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オーラJ第26回定期演奏会(報告) [音楽]

今日は夕方から、久しぶりの雨となりました。
ここのところ雨から遠ざかって、ひと月以上も乾燥注意報が出されていた状況でしたから、正に恵みの雨というべきでしょう。
しかし、少し暖かさも増してきたように思われます。

auraj-26pro.jpg先日、私も参加した、オーラJの第26回定期演奏会に関し、体調を崩していたこともあってなかなか記事を書けませんでしたが、いつまでも放置していてはけじめがつきませんので、少々心もとない部分もありますけれども、ここでその一端をご報告させて頂きます。

演奏会場は、渋谷駅近くの新興文化施設として開発された720人収容の大和田さくらホールです。
大変響きの良いホールで、この演奏会のメインの指揮をお務め頂く高橋明邦先生のご紹介であったそうです。
演目が現代邦楽のコンサートということで、観客数に一抹の不安もありましたが、当日は何とほぼ満席の状態で、これには私もたいへん驚かされるとともに、身の引き締まる想いがしました。

コンサートの幕を開けた、筝(1・2・3)・十七絃(1・2)と打楽器による「黒・赤・金」は、今回の定期演奏会の委嘱であり初演。
日本的な色相を音を以て表現するという斬新な試みは、むしろ抑え気味な表現が呼応する実に静謐な空間を作り上げていました。
作曲者の金井勇さんは、三木先生のほか池辺晋一郎氏や細川俊夫氏や湯浅譲二氏に作曲を師事し、また、篳篥の奏者としても活躍中です。
指揮も金井さんが担当しました。

二曲目以降は全て、三木先生の作品です。

ここから指揮は高橋明邦さんに交替です。
天才的な打楽器奏者でもある高橋さんは、数多くの三木作品の初演を手がけてこられました。
それだけに、三木先生からの信頼も極めて篤いものがあり、傘寿をお迎えになった三木先生の記念特別演奏会という位置づけでもある今回の定期演奏会で指揮を担当されるのは、蓋し当然のことと大納得です。

「古代舞曲によるパラフレーズ」は、1965~66年、NHKの委嘱を受けて作曲された曲で、日本音楽集団の第4回定期演奏会で舞台初演がなされています。
1)前奏曲 2)相聞 3)田舞 4)誄歌(るいか) 5)嬥歌(かがい)の5楽章。
楽器編成は、笛、尺八2、三味線、琵琶、筝2、十七絃、打楽器2、ソプラノ・ヴォーカリーズ、という大規模なもので、30分になんなんとする大曲です。
四半世紀以上前にレコードでこの曲を聴いた私は、三木先生の名を一躍世界に轟かせた「急の曲」の強烈な印象とも相俟って、それまで邦楽に抱いていた「過去に沈滞している乙に澄ました古臭い音楽」という誤った観念を一気に覆されたものでした。
そこに現れた邦楽器群の音の、融通無碍かつ縦横無尽で豊かな表現力に打ちのめされ、乙に澄ましているどころか、むしろ根源的で強烈なエネルギーの放出、むしろ「sauvage」といった方がぴったりするくらいの起爆力とパワーを邦楽器は有しているのだ!という印象を抱いたのです。
その曲を久しぶりに実演で聴き、改めて全身の毛穴が開くような戦慄に近い感動を覚えました。
ソプラノの宇佐美瑠璃さんは、当日の声の状況があまり良くなかったそうなのですが、そんなことは全く気付かされないほどの厚みと力のこもった見事なリリコ・スピントを聴かせてくれ、この定期演奏会前半の締める大曲は、30分という演奏時間を全く感じさせない熱気で会場を包んだものです。
演奏会の後、三木先生が関係者に出された報告(感謝)文には、次のような下りが書かれてありました。
特にパラフレーズのオリジナリティーは、曲のどの部分の(技法)を切り出しても作曲当時世界の誰の音楽にも類似しない、しかも架空ながら万葉や日本古代を髣髴させる不思議な作品であり、無調音楽最盛期の1960年台に、無調や間の概念がどうしても体が順応しなくて、大きな作品の場合でも縦の響きそのものの連鎖が歌になっているような私に、どうしてこんな作曲技法が浮かんだのか、(例えば、どこそこは伝統楽器としての邦楽や雅楽の技法でなく、楽器そのものの物理的な特性を考えて書いた;あそこは初演の演奏者を生かす手立てを考慮してやった;まだ13絃時代で、ハーモニックスの流れを3つの箏パートを継ぎ合わせつつ増幅する手段を考えついた時は「これだ」と満足した;こんなミニマル音楽の片鱗のような表現は当時の現代音楽にまだなかった;何よりも各タイトルの魅力に負けず、文学的・絵画的にそれらを超えた表現が閃いて音符が踊ったものだったなあ等)さまざまの発明に富んだ、自分でも2度と書けない作品として日本音楽集団時代もオーラJの演奏も聞いてきました。そのような曲ですので全理解して演奏していただくのは難しいのですが、久しぶりに昨夜は安心して聞き通すことができました。あらためて高橋君のリードのもと、本当に素晴らしい演奏ありがとうございました。

邦楽という、必ずしも大編成での合奏を企図しない楽器群を率いて、西洋のオーケストラにも引けを取らない巨大な楽曲を創造するという離れ業の、この曲は間違いなく嚆矢となりました。
とても半世紀も前に書かれた曲とは思えないほど、現在でも全く色あせない魅力を放っております。
日本以上に、欧米での人気が高く、名指揮者であるエルネスト・アンセルメが来日した際、どうしてもこの曲の作曲家である三木稔氏に会うのだと強く希望したのも当然のことでありましょう。

そして、この日の演奏会の掉尾を飾ったのが、「凸(とつ) 三群の三曲と日本太鼓のための協奏曲」です。
1970年のレコードアルバム「日本音楽集団による三木稔の音楽」の委嘱作品として作曲されたもので、笛+細棹三味線+新箏の第一群、尺八1+太棹三味線+箏の第二群、尺八2+琵琶+十七絃の第三群の三つの器楽配置で、指揮者は和太鼓の演奏を併せて行うことになります。
これこそ高橋さんの指揮の真骨頂。
三木先生の作品を聴きながら、私がいつも痺れてしまうのは、その独特なリズム感と、独創的かつ印象的なパーカッションパートの絶妙な呼吸です。
三木先生の曲の中でもとりわけメジャーなものが「マリンバ・スピリチュアル」であることも頷けることでしょう。
この「凸」は、その三木先生の曲の持つビートがびんびん心に響く作品です。
そして、高橋さんをマエストロに迎えることによって、この曲の最高の演奏をお届けすることが可能となった。
私はその演奏に痺れながら、今この場にいてこの曲の演奏を聴けた喜びを心の底から噛み締めたのでした。
因に「日本音楽集団による三木稔の音楽」はLP4枚組で、「凸」「古代舞曲によるパラフレーズ」のほか、「四群のための形象」「序の曲」「天如」などを納め、この年の芸術祭大賞を受賞しています。

さて、私が合唱団として参加した「松よ」は、この二つの大曲に挟まれた、どちらかといえば小品に属する曲です。
箏曲松の実会の55周年記念演奏会のために委嘱され、1979年に作曲されました。
新箏(21絃)また は13絃箏のソロを含む箏1、箏2、箏3、十七絃、尺八1(ま たは+篠笛)、尺八2の器楽編成に、声楽を合わせた作品です。
声楽部分の詩は三木先生ご自身が作られました。
(一)
松よ
誇り高い 私たちの松よ
この庭に
あのやしろの背にたたずみ
千手(せんじゅ)を拡げて
幼い私たちを迎えてくれた
松よ
 
(二)
松よ
誇り高い 私たちの松よ
海辺に
吹き寄せる風に耐えて
体をくねらせ
身をもって
私たちを守ってくれた
松よ
 
(三)
時は廻り
いまわしい 公害が
美しい自然を侵し
私たちに 狂い迫る
 
だが松よ
誇り高い 私たちの松よ
更に耐え
新しい空を呼ぶ
おまえの 姿見て
私たちを取り戻す時だ 今は
松よ 誇り高い 私たちの松よ
おお 松よ

この詩をお読み頂ければ一目瞭然と思いますが、この曲は、日本の高度経済成長に伴って引き起こされた負の部分である公害問題に材を取り、それに対する怒りと嘆きの先に、「誇り高い」松の姿への回生を願う祈りを込めて作られています。
この、真摯な願いを込めた美しい歌詞を持つ声楽を合わせたことで、「松よ」は大変に親しみやすい曲となっているように思われます。
邦楽合奏と声楽がお互いに聴きあい響きあって祈りの世界を作り上げていくのですが、3番の歌詞ではそれを激しい怒りに変えていく必要がありました。
指揮者の高橋さんはその部分に特に着目され、60年代から70年代にかけて闘われた反公害反権力反戦などの闘争を思い起こしつつ歌って欲しいと要求されたものです。
うまく行ったかどうか、心もとありませんが。

ところで、「日本の作曲家(音楽之友1983年刊)」において、民族音楽学者の小島美子さんは、三木先生の集団を統率して音楽を作り上げる姿勢と演奏家との感の深い連帯を賞賛しつつも、次のような苦言を呈されました。
ただわたしは、三木稔がこれほど邦楽器に執着しながら、楽器の音色と不可分の関係にあるはずの声の音色に対しては、いつも無反省で、洋楽の声をつかうことを不思議に思ってきたが、これがもし合唱体験によるものだとすれば、このあたりで反省を強要したい気がするのである。

この小島さんのご意見は、先にも少し触れましたように、三木先生と音楽とのかかわり合いやその創造活動の根源に合唱体験(高等学校時代に歌ったメサイアがその大きな転機、と先生は仰っていました)にあることを肯定的に捉えられた上でのものですから、字面から想像されるような直截的なものではないと思いますが、仰る意味は理解できそうな気もします。
私も一聴衆として三木先生の作品を聴いていた頃は、このご意見にかなりの部分共鳴する想いもありました。
しかし、三木作品の演奏に参加させて頂く機会を得て、三木先生から様々なお話をお聴きし、また、いくつかのイヴェントの企画に参画させていただくようになってから、そもそも東洋と西洋の音楽の垣根、それも手法の違いなどは、音楽の本質とはほとんどかかわり合いのないことではないかと思うようになってきたのです。
演奏者皆の心を一つにまとめて、東も西もない全ての人の心に響き渡るより深く大きな音楽を創造する(先生はそれを「共生」と呼んでおられます)、そうした試みの中で、より響きを合わせやすい手法を取り入れていくことはむしろ当然のことではないでしょうか。
聴衆に対し、言葉をきちんと音の響きとともに伝えていくこと。
そうした目的を果たすために必要な選択ではなかったかと、私は勝手に想像しているのです。

三木先生の音楽は、いつの場合でも演奏家との深い紐帯の中で作り出され、その連帯と信頼に基づく響きが聴衆の心にも伝わってきます。
何よりも音楽を聴く人の心に響き感動を与える作品を作りたい、三木先生はそのような音楽の創造を目指してこられたのではないでしょうか。
誰の理解も求めない、自分の世界のみを信ずる、といった「孤高」を気取る「芸術家」も数多く散見される中、三木先生は決してそうした悪質なナルシシズムに堕ちることはありませんでした。
これこそ、文字通りの「Music Servant」の姿ではないかと、私は思うのです。
三木先生の音楽には、時に極めて厳しく悲劇的なフレーズが現れます。
しかし、それらの音楽は、その背景がどれほど悲惨なものであろうとも、音楽そのものは決して陰に堕ちることがありません。
それは、三木先生のあの底抜けに素敵な笑顔に象徴される明るさに裏打ちされた、人を愛し平和を愛し自然を愛する純粋な心から紡ぎだされる調べであるからなのでしょう。
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hirochiki

コンサートと聞きますと、どうしても洋楽をイメージしてしまうのですが、
今回は、邦楽の素晴らしい演奏会だったのですね。
胃閣蝶さんが参加された「松よ」を、是非お聞きしたかったです。
三木先生も、純粋な心を持たれた素晴らしいお人柄とのこと、
機会があれば、是非その音楽に触れてみたいです♪
ところで、体調は、もうすっかり良くなられましたでしょうか。


by hirochiki (2011-02-07 12:58) 

伊閣蝶

hirochikiさん、こんにちは。
今日は風は少々強いものの、暖かな天気となりました。
嬉しいコメントをありがとうございます。
仰る通り、日本古来の調べでありながら、邦楽演奏はなかなかメジャーな舞台での演奏会を持つ機会がなく残念に思います。
これは、邦楽の持つある種の因習めいた桎梏が障害になっている部分も大きいのかもしれません。
三木先生はそれを打ち破り、もっと大きなワールドワイドな音楽の中に解き放ちたいと考えて、望んで艱難の道を歩んでこられたと私は思います。
オペラ「愛怨」のDVDを始め、三木先生の作品はCDやDVDとなっておりますので、機会を見つけて、このブログでも紹介していきたいものと思います。

私の体調のことでご心配を頂き恐縮です。
もうだいぶ良くなり、そろそろ体を積極的に動かして行こうかなと思っております。
まだちょっと耳鳴りがするなどの後遺症があるので、慎重に取り組もうとは思いますが。
by 伊閣蝶 (2011-02-07 13:21) 

Cecilia

素晴らしいコンサートだったと想像します。そのホールがある地域は私にとってはかなり馴染み深いところですが、よく行っていた頃とはだいぶ様変わりしているのだろうと思います。
ご紹介の曲を聴くことはできませんが、三木稔さんの筝曲をNAXOS MUSIC LIBRARYで聴いてみようと思います。
by Cecilia (2011-02-07 17:40) 

伊閣蝶

Ceciliaさん、こんばんは。
そうでしたか、渋谷の桜丘地域がCeciliaさんにとって馴染みの深い場所であられたとは、何とも感慨深いものを感じます。
仰る通り、あのあたりも再開発によって往時とはだいぶ違ってきています。
近くに住みつつも、ほとんど渋谷辺りには出かけなくなってしまった私も、時折まごついてしまうほどに。
コンサートには、私の知人もたくさん聴きに来てくれましたが、邦楽というイメージと実際の演奏とのあまりの違いに、皆びっくりしていました。
邦楽器の持つポテンシャルの高さに瞠目した、というところでしょうか。
三木先生の曲をNAXOS MUSIC LIBRARYでお聴き頂けるとのことで、何よりも嬉しく存じます。
よろしくお願いいたします。
by 伊閣蝶 (2011-02-07 18:14) 

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