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ラフマニノフ「交響曲第2番」ゲルギエフ指揮ロンドン響 [音楽]

2008年9月にロンドンのバービカンホールで行われた、ゲルギエフ指揮ロンドン交響楽団によるラフマニノフの交響曲第2番のライブ演奏が、SACDとなって先日発売されました。

早速購入し、週末にかけて聴きまくったところです。
ゲルギエフは、1993年に手兵マリインスキー劇場管弦楽団を指揮してこの曲を録音していますが、ゲルギエフ自身の年齢を重ねた円熟に加え、この曲における歴史的な存在ともいえるロンドン交響楽団を指揮してのこの演奏、などなど些かの期待と先入観をもって対面したのでした。
第1楽章の序奏から第1主題に流れていくところで、思わずため息をついてしまいました。
この第1主題、私はとりわけ大好きなのですが、感傷的な思い入れを極力排除しながらも、バイオリンに一瞬のためを求め、テンポを戻していくところなど、正しく胸を突かれる想いです。
そして第3楽章。
この曲の中では最も有名なこの楽章を、ゲルギエフは1993年以上の優美さを以てじっくりと演奏しているように思われました。
特にフルオーケストラがトゥッティで鳴り響く頂点では、音楽を聴く悦びを久しぶりに味わわせてくれたような感動に浸ることができましょう。
男性的な演奏で知られるゲルギエフが、これほど繊細にオケを歌わせるとは正直に申し上げて意外の感を否めませんでしたが、彼のラフマニノフに対する尊敬と愛情がなせる表現であるのかもしれません。

蛇足ではありますが、完全版の演奏であることも嬉しい限りです。

ラフマニノフの交響曲第2番の完全版演奏といえば、アンドレ・プレヴィンとロンドン交響楽団による取り組みの果たした役割が大きいことに異論を挟む余地はないことでしょう。

私がラフマニノフの交響曲第2番を知るきっかけとなったのは、この演奏です。
プレヴィンは激情型の人ではなく、どちらかというと想いを内に秘めた演奏を聴かせるタイプだと思いますが、この、ラフマニノフの想いがたっぷりと詰まっている曲を演奏するのには、正にうってつけの指揮者なのではないかと思います。
特にフィナーレの躍動感はすばらしく、さすがに完全版を自家薬籠の物にした彼ならではの演奏といえましょうか。

そして私にはどうしても忘れられない一枚があります。
ザンデルリング指揮フィルハーモニア管弦楽団によるものです。

ラフマニノフの息の長い旋律を、そのままに生かして間然とするところがありません。
特に、第1楽章の序奏から切れ目なく続く第1主題への雄渾な流れと再現部のすばらしさ。
この曲の雄大さがそのままわき上がってくるかのような演奏です。
ただ、惜しむらくはザンデルリング自身が施したカットがそこかしこに散見されること。
彼の要求する表現の上では仕方のない選択ではあったのでしょうが、これはやはり残念といわざるを得ません。
しかし、そのかなり大きな傷を割り引いても、一聴の価値は大いにあるように思われました。

と、ここまで書いてきて、どれもオーケストラがイギリスであることに気づき、自分ながらにちょっとおかしくなってしまいました。
尤も、ロンドン交響楽団とラフマニノフの関係を鑑みれば、このオケによる演奏に一日の長があるのも宜なるかな、というところかもしれませんが。

それにしても、この巨大な曲を、ラフマニノフは34歳の若さで書ききったことに、私は大きな感慨を覚えます。
交響曲第1番の失敗から自己否定・神経衰弱にまで陥った彼が、有名なピアノ協奏曲第2番の成功を以てやっとその桎梏から解放され、溢れる音楽への想いを込めて世に送りだしたものなのでしょう。
全編、どこを切り取っても旋律が伸びやかに歌いきっています。
どの楽器も、旋律を歌う悦びに満ちあふれているかのようです。

ラフマニノフが作曲家として活動していた時代は、無調性や12音階といった前衛的な手法が試され、シェーンベルグを始め、ラフマニノフの盟友でもあったスクリャービンもその方向に進んでいきました。
その中でラフマニノフは無調性という形式には行かず、全ての曲は調性の中で創造されました。
そうした彼の行き方は、先鋭的な音楽評論家を嚆矢としてしばしば批判の対象にされ、時代の流れの中で朽ち果てていく運命にある、とまで酷評されたものでした。

しかし音楽は、それを聴く人の存在があってこそ成り立つ芸術です。

どんな時代が来ようが、人を感動させる曲や旋律は普遍であり、時代の流れに伴う形式論的な要素など所詮後付の解釈でしかないのではないでしょうか。
事実、そうした評論家どもの思惑を完璧に裏切って、ラフマニノフの音楽は時を経る毎に燦然と輝きを増してくるかのようです。
これは恐らく、ラフマニノフという人が、自分の心の中にある歌を世に送り出したいという純粋な想いに基づいて、ひたすらその道を追い求めてきたからに他ならないのでしょう。
その意味からすれば、時代におもねる必要などまるでないのですからね。


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cfp

ゲルギエフのラフマニノフ2番、私も購入しました。
もちろん前作のマイリンスキーも良かったですが、
さすがにロンドンだと思います。

私もこの曲の入門は、
プレヴィンの完全版でした。

ラフマニノフと言うとどうしても
ピアノが有名ですが、
この交響曲2番は、
チャイコの交響曲と並んで、
ロシアの至宝だと思います。

ゲルギエフのラフマニノフチクルス
1弾ということで、
次が楽しみです。
by cfp (2010-04-19 21:07) 

伊閣蝶

cfpさん、こんばんは。
ゲルギエフのSACD、やはりお買い求めでしたか。
私も同様で、マイリンスキーとはまた違った意味での良さを感じております。

変な話ですが、ゲルギエフ&ロンドンを聴いているうちに、プレヴィン&ロンドンを無性に聴きたくなってしまい、やっぱり聴き比べてしまいました。

しかし、なんという素敵な曲なんだろうと、改めて感じてしまいますね。

ゲルギエフによるラフマニノフ、これからの新譜発売が本当に楽しみです。
by 伊閣蝶 (2010-04-20 01:03) 

cfp

伊閣蝶さん、こんにちは。

販売と同時に気になっているアルバムに、
ベルリオーズの幻想のミュンシュライブ盤がありますが、
聴かれましたか?

EMIの定番は持っていますが、
どちらの演奏がすごいのか?
気になりつつ優先順位の後回しに
なってしまいました。

もう1点、「シェラザード」の最高のアルバムを
教えていただけませんか?
この曲も私の大好きな曲のひとつです。
by cfp (2010-04-20 17:52) 

伊閣蝶

cfpさん、おはようございます。

ミュンシュの「幻想」、既に今年の1月18日の記事にも書きましたが、1967年11月のパリ響とのライブCD、昨年末に購入して聴きました。
http://okkoclassical.blog.so-net.ne.jp/2010-01-18
素晴らしい演奏です。
EMI盤も素晴らしいのですが、やはりライブの迫力がびしびしと伝わってきますから。
おすすめです!

「シェエラザード」、これはいい演奏がたくさんありますので迷うところですが、私はライナー&シカゴ響の演奏が気に入っています。
いくらでもきらびやかに演奏出来る曲であるだけに、きちんとした節度をもって演奏しているこのCDが好もしく思われたからかもしれません。
by 伊閣蝶 (2010-04-21 07:23) 

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