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芥川也寸志forever [音楽]

朝のうちは明るい高曇りでしたが、午後から雨模様となり、22時頃から激しい降りになりました。
西日本、殊に南九州ではかなりの豪雨で災害が多発しているようです。
口蹄疫で深刻な被害が出た上に、記録的な豪雨、何だかやりきれない想いになりました。

芥川也寸志forever雨模様の午後、久しぶりに、芥川也寸志foreverを聴きました。

このCDは、芥川也寸志さん没後10年に行われた二つの追悼演奏会の録音を中心に編集されたものです。
オケは、いずれも、芥川さんが心血を注いで育ててこられた新交響楽団。

特に、芥川さんが東京音楽学校本か作曲楽部を卒業された1947年に卒業作品として作曲された「交響管絃楽のための前奏曲」が、作曲家・指揮者としての大先輩でもある巨匠山田一雄さんの指揮で、43年ぶりに初演された録音が冒頭に収められていることは、正に感慨無量というべきでしょう。
因に山田一雄さんも、この追悼演奏(1990年)を行った翌年、79歳で急逝されました。

交響三章(トリニタ・シンフォニカ)、交響管絃楽のための音楽、絃楽のための三楽章(トリプティーク)の、1948年から1953年までの間に立て続けに発表された初期の三部作は、世の中に芥川也寸志という存在を強烈にアピールした傑作と言っても良いではないでしょうか。
この三部作を、ベートーベンやワグナーといったドイツ音楽の指揮に定評のある飯守泰次郎さんがタクトを振り、実に明晰かつ迫力に溢れた演奏を引き出しています。

その他にも、交響曲第一番やエローラ交響曲といった純音楽(この言葉、あまり好みではない表現ですが)での代表作も収められており、芥川さんの著名な管弦楽曲がこの二枚組CDで聴けてしまうという贅沢さです。

そして、芥川さんが世間に広く知られる大きなきっかけとなった映画や放送劇での音楽から「えり子とともに」「煙突の見える場所」「猫と庄造と二人のをんな」「赤穂浪士」「八甲田山」が収められているのです。

全体で2時間を遥かに越える演奏ですが、全く長さを感じさせません。
それほど、曲と演奏に迫真力があるからなのでしょう。

今回、このCDを紹介するために、HMVやAmazonで在庫などを調べてみましたが、私が2000年に購入した当時は3570円していた価格が、なんと2100円になっていました!
もちろん在庫もあるようで、こうしたCDが、10年間経っても市場に出回っていて、しかも価格もリーズナブルになっていることに、大変感動してしまいました。

1989年、芥川さんの訃報に接した私は、63歳という若さで逝かれてしまったことに、言い様のない憤りと絶望的な悲しみを感じたものでした。
「小鳥はとっても歌が好き」などの優しさに満ちあふれた歌からでもわかるように、芥川さんは子供が大好きで、それ故に争いのない平和な世界を作るために音楽家としてできることを可能な限り追求したい、と仰った言葉が今でも耳朶によみがえります。

そういえば、芥川さんが音楽を担当した映画も、「雲流るる果てに」「野火」「拝啓天皇陛下様」などの反戦映画や、「米」「破戒」「異母兄弟」など社会性の強いものが結構多かったようにも思われます。
これらはもちろん映画としても大変素晴らしいものでしたし、芥川さんの音楽も実に美しく印象的なものばかりでした。
その他にも、「たけくらべ」「おとうと」「五辧の椿」などは忘れ得ぬ傑作だと思います。

私の好みからすれば、(もちろんこれまでに上げたものと拮抗するのですが)やはり野村芳太郎監督の「鬼畜」でしょうか。
この、ストリートオルガンを効果的に使った音楽は、その物語の残酷さと絶望的な人間の哀しさを嫌が上にもあぶり出す、正に画面と音楽が真剣で切り結ぶような表現を展開しておりましたから。

ところで、17年くらい前に良く一緒に飲んでいた同僚が居たのですが、平生、ほとんどクラシックの話などしない彼の口から、「芥川也寸志の交響三章は素晴らしい曲ですね。私はあの曲が大好きなんです」という言葉を聞いたときに、少なからず驚いたものでした。
どうして日本の現代音楽を、それも、芥川也寸志の交響三章を知っているんだ?などと、今考えてみれば「好きだ」と申し述べている人間に対し間抜けな質問をしたものだと思いますが、彼は、あの疾走感に感動したのだ、と答えました。
芥川さんは、日本人作曲家には珍しく、まともなアレグロの曲を書ける方でしたから、彼のそのときの答えに深く納得したことを思い出します。
その彼は、それから2年後、病の床に付き、30歳半ばで不帰の客となってしまったのでした。

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Cecilia

高校生の頃(1980年代前半)、NHKの音楽の広場という番組を毎週楽しみにしていました。
黒柳徹子さんと芥川也寸志さんが司会でした。
あの番組、もう一度見たいと思うのですが・・・。
また、あの番組を見ていたという方々とも交流してみたいです。
記憶に残っているのはほんの一部ですが、あの番組で出会った演奏家も多いです。
芥川さんの「ことりのうた」大好きで、一人でも歌いたくなります。

by Cecilia (2010-07-04 11:05) 

伊閣蝶

Ceciliaさん、こんにちは。niceとコメント、ありがとうございました。

音楽の広場、懐かしい番組ですね。
81年当たりから、金曜日の19時台の放映となって、当時、既に就職をしていた私はほとんど観ることができませんでしたが、それ以前の土曜日深夜の放映では楽しみに観ていたことを思い出します。
尾高忠明さんが東フィルを指揮されていたのも印象に残っています。
本当にいい番組でした。

芥川さんは、團伊玖磨さん、黛敏郎さんとともに「三人の会」を結成するに当たり、「自分たちはマスコミに振り回されぬように警戒し、むしろそれを引き回すようにしたい」と述べられましたが、正にそれを実践され、私のような市井の一般人を音楽的に啓蒙するため、マスコミの力を多いに利用されたということでもありましょうか。
by 伊閣蝶 (2010-07-04 13:13) 

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