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ヴァントのブルックナー9番 [音楽]

今夜はクリスマスイヴ。
クリスマス寒波がやってきて、今夜から週末にかけて真冬の冷え込みとなるそうです。
皆さま、風邪などにはくれぐれもお気を付け下さいますように。

先日、ヴァント指揮BPOのブルックナー8番のことに触れましたが、同じ指揮者による9番について書いてみたいと思います。

私はブルックナーの交響曲の中でもとりわけ9番が大好きで、実際このブログでも、一番多く取り上げてきたような気がします(これまでに4回)。

さて、ヴァントによるブルックナーの9番は、北ドイツ、シュトゥットガルト、ミュンヘン、ベルリンなどとの盤が販売されており、どれも素晴らしい録音ですが、中でも私は、ミュンヘン・フィルとベルリン・フィルの演奏に参っています。

まず、ミュンヘン・フィルとの演奏。

1998年4月、ミュンヘン・フィルの本拠地であるガスタイク文化センターでの伝説的な演奏のライブ録音です。

ミュンヘン・フィルは、ブルックナーの弟子であるフェルディナント・レーヴェ(改訂版で有名)や9番の原典版初演を果たしその普及に努めたジークムント・フォン・ハウゼッガーを始め、ルドルフ・ケンペなどが首席指揮者の任にあったほか、何といっても、あのセルジュ・チェリビダッケが17年にもわたって鍛え上げた楽団で、とりわけブルックナーの曲に対する親和性は格別のものがあると思われます。
そのほかでも、クナッパーツブッシュによる8番の歴史的名演など、ブルックナーファンの胸を熱くさせる演奏には事欠きません。

一方、ヴァントは、ケルンで長らくカペルマイスターを務めた後、NDR(北ドイツ放送交響楽団)を首席指揮者として鍛え上げ、やはりブルックナーを中心とした名演を繰り広げてきました(2000年秋のNDRとの来日演奏で振った9番は極めつけのものでしたね)。

チェリビダッケ&ミュンヘンとヴァント&NDRは、ブルックナー演奏において正に南北対決を競り合ってきたわけで、そのミュンヘンをヴァントが客演するのですから、期待はいやがうえにも高まろうというものです。
そして、その期待はもちろん裏切られることなく、ここに繰り広げられました。
このライブ演奏は長らく正式録音盤が出ずに、一部で海賊版が出回る嘆かわしい状況となっておりましたが、昨年の末にキングレコードから発売され、多くのブルックナーファンを狂喜させたものです。

全く何という演奏でしょうか。

何というか私にはうまく形容する言葉が見つかりません。
この演奏を聴いていると、自分の存在が如何にちっぽけなものであるかを否が応でも痛感させられてしまいます。
雄大・荘厳・甘美・神秘・崇高…、やっぱりどんな言葉を用いても陳腐な言い回しになってしまいますね。
殊に第一楽章のコーダのものすごさは特筆もので、再現部の圧倒的な金管群の存在感には、身震いがする想いでした。

そして、ベルリン・フィルとの演奏。

1998年9月、ベルリンでの実演のライブ録音です。

演奏の時期にほとんど違いはないのにもかかわらず、まるで違う演奏となっております。
もちろんこれは、ベルリン・フィルとミュンヘン・フィルとの性格の違いに起因するものなのでしょうが、実にゆったりとした構えの大きな演奏となっております。
以前書いた8番のときはそれほど感じなかったのですが、何だかBPOを極度に意識して勝負を挑んでいるかのような演奏に思えてなりません。
細部の彫琢も際立っていながら、とてつもない雄大なスケールを感じさせる名演であることは疑いもありませんが、これはヴァントの目指した演奏なのだろうかという疑念も多少感じさせられます。
しかし、SACDであることの効果はまぎれもなく大きなものであり、これは掛け値なしにすばらしい録音というべきでありましょう。
第1楽章の冒頭、さざ波のような弦の刻みがこれほどの存在感と奥行きをもって立体的に迫ってきた例を、私は寡聞にして知りません。
全ての楽器の主題からパッセージに至るまで、いささかの濁りやよどみもなく眼前に展開されてくるような感覚なのです。
これを聴きながら、実演が如何にすばらしいものであったことかと想像し、ため息をつく思いでした。

しかし、こうして聴き比べながら考えてみると、BPOは果たしてブルックナー演奏に適したオケなのだろうかと、ふと疑問を感じてしまいます。
もちろん、超一流のオケであり、これまでにも限りなくブルックナーの演奏を行ってきたわけですから、いち素人の私ごときがどうのこうのと僭越なことを述べる立場になどないことは重々承知しています。
そういえば、フルトヴェングラーの後任として首席指揮者を当然視されていたチェリビダッケが、あまりの苛烈な要求からBPOと決裂した後、38年を経た1992年にBPOで振った一期一会ともいうべきブルックナーの7番の評価も結構分かれていると聞きます。
私は残念ながらこの演奏を聴いていないので何ともコメントはできませんが、カラヤンとの蜜月が長かったBPOが、チェリビダッケの目指すブルックナーの理想形を把握できなかった可能性も捨てきれないと思ってしまいました。

このヴァント&BPOのすばらしい演奏を聴きつつも、例えばこの曲において私が一番胸を震わせる第三楽章の155小節における弦の和音の美しさが、この演奏ではどうも心に響いてこないのです。
シューリヒト&VPOではあれほど美しく鳴っていたのに…。

というわけで、私としては、是非ともヴァントにVPOを振ってもらいたかったなと、手前勝手かつ不埒なことを考えてしまったわけでありました。

しかし繰り返しますが、何れにもブルックナーの9番における極めつけの名演であることを否定するものではありません。
この曲が如何に人智を超える存在であったかを彷彿とさせてくれるような演奏なのですから。

さて、この二枚に、無理矢理、私の好みによる順位をつけさせて頂くとしたら、うーん、うーん、と悩みつつ、やっぱりオケのまっすぐな情熱に買ってミュンヘン・フィルをとりましょうか。
少なくとも、あの第一楽章のコーダと再現部は完全にミュンヘンの方が勝っていますし。

いずれにしても、このような演奏に接すると、この曲が未完成に終わってしまったことの痛恨をいまさらながらに思い知らされてしまいます。
誠に残念無念ですね。

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hirochiki

壮大な音楽や絵画に出会うと、自分はなんてちっぽけな存在なのだろうと思ってしまいます。
今日は、クリスマスソングでも聞きながら年賀状の仕上げに取りかかりたいと思います♪
それでは、伊閣蝶さんも素敵な週末を~
(mhirochiki)
by hirochiki (2010-12-25 06:36) 

伊閣蝶

mhirochikiさん、おはようございます。
今朝はものすごい冷え込みになりました。
音楽や絵画に接して感動できることは、本当に幸せなことです。
小さな悩みも吹っ飛んでしまうような気持ちにさせてくれますから。

年賀状の仕上げ、お疲れさまでした。毎年のこととはいえ、結構大変な作業ですよね(私は今年、喪中欠礼でしたので、その意味では余裕ですが)。
昨晩はチョコレートケーキと鶏のお料理でのクリスマスを楽しまれたとのこと(*^o^*)
どうぞ、hirochikiさんも素敵な週末をお過ごし下さい。

by 伊閣蝶 (2010-12-25 08:27) 

aka

わ~
聞いてみたいです~☆
でも、今仕事中なので、家に帰ってから聞きますね♪

それにしても、詳しいですね~
感心しちゃいます。

クラシックって何番とか、いろいろあるので、この曲良い!!って思っても果たして、何番なのか?正式な題名を覚えることが出来ません…。

やっぱり生で聞きたいですね♪
胸にじわ~んときますからね☆……それにしても寒いですね…。
by aka (2010-12-25 18:17) 

伊閣蝶

akaさん、こんばんは。
嬉しいコメントをありがとうございます(*^_^*)
クリスマスの今日もお仕事なのですね。
本当にお疲れさまです。

ブルックナーの9番、もしも機会がございましたら、是非ともお聴き下さい。
音楽によって大伽藍が構築されるような気分を、もしかしたら味わうことが可能ではないかと思います。
私は高校1年生のときに初めてこの曲を聴いたのですが、目の前にありありと巨大な神殿が浮かびましたから(*^_^*)

それから、やはり生・ライブは断然違います(もちろん当たり外れはありますが)。
私もいくつかの感動的な実演に接することができ、それは今でも私の掛け替えのない宝物になっていますから。

さて、本当に寒くなりました。
幸せ気分のakaさんですから大丈夫とは思いますが、どうか風邪などひかれませんようにお気をつけ下さいね。
by 伊閣蝶 (2010-12-25 18:47) 

cfp

ブルックナーの9番大好きです。
9番だけで10枚ほど持っていますが、
私もヴァント/ベルリンフィル盤、
そしてシューリヒト/ウィーンフィル盤が好きです。

天国があるとすれば、
この曲は天国そのものです。
by cfp (2010-12-25 22:20) 

伊閣蝶

cfpさん、こんばんは。
私もこの曲に関しては、CDだけでも15枚所持しています(^^;
LPまで合わせると、うーん、という感じですね。
何しろ、私が聴いたブルックナーの最初の曲でしたから。
私もシューリヒト&VPOが一番ですね。
その次が、ヴァント&ミュンヘンでしょうか。
ホーレンシュタイン&ストックホルム響も印象深い演奏でしたが。
by 伊閣蝶 (2010-12-26 00:45) 

ただの蚤助

クラシックにはあまり縁のない蚤助ですが、セルジュ・チェリビダッケとミュンヘン・フィルが出たので、しゃしゃり出て来ちゃいました。
確か1994年だったと思いますが、チェリビダッケとミュンヘン・フィルが南米ツアーを行い、当時小生が勤務していたリオ・デ・ジャネイロでもコンサートを行ったことがありました。
会場はリオで最も由緒のある音楽の殿堂テアトロ・ムニシパルです。
すでに80歳を超えていた高齢のチェリビダッケは、介護人に付き添われて登場し、指揮台に備え付けられた手すりにつかまりがら、しかも高いイスに座ったままで手兵を指揮しました。
しかしながら、その演奏たるや、実に芳醇で、強いお酒を飲んだ後のような酩酊感を覚えたほどでした。
残念なことに、演奏曲は覚えていません(蚤助らしい)。
オケの厳しいリハーサルと毒舌家として鳴らし、特にカラヤンへの批判は有名ですね。
見かねたカルロス・クライバーが、既に物故していたトスカニーニの名前で「天国でもカラヤンは人気者」とカラヤンを擁護したというエピソードは笑えます。
アララ、思わず、出しゃばってしまいました…

「一駅を歩くコンサートの余韻」(蚤助)

by ただの蚤助 (2010-12-27 22:25) 

伊閣蝶

蚤助さん、こんばんは。
蚤助さんもチェリビダッケ&ミュンヘン・フィルの演奏をお聴きになったのですね。
しかも、リオで!
いやあ、驚きました。
1994年といえば、亡くなる二年前のことですから、本当に最晩年ですね。
「芳醇で、強いお酒を飲んだ後のような酩酊感を覚えた」とは、正に私も大いに首肯するところです。
私がチェリビダッケ&ミュンヘン・フィルの演奏を聴いたのは、1986年10月のことで、特にブラームスの交響曲4番とロッシーニの歌劇『どろぼうかささぎ』序曲に度肝を抜かれたことを思い出します。
それにしても、「クラシックにはあまり縁のない」などと仰るわりには、チェリビダッケの毒舌やカラヤン批判など、良くご存知でいらっしゃり、びっくり致しました。
さすが、芸術全般に明るい蚤助さんだなと改めて感動しております。

大変、興味深く面白いエピソードのコメント、ありがとうございました。

by 伊閣蝶 (2010-12-28 00:22) 

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