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芥川龍之介生誕120年 [日記]

4年に一度訪れる2月29日という昨日、こちらではまとまった雪が降りました。
yukigesiki0229.jpg
これは早朝の風景です。
雪は15時くらいまでは降り止まなかったのですが、その後雨に変わって、だいぶ消えました。
今日は陽射が戻って暖かだったこともあり、路面の雪はだいぶ消えています。
それでも雪の残っているところは滑りやすくなっているので注意が必要ですね。

今日は芥川龍之介の生誕120年なのだそうです。
芥川龍之介は35歳で亡くなったわけですから、120年といっても何だかピンときませんが。

で、昨日はロッシーニの生誕220年で、例のGoogleトップページのイメージはそれにちなんだものになっていましたから、もしかしたら今日は芥川に、なーんて思ったのですが、さすがにそれはありませんでしたね。

それにしても、あの名作「鼻」を発表した時の芥川は24歳だったそうですから、いくら宇治拾遺物語などから取った題材(元のお話は「鼻長き僧の事」)を翻案したものといっても、とてつもない才能だと感嘆せざるを得ません。
元のお話では、鼻の長い禅珍内供が食事をするときにその鼻が邪魔になるわけですが、ある稚児が「私なら上手に持ちあげられます」といってその役目を買って出て、あろうことか鼻を持ちあげている最中にくしゃみをしてしまって内供の鼻を粥の中に落としてしまう失態を演じてしまいます。内供は大層怒り「ワシだからいいようなものの、もっと高貴な方の鼻を持ちあげているときにかかる失態を演じたらどうする?お前のような不心得者に用はない早々に立ち去れ!」と稚児に申し渡すのですが、それを聞いた稚児は「世の中にこんなに長い鼻の人は御坊の他にはなかろうに。何ともおかしなことを仰る御坊であることか」と呟きます。それを物陰で聞いた弟子たちが笑い転げる、というものでした。
それを芥川は内供の心情を推し量る形で構成し直しているわけですから、ある意味では全く別物といっていいのでしょうね。
中には「尾生の信」のように、「女は未だに来ない」という台詞を繰り返しながら、まるで詩のようなめくるめく美しい描写のうちに尾生の最期を描きつつ、その締めのセンテンスに蛇足を加えてしまうという、ちょっと残念な例もありますが(それでも私は、この作が結構お気に入りなのです)。

小説の好き嫌いは、読む人によって千差万別であることは当然なのですが、多くの場合、好みの小説家という存在があって、その人の作品を読みあさるという傾向が強いように思われます。
しかし、芥川の場合、作品によってかなり好き嫌いが分かれるような気もするのですがいかがでしょうか。
中国や日本や欧州などの古典を翻案した作品が多い初期、芸術的志向を目指し「羅生門」などを書いた中期、己の内面を見つめ志賀直哉的な表現世界に魅かれていった晩年、と荒っぽい分け方ですが、分散しているように感ぜられるのです。
私の個人的な好みからずれば、晩年の「河童」や「歯車」「或阿呆の一生」「侏儒の言葉」あたりに魅かれますね。

致死量の睡眠薬は斎藤茂吉から入手したなどという話もあったり、内田百閒がお金を借りに芥川を訪ねた時には、薬の中毒で意識が朦朧としており財布の中から自分の手で硬貨をつかむことができず、内田に財布を差し出して「どうぞ君、いる分だけ持って行ってくれたまえ」といった話も残っています。
内田が芥川に薬の害について意見すると、「そんなことを言う君だって酒を飲むじゃないか」とやり返したとか。
もちろん内田百閒は大金を借りに来たわけではなく、当座の生活をしのぐための小銭を都合してもらおうと思って足を運んだわけで、当時の文士たちの間では、(みんなそれぞれに貧乏だったためでしょうか)そうした小銭の貸し借りは割合気軽に行っていたのだそうです。
今の売れっ子作家の皆さんの華々しい姿をみていると、当時の「文士」の姿が誠につつましやかに感ぜられますね。
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hirochiki

芥川龍之介は、それほど若くしてこの世を去ってしまったのですね。
それなのに、数々の有名な作品を残され、やはり非凡な方だったのだと思います。
学生時代には色々と読んだ記憶がありますが、ここまで詳しくは覚えておりません。。。
当時のつつましやかな作家さんたちの作品には、現代の華やかな売れっ子作家さんにはない魅力があるようにも感じます。
by hirochiki (2012-03-02 05:45) 

般若坊

こんにちは!能面ブログではご来訪ありがとうございました。
能面師 高津紘一先生が お亡くなりになり、その追悼音楽ブログを掲載いたしました。先生の打たれた面を2面掲載しております。よろしければ、ご覧ください。

by 般若坊 (2012-03-02 09:15) 

伊閣蝶

hirochikiさん、こんにちは。
芥川龍之介、35歳で達観してしまったとすれば、彼にとってみればそれも寿命ということになるのでしょうか。
痛ましい限りです。
たくさんの優れた作品を残されましたが、結局、きちんとした長編小説はものにできず(邪宗門は未完でしたし)、その意味では決して自身の創造的欲求を満たしていたわけではないと思われます。
しかし、あの当時の文士の人たちの苦労話は、実に何と言うか滋味があるように思われますね。
菊池寛などを読んでいても、身につまされつつそこはかとないユーモアがありますから。
by 伊閣蝶 (2012-03-02 12:11) 

伊閣蝶

般若坊さん、こんにちは。
能面ブログ、感嘆しつつ拝見しております。
素晴らしいお仕事だなと存じます。
高津先生の面の2点も素晴らしいものでした。感動しました。
by 伊閣蝶 (2012-03-02 12:13) 

夏炉冬扇

今晩は。
120年ですか。ということは著作権ずっと前に切れているということですね。電子書籍にもうなってるんでしょうきっと。


by 夏炉冬扇 (2012-03-02 19:37) 

伊閣蝶

夏炉冬扇さん、こんばんは。
芥川龍之介の著作権はもう切れていて、ネットの青空文庫で、ほとんどの作品が読めますよ。
by 伊閣蝶 (2012-03-03 00:17) 

般若坊

ご来訪とコメントありがとうございました。先生への良き追悼のお言葉となりました。
by 般若坊 (2012-03-03 11:05) 

伊閣蝶

般若坊さん、こんにちは。
ご丁寧な再コメントをありがとうございました。
過分なお言葉を頂き、私の方こそ恐縮に存じます。
by 伊閣蝶 (2012-03-03 14:32) 

don

120年ですか!芥川賞があるのでとても身近な存在ですね。
蜘蛛の糸は、道徳作品として今でも心に焼きついています^^
by don (2012-03-03 16:40) 

伊閣蝶

donさん、こんにちは。
そうでした、芥川賞ですね。
donさんのコメントを拝見するまで、そのことを失念していました。
「蜘蛛の糸」は、小学校のときに読んで、子供ながらにいろいろと考えさせられたことを思い出します。
by 伊閣蝶 (2012-03-03 16:55) 

のら人

確かに、文才のある方は早逝型が多いですね。
最近の芥川賞に選出される小説を時折読む事がありますが、何処に芥川龍之介との文学共通点があるのか、さっぱり解からない事が多いです。
自分に全く文才が無いだけだから ・・・ ですかねぇ。(苦笑)
by のら人 (2012-03-04 07:56) 

伊閣蝶

のら人さん、こんにちは。
若くして才能の花開いた人は、早世する例が多いように私も思います。
もしかすると、才能の総量は同じだというこなのかもしれないな、などと考えたりもします。
最近の芥川賞の受賞作品と芥川龍之介の共通点、うーん、私もさっぱりわかりません。短編小説だ、というところなのでしょうか。
私も文才はまったくないので、そうした奥深いところの共通点はわかりません。

by 伊閣蝶 (2012-03-04 12:31) 

Cecilia

芥川龍之介大ファンというわけではないのですが、短編小説に出てくる言葉で遊ぶことが多かったです。
例えば「鼻」では鼻を蒸して小虫を出しますが、にきびのお年頃だった中学・高校時代は鼻をいじって毛穴から脂肪の塊を出し、姉と”小虫”と言っていました。(汚い話ですみません!)
今は娘たちとお互いの髪の毛を触りながら「この髪を抜いてな、鬘にしようと思うのぢゃ。」と言ってふざけています。
また私は「芋粥」の芋粥を食べてみたいです。(笑)
by Cecilia (2012-03-06 11:03) 

伊閣蝶

Ceciliaさん、こんばんは。
「鼻」と「羅生門」で遊ぶお話、あるある、と思わず微笑んでしまいました。
でも、お姉様はわかるような気がしましたが、お嬢様と「羅生門」での言葉遊びをなさるとは、すばらしいことですね。
ところで「芋粥」、私も食べたことがないので、一度体験してみたいなと思っているところです。
by 伊閣蝶 (2012-03-06 23:30) 

サンフランシスコ人

『羅生門』(黒澤明監督).....9/1 サンフランシスコの映画館で上映...

http://www.4-star-movies.com/calendar-of-events/rashomon-530-pm-amp-800-pm

Rashomon ~ 5:30 PM & 8:00 PM

Friday, September 1, 2023
5:30 PM 10:00 PM

4 Star Theater 2200 Clement Street San Francisco, CA, 94121 United States (map)
by サンフランシスコ人 (2023-08-31 06:26) 

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