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レイ・ブライアントの逝去と「RAY BRYANT TRIO」 [音楽]

今年の6月2日、ジャズピアニストで作曲家でもあるレイ・ブライアントが亡くなったことを、ただの蚤助さんのブログ記事で知りました。
享年79歳。かねてより病気療養中であったのことです。
ジャズメンとしては珍しい長寿といえるのかもしれませんが、それでもこうした重鎮の逝去は無念の思いに駆られてしまいますね。

レイ・ブライアントといえば、アイク・アイザックス(b)とスペックス・ライト(ds)と組んだトリオで有名で、このメンバーとカーメン・マクレエによるアルバム「AFTER GLOW」は傑作の呼び声が高い名盤です。

しかし、レイ・ブライアントといえば、やはり1957年に録音された「RAY BRYANT TRIO -prestige 7098-」のすばらしさが特筆ものだと思います。
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この充実した演奏を聴いていると、彼の年齢が当時26歳であったことなど俄かには信じられません。
35分に満たないアルバムですが、与えてくれる充実感と安らぎは格別のものがあります。

収録曲は次の通り。
  1. Golden Earrings(Livingston-Evans-Young) 4:49
  2. Angel Eyes(Matt Dennis) 3:19
  3. Blues Changes(R.Btyant) 4:57
  4. Splittin'(R.Bryant) 4:33
  5. Diango(J.Lewis) 5:00
  6. The Thrill Is Gone(Brown-Henderson) 4:50
  7. Daahoud(C.Brown) 3:59
  8. Sonar(Wiggins-Clarke) 3:23


これは大方のリスナーにご同意いただけるものと思われますが、何といっても、「Golden Earrings」の演奏が白眉です。
この曲は、ミッチェル・ライゼンが監督しマレーネ・デートリッヒが主演した同名の映画(邦題は「黄金の首飾り」)で、ビクター・ヤングが作曲しマレーネ・デートリッヒが歌ったもので、ペギー・リーがカバーして大ヒットしたことでも知られています。
サラサーテのツィゴイネル・ワイゼンに酷似したハンガリーのジプシー民謡をモチーフに作られていて、お聴きになれば、ああなるほどあれか、とご納得いただけるのではないでしょうか。
それほどの曲ですから、ケニー・ドーハム、バッキー・ピザレリ、エディ・ヒギンズ&ジョン・ピザレリや、あのフランク・シナトラまでカバーしています。
しかし、そうした数々の名演の中にあっても、私はやはり、この「RAY BRYANT TRIO」の演奏を第一にあげたいと思います。
レイ・ブライアントは、一聴するに誠にさりげなく弾いているようにみえますし、他の二人もサポートに徹して、決して前面に出ようとはしません。
それでいながらこのすばらしいバランスと見事に格調高い演奏を成し遂げているのです。
レイ・ブライアントの右手の軽やかでいながらエレガントなタッチに胸をときめかせているうちに、それをしっかりと支える左手の分厚い和声と重みのある低音、そして助演者たちの確かなテクニックに痺れてくることでしょう。
特に、アイク・アイザックスのベースはすばらしい!
これぞトリオのベースのあるべき姿!というべきではないでしょうか。

この曲は、youtubeにもアップされていたので、ご参考までに紹介します。

http://www.youtube.com/watch?v=LqQgsPeA_7o


二曲目の「Angel Eyes」のピアノソロも、これまたすばらしい。
先ほど書いた右手と左手の役割分担の効果が、際立って明瞭に感じられます。
この曲はマット・デニスの作曲ですが、「Golden Earrings」に続いて、冒頭からの二曲にMoll(短調)が配置されていることは、とりわけ日本人の好みにマッチするのではないでしょうか。
しかも途中でそれがさりげなくDur(長調)にかわるのですから、たまりません。
私は主にクラシックの曲を聴いてきた者ですが、このような精緻なテクニックに裏付けられた演奏を聴くと、それまでの自分がいかに狭い世界の中だけに凝り固まっていたのかが切実に感ぜられます。
多くのヴィルティオーゾ達が、そうした垣根を軽々と越えた演奏を届けてくれているというのに、提供を受ける側が頑なではお話になりません。
ということで、私は(そんな自分自身の反省も含めて)この「Angel Eyes」を強くお勧めするものです。

そして三曲目、くるりとDurに転換して、レイ・ブライアント自身が作曲した「Blues Changes」が開始されます。
これまた何というご機嫌な曲でしょうか!
それまでの哀愁を帯びた曲調からの、この見事な変り身も聴きものです。

こんな調子でいちいち書いていたのではキリがありませんから、この辺でやめておきますが、個々の演奏のみならずこのアルバム全体のバランスは、誠に以て絶妙です。
日頃、ジャズに馴染みのないリスナーでも心地の良い境地に誘われることでしょう。
特に、日曜日の日暮れ時に夕焼けを眺めながら聴く、とか、静かな雨の日にこの演奏に浸る、などというシチュエーションは堪えられないものではないかと思います。
そうそう、「Daahoud」も最高です。
この曲では、助演のアイク・アイザックスもスペックス・ライトもノリノリで、ジャズのスウィングとは斯くのごときものか、と聴いていて心底感動しましたね。

BGMとして聴いても癒されることとは思いますが、私の経験上、例えば何かの作業をしながら聴いていても、ついついその手を止めて引き込まれてしまうような一枚です。
以前、堀内修さんがフルトヴェングラーの演奏を表して、畳に寝そべってかりん糖を食べながら聴いていても、いつしかその手を止めて聴き入ってしまう、あるいは、知らないうちにすっかりかりん糖の袋が空っぽになってしまう、といったような表現をされていましたが、この「RAY BRYANT TRIO」は、正にそんなCDの一つではないかと感じました。

いずれにしても、レイ・ブライアントさんの逝去は誠に残念でした。
心よりご冥福をお祈りいたします。
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コメント 4

ムース

ジャズは聴かなくなって久しいです。恥ずかしながらレイ・ブライアントさんを存じ上げませんでした。
確かにこのタッチはエレガントで素晴らしい!と思いました。
by ムース (2011-08-03 22:48) 

伊閣蝶

ムースさん、こんばんは。
早速のコメント、ありがとうございました。
レイ・ブライアントさんは、もともとあまり一般受けのするタイプではなく実力のわりには過小評価されてきた嫌いがあります。
また、後年、ラテンやロックのリズムを取り入れて新境地を拓くと、アメリカではそれで多くのファンの獲得に繋がっていったのですが、日本の玄人筋ではコマーシャリズムに堕したとして評価が下がってしまったのだそうです。
でも、やはり実力派であることは間違いないと思いますね。
私も実際に聴くまでは、まさかこれほどまでに素晴らしいプレイヤーだとは思ってもみませんでしたから。
by 伊閣蝶 (2011-08-04 00:21) 

hirochiki

レイ・ブライアントさんは、私も初めて知りました。
胃閣蝶さんがこれほどまでに絶賛されているのですから、素晴らしい演奏をされる方なのでしょう。
GOLDEN EARRINGSも、耳に心地よくて聴きやすい曲ですね♪
何かの作業をしながら、また寝そべっても聞くことができるのも嬉しいです^^

by hirochiki (2011-08-04 06:02) 

伊閣蝶

hirochikiさん、こんにちは。
緑のカーテンのお写真に心を癒されました。
GOLDEN EARRINGSもお聴きくださったのですね。ありがとうございます。
ところで、レイ・ブライアントさんですが、何といいましょうか、類稀なテクニックを有しておりながら、それをひけらかすことなく、全て実演を如何にすばらしいものとするかにかけているかのように感ぜられます。
こうしたアーティストの演奏からこそ、ジャンルを超えたホンモノの音楽が紡ぎだされるのでしょう。
このアルバムを聴いていると、自然に心が癒されます。
そんな素敵なアルバムの一つだと私は思います。
by 伊閣蝶 (2011-08-04 12:24) 

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