SSブログ

シベリウスの交響曲第5番 [音楽]

シベリウスの曲の中で、恐らく最も有名なのはフィンランディアでしょう。
シベリウス初見参がこの曲であった方もかなり多いのではないかと思われます。
私も、初めてシベリウスという作曲家の曲を具体的に聴いたのはフィンランディアであり、中学1年生の時のことでありました。
渋く深みのある音色と金管の圧倒的な存在感に大きな魅力を感じ、トゥオネラの白鳥や交響曲第2番などのポピュラーな曲を次々に聴きまくったことを思い返しています。
フィンランディアは吹奏楽にも編曲されており、自分でも演奏したので、とりわけ身近に感じられるのでしょう(合唱曲にもなっていますね)。

高校に進学してからも吹奏楽に血道を上げていた私は、ある日、行きつけの楽器屋でカラヤン&ベルリン・フィルの「シベリウス交響曲第6・7番」のレコードを見つけました。
その頃には既に3番や4番を聴いており、中学時代にはあれほど喜んで聴いていた第2番と比較してその内容の一段の深さに痺れていたものですから、乏しい小遣いをはたいて即座に購入。
わくわくしながら帰宅し、早速レコードに針を落とします。

衝撃的でした。

特に第7番。これは果たして交響曲なのか。山出しのエテ公の頭は俄に混乱し、しばし呆然としたものです。
しかし、何度か繰り返し聴くうちに、簡素な中に様々な主題が有機的に響き合う様が眼前に現れてくるようになってきました。
旋律らしい旋律がない、と最初の頃は思ったりもしたのですが、この曲全体が一つの大きなソナタを形作っているのだと感じ始め、断片ではなく全体を一つの音の響きとして受け止めたとき、さらに一段深いシベリウスの世界に入り込んで行ったのでした。
あの息の長い弦と木管の旋律の果てにトロンボーンが主題を奏でるところなど、思わず、ああ、とため息をつきそうになってしまいます。

そして第6番。単一楽章という特異な形式で作られた7番とは違い、きちんと4楽章で構成されてはいるのですが、これまたなんという自在な音楽であろうかと驚愕しました。
静謐という言葉は、正にこの曲のためにあるのではないかという第一楽章の弦の響き、そして、一転猛々しいほどに昂揚する第三楽章のスケルツォ。
それらを全て受け止める深淵のような第四楽章。
その果てで、また静謐な世界へと回帰し、祈りを捧げるかのように終わりを告げる。
交響曲の名を借りた宗教曲なのではないか、と思わせる曲なのであります。

さて、いろいろ書いてしまいましたが、それではどの曲が一番好みなのか、と仮に問われたとすれば、これはやっぱり迷ってしまいますね。
正直に申し上げて、3番以降の曲はどれもみんな好きなのですから。

でも、強いて上げるとするのであれば、第5番でしょうか。
シベリウスの「田園」などというふうにも呼ばれたりしますが、この曲を聴いていると春から初夏にかけて空一杯に広がっていく太陽の光を感じてしまいます。
私は、気分的に落ち込んで何かにすがりたいと思うようなときにはこの曲を聴くのですが、これがまた効果覿面。
第三楽章の、ホルンがオクターブを跳躍するモチーフを演奏する中に木管と弦が流れる風のような懐かしい旋律を載せて、それが次第に昂揚し、ついにはホルンのモチーフをトランペットが高らかに演奏してコーダに到達、ティンパニが打ち鳴らされる中で大団円を迎えると、私は体の中に気力が漲ってくるのをひしひしと感じます。
初めてこの曲を聴き、この第三楽章に至ったときには、掛け値無しに声を上げて泣いてしまったものでした。
この曲はシベリウスが自身の生誕50周年を祝う演奏会のために作られたものであり、彼を肉体的にも精神的にも追い詰めてきたガンの恐怖が去った喜びが全編に満ちあふれている、と巷間いわれるところですが、正しく仰るとおり、生の喜びに満ちた溢れた曲といえるのではないかと思うのです。

さて、この第5番の演奏ですが、真っ先に上げたいのは、コリン・ディビス指揮ロンドン響により2003年12月に行われたロンドンのバービカン・センターでのライヴ録音盤です。
殊に第三楽章は白眉で、コーダのティンパニの迫真力を持った打ち込みは身震いがするほどです。

これは第6番とのカップリングになっており、こちらの方もすばらしい演奏です。
ディビスの演奏、私はその抑制の利いた端正な表現に出会うたび、ため息をつく思いがします。
論語に中庸という概念がありますが、正に知情意の全てがバランスよく伸びやかに育ち整っているという意味でのそれを、ディビスの演奏から強く感ずるのです。
恐らくそれ故に、シベリウスの交響曲(ことに後期)のように堅牢な造形を以て構築された曲にぴたりと一致するのではないでしょうか。

もう一つは、わざわざ私などが申し上げる必要もないほど有名な、バルビローリ指揮ハレ管弦楽団によるスタジオ録音盤。これは、シベリウス全集(5CD)の中に含まれていますが、この全集は1966年から1970年にかけて録音された、正に至宝といっても良いほどの演奏です。

ハレ管弦楽団のレベルは決して一流とはいえないかもしれませんが、バルビローリに対する団員の尊敬の念が凝縮されたかのような演奏です。
長らくCD化されなかったのですが、2000年にやっとのことで全集としてCDでリリースされ、私も速攻で買い求めたものです。
先に触れた第7番も極めつけの名演でありました。
nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0