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チャイコフスキー交響曲第5番、ムラヴィンスキー&レニングラード・フィル(DVD) [音楽]

昨日に引き続き、晴天の朝となりました。
昨晩も良く晴れ、久しぶりに満点の星を堪能した後、夜更けの東の空から昇る下弦の月の姿に接し、少し不吉な感じすらする橙色の輝きに見とれてしまったものです。
しかし、相変わらずの冷え込みです。
とても三月半ばの気温とは思えません。
三寒四温という言葉もどこへやら、という感じですね。

それでもずいぶん陽が長くなってきました。
今日のお昼、日比谷公園に散歩に出かけたのですが、風は冷たいながらも陽射は暖かで、やはり春の温もりを感じます。
紅梅の花もやっと咲き始めました。
koubai0313.jpg
地面に目を落とすと、オオイヌノフグリも可愛い花をつけています。
ooinunofuguri.jpg
梅の花の香りを楽しみつつ、次は沈丁花かな、などと楽しみになりました。

チャイコフスキーの後期交響曲、さすがに数多ある交響曲の歴史の中でも屈指の人気を保つ名曲ばかりであって、どれも大変に魅力的ですが、私はその中でもとりわけ5番がお気に入りです。
その第一の理由は、第一楽章の冒頭にクラリネットによって暗く導き出される「運命の動機」がこの曲全体の示導動機(ライトモティーフ)となり、最終楽章ではdurに転じて高らかに輝かしく歌いあげられる展開にみられるような、強固な構築力に大きな魅力を感じているからにほかなりません。
チャイコフスキー自身は、フォン・メック夫人に宛てた書簡に「この曲には大袈裟な飾った色彩、不誠実な混ざりものがある」などと自嘲的に書いていたようですが、それは初演の際に評論家連中が冷たい反応を示したことによって自信喪失に陥っていたからで、聴衆やオーケストラの団員達からは熱狂的に受け入れられたことから、次第に自信を取り戻すにいたったようです。
まあ、いつの時代にも半可通な評論家は存在するものですが、自分で何物を生み出すこともできないくせに知ったかぶりの知識で創造者を攻撃する連中の無責任な態度が、どれほど貴重な才能を摘んでしまう危険性があるか、よくよく自覚してほしいものですね。

それはともかく、私は中学生時代にホルンを吹いていたこともあって、やはり第2楽章のホルンのソロにはとりわけ心を奪われてしまいます。

ところで、チャイコフスキーの交響曲というと、私などはやはりムラヴィンスキー&レニングラード・フィルの演奏がすぐさま脳裏に浮かんでしまうのですが、ムラヴィンスキーは、この第5番にかなり御執心であったのだそうです。
日本ムラヴィンスキー協会の天羽健三会長によると、ムラヴィンスキーによるチャイコフスキー交響曲第5番の総演奏回数は、なんと133回にも及ぶとのことでした。
演奏会の記録として残っているものを調査した結果がこの数なのですから、これは驚くべき数字です。
ムラヴィンスキー自身「チャイコフスキーとショスタコーヴィチのそれぞれの交響曲第5番は一番多く振った」と語っていますが、恐らく他の指揮者では例を見ないものではないでしょうか。
その中でも一番有名なのは、LPレコード時代から名演奏・名録音として確固たる地位を築いてきた1960年11月のウィーン楽友協会ホールにおける演奏でしょう(グラモフォン盤)。
峻烈という形容がぴったりくるような精緻極まりない演奏を、インテンポで最後まで貫くその強靭な精神力には、いつ聴いても圧倒される想いです。
私は、例えばゲルギエフ&BPOの演奏も非常なお気に入りなのですが、やはりそうした演奏を比較する際に、どうしてもこのムラヴィンスキーによる1960年の演奏がメルクマールになってしまう傾向が強くて、ちょっと苦笑してしまいます。

さて、ムラヴィンスキーはソ連時代に活躍し、ソ連崩壊に立ち会うことなく死去してしまいましたから、世界的に高名な指揮者でありながら、残された録音や映像の数は極わずかしか公開されていませんでした。
それが近年になって眠っていた記録が次々に掘り起こされることとなり、中でも録画映像が出てきていることは私たちのようなファンにとって誠に嬉しいことといえましょう。

mravinsky05.jpgそんな中で、ちょっと異色の映像記録がありますのでご紹介します。
これは1982年の録画ということになっていますが、録画された詳しい日時や場所は不明です(天羽会長によれば1982年10月に実施されたのではないかとのこと)。
この映像記録、1989年4月に東芝EMIからレーザーディスクとビデオテープとして発売され、その後、演奏の部分を小分けにしてDVD化されました。
従って、当初のレーザーディスク版などには収録されていたムラヴィンスキーのインタビュー映像などはカットされています。
異色というのは、カーディガンを着たムラヴィンスキーの指揮する姿のみを執拗にカメラが追い、オーケストラはほとんど画面に登場しないという点です(第2楽章でホルンが少し映ります)。
聴衆は存在せず、恐らくリハーサル風景を撮ったものでしょう。
音楽演奏のDVDはたくさん存在しますが、指揮者だけではなく、オーケストラ全体やホールの様子やソロパートの演奏者のクローズアップや観客の様子まで、普通はかなり撮影されています。
そうやって映像作品としての多様性を演出するのがセオリーにもかかわらず、この映像では、徹頭徹尾ムラヴィンスキーの指揮姿しか映し出されないのです。
従って、通常の「眼で観ても楽しめる」音楽DVDを期待された方は、かなりがっかりされることと思いますが、ムラヴィンスキーがどのようにして音楽を作り上げていくのかという過程に興味を示される方にとってはまたとないDVDではないかとも考えます。
私自身は大変に興味を引かれ、何度観ても飽きないのですが。

ムラヴィンスキーが、なぜ、これほどまでにチャイコフスキーの交響曲第5番に執着していたのか。
そのことは、今現在までも謎なのだそうです。恐らくムラヴィンスキー自身もしかとは説明できかねることではないかと思われます。
しかし、インタビューでムラヴィンスキー自身が語った次の言葉に、もしかするとその回答の示唆があるのかもしれません。
感傷的なものは排除しなくてはならない。構成をしっかりと作り上げなければならない。
最後は長調だが手強い。単なる歓喜で終わる作品ではない。


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hirochiki

昨日はあまりにも寒くて、ずっとオフィスにこもっていたのですが、
一枚目の写真を拝見したら、日中に外に出れば良かったと思いました。
澄みきった青空に紅梅が良く映えてとても綺麗ですね。
朝から清々しい気持ちにさせていただきました。

チャイコフスキーのお話に限らず
他人を批判される方に限ってご自分は・・・という場合が多いような気がします。
伊閣蝶さんのホルンの演奏は、いつか聴かせていただきたいですね♪

by hirochiki (2012-03-14 06:00) 

伊閣蝶

hirochikiさん、こんにちは。
昨日は名古屋も相当な寒さだったのですね。
私もさすがにどうしようかなと迷ったのですが、職場からすぐ近くなのでどうしても確認したくて出かけたのでした。
だからなおのこと、咲いていた紅梅に元気づけられた次第です。

批判という行為は、よほどの確信がないとなかなかできないものだと思います。単なる知識のみならず、その人がいうのならそういう観点もあるのだろうと思わせるくらいの人的な素養が必要となるのではないでしょうか。
だから、批評というものはよくよく慎重に行うべきだろうなと思います。

ホルンの演奏ですが、たまたま姪の一人が中学・高校と吹奏楽でしかもホルンを吹いていたので、ちょっと借りて、それこそ40年ぶりくらいで吹いてみたことがあります。予想通り全然だめでした(>_<)
by 伊閣蝶 (2012-03-14 12:42) 

夏炉冬扇

今晩は。
日比谷公園もいい天気だったでしょうね。こちら2日陽気よくて犬がルンルンです。
by 夏炉冬扇 (2012-03-14 22:19) 

伊閣蝶

夏炉冬扇さん、こんばんは。
御地では好天が続いているのですね。
何よりです。ワンちゃんも大喜びでしょう。
by 伊閣蝶 (2012-03-14 23:56) 

Cecilia

5番ってどんな曲かな、と思い今聴いています。
「運命の動機」はたぶんこれだろうと思いながら聴いていますが、印象的なメロディーですね。

>感傷的なものは排除しなくてはならない。構成をしっかりと作り上げなければならない。

なるほど、と思いますね。

ところで私はオオイヌノフグリが大好きです。この花の輝きはどんな宝石にも勝る美しさだと思います。
by Cecilia (2012-03-16 08:36) 

伊閣蝶

Ceciliaさん、おはようございます。
「運命の動機」は、最初の登場が如何にも暗い感じなのですが、それが次々に装いを変えて、フィナーレではdurで高らかに歌い上げられます。
その表情の変化も、私は好みの一つです。
ムラヴィンスキーのこの姿勢は、他に例えば「悲愴」などでも顕著です。
第一楽章の再現部などは、みんなやっぱりルバートをかけたくなるところですが、その誘惑をきっぱり断ち切っている姿勢は見事だなと思いました。
Ceciliaさんもオオイヌフグリの花がお好みでしたか。
仰る通り、この花が陽を受けて輝いていると、どんな宝石もかなわない美しさだなと感じます。
宮沢賢治の「十力の金剛石」をちょっと思い出してしまいました。
by 伊閣蝶 (2012-03-16 09:30) 

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