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グスタフ・レオンハルトさんが亡くなりました [音楽]

昨年末から、音楽家の訃報が重なっています。
先日も作曲家の別宮貞雄さんが亡くなったばかりですが、J・S・バッハ演奏の権威であったチェンバロ奏者で指揮者でもあったグスタフ・レオンハルトさんの訃報が齎されました。



このことを私はCeciliaさんのブログの記事で知ったのですが、大変ショックでした。
確かに83歳という年齢からすれば、そうした事態を覚悟する必要はあるのでしょうが、昨年の5月に来日し、元気にリサイタルを開いておられたのですから、やはり俄かには信じられない想いでした。

レオンハルトさんの演奏は、どれも大変個性的で味わい深いものでしたが、私が一番印象に残っているのは、テルツ少年合唱団とラ・プティット・バンド及び男声合唱団を指揮して録音した、バッハのマタイ受難曲全曲演奏です。
ソプラノのアリアにテルツ少年合唱団のボーイソプラノを起用したことに関して、いろいろと評価が分かれているようですが、私自身はこうした表現ももちろん「有り」だと思っております。
確かに、「Blute nu, du liebes Herz!(血を流せ、愛しき御心)」などのアリアを子供に歌わせるのは無理があるようにも思われますが、イエスが自分の胸に抱いて心血を注いで育てた子供が蛇となってその育ての親を殺そうとする姿に、なお愛情を寄せている様は、むしろこうした透明な声で歌われることによってより悲しみが増してくるのかもしれないと考えたものでした。


それから、私はどうしても、映画「アンナ・マグダレーナ・バッハの日記」のことが忘れられません。
この映画がレーザーディスクで発売されたとき、私はすぐさまに購入しました。もう四半世紀も前のことです。
現在、この映画はDVD化されています。

音楽好き、とりわけバッハの音楽に深い愛着を持つ人は、きっと胸をふるわせながらご覧になることでしょう。
1967年公開の映画ですから、レオンハルトさんは40歳前の一番脂の乗り切った頃、あの超絶的な演奏が視覚面で楽しめるところが最高です。
音源は残念ながらモノラルですが、アーノンクールなど古楽器や時代背景に関して造詣の深い面々が総力を挙げて繰り広げる演奏がめくるめく展開される、正に「音楽映画」の面目躍如たる作品ではないかと思います。
とりわけ、レオンハルトさんの演ずるバッハの強烈な存在感が印象的でした。
それにしてもあのペダルさばきの見事なこと!

ところで、アレグロミュージックの会報誌「トゥッティ」にレオンハルトさんのインタビュー記事が掲載されています。

アーティスト・インタヴュー「グスタフ・レオンハルト」

レオンハルトさんのお人柄がにじみ出てくるようで、感慨深いものがありますね。

慎んで、心よりご冥福をお祈り申し上げる次第です。

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hirochiki

このようにして偉大な方がお亡くなりになるのは、本当に残念です。
グスタフ・レオンハルトさんは、音楽家としてだけではなくそのお人柄も素晴らしい方だったのですね。
この記事を拝見して、演奏や声にもその演じる人の歩んでこられた人生やお人柄がにじみ出るものなのだなあとしみじみと感じました。
心からご冥福をお祈りいたします。
by hirochiki (2012-01-21 06:03) 

伊閣蝶

hirochikiさん、おはようございます。
グスタフ・レオンハルトさんは、教育者としても大変優れた方でした。
仰る通り、その人柄を偲ばせることではないかと思います。

>演奏や声にもその演じる人の歩んでこられた人生やお人柄がにじみ出るものなのだなあとしみじみと感じました。

これも本当にその通りだと思います。
それを聴く全ての人々に、最高の演奏を届けたい、という音楽家の使命に真っ向から対峙するためには、単なる演奏技術だけでは足りないことでしょう。
バッハは「芸術が人生である人、その人の人生は芸術である」と云いました。
レオンハルトさんもそれを自ら示した方ではなかったかと思います。
いつもながらのお心のこもったコメントに、心より感謝申し上げます。

by 伊閣蝶 (2012-01-21 07:29) 

Cecilia

なんと別宮貞雄さんも亡くなられているのですか。本当に音楽家・・・特に作曲家の訃報が多いですね。
別宮貞雄さんと言えば、私の記事でご紹介したCDの最後が彼の作曲による「さくら横町」なんです。(最初が中田喜直さんの「さくら横町」)例の林光さんの曲の後に続いています。
レオンハルト氏のインタビュー、拝見しました。暗譜のことで「記憶に頼るのは危険」とおっしゃっているのがおもしろかったです。暗譜が苦手なので「そうそう。」と思いながら読みました。ヘンデルを演奏しない理由も気になったりして。
"Blute nu, du liebes Herz"、私が聴いたクイケン指揮ラ・プティットバンドの例の演奏ではマリア・クイケンが歌っていました。成熟した女性の声と言うより少年の声に近い感じでしたが、レオンハルトは少年を使っているのですね。
by Cecilia (2012-01-21 10:12) 

don

ほんとに最近は訃報が多いですね。
そういえば昨日ケーブルの音楽番組で柳ジョージのライブを
やっていました。名を残したミュージシャンは、いつまでも
人の記憶に残れて良いですね^^
by don (2012-01-21 14:22) 

夏炉冬扇

こんばんは。
訃報重なってますね。冬はやっぱり鬼門。
by 夏炉冬扇 (2012-01-21 22:57) 

伊閣蝶

Ceciliaさん、こんばんは。
別宮貞雄さん、本当に残念でした。
「さくら横ちょう」が含まれている「二つのロンデル」は素晴らしい歌曲集でした。
別宮さんは前衛音楽家であったミヨーの口から発せられた「音楽に古い新しいの別はない。よい音楽と悪い音楽の別あるのみ」という言葉に大きな影響を受け、その後の音楽館を固めたとのことです。

暗譜の件、私もレオンハルトさんの言葉に賛同します。
岩城宏之さんは、練習の時は極力暗譜で頑張って、本番は楽譜をきちんと見るべき、と仰っていました。これもなるほどと頷いたものです。

ところでレオンハルトさんがマタイの「Blute nu, du liebes Herz」でボーイソプラノを使っていること、これはやはり賛否があるようです。
私は面白いと思いますが。

by 伊閣蝶 (2012-01-22 18:59) 

伊閣蝶

donさん、こんばんは。
本当に訃報が多いなと残念に思います。
柳ジョージさん、今でもライブ番組が放映されているところに彼の底力を感じさせられます。
すばらしい軌跡ですね。
by 伊閣蝶 (2012-01-22 19:16) 

伊閣蝶

夏炉冬扇さん、こんばんは。
本当にこの時期は訃報が多くなります。
気をつけたいものですね。
by 伊閣蝶 (2012-01-22 19:18) 

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