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プレヴィンとN響による定期演奏会の放映 [音楽]

今朝はちょっと雲の多い天気となりましたが、寒さは相変わらずです。
電車の中でも、(きっと節電の意図もあるのでしょうが)足元から冷気が上がってくるような感じで、手袋をしていないと手がかじかんでしまうくらいです。
それでも日中の冷え込みは少しずつ緩和されてくるという予報ですが。

先日、年末の貴重な三連休を年賀状書きでほぼ潰してしまったという残念な記事を書きましたが、そんなやりきれなさを僅かながらでも和ませてくれるのは、やはり音楽ですね。
年末は、殊にテレビでたくさんのクラシック演奏会の録画などが放映されるので楽しみなのですが、25日の早朝にBSプレミアムで放映された、アンドレ・プレヴィン指揮NHK交響楽団による10月26日のサントリーホールでの定期演奏会の模様は圧巻でした。
もちろん録画をして、年賀状書きの合間に観ていた(聴いていた)のですが、しばしばその手が止まってしまうほどの素晴らしい演奏で、82歳になるマエストロの、未だ衰えを知らない力量に圧倒されたところです。

チェ・イェウン特に、韓国のチェ・イェウンをソリストに迎えての、ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番イ短調の演奏は白眉でした。
チェ・イェウンは、まだ23歳の若さですが、この難曲を暗譜で弾ききり、さすが、あの名ヴァイオリニスト、チョン・キョン・ファを生んだお国柄と、感心すること頻りです。
ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番は、1948年に作曲されたものの、当時のソ連のきな臭い状況を鑑みて、作曲者自らが7年間オクラにしたいわくつきの曲でありました。
4楽章という協奏曲としては特異な構成を持ち、とりわけ3楽章に配置されたパッサカリアが印象的で、終盤に配置されている長大なカデンツァは、まるでバッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタを彷彿させるかのようです。
彼女は、このカデンツァを情感豊かにヴァイオリンをたっぷり響かせて聴かせてくれました。
そこから切れ目なく続く4楽章。怒涛のように押し寄せる管弦楽と堂々と渡り合い、40分以上を要したこの曲を、最後まで力いっぱい演奏しきったのです。
一般的な演奏時間は35分程度とされているヴァイオリン協奏曲第1番ですが、それを10分くらい上回ったのではないかと思われます。実に充実した演奏でありました。
聞けば、彼女はムターの教えも受けているとのこと。
その縁もあって、プレヴィンとのコンビが実現したのでしょうか(これは勘ぐりすぎかも)。

さて、プレヴィンですが、足の方がさらに弱くなっているのか、今回は杖どころか歩行器を使って移動しています。
指揮台への昇り降りも、見ている方がハラハラするくらい危なっかしく、「大丈夫か?」と心配になりましたが、演奏が始まるとそんな懸念は百万光年のかなたに飛び去ってしまいました。
ご自身の出自もあってのことか、殊にロシア物、ラフマニノフとかショスタコーヴィチなどの演奏には定評があります(ラフマニノフの交響曲第2番は特に素晴らしい演奏を残していますね)し、また、協奏曲のヅケ(伴奏)も実に巧みな方ですから、今回の曲目は正に自家薬籠の中、というべきものでしたでしょう。
若いチェ・イェウンの実力を遺憾なく引き出して、感動的な舞台を作り上げていました。

プレヴィンは、1950年代から70年代にかけてハリウッドで映画音楽を作っていたことは、よく知られた話です。
「マイ・フェア・レディ」などの著名な作品でも音楽を担当し、「あなただけ今晩は」を始め4回のオスカーを獲得しています(ノミネートは20回に及ぶとのこと)。
ジャズ・ピアニストとしても活躍をし、当時は「神童」の名をほしいままにしていました。
そうした、モダンジャズや映画音楽界における輝かしいキャリアを打ち捨て、ピエール・モントゥに師事して指揮を習い、セントルイス響、ピッツバーグ響、そしてロンドン響の首席指揮者として、クラシック音楽界においても成功の階段を昇りつめた、稀にみる存在でした。
キュートな見た目にたがわぬソフトな人柄で、リハーサルなどにおいて問題を指摘するときも、まず「エクスキューズ・ミー」と一言かけてから、「今の演奏はすごくエレガントというわけではなかったね」とやんわり注意するのだそうです。

この演奏会の最後を飾ったR・シュトラウス「ばらの騎士・組曲」も、熱気にあふれるすばらしい演奏で、N響がプレヴィンを名誉指揮者としてどれほど大切にしているかがしみじみと伝わってくるかのようでした。

そんなわけで、年賀状書きが遅々として進まなかった理由はこんなところにもあったのです(ダメじゃん)。

因に、ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番というと、私は、その初演コンビであるオイストラフとムラヴィンスキー&レニングラード・フィルの演奏が一番印象に残っています。

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般若坊

年末のご挨拶
今年も押し迫ってまいりました。
東日本大震災の発生と大津波、およびそれに起因する福島原発放射能漏えい事故等々、はっきり言って暗い世相の2011年でしたが、so-netブログに集われた皆様との明るい交流に救われた感じです。
今年一年のご厚誼に感謝申し上げると共に、貴ブログの益々のご発展を祈念しまして、年末のご挨拶といたします。どうぞ良い年をお迎えください。

by 般若坊 (2011-12-28 20:43) 

伊閣蝶

般若坊さん、こんばんは。
ご丁寧な年末のご挨拶、誠にありがとうございました。
仰る通り、本年は殊の外、so-netブログに助けられたという印象を強く持っております。
こうした交流の場を持てたことで、随分救われました。
本当にありがとうございます。
どうぞ来年も相変わらずのご愛顧をお願い申し上げます。
どうぞ良いお年をお迎え下さい。
by 伊閣蝶 (2011-12-29 00:07) 

hirochiki

チェ・イェウンさんは、とても美しいですね。
なるほど!年賀状作りが止まってしまった原因にはこのようなこともおありになったのですか(笑)
プレヴィンさんは、やはり演奏が始まるとパワーがみなぎってくるのでしょう!
ところで、伊閣蝶さんは明日までお仕事とのことでお疲れ様です。
体調管理にもお気をつけて無事に納められますように。
余談ですが、私はすっかりお休みモードに入ってしまい、
昨晩は予約更新にするのを忘れて就寝してしまいました。。。
by hirochiki (2011-12-29 05:54) 

伊閣蝶

hirochikiさん、こんにちは。
今朝は寒かったのですが、どうやら日中は少し気温が上がりそうです。
チェ・イェウンさん、写真もなかなかのものですが、演奏している姿が凛としてとても素敵でした。
若いのに舞台映えがするなと感心したものです。
年賀状製作の手元がしばしば止まったのにはそんな要因もあったのかもしれませんね(これは内緒)。
ところで、昨日に大半の職場は仕事納めになっていることもあり、本日の通勤電車は予想通り空いていて快適でした。
hirochikiさんはすっかりお休みモードとのこと。
お忙しい一年であったご様子ですから、どうぞ、ゆっくりお体をお休めください。
寒暖の差が激しいので、くれぐれもご自愛を専一にお過ごしくださいませ。

by 伊閣蝶 (2011-12-29 12:15) 

Cecilia

プレヴィンも名前くらいしか知らないという感じでしたが(すみません!!どうも指揮者に疎くて・・・。)「マイ・フェア・レディ」の音楽担当でしたか!
by Cecilia (2012-01-03 11:23) 

伊閣蝶

Ceciliaさん、こんにちは。
プレヴィンがハリウッドで数々の映画音楽を担当していたことを知っている人もだいぶ少なくなっているのかもしれませんね。
でも、その活動が、後年の指揮者としての表現に大きく寄与しているような気がします。
プレヴィンのラフマニノフやボーン・ウィリアムスの演奏はなかなかいいのではないかと個人的には思っています。
by 伊閣蝶 (2012-01-03 13:08) 

 サンフランシスコ人

「セントルイス響、ピッツバーグ響、そしてロンドン響の首席指揮者として、...」

PSO cancels concerts through Nov. 18 in wake of musicians' strike
October 17, 2016 2:49 PM

http://www.post-gazette.com/ae/music/2016/10/17/Pittsburgh-Symphony-Orchestra-cancels-concerts-through-Nov-18-in-wake-of-musicians-strike/stories/201610170157

ピッツバーグ響がストライキ中...
by サンフランシスコ人 (2016-10-18 07:26) 

伊閣蝶

サンフランシスコ人さん、こんにちは。
ピッツバーグ響のストライキ。何よりも団員の皆さんにとって良い方向での解決を願うばかりです。
オーケストラのストライキといえば、私はどうしも日本フィルのことを考えざるを得ません。
現在は音楽家ユニオンが結成されていますから、だいぶ処遇改善も進んできていると思いますけれども、日フィル争議(1972年勃発)は誠にひどいことでした。
プロのオケはそれこそ一騎当千の天才演奏家の集合体であり、高い統率力と芸術性を持つ指揮者とともに音楽を作り上げ、観客に素晴らしい演奏を届ける、いわば音楽の使徒とも云うべき存在でしょう。
その彼らが、経済的な困窮ゆえに実力を発揮できない環境におかれたとするのであれば、正に文化的レベルの点で問題なのではないかと。
それを「賃上げ要求をした」ということを以て解散・解雇に追い込んだのですから、経営母体であったフジテレビと文化放送の見識のなさには開いた口がふさがりません。
ピッツバーグ響のメンバーには「頑張って」とエールを送りたいと思います。
by 伊閣蝶 (2016-10-18 12:31) 

サンフランシスコ人

ピッツバーグ響は、以前日本にも行っていたと思いますが....
by サンフランシスコ人 (2016-10-19 00:55) 

サンフランシスコ人

ピッツバーグ響は、未だにストライキ中...

http://wqed.org/fm/podcasts/pittsburgh-symphony-radio/

日本に住んでいても、ピッツバーグにあるラジオ局のオンデマンドのコンテンツを楽しめると思います...


by サンフランシスコ人 (2016-11-11 07:13) 

サンフランシスコ人

「ピッツバーグ響のストライキ......良い方向での解決を願う....」

http://www.post-gazette.com/ae/music/2016/11/14/Pittsburgh-Symphony-cancels-concerts-through-Dec-5/stories/201611140174

Pittsburgh Symphony cancels concerts through Dec. 5
November 14, 2016 3:25 PM
by サンフランシスコ人 (2016-11-15 08:19) 

サンフランシスコ人

ピッツバーグ響のストライキが解決しました..

http://pittsburgh.cbslocal.com/video/category/spoken-word-kdkatv/3582800-pittsburgh-symphony-orchestra-strike-is-over/
by サンフランシスコ人 (2016-11-27 04:34) 

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