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ブルックナーの交響曲第9番「4楽章完成版(キャラガン版1983年/2006年9月補完)」 [音楽]

昨日は晴れはしたものの、変わりやすく荒れた天気になりました。

osake.jpg今日は安定した晴天となりそうです。

昨日まで、会津に帰省しておりました。

当地のデジタル放送では、福島県内の主要なポイントにおける放射線量などが刻々と掲示されており、原発事故による影響の深刻さがひしひしと伝わってきます。
福島市や郡山市の数値が結構高い割に、いわき市の数値は低く、これも恐らく風の流れなどの影響を受けてのことなのでしょう。
いわきでは初ガツオの水揚げが始まりますが、こうした状況であるからこそ、いわきに揚げたいという漁師の心意気があるのだそうです。私も入手できるのであれば是非とも食べたいものと思っています。

さて、せっかく福島まで帰省したので、せめてもの産地活性のよすがにと、清酒を二本買ってきました。
榮川は私にとっての定番。そのほかに、二本松の「奥の松」の吟醸を買ってきました。
今、自宅にあるものも併せて三本。ゆっくり飲みながら、復興に想いを馳せたいと思います。

さて、前から気になっていた、内藤彰&東京ニューシティ管によるブルックナーの交響曲第9番「4楽章完成版(キャラガン版1983年/2006年9月補完)」について取り上げてみました。

未完成に終わったブルックナーの9番。
そのフィナーレは、夥しい草稿が残されたものの、マーラーの10番ような復元はかなり困難というのが定説でしたが、研究が進むにつれ新たな資料が発見されるなどして、復刻の試みがなされているのは既にご案内の通りです。
  • SMPC・コールス版
  • サマーレ・マッツーカ版
  • キャラガン版

代表的なものは以上の通りですが、このほかに、ブルックナーの遺志による「終楽章が未完であれば代わりに『テ・デウム』を」の言葉に従うもの(この場合、連続して演奏をするのであれば調性を合わせるための経過句が必要?)、ブルックナーの手による自筆のピース(断片)のみを演奏する、といった試みがなされています。
もちろん、圧倒的多数なのは、未完成のまま3楽章で演奏するという態度であることはいうまでもありませんが。

さて、そうはいっても私自身は、この4楽章の補筆完成版に多大なる興味あって、ヴィルトナー(SMPC完成版)、ボッシュ(コールス完成版)などを聴いてきました。

そして、今回、内藤彰によるキャラガン版、というわけです。
しかも、この内藤彰&東京ニューシティ管による演奏では、2楽章のスケルツォのトリオを、これまでの定番(トリオ3)ではなく、そのひとつ前のトリオ2を選択しており、この点も大変興味深いものでした。
このトリオ2、ビオラソロによるオブリガートが展開される誠に美しいもので、トリスタン和音から開始されるデモーニッシュで荒々しい両端の楽想からは隔絶しています。
トリオ3も軽快な感じで始まりますが、チェロの咽び泣くような主題もあって、短いながらも深淵を覗き込むような音楽となっていますから、この違いは極めて大きいものと思われました。
ただ、やはり聴きなれているせいもあってか、私自身としては定番のトリオ3を取りたいところですね。

フィナーレの演奏は、これまで聴いたヴィルトナーともボッシュとも違う、かなり独自性の強いもので、殊に要所を締める強化されたティンパニの連打が極めて印象的です。
第一楽章の第一主題が様々に形を変えて姿を現すところなどは圧巻で、たたみかけるような高揚感が味わえます。
特に、コーダへのなだれ込みのものすごさ!
このCDはライブなので、演奏後の拍手も入っていますが、この演奏を聴き終え、私も思わずブラボーと叫びたくなりましたよ!
とにかく面白い。そして、大変に雄弁な音楽になっています。
正直に申し上げて、さすがにブルックナーもここまでは書かないだろうと思いますが(その意味では、ヴィルトナーやボッシュの方がより「ブルックナー的」ではあります)。
この演奏にはきっと賛否が大きく分かれることでしょうね。しかも否定側の方が多いような気がします。
しかし、私は結構気に入りました。
形を変えた宗教曲ではないか、とまで思わせるブルックナーの9番が、ここまで明るいハッピーエンドの曲に仕上げられてしまったことに、驚きとともに一種の痛快さも覚えるのです。
その意味からすれば、先に触れたスケルツォのトリオ2の、ちょっとこの曲の印象からは似つかわしくない楽想も、こうした4楽章の曲に仕上げるという観点からすれば大いに「あり」だなと感じました。
これだけの内容で77分のCDに収める手腕もなかなかなものです。

以前、ブルックナーの4番第3稿コースヴェット版でも触れましたが、内藤彰&東京ニューシティ管が取り組んでいる様々な試みは大変興味深く、また、資料的にも高い価値があるものと考えます。
しかし、やはりライブゆえの傷はかなり散見され、これは版の問題もあるのかもしれませんが、中音域の音に厚みが足りないような印象をうけます。
こうした資料的価値のある演奏なのですから、出来ればスタジオ録音で、徹底的に演奏の中身を彫琢してくれたら、と思うと少々残念ではありました。

最後に蛇足ですが、この曲は、ブルックナーの9番の古今の演奏に取り敢えず接している人向けです。
初めてブルックナーの9番を聴く人でこの盤を選択する人はまさかおられないでしょうが、未完成としてある意味確立しているこの曲の終楽章がどのようなものであったのかを知りたい、という物好きな愛好家にこそお勧めできるもの。
私にしても、やはりまともにこの曲を聴こうと思うのであれば、シューリヒトやヴァントの演奏を選びます。
魂の奥深いところに共鳴するのは、こうしたある意味入神の演奏が必要なのではないかと思いますから。

ただ、何といいましょうか、このフィナーレのためにブルックナーが残したとされる数百枚にも及ぶスケッチを、そのまま朽ち果てさせるのはいかにも惜しい!
そうしたスケッチも含めて、ブルックナーの書いた音楽を一つでも多く知りたい、という気持ちが、私などはどうしても先に立ってしまいますね。
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コメント 4

hirochiki

お帰りなさい。 お疲れ様でした。
私も、チャンスがあればいわきの初ガツオをいただいてみたいと思います。
日本酒は飲めませんが・・・^^;
(ビールは大好きなのですが、日本酒はほとんど飲めません)
ブルックナーの交響曲第9番は、未完成とのことですが
この記事を読ませていただくと、とっても明るい気持ちになれそうですね!
by hirochiki (2011-04-26 15:29) 

伊閣蝶

hirochikiさん、こんばんは。
ご心配いただき、ありがとうございました。
いわきの初ガツオ、私も楽しみです。上がってくれればいいのですが。
ビール、私も大好きですよ(*^o^*)
お酒の件は、そんなふうに思って頂けるだけで嬉しく思います。
本当にありがとうございます。
ところでブルックナーの9番ですが、三楽章までの現在の版でいえば、恐らく尋常ならざる重い音楽だと思います。
私でも、一日のうちで繰り返し聴くのは辛くなるかもしれません。
でも、このCDはそれを軽々と飛び越えました。
それがいいか悪いかは別として、それだけでも貴重かな、などと思います。
by 伊閣蝶 (2011-04-26 19:44) 

Cecilia

いわきの鰹は本当に美味しいです。
子供の頃は祖母が捌いてくれて、ニンニク醤油でいただいていました。

榮川も奥の松も懐かしいですね。(飲んだわけではないのですがCMを良く見ていましたし。)
大七とか花春とか夢心、末廣・・・など、そういえばいろいろあったなあと調べてみて思い出しました。
by Cecilia (2011-05-10 09:37) 

伊閣蝶

Ceciliaさん、こんにちは。
いわきの鰹、本当に美味しくて私も大好きです。ニンニク醤油が一番ですね。
母の一周忌の折、さすがにこんな時期だからといわきの義姉夫婦は魚などを持参せず残念に思っていたので、このニュースには勇気づけられました。
それから、福島はおコメどころで水もおいしいので、絶品のお酒がたくさんあります。
中通りの被害が意外に深刻なので、せめて大好きなお酒だけでも飲んで協力できれば、などと都合のいいことを考えてしまいました。

by 伊閣蝶 (2011-05-10 12:17) 

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