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シューリヒトのブルックナー9番 [音楽]

ブルックナーの交響曲は、その巨大構築物のような構えと緻密で複雑な対位法的展開や重厚な和声で、あらゆる人々の心を魅了します。
その中でも、後期の7番・8番・9番、殊に8番と9番の存在は他を圧倒するといっても過言ではありますまい。

しかし、9番は、誠に無念なことに未完成に終わってしまいました。
8番と同様、第三楽章がアダージオであったことがわずかな救いと言えましょうが、8番の終楽章の素晴らしさを知っている身には、いかにも残念でなりません。
それ故に9番は、8番ほどキラ星のごとき名演ぞろいというわけにもいかないようですね。
私がブルックナーの交響曲を初めて聴いたのは高校1年生のときでした。それも、何と第9番です。
FM放送のエアチェックであったため、誰の演奏であったのか不明なのですが、正しく雷に打たれたような衝撃を受けたことを鮮明に思い出します。

それ以来、数多くのレコードやCD、また実演などにも接してきましたし、それぞれに大変深い思い入れがあるのですが、最も印象に残っているのは、カール・シューリヒトがウィーンフィルと録音した1961年のステレオ版です。

今から50年も前の録音なのに、このウィーンフィルの美しさはどうでしょう。
特に第三楽章の155小節の弦の美しさには、魂を抜かれるような感動を覚えます。
誇り高き(それ故に頑固な)天下のウィーンフィルを、ここまで突き詰めた演奏に導いたシューリヒトの手腕には、本当に驚かされます。
シューリヒトとウィーン・フィルとの関係は、オット・シュトラッサーが言っているように、たとえ彼の練習が「蜜のように甘いものではなかった」にしろ、最もうまくいっていた。シュトラッサーによれば、「すでに演奏中に、われわれは彼が総譜のページのふちを折っているのに気がつく。これはそこでの演奏に、何か直さなくてはならないところがあるという印である。それからしばらく弾いていると、彼の総譜は訂正すべきページばかりでできているのではないかと心配になってくるのである…。

これはシューリヒトによるウィーンフィルにおける練習の場でのエピソードなどを記した「ウィーン・フィル・エピソード(立風書房刊)」の一節ですが、演奏に当たって彼がどれほど全身全霊を打ち込んでいたかが見て取れるようではありませんか(因みに、「オット・シュトラッサー」はバイオリニストでウィーン・フィルの楽団長を務めた方です。有名なナチス左派の御仁とは別人ですのでご注意のほどを)。

この演奏は、聴くたびに新たな発見をもたらしてくれます。
それゆえにけっして古びてしまうことがない。そういう希有の演奏だと、私は信じて疑いません。

それから、本質とは全く関係ないことについてちょっと。

私はこの曲をiPodに入れて持ち歩いているのですが、この曲の演奏時間である56分、ちょうど私が出勤するときに乗る電車の乗車時間と同じくらいなのです。
電車に乗ってイヤホンを耳に付けて聴き始め、3楽章の終わり頃に地上に出るという感じ。
寒い朝の駅から電車に乗ってすぐさまこの曲を聴き周囲の喧噪から解放され、3楽章の最後ワーグナーチューバが7番や8番の旋律を回想しながら終わる頃、真っ青な空に出会えるのは何とも言い難い幸せを感じます。

ちょっと蛇足でした。

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cfp

ブルックナーの7.8.9は最高です。
私は特に8番が好きですが、
やはり9番の完成を聴きたかったです。
未完ではありますが、その美しさは8番をも
凌駕しています。
by cfp (2010-01-22 12:32) 

伊閣蝶

cfpさん、コメントありがとうございました。
仰る通り、9番の未完成は残念無念ですね。
キャラガン、サマーレ、マッツーカ、フィリップスといった方々による補筆完成版もあり、それを聴いてみるつもりです。
マーラーの10番のクック版のような一応の成功例もあることですし、ちょっと期待しています。
今、注文し、到着を待っている最中ですので、聴いたあと、またご報告させていただきたいと思っております。
by 伊閣蝶 (2010-01-22 19:41) 

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