン・マゼールという指揮者があまり好きではないのですが....」

ここアメリカでも、人気があまりありませんでした....
by サンフランシスコ人 (2017-02-07 07:11) 

伊閣蝶

サンフランシスコ人さん、こんばんは。
ロリン・マゼール、そうでしたか。
クリーヴランドやニューヨーク・フィルといった米国著名オケの音楽監督も務めているのに意外ですね。
by 伊閣蝶 (2017-02-07 20:16) 

サンフランシスコ人

マゼールは、クリーヴランドを去ってから、同管弦楽団を振ることが一度もありませんでした.....クリストフ・フォン・ドホナーニの時代に、クリーヴランド管の地元の演奏会へ何度も行きましたが、マゼールについて話している人は見つかりませんでした...
by サンフランシスコ人 (2017-02-08 07:12) 

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