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シュッツ「ヨハネ受難曲」 [音楽]

昨日の土曜日は、朝のうちは晴れて冷え込んでいたものの、たっぷりの陽射しのおかげで昼頃からぐんぐん暖かくなってきました。
ちょっと腰痛治療のため、整骨院に出かけたついでに、付近の高台に足を伸ばしたのですが、なんと、道志山塊の上の方に白銀の峰峰が見えました。
恐らく南アルプス南部の山、荒川岳や赤石岳ではなかろうかと思われ、まさかこの辺りからその姿を臨めるとは想像もしておりませんでした。
先週は週の初めに冷たい雨が降った後冷え込んだこともあって、丹沢などもまだ豊富に雪が残っているようです。

今日も快晴の朝になりましたが、昼近くになって雲が出てきました。

さて、前回の記事でシュッツについて触れたこともあり、久しぶりにシュッツの「ヨハネ受難曲」を聴きました。
この曲は、シュッツ80歳の時に作曲されたもので、当時としては異例な長寿(享年87歳)を全うしたシュッツ最晩年の作品です。
無伴奏の声楽のみを用いた曲で、ヨハネ伝の聖句を朗唱する福音史家、イエス、ペテロ、ピラトらの登場人物の言葉を歌う独唱者、そして群衆の言葉を歌う合唱によって展開されて進行し、アリアなどは挿入されません。
そして、淡々とした中に進みながら、終曲合唱「O hilf, Christe, Gottes Sohn(おお、力を与へ給へ、キリスト、神の御子よ)」に集結していくのです。
殊にこの終曲の素晴らしさ、是非とも多くに人に味わって頂きたい!
この曲は、虚飾を可能な限り排除し、これ以上ないほどに無駄を省いて作られていますが、その迫真力と説得力は正に瞠目すべきものがあると思われます。

ハインリヒ・シュッツは、14歳でヘッセン・カッセル辺境伯に見出され、奨学金を得てヴェネツィアに留学。ジョバンニ・ガブリエリに師事し、ヴェネツィア楽派の複合唱様式・コンチェルト様式を修め、通奏低音に支えられた独唱の書法や声楽と器楽との華やかな掛け合いの作法など、イタリアの新しい音楽の作曲法を身につけました。
当時、音楽芸術の面では後進国であったドイツに、こうした最先端の音楽技法を持ち帰ったことによって、J.S.バッハやヘンデルなどによって大きく花開いたドイツ音楽の礎を築いたのであります。
もちろんシュッツは、啻にヴェネツィア楽派の音楽技法を模倣するのみならず、自身の精神的支柱であったドイツ・プロテスタントの信仰に裏打ちされた独自の音楽様式を築き上げたわけで、その果たした役割は、私たちの想像を遥かに上回るものであったことでしょう。
帰国後、いったんカッセル辺境伯の第2オルガニストとなりますが、ほどなくしてドレスデン選挙公の宮廷楽長に就任。楽団の組織などにも従事します。
しかし、好事魔多しというのでしょうか、30年戦争(1618~48)に巻き込まれ、しばしばデンマークに難を避けざるを得ないような状況に追い込まれます。
スウェーデンで後進の育成に当たったり、デンマークへの亡命を考えたこともあったようですが、結局はドレスデンに戻り、そこで生涯を終えることとなります。
このように、晩年はさまざまな苦悩にさいなまれ不幸の連続であったようですが、それゆえにこそ、そうした現実の苦難を見つめる目が独特の厳しさをその音楽に与えたといえるのかもしれません。

ヨハネ受難曲のCDは、次のものが比較的入手しやすいようです。

イエス=キリストの十字架上の七つの言葉も収められていて、なかなか良いCDではないかと思われます。

schutz.jpgしかし、私としては、1970年に録音された、フレーミヒが指揮する、シュッツゆかりのドレスデン・クロイツ教会合唱団による演奏が耳について離れません。

これはやはり、ドレスデンというシュッツと深いつながりを持つ場所の演奏者によるものであるからなのでしょうか。
本場の演奏であるという贔屓目を除いても、この演奏の質の高さはたとえようもありません。
シュッツの音楽の根底に流れる厳しさをこれほど的確に表現した演奏は、外にはないのではないでしょうか。
なお、このCDには、ほかに「ダヴィデの詩篇歌集」から「エフライムはわが親愛の子ならずや」など4曲が収められています。

シュッツの受難曲には、これ以外にマタイ・ルカ・マルコがあり、フレーミヒではマタイ受難曲も聴くことができます。

また、クリスマス・オラトリオ、葬送の音楽(ドイツ・レクイエム)、イエス=キリストの十字架上の七つの言葉、イエス=キリストの喜ばしき降誕の物語、などもすばらしい音楽です。
ご一聴を強くお勧めする所以です。
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hirochiki

こちらも、今日の午後からは曇ってきました。
日中は暖かさを感じますが、朝晩はまだまだ寒いですね。
その後、腰痛の方はいかがでしょうか。
ハインリヒ・シュッツさんの生涯を読ませていただくと、
やはり人生における経験は、その音楽にも強く影響を与えるのですね。
イエス=キリストの十字架上の七つの言葉が収められた音楽は、きっと素晴らしいのでしょうね。
是非、聞いてみたいです♪
by hirochiki (2011-03-06 17:21) 

伊閣蝶

hirochikiさん、こんばんは。
こちらも夕方からだいぶ雲が多くなってきました。
明日は雨の肌寒い日になるようです。
腰痛は、徐々に快方に向かいつつあるようですが、やはり寒いと筋肉がこわばるのか違和感が大きくなりますね(^^;
シュッツの生涯は、恐らくその後のドイツ音楽の発展という面において大変大きな役割を果たしたと思われますが、彼自身のことについて言えば時代に翻弄された苦悩の連続と言わざるを得ないでしょう。
しかし、仰る通り、それ故にこそ、このように厳しくとも感動的な曲を残せたとも言えるのではないでしょうか。
彼の音楽を聴くことは、私にとってある種の苦しさを実感させますが、聴き終えた充実感はそれを凌駕してあまりあるものです。
それこそが経験に裏打ちされた精神性と言えるのかもしれません。

ところで、「イエス=キリストの十字架上の七つの言葉」は、十字架にかけられて最期の時を迎える際にイエスの発した言葉で、イエスを磔にかける兵士らを慮って言う「神よ彼らを赦し給え。彼らは自分のしていることがわからないのです」や、ともに磔にかけられたほかの二人の罪人に語る「おまえは今日、私と共に楽園にいる」や、残されたマリア様を弟子のヨハネに託す「女性(マリア様をさします)よ、これがあなたの息子(ヨハネをさします)です」や、「我が神、何故に我を見捨て給う」などです。
このモチーフは多くの作曲家を刺激し、数々の名曲を生みました。
ハイドンなどはこれをモチーフに管弦楽曲を作り、のちにこれを弦楽四重奏曲に編曲していて、これは大変感動的な曲です。
もしも機会がございましたら、是非ともお聴き下さい。
by 伊閣蝶 (2011-03-06 23:06) 

Cecilia

シュッツ、好きだと思いますが、覚えるほどには聴き込んでいません。
ご紹介の下のCDはNMLで聴けますので聴いてみますね。

さて、先日本番でバッハを(も)歌ったのですが諸事情からブログアップできません。
でも伊閣蝶さんには是非聴いていただきたく思っています。
ご興味あればの話ですが私のプロフィール欄にありますメールアドレスにご連絡いただけるとうれしく思います。
by Cecilia (2011-03-07 09:58) 

伊閣蝶

Ceciliaさん、こんにちは。
今日は雪になっています。
フレーミヒのCDがNMLでも聴くことができるのですね。
amazonやHMVではちょっと見当たらなかったので、ちょっと嬉しく存じました。

ところで、本番の録音、是非ともお聴きしたく存じますので、後ほどメールにてご連絡申し上げます。
どうぞよろしくお願い致します。

by 伊閣蝶 (2011-03-07 12:08) 

節約王

お久しぶりです。お元気そうで何よりです。最近ブログやPCの調子が悪く、ウイルス感染かと一人でパニックを起こしておりました。お笑い下さい。
ブログの書き込みでウイルスは写らないと思いますが万が一移っておりましたらご容赦下さい。最近LIVE様のブログ記事を見てその原因がわかり、ものすごくほっとしています。
さて、久しぶりに記事拝見しました。道志道に良く行かれるのですね。私もあの道はお気に入りで何回往復したか知れません。慢性渋滞の神奈川県の道路にしてはいつも空いていて景色もいい道ですよね。
さて、今回も勉強させていただきました。シュッツの「ヨハネ受難曲」興味あります!。
by 節約王 (2011-03-07 21:38) 

伊閣蝶

節約王さん、温かなコメント、ありがとうございます。
ソネットブログは、時折、nice!が出なかったらコメントが反映されなかったり、RSSが動かなかったり、といったシステム障碍が起きるようです。
その都度、あれれ、と心配になってしまうのですが、再度nice!をクリックしても、「あなたは一度nice!をクリックしています。二回は出来ません」みたいなメッセージが出たりしますね。
実に不安感を煽る仕様だと腹立たしく思ったりします。
節約王さんのご心配、ご尤ものことと思います。
いずれにしても、ウィルス感染ということではないと思われますのでご安心下さい。
道志山塊は大好きなところで、今はあまり出かけなくなってしまいましたが、以前は月に一回は登りにいっていたこともあって、もちろん道志道は何度も利用しました。景色も良く渋滞もないので、私もお気に入りです。
さて、シュッツのヨハネ受難曲、ご興味をお持ち頂いて嬉しく存じます。
一見、余りに淡々とした音楽ですから、物足りなく感じられるかもしれませんが、いったんこの世界に入り込むと、なんとも筆舌に尽くしがたい力を感ぜられることと存じます。
もしも機会がございましたらご一聴下さい。
by 伊閣蝶 (2011-03-07 23:09) 

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