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NYフィルの公演中に携帯の着信音、指揮者が演奏中断 [音楽]

朝のうちはやはりこの時期特有の冷え込みでしたが、昨日とは異なりお昼ごろには気温も上がって、暖かくなりました。

ニューヨークフィルの公演で、とんでもないことが起きたのだそうです。

NYフィルの公演中に携帯の着信音、指揮者が演奏中断
観客席で携帯電話が鳴ったのは、10日夜に同オーケストラがマンハッタンで行った公演でマーラーの交響曲第9番を演奏している最中だった。会場にいた観客がツイッターやブログで伝えた話を総合すると、交響曲は最後のクライマックスを過ぎて「音楽と静寂が入り混じる」極めて繊細な場面。タイミングは最悪だったという。
 
鳴っていたのはステージ左型の最前列に座っていた高齢の男性の携帯電話だったが、この男性は身じろぎもせず、マリンバの音の着信音は3~4分あまりも鳴り続けたという。
 
音に気付いた指揮者のアラン・ギルバート氏は手を止めて演奏を中断。会場には着信音だけが響き渡った。ギルバート氏は持ち主に向かって「終わりましたか?」と尋ねたが、返事がなかったため「結構です、待ちましょう」と言い、指揮棒を譜面台の上に置いた。着信音はさらに何度か続いた後、ようやく鳴りやんだという。

アラン・ギルバート指揮者のアラン・ギルバート氏は、携帯の着信音が鳴りやんだ後、短いコメントをして演奏を再開したのだそうです。

マーラーの交響曲第9番の第4楽章の最後のクライマックス、ここの調べはマーラーが永遠の生を希求して放つ白鳥の歌であり、この曲を聴く誰もがその中に身をゆだねて魂が浄化されていく喜びに浸る部分です。
マーラーの曲における最高レベルの演奏を聴かせてくれるニューヨーク・フィルの響きに身をゆだねている聴衆、そしてそこに至福の響きを届けようと身も心もささげていたであろう指揮者及び楽団員の面々の耳に、この着信音は正に悪夢のような音として突き刺さったことでしょう。
咳やくしゃみのような生理現象ならば、腹立たしいながらもやむを得ないものと諦めもするのでしょうけれども、このような不注意による演奏の中断が、それも最も緊張感の高まるシチュエーションにおいて出来したことの無残さは、察して余りあるものがあります。
アラン・ギルバート氏がきちんと対応されて、演奏を再開したことは見事なことと思いますが、いったん切れてしまった緊張の糸は、恐らくつながることはなかったのではないかと考えます。

苛立った観客から罵声が飛ぶのは当然のことですが、大半の客がそれをいさめて演奏再開を待ったというのもなかなかすごい話だなと感じましたが。

因みに、指揮者が指示したという「118番」は118小節のことだと思いますが、嬰ハ短調から基調である変ニ長調に戻る「Sehr fließend」の冒頭で、このあと「Tempo I」のクライマックスに向かいます。絶妙な再開位置ではありましょう。

それにしても下手人の男性、何故に着信音を止めなかったのか。
高齢とのことですから、止め方を知らなかった可能性もあります。であれば電源を切ったりマナーモードにすることも思い及ばなかったのかも。

アラン・ギルバートさんは、ニューヨークタイムズ紙に「非常にショッキングな出来事だった。あの作品の中でも崇高な感情が高ぶる部分で、乱暴にたたき起こされたようなものだ。壇上の全員ががく然とした」とコメントされたそうですが、ご尤ものことと思います。
その中でも最後まで演奏を全うしようとした姿勢には深く胸を打たれました。

アラン・ギルバートさんは、本名を「Alan Takeshi Gilbert」といい、お母様は日本人ヴァイオリニストの建部洋子さんです。
そのような出自から、日本にも積極的に足を運ばれているようですね。
お若いのですが、ストックホルム王立フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者を務めていたほどの実力者で、2009年にロリン・マゼールのあとを受けてニューヨーク・フィルの音楽監督に就任しています。

端なくも音楽に対するこうした誠実な対峙の姿が明らかになったわけで、これからもきっと素晴らしい演奏を届けてくれることでしょう。

それにしても、ひどい話ではありますね。
こんな事例を聞いてしまうと、フライングブラボーや演奏中にペットボトルをビニール袋から出し入れする音などは可愛いものに思えてしまいます。

いずれにしても、コンサートは観客も一緒に作り上げるもの。
良い観客だと、演奏者も気持ち良く演奏することができ、結果として観客も喜びを味わうことができるのです。
お金を出したのだから自分は演奏を届けてもらって当然、自分だけ楽しんで何が悪い、ということではやはりちょっと寂しいような気がしますね。
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のら人

公共の乗り物、(とりわけ電車の中)でこの類の事象を起こす方がいますが、ほぼ二通りと思われます。 一つは、お年寄り。 しょーが無いか?どうかは別として、しょーがない?かもです。^^;  もう一つ。こっちは問題有で若い男の暴虐武人系。所謂、頭が緩い?というか「悪い」(常識が無い)系ですね。
でもクラッシックを一緒に楽しむ場には、自分も不釣合いかもです。 「学」が無いです。 すいません。(苦笑)
by のら人 (2012-01-13 21:15) 

伊閣蝶

のら人さん、こんばんは。
なるほど。
電車など公共機関の中での同様の事象でも同じことが言えますか。

それからもう一つのことについて。ちょっと長くなってしまうかもしれませんが、良い機会なので思っていることを記したいと思います。
かなり知的レベルの高い人でも「私は音楽のことはわからないから」という発言をされることがあります。
音楽が「わからない」人は、私はおられないのではないかと常々思っていて、確かに楽典だとか和声学だとか対位法みたいな部分の知識や、音符を読めるかどうか、という点だけを取り上げれば、そうした知識の有無に個人差はあるものの、音楽そのものは心で感ずるものですから、前述の知識の有無などはほとんど関係ないのではないかと思います。
殊にクラシックに関してはその傾向が強く、専門的な知識がないと理解できないと思い込んでいる方が意外に多いのではないでしょうか。
その先入観や思い込みが、純粋に音楽を楽しむことを阻害する要因になってしまうような気がしています。
「学」なんて、音楽を聴く上では決して必要な条件などではないのですから。
と、すみません、余計なことを書いてしまいました。
by 伊閣蝶 (2012-01-14 00:35) 

Cecilia

もしかしたら以前ご紹介したかもしれませんが、バーバラ・ヘンドリックスのリサイタルで携帯の音に怒りを覚えた経験があります。
他の時もあるのですが、一番良く覚えているのがこれです。
http://santa-cecilia.blog.so-net.ne.jp/2006-05-10
もう一つ身内ですが娘がピアノコンクールに初出場した時に携帯音が鳴ったことも!(これも書いたかもしれませんね。)

コンサート開始前には必ず携帯電話の電源を切るように、と放送がありますが、どうしてできないのかと思います。案外高齢の方が多いようにも思いますね。マナーがなってないのは若者・・・と思われがちですが、クラシックコンサートのような静寂を要求する場に慣れてない方が多いようにも思います。最近の高齢者は携帯を持っている方が多いですが、電源の切り方やマナーモードの設定の仕方がわからない、とか?

でも実はそういう自分にも苦い過去があるんです。昔同僚(それも声楽家で当時は秘かに恋していた相手)とオペラを観に行ったのですが、その時していた腕時計(祖母からもらった腕時計が壊れたばかりでたまたまある人からお下がりのデジタル腕時計をもらったばかりでした。)の音が途中で鳴ってしまい、止め方がわからず難儀しました。同僚からは後できつい言葉をもらう羽目になったし・・・。それ以来、音が鳴るものは要注意だと思っています。
by Cecilia (2012-01-14 02:06) 

hirochiki

こういったお話を耳にすると、周りの人のご迷惑を考えて日頃から行動しなければとあらためて思います。
この高齢の男性にはあきれてしまいますが、
アラン・ギルバート氏の対応は流石だと思いました。
(お母様が日本人でいらっしゃるのですね。)
そして、罵声をいさめて演奏の再開を待った観客が多かったというのもほっとします。

実は、私も過去にケイタイで失敗したことがあります。
娘の授業参観に行った時のことなのですが・・・
マナーモードにしたつもりがなっていなくて、授業中にメール音が鳴りだしすぐに止めた苦い思い出があります。
それからは、しつこいくらいマナーモードを確認するようになりました。
by hirochiki (2012-01-14 07:20) 

伊閣蝶

Ceciliaさん、こんにちは。
ブログの記事、早速拝見しました。
バーバラ・ヘンドリックスの演奏を聴きにくるレベルの観客がそんな状況とは俄には信じられず、さすがにびっくり!です。
お嬢様のことも、実に腹立たしいお話ですね。コンクール初出場ということであればなおのこと度し難い非礼だと思いました。
のら人さんもお書きになっていましたが、こういう事例は高齢者に割合多いように思います。
恐らく設定の仕方やいざという時の対処方法をご存じないのでしょう。
そうした方が所持する携帯電話には何らかの対策が必要になってくるのかもしれません。
一番効果的なのは、そうした会場では電波をシャットアウトすることではないかと思いますが、緊急の場合に連絡が取れなくなるのも問題ですし、悩ましいところです。

それから、デジタル時計のアラーム音、これは結構不意打ちというパターンが多かったように思います。
私も(さすがにコンサート会場ではありませんでしたが)、同じような経験があり、コメントを拝見して頬が緩んでしまいました。
それにしても、密かな恋心を抱いておられたお相手とのオペラ鑑賞の最中とは…。
ご同情申し上げます。

by 伊閣蝶 (2012-01-14 09:45) 

伊閣蝶

hirochikiさん、こんにちは。
「周りの人のご迷惑を考えて日頃から行動しなければとあらためて思います」このコメントに、hirochikiさんのお人柄が改めて伺えるようで、感じ入りました。
この高齢者の行動はあきれ果てるものですが、指揮者やニューヨーク・フィルの面々、そしてほかの観客の冷静な対応には、さすがに大都市ニューヨークだけのことはあると感心しました。

授業参観の折のご失敗、これは大変でしたね。
お嬢さんのこともあり、どれほどお心を痛められたことかと拝察します。
因に私は、携帯電話の着信音は原則として常時マナーモードのしています。
音を鳴らすことは、休日の自宅など、ほんの限られたとき以外はしないようにしています。
by 伊閣蝶 (2012-01-14 09:54) 

ハマコウ

nice!とコメントをありがとうございます

アラン・ギルバートさん 初めて知りました
わたしも 気をつけなくてはと 改めて思いました
by ハマコウ (2012-01-14 10:37) 

伊閣蝶

ハマコウさん、こんにちは。
早速のコメント、恐縮です。
お母様が日本人ということもあって、注目はしておりましたが、今回の冷静な対応には感じ入りました。
積極的に聴いてみようかなとおもっております。
公共の場での行動にはやはり節度が第一ということを、私も再認識しました。
by 伊閣蝶 (2012-01-14 12:11) 

don

昨日のヤフーのトップニュースにでてましたね。
なぜなのか理解ができず、ほんとに不思議です。
止められないなら退席するとか、対処法はありそうな
ものですけど。

恥ずかしすぎて、固まってしまったのかも。
それにしても3~4分は長いです。
by don (2012-01-14 14:02) 

伊閣蝶

donさん、こんにちは。
私もなぜこの高齢男性が「身じろぎもせず」そのままの状態にあったのか、全く理解が出来ませんが、仰るとおり「固まっていた」のではないでしょうか。
どのように対処していいのか分らなくて頭が真っ白になっていたということではないかな、と。
電話をかけてきた相手方は、まさかコンサート会場で着信音が鳴り響いているとは思いもしないことでしょうから、受信者が高齢男性ゆえに出るまで粘って呼び出していた、ということも考えられますね。
キャリアの方で勝手に呼び出しを切ったので、この程度ですんだ、いうことでしょう。
by 伊閣蝶 (2012-01-14 16:41) 

夏炉冬扇

こんばんは。
大変な話ですね。
昨日知人から新春演奏会の案内とチケットをもらいました。お隣の市の市民交響楽団です。
by 夏炉冬扇 (2012-01-14 22:10) 

伊閣蝶

夏炉冬扇さん、こんばんは。
新春演奏会、これは楽しみなことですね。
素晴らしい演奏となりますように、私も期待したく思います。
by 伊閣蝶 (2012-01-14 22:25) 

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