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樋口一葉、生誕140年。 [日記]

5月1日はメーデー。
私が労働運動に血道をあげていた頃(四半世紀以上前)は、職場を休んで参加したものですが、現在、連合は休日に集会などの行事を実施するようになりました。
それでも全労連など非連合系の団体は5月1日に開催しているようですね。
確かに、平日、まとまった労働者が同時に休暇を取得すれば、ある意味での同盟罷業に近いものになるわけですから、連合の行き方も、現在ではやむを得ないところでしょう。
そんなこともあって、当時は総評を中心として「『5月1日』を国民の休日に!」などというスローガンを掲げたものでしたが。

それはともかく、5月1日・2日を休めば、週休二日の会社は9連休となるので、さぞかし電車も空いていていつもの慢性的な遅延もなかろうと高を括っていたところですがさにあらず。
子供たちは学校に行き、通勤電車はきちんと混んでいて、案の定、電車も遅延しました。
少しはまとまった休みをとって観光でもし、消費に貢献したらどうなのだろう、などと思ってしまいますね。
尤もそんなことを書いている私自身も暦通りの出勤ですから、下手なことはいえないのですが(^_^;

先程、日付が変わって5月2日になりました。
今日は樋口一葉の生誕140年に当たる日なのだそうです。
itiyou.jpg
1872年5月2日に生まれ、1896年11月23日にわずか24歳の若さで肺結核により亡くなった一葉。
しかしその短い生涯の、とりわけ最後の1年余りの間に生み出された作品は、正しく日本文学史上に燦然と輝く傑作ぞろいであったと私は思っています。
その中でも私はとりわけ「にごりえ」が大好きで、それを題材に取った文章を、以前このブログでも書きました。

「にごりえ」を読んで

改めて読み返してみましたが、うーん、やはり生硬な文章です(^_^;

他では、「大つごもり」「十三夜」「ゆく雲」「裏紫」などが好みです。
そのほか、「琴の音」の、流れるように美しい文章を読むと、ああ、短編小説を読む悦びとは斯くの如きものであるかと、ため息をついてしまいますね。何よりもこんなに短い文章でこれだけの世界を描き出す筆力には、心底から驚嘆させられます。

それから特筆すべきは彼女の日記と書簡集でしょうか。
何れも素晴らしく、殊に書簡集は手紙を書く際の手本にもなりそうなほど端正できちんとしたものでした。
それでも、時折、泉鏡花などに甘えてみたりといった20代前半の女性の心根が綴られていて、思わず頬が緩んでしまいます。

ところで、一葉の文章は文語体で書かれているため、現代の人はそのままでは読めないのではないか、という話をよく聞きます。
確かに文語文には間違いありませんが、中学校とか高校で習った程度の古文の知識があれば、特に読み下すのに問題があるとは思えません。源氏物語のようなものとは違うのですから。
例えば、先にあげた「琴の音」の冒頭。
空に月日のかはる光りなく、春さく花のゝどけさは浮世万人おなじかるべきを、梢のあらし此処((ここ))にばかり騒ぐか、あはれ罪なき身ひとつを枝葉ちりちりの不運に、むごや十四年が春秋を雨にうたれ風にふかれ、わづかに残る玉の緒の我れとくやしき境界にたゞよふ子あり。

どうでしょう、すーっと読めてしまいませんか?
「玉の緒」をどう解釈するか、という点はあるのかもしれませんが、あまり深く考えず、式子内親王の歌「玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば忍ぶることの弱りもぞする」から「命」あたりを連想すれば足りるのではないかと考えますし。
是非とも文語文の持つ、優美でリズミカルな韻律を楽しんでほしいものだなと、老婆心ながら思う次第です。

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hirochiki

我が家も、私は九連休なのですが主人が土日以外は出勤です。
ちなみに、娘は今日からやっと五連休に入ります。
伊閣蝶さんも、明日からはいよいよ連休に入られるのですね。
樋口一葉のこの文章を読んでいたら、学生時代の国語の授業を思い出しました。
私の学校は、国語の授業が現代国語、古文、漢文に分かれていて先生もそれぞれいらっしゃいました。
現代国語と漢文はわりに得意だったのですが、なぜか古文は苦手でした。
でも、こうして年齢を重ねてからあらためて文語文を読んでみると、なぜか自然にすっと自分の心に入ってくるような気がします。
ところで、連休の後半はご実家へ帰られるとのことですので
くれぐれもお気をつけてお出かけ下さいね。
by hirochiki (2012-05-02 06:07) 

伊閣蝶

hirochikiさん、こんにちは。
ご主人は土日を除いてご出勤とのこと。せっかくの大型連休もまとまったお休みとはならないのですね。
年末年始の折も同じようなことをお聴きした記憶がありますが、本当に大変と存じます。
私の方は、幸い明日から後半の連休に入ります。7日の月曜日も休みをもらう予定にしています。

私も高校時代は、現代国語、漢文、古文の三種類で、教師もそれぞれ異なっていました。
今の学生はどんな感じなのでしょうか。
hirochikiさんと同じく、私も現国と漢文は得意でしたが、古文はちょっと敬遠気味でしたね。
ただ、活用形などに関していえば古文の方がはるかに論理的だなと感じましたけれども。
いずれにしても、古典はある程度歳を重ねたから読んだ方が、すっと心の中に入ってくるような気がします。
私も古典を精力的に読み始めたのは就職してからのことでしたから。
ただ、樋口一葉や森鴎外などは、文語文で書かれてはいても、句読点の使い方等についてやはり現代に近いので、読みやすいのではないかなと思いました。
伊勢物語とか、内容は大変美しいのですが、原文に句読点はありませんからね。

明日から渋滞を押して会津に帰省します。
天気が悪そうなので気をつけて行ってきたいと思います。ありがとうございました。
by 伊閣蝶 (2012-05-02 12:20) 

don

こんにちは!
おかげさまで、なにも予定はありませんがGWを満喫しています。
樋口さんは青空文庫にチャレンジしましたが、やっぱり読みにくくて
断念しました。あれをスイスイ読むなんてすごいですね。

この記事をきっかけに、「たけくらべ」のあらすじを読んでみました。
吉原の遊女になるという運命を、14歳くらいの少女が受け入れると
いうのは、過酷ですね。それも自ら沈むのじゃなくて、親に決められて
いるという。

短い青春、その瞬間、瞬間を輝いて生きていかざるを得ないです。
この少女だけでなく、僕たちみんなおなじことかもしれませんが。
by don (2012-05-02 14:34) 

Cecilia

以前「たけくらべ」に関する記事を書いたことがあります。
http://santa-cecilia.blog.so-net.ne.jp/2008-11-19
まったくお恥ずかしい内容なのですが、有名な割に原文で読んでいる人は結構少ないのでは、ということについても触れました。
久しぶりに一葉の作品を読んでみたくなりました。
ご紹介の「琴の音」の冒頭、文が長いなと思いました。普段文が長くならないように心がけていますが、長いのも良いですね。
by Cecilia (2012-05-02 14:54) 

tochimochi

メーデー、私が社会人になったころは休日が当たり前と思っていました。しかし労働者の祭典と口では言いながら、山に行っていたようです。あの頃すでに御用組合という言葉が流行し、労働運動も下火になっていったような気がします。
樋口一葉、読んだことはありませんがこんなに短命だったのですか。その才能を想うと惜しいことです。ただ古文が苦手だった私は「琴の音」の冒頭にしてもちょっと考えてしまいました。
by tochimochi (2012-05-02 17:18) 

伊閣蝶

donさん、こんばんは。
美登利の宿命、私も過酷だなと思います。
ましてや真如との間のわだかまりに自分としての収まりもつかないのに…。
彼女が少女に別れを告げる、という下りも、あの小説からは様々な想像が広がります。
遊郭の女として生きる「備え」ができたとも読めたりしますし。
私は一葉の小説の中でも「たけくらべ」は余りに痛ましくてたまらず、実はあまり繰り返し読んでいないのです。
by 伊閣蝶 (2012-05-03 00:40) 

伊閣蝶

Ceciliaさん、こんばんは。
過去の記事、拝見しました。
なるほど、確かにと頷きながら読んだ次第です。
ところで、一文の長さ、という点では、たけくらべの「一」は典型的ですね。
あの文章に、句点はたった一つですから。
でも、不思議なことに冗長さを全く感じませんね。
これもやはり一葉の筆力故、ということなのでしょうか。
by 伊閣蝶 (2012-05-03 00:45) 

伊閣蝶

tochimochiさん、こんばんは。
私も若い頃は、そうした感覚でした。
メーデーで休まないなんて考えられない!といった感じです。
会社の組合担当が、物陰に隠れながらメーデー参加者の確認をしていましたが、それとわかるとむしろ傲然たる態度で見せつけたりした恥ずかしい頃のことを思い出します。
それと、やっぱり山に行ってしまったことが多かったなと思い返しました。
一葉ですが、24歳とは余りに儚い一生過ぎると、やはり残念に思います。
壮年・老年の域に達した彼女がどんな物語を書いてくれたのか、そんなことをふと思ったりします。

by 伊閣蝶 (2012-05-03 00:50) 

のら人

24歳の若さで亡くなった一葉さんの小説をノンビリ読める日がくるのは、いつの事か・・・。 ^^;  いつかまとめて読みたいです。
by のら人 (2012-05-04 12:25) 

伊閣蝶

のら人さん、こんにちは。
のら人さんもお忙しい日常をお過ごしのご様子。
確かにゆっくり小説を読みながら過ごす時間を作るのは難しいところかもしれません。
私もこのところさっぱりです。
by 伊閣蝶 (2012-05-04 15:16) 

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