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アルゲリッチ&新日本フィルによるシューマンとショパンのピアノ協奏曲(ライブ) [音楽]

雨の鬱陶しい日が続きます。
今はやんでいますが、各地ではかなり降雨となっているようで、災害が心配ですね。

昨年の末、すみだトリフォニーで行われた、アルゲリッチと新日本フィルによる、シューマンとショパンのピアノ協奏曲演奏会のライブ録音CD。

購入した後、何度も何度も繰り返し聴いて、その都度感動を新たにしてきたCDなのに、どうにもなかなか記事にするまでには考えがまとまらず、徒に時が過ぎてしまいました。

このCDは、すみだトリフォニーに特別の愛着を持つアルゲリッチがシューマンとショパンの生誕200年を記念して取り組んだライブ演奏を録音した極めて高品位なデジタル音源を用いたもので、今年で古希を迎えた彼女の誕生日(6月5日)を祝う目的でCDへのプレス・発売が企画されていたものです。
しかし、3月11日に勃発した東日本大震災に心を痛めたアルゲリッチら演奏者は、何とかこのCDを大震災の復興支援に役立てて欲しいと願い、そのためのチャリティCDとして発売することを決定したのだそうです。
そのような経緯があり、このCDは被災した仙台市青葉区の(株)オプトロムの工場でプレスされたのでした。
公演のために仙台を訪れたことのあるアルゲリッチは、このことを大変喜んでいたとのこと。

このCDの解説に書かれてあった、アルゲリッチのメッセージを転載します。
地震の犠牲となられた方々のため、私にできることはなんでもいたします。
シューマンとショパンのライヴ録音もそのために役立ててください。
私は日本の状況をとても憂い、とても気にかけています。
ニュースをずっと見ていますが、日本の皆様の計り知れない痛みと、それに耐える勇気を感じ、皆様への深い愛と尊敬の念を抱かずにはいられません。
一刻も早く日本を訪れることを願っていますが言葉ではとても表現しつくせません、ごめんなさい。
マルタ・アルゲリッチ

マスコミやインタビュー嫌いで知られている彼女がこのようなメッセージを発してくれていることにも感動を禁じ得ません。

アルゲリッチは、日本とのつながりも深く、殊に別府アルゲリッチ音楽祭では、主催団体である財団法人アルゲリッチ芸術振興財団の総裁も務めています。もちろん今年も、5月8日から5月19日の間、第13回別府アルゲリッチ音楽祭が開催され、震災復興を願う「希望の木」と名付けられたぶどうの木の記念植樹などの行事を含め、精力的に活動されています。

さて、肝心の演奏について。
何度も何度も繰り返し聴いていると冒頭にも書きましたように、実に心にしみいるような素晴らしい演奏です。
私は、数あるピアノ協奏曲の中でも、とりわけシューマンのピアノ協奏曲がお気に入りで、あの冒頭のオケのトゥッティの一音に引き続いて流れ出す劇的なピアノの旋律を聴くたびに、うっ、と胸を突かれるような感動を覚えてしまいます。
私が中学1年生のときに、初めて自分のお小遣いで買ったレコードも、この曲でありました。
尤も、そのときはカップリングされていたグリーグのピアノ協奏曲が目当てであったのですが、何度も繰り返し聴き返すに従って、むしろシューマンのピアノ協奏曲の方に心を引かれていったのです。
しかし、実演も含めてなかなか「これは」という演奏に巡り会うことはなく、いくつかの演奏の良いところだけを自分の頭の中で組み合わせて聴いていた、というような感じでありました。
このCDを聴くに当たって、私は天から東日本大震災チャリティーという付加価値を念頭においていたのでありますが、冒頭のオケの一音とそれに続く迸るようなピアノの響きに接し、言葉にならないほどの衝撃を受けました。
アルゲリッチの演奏はもちろん、新日本フィルの演奏、とりわけオーボエやクラリネットなどの木管楽器の奏でる調べがことのほか感動的に美しく、私は、初めてこの曲における全的に最高の演奏に出あった気がしたのであります。
言葉にしようと思っても、この感動を表現するすべを私はとても持ち得ません。これまでなかなか記事に出来なかった理由は、そうした自分自身の気後れといった事情によるところも大きなものでした。
できれば是非ともお聴きになって、実際に体験して頂きたい、と願うばかりです。

ショパンのピアノ協奏曲ももちろん素晴らしい演奏でした。
この曲も、やはり「これは」という演奏になかなか出会うことがありませんが、ここでもまた、新日本フィルの熱演が光ります。
本当に頑張っているな、というのが正直な感想ですが、日本のオケのレベルがこれほどまでに高くなっていることと、それを音に表現しようとする強い情熱をひしひしと感じた次第です。
【収録情報】
・シューマン: ピアノ協奏曲 イ短調 op.54
・ショパン: ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 op.11

 マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
 新日本フィルハーモニー交響楽団
 クリスティアン・アルミンク(指揮)

 録音時期: 2010年11月28日(ショパン) 、12月1日(シューマン)
 録音場所:すみだトリフォニーホール(ライヴ収録)
 録音方式:デジタル(ライヴ)


因に、この演奏に参加したアーティスト全員が、録音の印税収入を放棄し、その収益を被災者の復興支援のために寄付するとのことです。

また、このCDについて、私の師匠であるただの蚤助さんも、感動的な記事をお書きになっているので、そちらも是非ご覧頂きますように。
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hirochiki

マルタ・アルゲリッチさんのメッセージは、とても心に響きますね。
そして、この演奏に参加されたアーティストさんたちの温かいお気持ちも本当に嬉しく思います。
ところで、胃閣蝶さんが何度も何度も聞かれてもなかなか記事にすることができなかったとおっしゃるそのお気持ちは、この記事を拝見しているとひしひしと伝わってきます。
私も、機会があれば是非この素晴らしい演奏を聞いてみたいと思います。


by hirochiki (2011-06-19 16:12) 

伊閣蝶

hirochikiさん、こんにちは。
早速の心温まるコメントをありがとうございました。
音楽家にとって、レコード(CD)を出すということは、大変大きなステータスでもあり、また報酬はそれに向けた情熱に対する正当な評価の結果であるのだろうと思います。
それを復興支援のために役立てて欲しいというお気持ち。本当に感動してしまいました。
このCDを購入することで、多少なりともそのお手伝いが出来ることも嬉しいことですが、そうした事情の有無とは無関係に、このような素晴らしい演奏に巡り会えたことの幸せを噛み締めています。
もしも機会がございましたら、ご一聴下さい。
by 伊閣蝶 (2011-06-19 16:35) 

don

こんばんは!
そうですか。もう古希ですか。。

白黒動画でUPされてる、美しいアルゲリッチ姉さんのイメージのまま、
彼女のCDを聞いています(笑)。

そういえば彼女の左手のオクターブも、ポリーニより早く
ダイナミックですね。RCA時代ののホロヴィッツのスピードには
及びませんが^^
by don (2011-06-19 19:22) 

伊閣蝶

donさん、こんばんは。
私が高校生だった頃(今から40年近く前ですが)、グラモフォンのカレンダーを飾っていたアルゲリッチの写真は、誠に若く美しいものでした。
その彼女がもう70歳になるということで、私も何だか信じられませんでしたが、少なくとも演奏を聴く限りにおいては、とてもそんな歳とは思えません。
ポリーニも、先日、ベルリンフィルとの映像を観たときには、「えらく歳を取ったものだな」と思ってしまいました。確か、ポリーニの方がアルゲリッチより一つくらい年下だと思うのですが。
by 伊閣蝶 (2011-06-19 22:22) 

節約王

マルタ・アルゲリッチさんのメッセージ私もとても嬉しく、又感動致しました。どの音楽家の方もこのようにエピソードを拝見致しますととても心が清らかで大きくて温かくて・・・・・それゆえすばらしい演奏が出来るのですね。単に技術的にすばらしいだけでなく大きな温かい心で観客や被災者の皆様の力になろうと一生懸命な事が伝わってきます。このような偉大な方が日本となじみが深い事嬉しくもあり誇りに感じます。
私はピアノ演奏が好きでジャズでもピアノは良く聞きました。
純粋な優しさに満ちた清らかな音色を想像します私もぜひ聴いてみたいと思います。手に入らなければせめて関連アルバムだけでも探そうと思います。
by 節約王 (2011-06-20 21:47) 

伊閣蝶

節約王さん、こんばんは。
嬉しいコメントをありがとうございました。
多くの海外演奏家が、原発事故の影響を懸念して来日を見合わせる中、むしろ、このようなときだからこそ是非とも来たい、と仰る方々。
メータ、ドミンゴ、アルゲリッチ、クレーメル、ノリントン等々、こちらもたくさんおられます。
私も、このような方々の強い意志と優しさと温かな思いやりに触れて、思わず目頭が熱くなる想いでした。
ある意味では日本の聴衆がその方々を大切にしてきたからこそのことなのかもしれません。「愛する日本のために」と仰る言葉の深さをかみ締めています。

節約王さんもピアノがお好きとのこと。
このCDは、震災復興目的ですから、恐らく入手はそれほど困難とは思われません。画像にリンクを張ってあるHMVの通販も在庫あり、でした。
もしも機会がございましたら、是非ともお聴きください。
by 伊閣蝶 (2011-06-21 00:27) 

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