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黒部の太陽「完全版」を観てきました [映画]

今日は朝から晴れ間が覗いています。
でも、ちょっと雲が多めなのと気温が低いので、やはり春の温もりから遠そうですね。
朝から、シーツなどを洗濯し、今、干し終えたところです。

黒部の太陽・タイトル昨晩、待望の「黒部の太陽・完全版」のプレミアムチャリティー上映会に出かけてきました。
場所は東京国際フォーラムのCホール。
19時15分から上映開始、18時45分開場ということで、18時30分頃に着いたのですが、ホールは結構な人だかりでした。
年齢層は、だいたい私たち世代から上、という感じで、やはり男性の数が多いような印象です。
私は、東京国際フォーラムから歩いて数分のところに勤務しているのにもかかわらず、これまで一度も足を踏み入れたことがありません。
家内も初めてなので、ちょっと付近(飲食店やショップなど)を見て回りながら時間をつぶしました。
「相沢みつを美術館」もこの中にあることは知っていましたが、そもそもあまり興味がないこともあり、もちろん入ったことはありません。
そんなわけで、その入り口への階段の降り口からちょっと場所を確認。まあ、今後も単独で来ることはないと思いますが。

開場5分くらい前にロビーに赴くと、人数はかなり増えていました。

上映会場であるCホールはかなりの大きさで、スクリーンはむしろ小さめに見えます。
また、本来ホールであるが故に、近頃の映画館では当たり前のようになった、上映中の飲食などは禁止。これは大変好もしいことでした。
「黒部の太陽・完全版」の上映に特化した催しですから当然のことなのですが、余計なコマーシャルもなし。
この映画の製作のいきさつや意図などが映し出されたあと、モルゲンロートに浮かぶメインタイトルが映し出され、黛敏郎氏によるメインテーマ(フルオーケストラに声楽までが加わる)が朗々と鳴り響き、「黒部の太陽」が始まります(因みにここの画像は、BSプレミアムで放映された特別編のオープニングをデジカメで撮ったものです)。
もうこの時点で、私などは目を潤ませてしまいました。
破砕帯にぶつかった切羽が崩壊し巨大な濁流が砰(ずり=掘削した際に出た岩屑や砂礫など)を巻き込んで押し寄せ、人々を飲み込むシーンで第一部が終了し、15分の休憩。
休憩時間ももどかしく席に戻り、第二部の開始を待ちます。
第二部の冒頭は重くたれ込めた雲を背景とした針ノ木岳が冒頭で映し出され、続いて会議室のシーンという、動から静への転換となります。
このシーンでは破砕帯にぶつかった現状と対策などが描写されますが、こうした重要なシーンが、先日テレビ(BSプレミアム)で放映された特別編ではきれいさっぱりカットされていて、こうして完全版を観ると改めてどれほど無惨なカットが施されていたのかが痛感されました。
この映画でデビューした寺尾聡の出演シーンは、父親である宇野重吉との絡みのシーンや坑内での事故、死、両親役の宇野重吉と北林谷栄が黒四ダムに佇んで息子を偲ぶシーンまで含め、全てカット。
剛(石原裕次郎)と由紀(樫山文枝)との、結婚に至るまでの経緯や心の交流・葛藤などのシーンも、反目し憎しみあってきた剛とその父親である源三との最期の別れのシーン(剛の誤解の一部が氷解する)なども、全部カットされていました。
あの特別編を観て「黒部の太陽」を評価することは大きな間違いを犯すことになりましょう。
今回のプレミアムチャリティー上映会の結果を見て、場合によってはDVDの製作も考えているという話を側聞しましたが、この映画の持つ本来の価値をきちんと伝えていく上でも、是非とも実現して欲しいと切望せざるを得ません。

石原裕次郎氏は、この映画は大画面で観て欲しいから、とこれまでビデオ化を拒んできたそうです。
その気持は、今回の完全版を東京フォーラムの大画面で観て、なるほどと納得しました。
確かに、この映画の持つスケール感を家庭の小さなテレビで表現することは極めて困難なことでしょう。
特に、あの破砕帯の決壊シーンの迫力は映画館のスクリーンで観て初めて感得できるものなのではないか、そんなふうにも思います。
このシーンの撮影では、セットとしてトンネルを造っていますが、本坑関連で252m、パイロットトンネル関連で111mという途方もないもので、切羽崩壊のときの放水用の水槽は、高さ9m直径8.2m総貯水量420トン、1秒間に約25トンを放水するという巨大な仕掛けだったそうです。
切羽崩壊のシーンで水流に襲われる役柄は、北川(三船敏郎)・岩岡剛(石原裕次郎)・岩岡源三(辰巳龍太郎)・佐川(玉川伊佐男)・安倍(下川辰平)・重夫(平田重四郎)の6名でしたが、高齢のため代役を立てた辰巳氏以外は、全員その場面に立ち会いました。
カメラは11台、失敗の許されない一発勝負の撮影。
結果として、石原裕次郎氏を始めとして、関係者40名以上にケガ人を出し、その石原氏は、右手親指の骨折のほか大腿部の打撲などの重傷を負ったそうです(三船敏郎氏は間一髪で逃げ切り無事だったとのことですが、玉川伊佐男氏も怪我をされました)。
熊井啓監督も腰や足に打撲傷を負い、実際の破砕帯決壊さながらの阿鼻叫喚の世界が展開されたのではないでしょうか。
カメラもほとんど破壊されたとのことでしたが、フィルムマガジンは奇跡的に無事で、見事このシーンを収めた写真を使うことが出来たとのこと。
恐るべき情熱と、それゆえになし得た撮影であったのではないでしょうか。

今回の完全版を観て、特別編以上に大変印象に残ったのは、音響効果についてです。
熊井監督はもともと映像や音楽について大変鋭敏な感覚をお持ちの方でしたが、この映画における音響効果は、熊井監督が、それまで抱いていた鋭敏な映像作家という一面だけではないことを強く印象づけられることでしょう。
切羽崩壊のシーンで、無音の中に坑内を補強する梁などが軋む音を一音一音響かせ、それを受け止める三船敏郎氏の表情とリンクさせたり、滝澤修の関電社長が柳永二郎の熊谷組専務に破砕帯を抜くことを確約させる場面での蝉の鳴き声の処理(それまでうるさく鳴いていた蝉の声を、核心部分で完全に消し去り無音にする)、黒四ダムを歩く人たちの足音のみを響かせたり、崖から落下するボッカに耳をつんざくような落下音を与えたり、それこそ、正に「ハッとさせられる」表現の目白押しです。
特に、足音に関する神経の使い方は特筆もので、坑内や雪道、登山道などでの用い方は実にきめ細かく計算されたもののように感じました。
残念ながら、特別編では、これらの表現もかなり薄っぺらなものになっているような気がします。
もちろん、前半の大きなクライマックスである切羽崩壊シーンの緊迫感は特別編でもある程度感得できるとは思いますが。

などなど、かなり感覚的なこと羅列してきましたが、とにかく3時間15分という上映時間は正に瞬時のうちに流れ去り、とてもそのような時間の経過があったとは思わせないくらい短いものに感ぜられました。
何故にこの映画を2時間15分にまで短縮する必要があったのか、全く理解できません。
しかも、かつてのテレビ放映用のカットも含め、その編集作業は、熊井監督の全く関知せざる所で行われてきたようです。
それ故にこそ熊井監督は亡くなる直前まで完全版の上映を強く望んできたのでありましょう。
今回の完全版の上映、東日本大震災チャリティというきっかけはあったにせよ、熊井監督も彼岸で喜んでおられるのではないでしょうか。

さて、今回このような形で「黒部の太陽」完全版を観ることができて、私は大変満足をしています。
恐らく、当日、東京国際フォーラムに駆けつけた多くの観客も同じ想いでおられたことでしょう。
上映後、観客から時ならぬ拍手が当然のように沸き起こりました。
こうした光景は近頃はほとんど見られなくなりましたが、以前、映画に感動した観客がスクリーンに向かって拍手をすることはしばしばありましたので、これもまた感無量の想いがあります。
そんな私たちに、石原プロモーションは、次のようなお土産を配布してくれました。
kurobeomiyage.jpg
石原裕次郎のカレンダーは、定価2500円です。
確かに、もう三月の終わりですから、売れ残り商品と言えましょうが、その他に焼き肉のたれとかドレッシングなども付けて配ってくれたのです。
この日の観劇料は1000円で、東日本大震災のための募金をしたとしても、随分手厚い歓待だなと、その点も感動しながら、夜の11時過ぎという、土曜日としては些か遅い時間に、大満足で帰宅したところです。



なお、全国縦断チャリティー上映会は、5月13日に福岡市のイムズホールを皮切りにスタート、併せて同日、映画の舞台となった長野県大町市文化会館大ホールと、富山県黒部市国際文化センター「コラーレ」で特別上映会を行うとのことです。
被災地での無料上映会も決定しているとのことで、是非とも多くの方々にご覧いただきたいものと改めて思いました。
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夏炉冬扇

お早うございます。
黒部の太陽、被災地を励ましているとニュースで聞きました。
by 夏炉冬扇 (2012-03-26 09:04) 

伊閣蝶

夏炉冬扇さん、こんにちは。
「黒部の太陽」完全版のチャリティ上映会、被災地での無料上映も決まっているそうです。
今回の上映会には被災地からの招待者もおられたそうで、感無量です。

by 伊閣蝶 (2012-03-26 12:12) 

tochimochi

微に入り細を穿った解説に見ているような錯覚を覚えてしまいました。
観客からの拍手はまさに感動の結果ですね。
大画面でなくとも優れた作品には引き込まれることと思います。
見る機会のない方たちのためにもDVD化を望みたいところですね。

by tochimochi (2012-03-26 18:41) 

hirochiki

「黒部の太陽」の完全版を観られた感動や興奮が、この記事からいっぱい伝わってきます。
それにしても、40名以上もケガ人を出し裕次郎さん自らも怪我を負いながら制作された映画なのですね。
被災地での無料上映会は、きっと裕次郎さんも喜んでおられることと思います。
本当に素晴らしいことですね。
by hirochiki (2012-03-26 18:42) 

のら人

絶対に見たい。見たい。見たい!
次!は、無いのでしょうか? (苦笑)
しかし、伊閣蝶さんの素晴らしいご解説。
まさに、命懸けの撮影、なんて今後はそんな映画は二度と出てこないのでしょう。 お笑い系でせいぜい爆竹を使用する位ですね。 ^^;
by のら人 (2012-03-26 20:41) 

伊閣蝶

tochimochiさん、こんばんは。
きちんと推敲もせず感覚的な文章を羅列したシロモノですから、そのように仰っていただき汗顔の至りです。ありがとうございました。
観客の拍手は、正に自然発生的な感動の証だったのだと思います。
DVD化が実現し、より多くの人たちに観て欲しいと心から思いました。
by 伊閣蝶 (2012-03-26 23:26) 

伊閣蝶

hirochikiさん、こんばんは。
どうも、あられもないむき出しの感動をそのまま書いてしまった駄文で恥ずかしい限りですが、なんだか言葉を選ぶ余裕すらなかった、というのが実感です。
この映画は、撮影そのものも大変困難を極めましたが、当時の映画制作における大きな制限事項であった「五社協定」にもろに引っかかって、何度も頓挫寸前までいったようです。
それを、三船氏・石原氏・中井氏の三人のプロデューサーと、自分の首をかけてまで撮ろうとした熊井啓監督の不退転の決意によって日の目を見たわけなのでした。
それだけに石原裕次郎さんにとっては特別の思いがあったものと思われます。
東日本大震災という未曾有の悲劇に見舞われた被災者の方々を、こうしたかたちで支援するということ、仰るとおり裕次郎さんも喜んでおられるものと信じます。
by 伊閣蝶 (2012-03-26 23:37) 

伊閣蝶

のら人さん、こんばんは。
どうです、観たくなったでしょう(笑)
5月から全国縦断チャリティ上映会が開催されますから、恐らく機会はあると思われます。
こうしたスペクタクルシーンは、現在ではCGで処理されることが多いと思われますが、当時はそのような技術はもちろんなく、ミニチュアでは水の粒子が実際よりも大きく写ってしまうので、どうしてもこうした大掛かりなセットを使わざるを得なかったのでしょう。
正に命がけの撮影であったと思います。
DVD化、実現して欲しいものと切望するところです。
by 伊閣蝶 (2012-03-26 23:42) 

ムース

国際フォーラムは学会でよく行きますね。もっとも、用がないとあまり行かないところではあります。
黒部の太陽は今TVのHDに入っており、近々目を通そうかと思いますが、これこそ邪道な行為なのかもしれません。しかも、カットされているわけですし。これだけ重要な部分を大幅にカットしているのは本作や「天国の門」なんかも有名ですが、いわくつきの作品では多いですね。
それにしても素晴らしいお土産でうらやましい限りです。こういうの好きですね・・・。
##) スウェーデン放送合唱団によるラフマニノフ「晩祷」来日公演 というのがあるようで、ライブで聴いてみたいと思っております。6月ですが。
by ムース (2012-03-28 00:15) 

伊閣蝶

ムースさん、こんにちは。
確かに学会などの開催において国際フォーラムは設備や交通の面でも至便であろうと思われます。
私は職業上、あまり関連がないので行く機会がなかったということかもしれません。
黒部の太陽「特別編」のカットは誠に残念なものですが、それでも一見の価値はあろうかと思います。
恐らく、全国縦断上映会は御地でも開催されることでしょうから、どうぞその機会もお見逃しなく。
お土産、正直に申し上げてびっくりしました。
翌日は早速、我が家では珍しい焼き肉にして、タレを使わせて頂きましたよ。
ところで、スウェーデン放送合唱団による「晩禱」の演奏、6月19日に東京オペラシティでも行われるようです。
残念ながら、1~9曲までで全曲演奏ではないようですが、これは聴きものですね。
by 伊閣蝶 (2012-03-28 12:20) 

Cecilia

伊閣蝶さんの詳細な記事でますます観たくなりました。
是非とも劇場でノーカットで観てみたい作品だと思いました。
お土産もうれしいですね♪
by Cecilia (2012-03-29 09:17) 

伊閣蝶

Ceciliaさん、こんにちは。
感覚に任せたまとまりのない記事ですが、ご覧になってみたいと仰っていただき嬉しく思います。
全国縦断チャリティ上映会は、恐らくそれなりの規模で開催されると思いますので、お近くでも上映の機会があるのではないでしょうか。
是非ともご覧いただきたいと思います。
しかも、お土産付きですから(笑)
by 伊閣蝶 (2012-03-29 12:15) 

裕次郎

素晴らしい感想、評論ですね、黒部の太陽完全版について私が言いたかった事、全部言われてます。DVD化は来年度に決まっていますが、サントラCDも出して欲しいですね。
by 裕次郎 (2012-05-06 03:34) 

伊閣蝶

裕次郎さん、こんにちは。
身に余るご評価を頂き、恐縮しております。
ありがとうございました。
ところで、DVD化、来年度に決定されているのですか!
これは嬉しい限りです。本当に待ち遠しく思います。
サントラ盤も是非検討して欲しいところですね。
by 伊閣蝶 (2012-05-06 16:28) 

裕次郎

管理人さま、返答ありがとうございます。黒部の太陽完全版ですが、当時サントラLPが発売されており、私も所有してます。しかし、モノラル録音の上、ナレーションやセリフ入りの為、純粋に音楽を楽しめません。劇中未使用の楽曲も収録されており貴重ではありますが、やはりステレオにミックスしたCDであの黛敏郎さんの名曲を聴きたいですね。
by 裕次郎 (2012-05-09 23:07) 

伊閣蝶

裕次郎さん、こんばんは。
こちらこそ、ありがとうございました。
黒部の太陽のサントラLPはさすがに手元にありません。
ナレーションなどが入っているとすれば、仰る通り、当時のサントラ盤の常套的な作品だったのでしょう。
ステレオに復刻したものが発売されるのであれば、これは是非とも!とお願いしたいところです。
by 伊閣蝶 (2012-05-11 00:23) 

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