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訃報:大島渚監督が亡くなりました [映画]

お腹を壊して二日間ほとんど寝たきりでしたが、今日は出勤。
体力的にどうかな、などと思ったものの、人間の体というものは丈夫なもので、この程度のことはへいちゃらなのですね。
ご飯もろくに食べられず、今朝も氷点下の冷え込みとなったこともあって、通勤途上で危うく脹脛が痙攣しそうになりましたが、何とか大丈夫でした。
昼ご飯はうどんにし、晩ご飯はお餅とジャガイモと豆腐を煮込み、ほうれん草を茹でて食べましたが、お腹の方は現在落ち着きを取り戻しています。

大島渚監督が亡くなりました。
享年80歳。肺炎だそうです。

もう長らく病床に臥せっておられ、一線への復帰の望みは儚いものになるだろうとは思っておりましたが、こうして訃報に接すると、改めて無念の思いがこみ上げてきます。

なんといっても、最後の劇場映画作品が「御法度」で終わったことが残念でなりません。
この作品については、以前、このような感想を書いたことがあります。
だからこそ、もう一花咲かせてほしかったなと思わずにはおられないのです。

大島監督のこれまでのご活躍については、さまざまなメディアで繰り返し報道されているので、詳細に取り上げることはいたしませんが、日本映画界の中でも恐らく稀有の思想性と前衛的手法を有した表現者であったと確信します。

大島監督の捜索活動は、その時期に合わせ、次の通り、
  1. 松竹時代
  2. 松竹退社後~創造社時代
  3. 創造社解散後

大まかにはこの三つに分けられるのかもしれません。
私個人としては、第二期の「創造社」時代が、気力の上からも創造力の上からも最も充実していた時期ではないかと思われます。
「絞死刑」「少年」「儀式」などの劇場映画作品にとどまらず、ドキュメンタリーでも「ユンボギの日記」や「忘れられた皇軍(TV作品)」などを出し、正に画面に目がくぎ付けになるほどでありました。
また、松竹を退社する直接の契機となった「日本の夜と霧」。
結婚式場という閉鎖空間を舞台に、現在・過去、さらにその根本的な部分に至るまでを長回しのカメラの中を登場人物たちのディスカッションで進行させる壮大な実験作でした。
吉沢京雄演ずる中山の白々しい演説に寒気を感ずるとともに、その後の左翼運動の中で繰り返されて来た内ゲバや内部分裂を予感させるかのような構成力は、今見直しても破壊力十分なのではないでしょうか。
大島監督ご本人は京都府学連委員長を務めたほどの筋金入りの運動家でありますが、にもかかわらず(いやそれゆえにこそ)、学生運動や左翼運動の矛盾なども容赦なく暴き立て、全てを画面にさらけ出すことにより、観客に鋭くも重い問いを投げかけてきたのでした。

取り上げて来た題材を見て感ずることは、共同体の中から疎外された者たちに対する視線と考察です。
共同体というものは、どのような規模であれ一定の権力構造を有します。従ってそこからはみ出す者に対して容赦がない。故に、人々は保身のために共同体にすり寄っていこうとする。
その個人レベルの思想的な破綻を、映画を観る我々に突きつけてくるのです。
その映画を熱中して観ながらも、観終わったあとで途方に暮れる経験を何度したか分かりません。
それでも何度も繰り返し観てしまうのは、ある意味では自分のうちにある思想的な弱点を見失うまいとする想いからなのでしょうか。

その意味からすれば、「愛のコリーダ」以降の作品は、ある意味で安心して観ることが出来ました。
それはつまり、どの作品も相対化し「観客」として観ることが出来たからなのかもしれません。
とりわけ「愛のコリーダ」は三木稔先生が音楽を担当されたこともあり、三木先生とお話をするおりにたびたび話題に上るなど、私にとっては思い入れの深い作品でした。
未だに国内では完全版を観ることができないのが残念でなりません。

とりとめのないことをつらつらと書き綴ってしまいましたが、やはりお亡くなりになったことは残念でなりません。
無理かもしれない、と思いつつも、また不死鳥のように蘇って下さるのではないか、とどこかで願う気持と強く持ち続けて来た故に。

心よりご冥福をお祈り致したいと思います。

「絞死刑」


「少年」「ユンボギの日記」


「日本の夜と霧」


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Cecilia

大島渚さんが亡くなったこと、私も驚きでした。
とは言っても、ずっとご病気だったので、「え?」というよりは「ああ、とうとう・・・」という感じでした。
「愛のコリーダ」「戦場のメリークリスマス」など観たことがありませんので是非観てみたいです。「愛のコリーダ」は完全版で観てみたいものだと思います。
伊閣蝶さんの記事で大島渚さんの人となりがよくわかりました。特に

>共同体の中から疎外された者たちに対する視線と考察

という部分に興味を持ちました。

>共同体というものは、どのような規模であれ一定の権力構造を有します。従ってそこからはみ出す者に対して容赦がない。故に、人々は保身のために共同体にすり寄っていこうとする。

なるほどと感じます。身近なところでもよくあることですよね。

by Cecilia (2013-01-17 08:56) 

夏炉冬扇

今日は。
早く普通に戻られますように。
テレビあちこち取り上げてますね。
僕は映画みてないような…
by 夏炉冬扇 (2013-01-17 17:44) 

伊閣蝶

Ceciliaさん、こんばんは。
仰る通り、「ああ、とうとう・・・」というのが私も偽らざる感覚でした。
「愛のコリーダ」は、ボカシはともかくとして、当初公開版はカットが余りにひどくて、途中で訳が分からなくなってしまう部分が見受けられました。
現在の版はそこまで酷くはないそうですが、やはりカットはされているようですね。
しかし、政治権力的なものに向けられていた目線が、非常に人間的な「性」の部分に大きくシフトされているという点では記念碑的な作品ですし、個人的には三木稔先生の音楽(ことに「めばえ」の美しさはたまりません)にとても魅かれます。
それから「戦場のメリークリスマス」。
日本軍属の問題にまで言及しており、非常に衝撃的ですが、何よりも坂本龍一の音楽が充実しています。とてもこのとき初めて映画音楽を担当したとは思えません。

共同体からはみ出す人間とその構造。
仰る通り、身近なところにもたくさんあります。それをしがらみと感ずるのかどうかは人それぞれと思いますが。

by 伊閣蝶 (2013-01-17 21:30) 

伊閣蝶

夏炉冬扇さん、こんばんは。
ご心配をおかけしすみません。
もうすっかり快復しました。ただ、お酒は控えていますが。
大島渚監督死去のニュースはやはり結構取り上げられていますね。
何だか「朝生」の話ばかりで残念な気もしますが。

by 伊閣蝶 (2013-01-17 21:30) 

hirochiki

ご無沙汰しております。
お腹をひどく壊されたようですが、レスを読ませていただき回復されたとのことで何よりです。
大島渚監督は、これまでも何度か病に倒れながらも頑張っていらっしゃったので
今回の訃報は大変驚きました。
奥様の献身的な介護も強く印象に残っています。
「戦場のメリークリスマス」は、主人は学生時代に二度観たことがあるそうです。
私も、観てみたいですね。
by hirochiki (2013-01-19 19:29) 

のら人

コメンテーターとしての大島監督もも好きでしたが、非常に残念です。
by のら人 (2013-01-20 20:46) 

伊閣蝶

hirochikiさん、こんばんは。
コメント、ありがとうございます。
お変わりございませんでしょうか?
ご心配をおかけし、すみませんでした。
消化器系統の強さには地震があったのですが、今回は参りました。
点滴まで経験し、びっくりですが、もう完全に快復しております。
大島渚監督、もうダメかもしれない、という危険な状況をこれまでも乗り越えてこられましたから、私もとっても残念でなりません。
ご夫人である小山明子さんの献身的な看護も印象深いものがあります。さすがに「同志」だな、と思いました。

「戦場のメリークリスマス」、これは映画としても大変面白く、坂本龍一、ビートたけし、ディヴィト・ボウイなどの演技も素晴らしいものでした。
機会がございましたら、是非ともご覧下さい。
by 伊閣蝶 (2013-01-20 21:53) 

伊閣蝶

のら人さん、こんばんは。
大島渚監督はもともと思想的な方でしたから、コメンテーターとしても、傑出しておられましたね。
ただ、右翼などからの脅迫もあって。本人のみならず家族にまで危険後及んだこともあり、コメントも次第に穏当なものにならざるを得なかったのは、ご本人も無念だったのではないかと思います。
by 伊閣蝶 (2013-01-20 21:55) 

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